自己評価と他人評価のデスゲーム

ちびまるフォイ

どれだけ自分は周りに見られているのか

『フッフッフ。私はデスゲームマスター。

 この部屋から出たければ私のゲームに挑戦するのだ』


「げ、ゲーム!? ふざけるな! 早くここから出せ!」


『ゲームを邪魔するようなら、君の目の前にある電動丸ノコがノドを裂くぞ』


「ごめんなさい! ゲームに参加しますぅ!!」


『ルールは簡単だ。他人から見た自分の評価を0~100の間の点数で出すのだ。

 間違えた数だけお前の体は傷つけられるだろう』


「自分の評価だって……?」


『ククク。貴様のクラスメート全員から平均したお前の評価だ。

 自分が他人にどう思われているかわかるかな?』


デスゲームマスターの言葉はそれきりで、こちらからの応答はなかった。

はたして他人から自分はどう思われているのか。


部屋にあるタイマーは今こうしている間にも時間を刻んでいる。


「回答する! 俺の他人からの評価は……100点だ!!」


『ブブー。全然違う。罰ゲームだ』


「うあああ! 痛ってぇぇ!!」


固定されているトイレの便座からものすごい勢いで温水洗浄水が吹き出した。

お尻がひりひりするほど甚大なダメージを受ける。


「ひゃ、100点じゃないのかよ……」


『貴様、自分がどれだけ他人から評価されてると思ってるんだ。

 人間は往々にして自分の評価と他人の評価には溝ができるが、お前は極端すぎる』


「こんなにもイケメンで人当たりもいいのに!」


『そのおごり高ぶった自尊心を破壊するためのデスゲームなのだ』


「ち、ちくしょう……こんなのわかるかよ……」


下手に当てずっぽうで答えを出せば1/100で当たるかもしれないが。

それだけ連投して罰ゲームを耐えぬける体力も時間も残されていない。

しっかりと狙い撃ちして答える必要がある。


「回答する! 俺の評価は……0点だ!!」


今度はあえて逆に予想をたてた。


『ブブー。ぜんぜん違う』


再び罰ゲーム。

ウォーターカッターばりの水圧が放射されてお尻が一瞬宙に浮く。


「ぎゃああああ!!!」


『適当に答えれば痛みが長引くだけだぞ』


「せめて最初の回答より近いとか遠いとか、ヒントはないのか!?」


『こちらの反応から答えを推測するゲームではない』


「だったらこんなのゲームでもなんでもない。ただの拷問じゃないか!」


『お前が自分自身をしっかり見つめ直さない限り、答えにはたどり着かない』


自分自身を見つめ直すなんていうふんわりしたアドバイスも今では意味がない。

そんなことを考えていれば時間切れになってしまう。


時間も限られている以上、取れる選択肢はふたつにひとつ。

しっかり考えて答えを出すか。

痛みに耐えてあてずっぽうで答えを出すか。


考えて考えて答えを出してはずしたときはリスクがでかすぎる。

選ぶべき選択肢は痛みに耐える方しかない。


「回答する! 俺の評価は10点!」

『ブブー。ぜんぜん違う』


「回答する! 俺の評価は20点!」

『ブブー。ぜんぜん違う』


「回答する! 俺の評価は30点!」

『ブブー。ぜんぜん違う』


強烈な痛みを奥歯で噛み殺しながら答えを何度も出していく。

0~100までの数字を全部いい切ってもなお、すべて間違いと言われた。


「こんなのおかしいじゃないか! 最初に0~100の間で点数はつけられているって話だろ!?」


『なにが不満だ』


「100個の数字はすべて回答したのに答えはなかった!

 こんなデスゲーム、最初から答えなんてないじゃないか!!」


『いいや、答えはある。ただ、整数値だとは言っていない』


「そんなっ……! 小数点もアリなのかよ……!」


こうなったらますます当てずっぽうでの予想は厳しくなる。

すでに総当りで時間は残りわずかまで使い切っている。


今さら近しいと思う数字の小数点を総当りするのも無理。

かといって、今から自分自身の評価を見つめ直すだけの考える時間はない。


それでもと無策のまま声だけは先走ってしまう。


「回答する。えっと……俺の評価は……」


そこで答えが詰まってしまう。

他人に自分はどう思われているのか。


すごいやつだとして高評価なのか。

ダメなやつだとして低評価なのか。

はたまた平均的なやつとして中くらいの評価か。


自分の見た目はイケメンなのかブサイクなのか。

明るいやつと思われているのか暗いやつと思われているのか。


自分は他人からどう見られているんだ。

わからない。考えれば考えるほどわからない。


時間だけが過ぎている。

もう残り時間はあとわずかだ。


自分自身を客観的にどうすれば見られるんだ。

他人がどう思っているかを自分がわかることができるのか。


『時間だ。最期の回答をしろ』


わからない。最期の瞬間になってもなお、答えに近づく糸口すらつかめない。

限界まで追い込まれた精神はこのゲームじたいへの逆ギレへ変わった。


「そんなのわかるわけないだろ!! 興味なんてないんだから!!」


最後にそう吐き捨てるとデスゲームマスターは答えた。





『大正解! クラスメートからの評価は"興味なし"だ!! おめでとう!!』

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