かわいいもうそう

かわいいもうそう

妄想する、わたし。

妄想の中では、なんでも出来る。なんにでもなれる。

例えば、アイドルとか女優にだってなれる。高校のかっこいい先輩とかアイドルでと付き合うことが出来る。…あとは、先生とも。

妄想って素晴らしい。なんて素敵なんだろう。

こないだはね、アイドルになった私を妄想したの。5人グループのメンバーの1人で、担当カラーはピンク。ドームライブとか成功してるそこそこ人気のあるアイドルで、私が1番ファンが多い。初めて出たバラエティーで「主食はマカロンです」って発言したら社会現象になって、流行語大賞にノミネートされるの。あざといけど憎めないキャラが人気で、全国民に愛される私。

もちろん、全部妄想。

あとはね、ふふ、大好きな担任の木部先生と付き合う妄想。なんか恥ずかしい、自分の気持ち書くのって。

木部先生。私のクラスの担任で、英語を教えてくれてる。歳はまだ25歳で、かっこよくて優しい。教科書をめくる角張った手も、スーツの似合う細長い足も、全てが大好きだ。大好き、大好き大好き。


表面上はただの担任と生徒という関係。だけど、放課後になったら相談室で静かな愛を育む。静かで、汚れの無い、美しい愛。先生がメガネを取った顔は私しか知らない。この学校で私だけ。先生ったら、私がイタズラでメガネを取ったら恥ずかしそうに顔を真っ赤にして怒るの。「返してください」って。それがまた可愛くて、余計イタズラしたくなっちゃう。返さなかったら、先生は今度は私の丸メガネを取るの。先生、その後私のメガネをかけるんだけど、それが似合わなくって。おまけに私のメガネ、度が強いから頭痛いとか言っちゃってさ。「君はメガネしない方が可愛いのに」って言いながら肩までの短い私の髪をとかしてくれる。その時間が私はたまらなく好きだ。週末は先生の車でお出かけ。海に行ったり山に行ったり、隣町の公園に行ったり。たまにはショッピングモールで一緒にショッピングしたいって思うけど、先生は「僕達の関係がバレたら大変でしょ」って笑う。まぁ確かに、私たちの関係は誰にも邪魔させない。だって私は先生が好きだし、先生も私が好きだから。ただそれだけ。ただそれだけだけど、美しい。


またこれも、全部妄想。

あーあ、妄想って楽しい。なんで妄想って現実じゃないんだろう。「もうそう」と「げんじつ」。同じ四文字だけどどれも掠ってすらいない。私の妄想の内容もそう、現実と掠ってすらいない。


私、小さい頃は両親に「かわいいね」って言われ続けて育てられたんだ。どんな服を着ても可愛いよ、すっごく似合うよって言われて。アイドルの真似をして歌って踊ったら、両親がファンの真似をしてくれるの。それが楽しくて、何度もアイドルの真似をしてた。普通にすごく嬉しかったよ。小さかったからお世辞とかもわかんなかったし。昔は両親も自分のことも大好きだった。だけど、歳をとるにつれて、両親に飽きてきた。私が6歳の時に妹が出来た。2人は妹にぞっこんだった。心のどこかでは仕方ないことだって分かってたけど、私は妹ができたことが気に入らなかった。小さかったからちょっとだけ両親の気を引くようなイタズラだってした。イタズラって言っても可愛いもんだよ、おもちゃ箱わざと倒したり、ご飯食べるの嫌がったり。まぁ、それでも、妹が成長したら戻ると思ってた。また両親に前みたいに可愛いねって、言ってくれるって思ってた。

10歳ぐらいの時だったっけ。私、気づいたの。あ、私って可愛くないんだなって。鏡よく見たら全然可愛くなかった。目も一重でシジミみたいに細いし、涙袋も全くといっていいほど無いし、おまけにだんご鼻。早く教えてくれれば良かったのに、私は可愛くないこと。だったら10歳の時に首吊ろうとしたほどショック受けなかったよ、ほんとに。

両親はこの時にはもう私のことなんかどうでも良くなってた。代わりに妹が過去の私のような扱いを受けていた。妹は、私が見てもほんとに可愛かった。二重だし、笑うと涙袋がぷくって膨らむし、鼻なんてもう豆みたいに小さくて整ってて。

正直、恨んだよね、両親。

なんで私は可愛く産んでくれなかったの?なんで妹はこんなに、こんなに可愛いのに私は可愛くないの?そうだよ、私は可愛くないの。可愛くないの。可愛かったらアイドルにでもなれた。先生の彼女にでもなれた。なんでアイドルにも先生の彼女にもなりたくない奴が私より可愛いの。意味わかんないんだけど。私は可愛くない、可愛くなかった、可愛くなれなかった、可愛く生まれなかった!


「あぁぁぁぁぁ!!」

私は思わず叫んだ。嫌、自分の気持ち書くのって。やるんじゃなかったよほんとに。

一呼吸してドレッサーの引き出しからカミソリを出す。左手を机に置いて、カミソリを手首の上で何回も滑らしたら、すぐ血は出てくる。



みんなは血って好き?

私は嫌い。だって汚いじゃん。変な匂いするし。なかなか落ちないし。この血がさ、いちごミルクなら良かったのにね。ほら、ラーメン大好きな芸能人がよく言うじゃん、「自分の体には血じゃなくて豚骨スープが流れてる」って。私も、血じゃなくていちごミルクが流れてたら良かったのにな。手首切った後に、傷口ペロッて舐めたらいちごミルク味とか最高じゃん。どれぐらいいちごミルク飲んだら私の体にもいちごミルクが流れるようになるんだろう。いちごミルクを飲んではリスカし、自分の血がいちごミルクかどうかを確認して、いちごミルクじゃなかったらまたいちごミルクを飲んでリスカをするしかない。そう思うと泣けてきた。

これは、先生と私の可愛くて甘い物語。


「おはようございます」

ガヤガヤとした朝のクラスに先生は挨拶をしながら入ってくる。先生は脱いだコートを腕にかけていた。そうか、今日からもう12月だ。

「おはよーございまーす」

気だるい挨拶を私たちのクラスは返す。先生の今日のネクタイは紺。昨日は紫。その前は赤と黒のタータンチェックだった。先生は毎日、違うネクタイをつけてきている。


「佐原さーん、ちょっと」

「あ、はい」

ホームルーム後に先生に呼ばれた。先生に名前を呼ばれる、ごく普通のことだけど、私の胸は高鳴る。

「英語のワーク、出しました?」

口にも顔にも出さないけど、心臓はバクバクして止まらない。気をつけてないと口から飛び出しそうだ。

「あれ、確か出したと思いますけど無かったですか?」

「じゃあ僕の勘違いでしたかね、もう一度職員室確認してきます」

「すみません、ありがとうございます」

こんな些細な会話でも緊張してしまう。だって先生、かっこいいんだもん。


ねぇ先生。

私、先生に選ばれる特別な女の子になりたかったな。特別になりたかった。大好きだもん。大好き。大好きって言葉しか出てこないぐらい好き。妄想が現実にならないかって何度も考えたよ。ねぇ先生。好きだよ。


英語の教科書の端に殴り書く。今日の授業は比較級についてだった。中2になってから先生の授業を受けるようになって、先生と少しでも仲良くなるために放課後や授業終わりに質問に行くようになった。そのおかげで去年より少しだけテストの点数が上がった。これも先生が好きだからだね。大好き。語彙力が無さすぎて大好きしか書けない。小説家みたいな語彙が欲しいな、私。


「あ、佐原さん!そういえば英語のワークありました〜、僕の早とちりだったみたいですみません」

授業後に先生は私を引き止めた。ワークはちゃんと出ていたようだ。

「あ、いえいえ、あったならそれで良かったです」

「まぁ、真面目な佐原さんがワーク出さないわけないか、あはは」

思わずドキッとした。真面目な佐原さんだって。真面目な。佐原さん。先生。真面目だって今あなたが言った目の前にいるこの生徒は、あなたの事を狂ったように愛してるんですよ、気づいてますか?分かってますか?

私はそんなことありませんよ、というテンプレートの言葉を言うことも忘れてただ胸の内を隠すために必死にまともな顔をしていた。

「んじゃ、それだけですので」

「はい、ありがとうございます」

先生は教材を持って教室を出ていく。私は小さく頭を下げてお礼を言う。


私、ていだけは真面目なの。見た目だけ、上っ面の行動だけ真面目。本当は全然真面目なんかじゃない。成績だって中の上ぐらいだし、愛想だけ良くしている木部先生以外の教師はみんな嫌い。「佐原さんは真面目だから」とか何とか言って、すぐ全然用件押し付けるし。汚い大人の匂いがプンプンするの、あの人たち。欲にまみれた、きたなーい匂い。大っ嫌い。

私の先生は、木部先生だけ。


家に帰ってベッドに倒れ込む。特にこれといった友人もいないし、部活動にも入っていないので、放課後だけが1人になれる時間。うさぎのキャラクターの柄のシーツのベッドの上には、そのうさぎのキャラクターのぬいぐるみが寝ている。今日も可愛いね、貴方は。

今日の妄想。

妄想は、誰にも邪魔されてはいけない。誰にも知られたらいけない。静かな部屋で、私だけの楽園で、私を包み込むピンクで美しい膜。誰もその中に入れない。誰もその膜を破ることは出来ない。それが妄想。目には見えないけれど、それは確かに存在する。


そうだ、先生と付き合うようになった経緯をまだ話してなかったよね。クラスメートの友人達と好きな人の暴露話になっちゃってさ、言わざるを得なかったんだよね、先生が好きってこと。私の友達みんなすごく優しいからさ、最初はすごく驚いてたけど「みゆ可愛いんだから木部ぐらいいけるよ!」「告白すればいいのに」って言ってくれて、アホだから次の日告白しちゃった。先生はいつも放課後ホームルームが終わったあと、教室の細かいところを掃除してるのを知ってたから、みんなと同じように教室を出たあとに忘れ物を取りに来た振りをして教室に戻った。ストレートに、ずっと前から好きでしたって、バカだよね、ほんと。

下を向いてたから先生の顔は見えなかった。長い長い沈黙が訪れて、これはもうダメだなって思った。次第に鼻がツーンとしてきて、泣きそうになっちゃった。あの沈黙の数十秒ほど生きてて怖かった時間はない。実際に数十秒のはずなのに、30分ぐらいに思えた。

「そんなこと言われたら困るじゃないですか」

ようやく先生は口を開いた。

「僕もずっと我慢してたんですから」

驚いて上を向くと、先生は笑っていた。

次の日、友人達には断られたとだけ言った。みんなは優しいのでそんなに詮索されなかった。それが逆に嬉しかった。だって、どうやって返そうか考えてなかったんだもん、幸せすぎて。初めての両思い。初めての恋。初めての恋人が、大好きな先生。最初付き合いたてはお互いクラスでも2人きりの時間でもすっごく緊張してたけど、2人きりで過ごす回数を積み重ねるほど、自分も先生もお互いのことを愛してるんだなって分かった。の公にできない恋愛でも幸せだよ、今もこれからもずーっと。


重い体を起こして、桃色の部屋着に着替える。フードにうさぎの耳がついていて、お気に入りのもの。ママはあまり好きじゃないみたいだけど、私がママに買わせた。着圧ソックスを履いて、下の階のリビングへと降りる。リビングにはまだ誰もいない。ママとパパは仕事だし、妹は学校帰りそのまま友達の家に行ってご飯前まで帰ってこない。冷蔵庫を開けて、封が開いているいちごミルクをグラスについでちまちま飲む。スマホでお笑い芸人のコントの動画を見ながら、涙袋と二重のマッサージをする。それが終わったら今度は鼻のマッサージ。これが私のルーティンだ。毎日やるのに、毎日やってるのに何も変わらない。もうかれこれ1年はやってるのに、私の目は二重にならないし涙袋も出来ないし、鼻も小さくならない。マッサージってほんとに何か変わるのだろうか。それともただの気休めなのだろうか。分からない、ただひとつ分かるのは、私は可愛くないということだけ。


時は流れ、あっという間に二学期の終業式の日になった。寒さは日に日に増し、すっかり防寒具なしでは生きられなくなっていた。

うちの学校では、終業式の後に軽い担任との二者面談がありその時に通知表が渡される。

そう、先生と、2人っきり。

「次、佐原さーん」

教室の横の廊下で二者面談は行われる。横のクラスだって同じように面談は行われているけれど、先生と二人っきりの空間なことには変わりない。胸が高鳴る。廊下へ歩いていく足が重い。私は軽く会釈をして廊下に出、またもや軽く会釈をしてわずか机ふたつしか離れてない先生の向かいに座る。

「はい、これが通知表」

通知表を開かれて渡される。上から数字を見る。3、4、3、3、4、4…3と4のオンパレードの中に、一つだけ違う数字があった。5。

英語だ。

顔を上げると、先生はニコニコしていた。

「英語を教えてる僕としては、5を取ってくれたことがすごく嬉しい」

やった。やったやったやった。一学期は4止まりだったのに、今回は5。英語の評価はオールA。やった。先生が、私のことを高く評価してくれている。やった、やった!

「佐原さんは、進学先とか考えてますか?」

「あ、えと」

まずい、興奮しすぎて上手く言葉が出てこない。

「とりあえず女子校に行きたいなって、思ってます」

「女子校?」

先生が聞き直してきた。そう、昔から私は、女子校に憧れがあった。女の子だけの、秘密の園。可愛いくて、ドロドロしてて、醜かったり美しかったり。そういうものにとても憧れがあった。

「…そっか。まぁでもなんか、似合う気がする。佐原さんに女子校って」

「え?」

私に、女子校が、似合う?

「あぁいや、変な意味じゃないんだけどね、忘れてください」

あはは、と先生は眼鏡を上げながら笑う。

「さてと、佐原さんは何か学校生活で困ってることとかある?」

「…特には、無いです」

「…ふーん、そっか。…ねぇ、佐原さん」

もう少し、大人を頼ってもいいんだよ?

そう先生は小さい声で言った。

思わず胸がチクリとした。あまりにもビックリして、なんて答えればいいかわからなかった。

「もしも君だけで対処できないことがあるなら、僕を頼って欲しい。一応僕は大人で、君の担任だからさ」

先生はニコッとしながら言った。

「…そうですか。…ありがとうございます。でも、大丈夫ですので。お気遣いありがとうございました」

私はぎこちない笑顔でそういうしかなかった。だって、だって先生、私を友達のいない可哀想な奴だって思ってたの?私のこと、そんな風に思ってたの?そんなこと言われたって、どうしようも出来ないよ、友達できないもんは出来ないんだから。余計なお世話よ、黙ってて。そうだ、私が可愛くないから、可愛くないから友達が出来ないの。私は、私は可愛くないから。私は軽く会釈をしてそさくさと教室へ戻った。


それでも私は先生のことは嫌いになれなかった。別に先生は、私のことが嫌いなわけじゃない。教師として私の立場を心配してくれただけだ。そうだ、先生は悪くない。悪いのは、可愛くない、私。


冬休みは先生に会えないから寂しい。だから妄想の中でたっぷり会った。沢山デートした。ある日は喫茶店に。ある日はピクニックに。初詣だって行った。わざわざ遠い神社に行ったのにクラスメートを何人か見かけてびっくり。だけど私と先生は何故か誰にも気づかれなかった。クラスメートを見る度ヒヤヒヤしたけれど、何とかやり過ごせた後は2人で沢山笑った。そんな冬休みもあっという間に過ぎていった。相変わらず私は可愛くなくて、妹は可愛い。家に長くいるとどうしても妹と何度も顔を合わせる羽目になる。妹のことは嫌いじゃないけれど、どうしてもこの姉妹の差が嫌になる。

冬休みなんて、嫌いだ。


「はぁはぁ、なぁみんな聞けよ!」

始業式の日の朝、それは起こった。

同じクラスの男子が走り叫びながら教室へ入ってきた。次の瞬間。

「担任の木部、結婚するんだって!」

一瞬、何を言われたか分からなかった。けっこん。ケッコン。結婚。結婚ってあの結婚か。言葉の意味を理解した瞬間、身体がどっと重くなった。

「えーっ!!」

数秒遅れでクラスから声が聞こえた。

「え、それマジで?」

「マジマジ。俺、職員室で木部が他の先生たちに言ってるの見たんだよ、結婚するって」

「まぁ木部先生、イケメンだしねー」

「そうそう、そろそろ結婚すると思ってた」

「朝来たら盛大に祝ってあげようよ!」

「うわー、ウチらめちゃくちゃいい生徒じゃん」

色んなところから色んな声が聞こえる。先生が、結婚。あー、結婚か。結婚ってさ、あれだよね。ずっと一緒にいようねって誓うやつだよね。そっか、そっか。

私は静かに教室を出た。誰にも気づかれないように、静かに。それから1時間目の始まりまでずっとトイレに籠っていた。みんなにお祝いされる先生なんか、見られない。目からも手首からも、いちごミルクは流れなかった。


「佐原さん」

帰りのホームルーム後に先生に呼び出された。手招きで廊下に出される。そのまま私は連れられるまま相談室へ入った。半ば物置にされている、小さな部屋。

「そこ、座ってください」

埃っぽいパイプ椅子に座る。

「今日の朝、ホームルームの時いなかったけどどうした?」

「…」

何も言えずに沈黙が流れる。どうしよう、なんて誤魔化そう。

「カバンはあったのに佐原さんいないし、クラスのみんなは誰もどこに行ったか知らないし、ホームルーム終わったあとに校舎まわったんだけど見当たらなくてさ、びっくりしたよ」

「…すみません」

「何かあったの?教室にいたくなかった理由が」

違う。違うの。誰も、誰も悪くない。

悪いのは、私なの。

「…何にもないです」

「…佐原さん」

「ほんとに!ほんとに大丈夫ですので、私。ちょっとお腹痛かっただけなんです。ごめんなさい、大丈夫です」

「心配なんだよ!」

先生は私の手を両手で握って言った。

先生が、私の、手を。先生の手は、ひんやり冷たい。だけど何だかすごくあったかく感じた。

「佐原さん、何も教えてくれないから。もっと僕を頼ってくれよ。そんなに僕は頼りない?」

違う。違う。

「違います!」

気づいたら私は先生の手を振りほどいて立ち上がっていた。何で、何すんの私。

カバンを持って扉の前まで歩く。

今日はもう、ダメだ。

「…先生って、結婚なさるんですよね、おめでとうございます」

私は精一杯笑って言って相談室の扉を開けた。

サヨナラも言えなかった。


ねぇ、先生。

私がなんでこのノートに妄想や自分の気持ちを書いていたか分かりますか?先生に見せるためですよ。こういう時がいつか来るだろうと思ってたけれど、こんなに早く来ると思ってなかった。

先生。私は、先生のことがずっと大好きでした。ずっとずっと。先生は今日、自分のことを頼りないのかと私にお聞きになりましたが、そんなことないです。ほんとに私はあの教室でいじめられてなんかいなかったし、今日朝教室を出ていったのも、先生の結婚の知らせを聞いて辛くなったから。ほんとにそれだけなんです。先生は、最後まで素晴らしい先生でした。

ねぇ、先生。

私、可愛くなるよ。先生と先生の奥さんの子供にきっと生まれ変わってみせるよ。先生の奥さんのことだから、とびっきり綺麗で可愛いんでしょ?そんな美男美女の2人から生まれた子供だったら、絶対可愛くなれるよね。可愛くなって、先生からの愛情を沢山もらいたい。沢山愛されて愛されて愛されて、幸せになりたい。そうなるためにも私は今日、ここで死にます。

結局、いちごミルクは体に流れなかった。だからもう諦めたの。自殺の定番ってやっぱり首吊りでしょ?

……じゃあね、先生。

可愛くなるから、愛してね。
























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