第13話 スマートに対処しねえとよお!

 緊張と不安で便意すら感じてきた。

ありていに言えばうんこしたくなってきた。


 待て待て待て。オーケー落ち着いてもう一度じっくりねっとり探そうそうしよう。

 だが何度探しても、リュックをひっくり返しても二十五巻は見つからなかった。


「ないよないよないよ! どこにもないじゃんよ! いや本当冗談はやめてくださいよ!」

「なんで……! どうして!」


「どこに、どこにあるんだよ……入ってねえじゃねえかよガラスの仮面二十五巻!」 


 あの野郎! あの野郎! 相模大野あの野郎! あいつ絶対わざとだ!

 相模大野、じゃなくて相模原はこの展開を狙ってたんだ!


 二十五巻から盛り上がるとか思わせぶりなこと言ってたのはこれが理由か!

 俺がガラスの仮面にハマって途中の巻が見つからずに悶える。そんな展開を!


 少女漫画に、ガラスの仮面に乗り気じゃなかった俺が必死こいた表情で


「あ、あの相模原さん。あああのですねすいません。二十五巻が入ってないんですけど……」

 そうおねだりにくるのを手ぐすね引いて待ちわびてやがるんだ! なんて奴だ!

 

 今は午後十時。急げばトテモシツレイじゃない時間帯!

 いや午後十時は既にギリギリシツレイな時間帯か?


 行かない方がいいか? 加奈子さんになんて言われるだろう


「町田君こんな時間にまさかのヘタレ攻め!?」


 なんて茶化してくるに決まってる! あの人頭おかしい!

 それに相模原の奴もおねだりしにきた俺に対して


「あれあれ?町田氏ぃ~随分と必死でござ~ますわね」


 とかなんとか茶化すに決まってやがる! あれ? これ詰んでるのか?

 それなら後日改めて訪ねたほうがいいのか? 空いた時間に何気なく


「あ、そういえばこの前借りたガラスの仮面さあ。抜けがあったよ?うん。うん」


 みたいな態度でいけばがっついてないことにならないか!? 

 スマートな感じが出てないか? そうするか?そうしよう!

 そうだよ焦ることなんてないじゃないか。落ち着いて後日スマートに対処。これ正解。


「な~んだ。別に焦ることないじゃんかあ。がっついてるって思われるのもシャクだし今日は我慢我慢」


 そんなことを呟きながら俺はベッドに背中を預け寝っ転がった。


「明日何気なく~♪ 必死な感じを出さずに言えばいいだけ~♪」


 俺は鼻歌まじりにスマートフォンをいじりだす。


「うーん……」


 何か落ち着かない。いつものスマホいじりが特に退屈に感じる。時計を見ると10分しか経っていなかった。


「へ⁉ 10分⁉ 1時間は経ってるはずだろ⁉ 時が収束してねえか⁉」


 頭がモヤモヤする。その理由はわかってはいるが出来るだけ考えないようにする。


「よーし! ゲームでもするかあ! スタミナも溜まってるし!」


俺は気分を一新しようとスマホゲーを起動する。

季節によって水着になったりサンタのコスプレをしたりする女の子のキャラクターをガチャで当てるという非常に斬新かつオリジナリティ溢れるゲームだ。


「よーし!今日の10連は気合い入れていくぜ!」


 10連ガチャの成果は素晴らしかった。なんとSSRが3人! それも新規追加されたキャラクターだ!

ユーチューバーがこれを出す為に何百回も回している動画も見た。それを1発だ!


「よっしゃああああ!!」


俺はベッドの上でガッツポーズをしながらスマホを高く掲げる。


「オラァ! どんなもんじゃいユーチューバー! こちとら無料10連勢じゃい!」


「さーてツイッターで『石で出ました^^』って自慢しよっかな~」


自慢ツイートを書き込んでいる最中に俺の指が止まる。



「……何がSSRだ…………そんなもんで俺の心が埋まるわけねえだろうが!!」


 駄目だった!SSR3体引いても駄目だった!何が駄目だって⁉


ガラスの仮面の続きが読めないことに耐えることがだよ!


 俺はガラスの仮面の二十四巻に視線を向ける。

 待てるか? このお預け状態で夜を越せるか?

 否、ここまで昂ぶった俺の心が収まるわけがない!


 今すぐ続きが読みたい! マヤと姫川亜弓が、あの舞台でどのように演(や)りあうのか俺は今すぐ知りたいんだよ!


 そうだよ。俺の中でもう答えは決まってたんだ。ガラスの仮面の続きが読みたいという答えが。

 

そう決まった瞬間俺の体にまとわり付いていた気だるい何かが…俺の体を鈍らせる何かが振り払われた気がした。そして羽が生えたように心と身体が軽くなった気がした。

 

 俺は自宅を出てマイ自転車に欠け乗り立ち漕ぎで相模原の家に向かった。

 体から力が無限に湧いてくるみたいだ。早く漕げば漕ぐほど続きが読めると思うとペダルにかける力がどんどん強くなってくる。


「相模原!この野郎おおおお!!」

 午後10時。住宅街を疾走しながら相模原への呪いの言葉を吐き出した。

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互いの趣味を交換することになった俺のクラス  陽キャがオタ趣味にハマり陰キャがウェーイな趣味にハマる 落とし落とされの沼バトルロイヤルが発生 気づいたら寝てた @netata

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