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 ニア 国の行く末を憂いていることを伝えた




 あなたは今後のことを考えた。

 冒険者という仕事は長く続けていくには不安定過ぎるし、生きるだけに精一杯となって、自分が何者か探している暇などないのではないか?

 それ以外の選択肢も、恐らく一生をカゴの中で終えることになるだろう。


 そして、あなたは今一度このスラムに目を向けた。

 豊かな国にあってはならない明らかな歪み。戦争がもたらす不利益。

 この先、この国はどうなっていくのか……自分にもなにか出来ることがあるのではないか?

 ひいては、それは自分の身を立てることにも繋がるハズ。

 そんな強い意志が、どこからともなく沸き上がり、あなたは意を決したように手を上げ、自分の決意を告げた。


「え゛っ!? この国のことが心配だから、仕官して何か貢献したい……ですって!?」


 フィナは想定していなかったあなたからの返事を受けて、声を裏返らせて驚いた。

「い、いや、考え直してみない? 年端もいかない女の子の仕官を受ける国家があったら、それはそれで問題だと私思うんだけど。ね、ね?」

 いいや。あなたの決意は、鍛え上げられた鋼よりも固く、燃え盛る炎よりも燃え滾っていた。

 全く折れる気配のないあなたを見て、フィナはガックリと肩を落とした。

「……わかった。乗り掛かった舟よ。口添えなりなんなり、手伝ってあげる。

 ただし条件付きよ。こう言いたくはないけど、普通の女の子をちょっと口添えがあるからって雇う程、国の審査は甘くないんだから」

 あなたは首を傾げた。

「つまり、何か出来ることはないかってことよ。無芸なただ飯食らいが受け入れてもらえる世界とは思わないことね。少なくとも、私が口添えしてもいいと思わせる何かを示して納得させること。それが、あなたを王城に紹介する条件よ」


 一芸……さて、あなたはそうは言われても、自分のことすらもよくわかっていないわけで。

 何が出来るかと問われても、心当たりがまるで頭の中から出てきてくれない。

 自分の中に何か眠れる力はないだろうか……。

 あなたは、腕を組んで、ふんすふんすと鼻息荒く出来ることを探した。

 例えば――辺りにあった、経年で崩れたと思しきボロ屋の大瓦礫を一瞬で消し飛ばせたりはしないだろうか?

 あなたは、そんなのは無理だな~。、と思いながら、試しに大瓦礫を持ち上げてみようとした。


 ひょい。


「―――――!?」

 フィナが、―――絶句した。

 綿菓子でも持ち上げるかのように、軽々とあなたの身の丈の数倍はありそうな瓦礫を持ち上げた、あなたの姿にフィナが言葉を失ったのだ。

 あなたは、今度はひょいと瓦礫を降ろす。

「……疲れてるのかしら……」

 目を押さえながら、あなたへと近づいたフィナが、同様にその瓦礫を持ち上げようとする。

「フンッ……ンンン……ぐぎぎぎぎぎ……ッ!? ッ、ハァ、ハァア、マジの瓦礫じゃない!?」

 あなたにあたるように辛めの口調でそう言うフィナに、そう言われてもと言いたげな視線と表情を向けておいた。

 それはそれとして。

 どうやら、常人とは比べものにならない怪力があなたには備わっていたようだ。

 これは一芸と言ってもよいのではないか?

 あなたのランランとした視線を受けて、フィナはため息を吐き、悪夢だと言いたげに掌で目を覆った。

「……わかった。一応、ただの女の子じゃなくて、そういう能力があるってことは伝えておくわ」

「おほ~、まさかお城に行けるのか? 相棒よ、高級取りになって俺様に贅沢させてくれるのか?」

 結果としてそうなる可能性はあると、あなたは偉そうに胸を張った。


「そう簡単にうまく行くなら、私も紹介のし甲斐があるけれどね……。取り敢えず、簡単なのだけど書状を認めておくから、それを持って王城に行きなさい。ここをまっすぐ行けば城下に出るから、あとは遠目に城も見えるから。

 それと、これは一晩分の金貨。城下に出てすぐに、大鷲亭という鷲のマークの看板をぶら下げた宿があるから、そこに一泊してから城に行きなさい」

 その後は? と言いたげなあなたの肩を、フィナは軽く叩く。

「事情があってね。私は王城に関係することは出来ないの。これも正直、ギリギリ。もし王城で働けなくても、多少金銭面で融通を利かせるようには頼んでおくから、あとは自分で頑張りなさい」

 それがあなたの選んだ道よ? と言われると、彼女が同道できないという心許なさは我慢するしかない。

「もー、途端に不安そうな顔しないでよ。送り出す私まで何とも言えない気持ちになるじゃない。大丈夫。頑張りなさい」

 ポーチから取り出した紙にサラサラと手際よく文字を記し、彼女はそれを封筒に納める。

「~~……」

 聞き取れない微かな言葉を呟くと、指に火が灯る。それを取り出した蝋にあて、手際よく封蝋を施した。

「これがあれば、私からの紹介と証明出来るわ。封を開けたらダメよ」

 あなたは頷く。

「じゃあ、行ってくるから。言ったとおりにね」

 あなたは城下へと去るフィナに強く手を振った。


 そこからはフィナの言葉通り、宿に行き、見慣れぬ金貨を店主らしき女性に渡し、ベッドでひと息をついた。

 疲れからすぐに眠りについたあなた。

 翌朝には、完全に吹き飛んだ疲れを確かめるように、眠りこけているギドを太陽の下で何度も叩いておいた。

 埃も取れたついでに誇りも取れて、爽快さとうらめしさを同居させたギドの視線を無視し、あなたは宿の朝食を頂くと、すぐさま王城へ向かった。

 王城は城下の中央に目立つようにそびえており、一切迷うことはなく辿り着いた。


 王城の入り口。大きな門の前には、門番が二人、厳しい表情で行く手を阻むように立っている。

「……ん? なんだ、子どもか。ここは、子供の来るところではないぞ」

 門番は、あなたを一瞥すると、胡乱な子供が何の用だといわんばかりに冷たい視線を向けた。

 あなたは、どうしたものか思案したが――手紙を渡してみないことには、門は通れそうにないと決意し、手紙を渡してみることにした。

 ここで破り捨て去られたりしたら、完全に終了となるが……。

「なんだ、この手紙は。…………―――――――し、失礼しました! ただいま、手紙をお届けしますので、少々お待ちを!!」

 門番は手紙の封とそこに添えられたメッセージを見ると、血相を変えて姿勢を正し、慌てて王城へと入っていった。

 しばらくすると、門番に案内され、がっしりとした体格に無骨な鎧を纏った、整った顔の初老の男が現れた。

 厳つさに反して、その眼差しは優しく、どこか人を落ち着かせるような優しい雰囲気をあなたは感じた。

「卿、この方です」

「ふむ、君か。話は聞いているよ。私は『騎士長』セブナック・オルドリッジ。

 さて、エスコートをすることをお許し頂けるかな、小さなレディ」

 気障なセリフも、使う者が使うと似合うものである。

 あなたは「やっぱイケメンって得だわ」と思いつつ、差し出された手を握り、王城へと案内されるのであった。

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