頑固一徹


「失礼しま〜す……」


比較的近所の市民病院の病室。


外をぼーっと見つめる青年の腕や頭は、


包帯、管が沢山着いていて、


点滴や血圧等を測る器具…も置いてある。


私の靴の踵のコツ、と言う音でこちらに気づいたらしく、振り返って私を見る。


「本当に来るんだね」


「ごめん、でも大丈夫だから」


「…私は御家族や親戚の方から言われて来ました」


「なのでここで簡単に食い下がって何もせずに帰ることは出来ません」


てかしません、と言う。


「…聞いただろ?俺は自己肯定感が低くて頑固一徹な性格なんだ、って」


「聞きました、でもやります」


「あ、後私の名前栗田です」


「栗田さん?」


「嘘です。春井です」


「なんだ嘘か…」


橋田さんから聞くところによると、


この青年は私の2つ上で、少し…自己肯定感が低い上中々人の意見を聞かないとの事で、


まずは説得からしないとねぇ…と顔を歪ませていた。


「俺は真斗だよ。……苗字は叔母さんと同じ」


早口でそう伝えると、顔を逸らして外を眺める。


今日は温かめの気候で、日当たりも良く、病室の窓から見える花屋の花一つ一つが光って見えて、


まるで笑顔でいるような___優しい感じで風に靡いている。


「あ、良かったこれ、食べます?」


「え?あぁ………お、お菓子?」


「シュガーラスクです。作りました」


あ〜……っと言葉を濁す真斗さん。


「実は俺お菓子食えないんだよね、ほら病気なもんでさ…」


医師から禁止されてんだよね、と俯いて言う。


「あ、じゃあ黒ひげ危機一髪でもやります?」


「………君ってちょっと変わってるんだね」


「え、今更気づいた感じですか?笑」
















元々昼過ぎに来ていたのもあってか、


色々やって話して日が沈みかけていた。


オレンジ、青、紫の順でグラデーションが掛かった綺麗な空だ。


…勿論私は目的を忘れていた訳では無くて、


こう、まずは馴れ合いから……していった方が良いし!


でも、思いの外彼はボードゲームがテーブルゲームに強すぎただけで、


「これに勝ったら」「私が早く進んだら」とか、


そういう事が一切効かない。


なにもパソコンでブラウザゲームを結構やっていたらしく、私の十八番のソリティアも、


彼の方が1分ぐらい早かったぐらいで惨敗した。


「楽しかったあ〜」


「そうだね…結構」


「……また来ても良いですか?」


「あとそろそろ治したりしません?」


「………ん〜?」


真斗さんがはぐらかすと、外でガシャーン!と、


音が聞こえる。


「ぁ、やばいやばい…!!」と扉越しに焦っている事が伝わる。


「今日はもう、帰った方が良いみたいだね」


「うぇえ……でも……ん〜………」


「…てか、帰って欲しいかな」


ちぇ、と小言を言うと、


「多分、あれは俺の薬だから」


と扉を見つめた。


仕方なく部屋を出ると、さっきのワゴンが置いてある。


ちらっと見ると、どこにも「橋田真斗様」とかは書いていなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

1回500円につき。 田仲 @tanaka_desu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ