第4話 出発

 長い間、旅を共にしてきたアルド一行とウィア一行。そして、一行は一応の最終目的地であるウィアの故郷、エルジオンに来ていた。一行が着いた時には、もう夜だったため、すぐにホテル・ニューパルシファルに泊まった。その夜、アルドは眠れなかったため、外の空気を吸おうと入口へと向かっていた。すると、ロビーで話し声が聞こえた。恐る恐る見ると、そこにいたのは、エイミ・サイラス・ギルドナだった。


「あれ? みんなも眠れないのか?」

「いや そうではないでござるよ。」

「今 俺達が話していたのは ウィアの仲間のことだ。」

「ウィアの仲間って ストラーダ タオ ヴェークのことか?」

「ええ。実は たまたま わたし達 その3人と 2人きりになる時があったの。その時に色々話したんだけど みんな それぞれ悩んでたの。」

「悩みか。具体的には どんなことでだ?」

「それぞれ 自分の世界でやるべきことと せっかく出逢えた仲間と旅をすること どちらを取ればいいのか ということだ。」

「……!」

「そこで アルドに相談なんでござるが……」

「何だ?」


こうして、夜の話し合いは陽が昇るまで続いた。

朝、アルドは少し仮眠を取ってから、外の空気にあたっていた。すると、後ろから声がした。


「あっ おはよう アルド。朝早いんだね!」

「おはよう ウィア。まあな。」


そして、アルドは少し間を開けてから言った。


「なあ ウィア。ちょっと散歩しないか?」

「いいね! そうしよう!」


2人はそういって、朝のエルジオンをたわいもない会話をしながら、散歩していった。しかし、アルドはこの時、明確にある場所に向かっていた。エルジオン・エアポートだ。


>>>


 アルドとウィアは、エルジオン内をゆっくりと散歩し、そして、エルジオン・エアポートへとやって来た。


「うわー キレイだな……!」


雲が朝陽を受けて、キラキラと輝いていた。


「ぼく エルジオン出身だけど エルジオン・エアポートの朝は初めてだよ!」

「ああ オレもだ。」


すると、アルドの雰囲気を察したのか、ウィアは話を切り出した。


「それで ぼくに何の用かな アルド?」

「えっ 何で分かったんだ?」

「だって いつものアルドよりも まわりをきょろきょろしてたし エアポートに何度も行こうとしてたから。」

「さすがだな ウィア……。」


全て見透かされたアルドは少し恥ずかしかった。そんなアルドにウィアは改めて聞いた。


「それで 話は何かな アルド?」


すると、アルドは昨夜頼まれたことを話し始めた。


「……ウィアは 何か悩みとか ないのか?」

「……悩み?」

「ああ。実は オレの仲間が ウィアの仲間から 悩みを聞いたらしいんだ。」

「ぼくの仲間から……。」

「だから 真似ってわけじゃないんだけど もし 悩んでいることがあったら 力になりたいなって 思ってさ。」

「うーん……。」


ウィアは少し悩んでから、言った。


「ストラーダ タオ ヴェークにとって この旅は 楽しいのかなって 思うことがあるんだ。」

「旅が楽しいか か……。」

「ぼく 実は 何かの拍子で 気づいたら 「星の夢見館」ってところにいたんだ。」

「……!」

「そしたら なんか 仲間に出逢わせてくれるとか 旅に出ろ みたいなことを言われて 気付いたら 全く知らない場所にいて そこから 旅が始まったんだ。でも アルドたちみたいに 何か目的があるわけじゃないし 何か ゴールがあるわけじゃない。だから そんな旅で みんなは 楽しいのかなって思うんだ。」

「でも 見聞を深めるためとかって 言ってたじゃないか。」

「それは 確かに嘘じゃないけど みんなを 旅に誘う時に とりあえずの目的として 言っただけだから……」

「なるほどな……。」

「それに 最近 みんな 元気がないように見えてね。普段通りだけど 表情が暗かったり 声が少し悲しげだったりするんだ。」

「そうか? オレには そこまでの違いは分からなかったけど……。」

「ぼくは そういうのに人一倍 敏感なんだ。だから 本当は 楽しくないけど 気を遣って いやいやついてきてるんじゃないかって。」

「……。」


アルドは少し考えてから言った。


「なあ ウィア。もう少し 仲間のこと 信じてもいいんじゃないか?」

「えっ……?」

「ウィアはたぶん ストラーダやタオ ヴェークのことを考えて そう思ってるのかもしれないけど ここまで 一緒に旅をしてきたんだ。もし イヤなら とっくにもう 一緒に行くのをやめてると思うぞ?」

「で でも……。」

「仲間のことを想うのは分かるし ウィアはそれができる人だと思う。でも 少し考えすぎなんだと思う。」

「……。」

「実は オレも そんなことで悩んだことがあったんだ。」

「アルドが……?」

「ああ。オレは 自分の大切な人を救けたいと思って 旅をしてる。でも それって エイミたちは関係ないことだろ? だから もしかしたら 無理に旅についてきてるんじゃないかって そう思った時があったんだ。でも そんなことを聞いたら 笑って否定されたよ。」


アルドは、昔を思い出して、笑いながら言った。


「そ そうなんだ……。」

「その時に思ったんだ。旅に一緒に ついてきてくれる仲間のことを 信じようって。」

「……。」

「そして 仲間がオレの考えを尊重してくれたように オレも仲間の考えを尊重しようって 決めたんだ。」

「……!」


そして、アルドはもう一つ頼まれたことを話し始めた。


「さっき エイミたちがストラーダたちから 悩みを聞いたって言っただろ?」

「うん。」

「これは エイミたちから聞いた話なんだけど ストラーダも タオも ヴェークも 悩んでいることは 同じだったんだ。」

「えっ?」

「3人とも それぞれの時代でするべきことと みんなと旅を続けること どちらを選べばいいのかってことで悩んでたんだ。」

「……!」

「それぞれ やらないといけないことをしようと思うと これ以上旅は続けられない。でも 仲間との旅は楽しいし やめたくない。3人ともそう言ってたみたいだよ。」

「そんな……。」

「誰も ウィアが思ってるように 嫌だけど 気を遣って 一緒に旅をしてたわけじゃなかったんだ。」

「みんな……。」


すると、アルドは何かに気付くと、ウィアに言った。


「あとは みんなに 話を聞いてみたらいいんじゃないか?」

「えっ!?」


ウィアは、アルドの視線を追って、後ろを振り返ると、そこにはエイミたちに連れられてきたストラーダ・タオ・ヴェークがいた。


「みんな……! どうしてここに?」

「エイミさんたちに 連れられてきたんです。」

「それに わたしたちの 悩みのことも 聞いた。」

「おめえは 何でこんなところにいるんだ?」

「うん。ちょっと散歩がてら 話しててね。」

「まさか お前も 悩みを聞いてもらってたりしてな!」

「実は そうなんだ。」

「そうなの?」

「何か お困りごとが ありましたか?」


ウィアは、一度振り返って、アルドを見た後、もう一度振り返って言った。


「一度 ホテルに戻ろう。ここじゃ 何だし。」

「そうだな。じゃあ 戻るか。」


ストラーダたちは不思議そうな顔をしているなか、一行はホテル・ニューパルシファルへと戻った。


>>>


 ホテル・ニューパルシファルの前まで戻ってきた一行。すると、ウィアが皆に言った。


「よし。じゃあ ストラーダ タオ ヴェーク。一緒に中に来てくれるかな? 話がしたいんだ。」

「え ええ。」

「わかった。」

「話って 何だ?」

「それは 後で話すよ。」


すると、ウィアはアルドたちの方を振り返って言った。


「それじゃ 行ってくるよ。」

「ああ。オレたちは ここで待ってるから。」

「ありがとう。それじゃ。」


こうして、ウィアはストラーダ・タオ・ヴェークと共に、ホテルの中へと入っていった。


「ごくろう様 アルド。」

「いい話し合いができたら いいでござるな。」

「フッ 俺たちが心配することでもあるまい。」

「ああ。オレたちはみんなの帰りを 待つだけだ。」


>>>


 ホテルに入ってから、数時間。アルドたちが外で談笑していると、ホテルのドアが開く音がした。アルドたちは、出てきたウィアたちの顔を見て、話し合いがうまくいったと、確信した。


「お待たせしてごめん みんな。」

「全然構わないよ。」

「その様子だと 話し合い うまくいったみたいね!」

「みんな いい顔をしているでござるよ!」

「だから 心配は無用だと言ったのだ。」


すると、ウィアは改まって言った。


「アルドたちに ぼくたちの決めたことを聞いてもらいたいんだ。」

「ああ。聞かせてくれ。」


そして、ウィアは言った。


「今日で ぼくたちは 旅を休むことにするよ。」

「うん。」

「俺は もう現実から逃げねぇ。俺は自分の意志で ラトルの村長を継ぐと決めたんだ。」

「わたしも 考えた。母さんと仲間で考えた時 斬れなかったのは母さんだった。だから 母さんのところに行く。」

「私も考えました。私が生涯を通して やりたいことは 多くの人々を救け 笑顔にすること。そして 今は それをかなえる一番の方法は 神官になることだと そう思ったのです。」

「ぼくは みんなの話を色々聞いた。そして みんなの本当の気持ちを知った。そして みんながぼくにしてくれたように ぼくもみんなの気持ちを尊重したい。それが この結果だよ。」


アルドたちは、この結果を聞いて、言った。


「お前たちが決めたことだ。俺たちがとやかく言うことではない。」

「それが おぬしらの それぞれの答えなので ござるな。」

「いい判断だと思うわよ!」

「うん。終わりとなると 少し寂しい気もするけどな。」


すると、ウィアはアルドの言葉に、首を横に振った。


「終わりなんかじゃないよ アルド。これは はじまりなんだ。それに みんなとの旅は お休みで 完全になくなるわけじゃないんだ。また その時が来たら みんなと旅をするつもりだよ。」

「そうか。はじまり か。確かに そうだな!」


全てを話し終えたところで、ウィアは言った。


「じゃあ ぼくは みんなを元の時代に送ってくるよ。」

「そうか。じゃあ ここでお別れだな。」

「やっぱり ちょっと寂しいわね。」

「近くに来た時は ぜひお寄りください!」

「うむ。近くに来たら 寄らせてもらうでござるよ。」

「うん 待ってる。」

「なに 俺たちは旅人だ。また 交わる時もあるだろう。」

「ああ ちげえねぇな!」

「また 旅に出ることになったら また オレたちと旅をしよう!」

「ええ。その時まで どうかお元気で!」


そうして、ウィアたちは歩き始めた。途中、ウィアだけふり返って、アルドたちに言った。


「みんな 色々と本当にありがとう!」

「いや オレたちは 話を聞いただけだよ。」

「そんなことないよ!」


そういうと、ウィアはキラキラした笑顔で言った。


「きみたちとの出逢いが ぼくたちの運命を分岐させてくれたんだ!」


そして、ウィアは一度礼をすると、ストラーダたちの後を追って、駆けて行った。

そんな、ウィアたちを見守るアルドたちを、遠くから眺める者が一人いた。星の夢見館のあるじだ。


「時空の旅人たちとの交わりで 新たな運命に向かったか。」


あるじは、新たなる旅立ちを見届けると言った。


「ひとは こうして 様々な者との交差で 自らの運命を変えながら進んでいく。」


そして、その場を去りながら言った。


「さあ 旅人よ。今一度 告げよう。行くがいい そなたの道を。星の見る夢のまにまに……。時の風に吹かれて……。」


風など吹くはずのないエルジオンに、旅人の新たなるはじまりを祝福し、その背を押す風が吹いたような気がした。

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時空の旅人のクロスポイント さだyeah @SADAyeah

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