第3話 佇立

 共に旅を続けるアルド一行と、ウィア一行。一行は、ウィアの仲間ヴェークの故郷である古代の火の村ラトル、タオの今の故郷である現代の港町リンデを訪れ、今度は、ストラーダの故郷である王都ユニガンへを訪れていた。


「着いた……! 今までよりは楽だったな!」

「そうだね! それにしても ユニガンに来るのも 久しぶりだな……!」

「確か 前に来たのは ストラーダを 仲間にした時 だったはず。」

「そうでしたか? では ここを離れてから 長い月日が流れているのですね……。」


しみじみと感じ入るストラーダに、ヴェークは我関せずといった様子で言った。


「おい! ボーッと 突っ立ってないで 俺たちを案内してくれよ!」

「あっ ご ごめんなさい! 実は こちらなんです……!」


そういって、ストラーダは、今入ってきたユニガンのリンデ側の門の少し中に入ったところにある、細長い建物を指さした。


「えっ ここ!?」

「この建物は 何でござるか?」

「ここは ユニガンの神殿に仕える神官たちが暮らす宿舎なんです。私も 以前も旅に出るまでは ここから 神殿へと通っていました。」

「ずっと 何だろうって思ってたけど そういうことだったのね!」

「よろしければ 中に入られますか? まあ 入るといっても 何があるわけでもないですけど……」

「今は特に行くところもないし 今は入れてもらおうか。」

「わかりました。では こちらへ。」


そうして、ストラーダに連れられ、アルドたちは神官宿舎へと入った。


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 神官宿舎の中は、ミグランス城と同様の装飾が施された、美しい建物だった。


「へぇー 中はこんなにきれいなんだね!」

「まるで ミグランス城みたいだな!」

「神殿と王族は 浅からぬ縁があるので それ故に ミグランス城さながらの 装飾がなされているのです。」


すると、遠くから、2人の神官がやって来た。他の神官に比べ、服装がやや豪華に見える。


「おや あなたは……。」

「神官長に 副神官長……!」

「久方ぶりですね ストラーダ。」


(神官長と副神官長ってことは この人が マリエルのお母さんとお父さんか……。)


アルドは、その威厳ある雰囲気に、圧倒されていた。


「見聞から 戻ってきていたのですね。」

「はい。つい先ほど 戻ってまいりました。」

「この方々は あなたのお仲間かな?」

「はい。その通りです。」


すると、神官長と副神官長は、アルドとウィアたちの方を向いて言った。


「皆様 こちらのストラーダが お世話になっています。」

「い いえいえ こちらこそ。」


アルドは、こう返すのが、精いっぱいだった。


「して ストラーダ。戻ってきて早々 申し訳ないのですが あなたに頼みたいことがあるのです。他の神官は あいにく出払っていて あなたにしか頼めないのです。」

「なんなりとお申し付けを。」

「ご協力感謝します。では 任務を言い渡します。」


そして、神官長は、ストラーダに任務の内容を伝えた。


「この時刻であれば とうに到着しているはずの 配給用の食料がまだ届いていないのです。何か良からぬことに巻き込まれた可能性も否定できません。ですので 配給の馬車の様子を見に行ってもらえますか。」

「わかりました。」

「オレたちも 手伝うよ。」

「ぼくたちも お手伝いします!」

「えっ いいのですか……?」

「ああ もちろんだとも。」

「あなた方のご協力感謝いたします。では あなた方も このストラーダに力を貸してあげてください。」

「ああ!」

「場所は カレク湿原です。それでは 皆さん よろしくお願いします。神のご加護があらんことを……。」


そういって、神官長と副神官長は、その場を後にした。


「それにしても 本当によろしいのですか?」

「もちろんだとも!」

「ありがとうございます! では 早速行きましょう。」



こうして、一行は、神殿の配給用の食料を乗せた馬車を探すため、カレク湿原へと向かった。


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 一行は、カレク湿原の南部まで来ていた。


「確かに 馬車 見つからない。」

「くそっ 隠れてねえで さっさと出てこいってんだ!」

「怒ったところで 出てくるわけではない。」

「いつも 配給用の馬車が通っている道を行っているのですが いませんね……。」

「うわーーー!!!」


すると、少し先の方で、叫び声が聞こえた。


「今のは まさか……!」

「すぐに行きましょう!」


そういって、一行は声のする方へと駆けて行った。


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 カレク湿原の中央部に来た一行。すると、そこに探していた馬車と、そのそばで倒れている御者がいた。


「そこのあなた 大丈夫ですか!」

「うっ……。あなたは……?」

「神官のストラーダです。何があったんですか?」

「先ほど 4人組の盗賊に襲われて 積み荷を全て取られてしまったうえ 馬車が壊れてしまったんです……。」

「この配給便には 一週間分の食料が積まれているのです! それがなくなってしまうと 飢えてしまう者が出てきてしまいます。急いで 探しましょう!」

「それは 一刻も早く 取り返さないとですね!」

「誠に申し訳ございません……!」


頭をついて謝る御者に、ストラーダは優しく声をかけた。


「悪いのはあなたではありません。己の欲のままに狼藉をはたらいた 盗賊が悪いのです。ですから 頭をお上げください。」


御者が頭を上げたのを確認すると、ストラーダはみんなに指示を出した。


「すみませんが 皆さんのお力を お借りしてもよろしいでしょうか?」

「そのために 拙者らは来たでござるよ!」

「ありがとうございます! では まず 馬車を直せる方 いらっしゃいますか?」

「俺ならできるぜ。まあ イヤならいいが。」

「それなら 馬車の改修を ヴェークさん お願いします。では 次に 回復魔法が使える方は いらっしゃいますか?」


この問いには、みんなが首を横に振った。


「わかりました。では 私がヴェークさんと共に残って 御者さんの治療を行います。ですので 他の方々は 盗賊と盗まれた食料を探してください。」

「ええ。わかりました!」

「万が一のことも考えて ペアで探すことにしましょう。では ウィアさんはアルドさんと ギルドナさんはサイラスさんと エイミさんはタオさんと ペアになって ください。」


皆はストラーダの指示にうなずいた。すると、御者が言った。


「馬車の中に 縄が入っています。それで 盗賊を捕まえてくだされば……。」

「うむ。では使わせてもらうとしよう。」


各ペアが縄を持ったところで、ストラーダは言った。


「では 皆さん よろしくお願いします!」


一行は、カレク湿原のあちこちに散らばっていった。


「では ヴェークさん お願いします。」

「おう。そっちは頼むぜ ストラーダ。」


>>>


 カレク湿原の北西部に来たアルドとウィア。


「どこにいったんだろう?」

「声がしてから 時間は経ってないから そう遠くには行ってないはずだけど……。」


2人はあたりを見ながら、先に進んでいく。すると、アルドは気配を感じた瞬間、それを剣で受けた。すると、襲ってきたのは、湿原に隠れていたサファギンだった。


「うわっ!?」

「はっ!」


アルドはサファギンをはじき返した。すると、そこにサファギンを引き連れた盗賊が現れた。


「あれを受け止めるたぁ すごいな。」

「お前が 盗賊か!」

「悪いがこの食料はいただくぜ? やれ!」


すると、3体のサファギンが、アルドたちに向かってきた。


「行くぞ ウィア!」

「はい!」


2人は、剣を構えた。


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 素早くサファギンを倒したアルドとウィア。


「さあ すぐに追おう!」

「ああ!」


2人は、盗賊の後を追っていった。


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 一方、カレク湿原の北東部に来たギルドナとサイラス。


「さっさと出てきてほしいところだが……」

「人影一つないでござるな……。」


2人が周りを見ながら歩いていると、2人は気配を察する。そして、次の瞬間、2人は剣と刀を振った。すると、そこで2体のツルリンが倒されていた。そして、盗賊がツルリンを引き連れて現れた。


「さすが腕がたちそうなだけあるな。」

「貴様が狼藉者でござるな!」

「それ相応の罪を償ってもらわねばな。」

「そう簡単に捕まるわけには 行かないんだよ! やれ!」


すると、3体のツルリンが2人に向かってきた。


「何体来ても同じでござるよ。」

「さっさと済ませるぞ!」


2人は、余裕の表情で得物を構えた。


>>>


 宣言通り、さっさと倒したギルドナとサイラス。


「さあ あとは大元だ。」

「早々に済ませるでござるよ!」


2人は、盗賊の後を追っていった。


>>>


 一方、カレク湿原の南東部に来たエイミとタオ。


「まったく どこに行ったのかしら?」

「たぶん そこまで遠くに 行ってないはず。」


あたりを見回しながら歩いていると、急にタオが刀で薙ぎ払った。エイミが驚いて振り向くと、そこには1体のリチャードが倒れていた。


「す すごい……!」

「……くる。」


すると、盗賊がリチャードを引き連れてやって来た。


「すごい反応だな。だが 俺を捕まえられるかな?」

「あんたね! 卑怯な真似をしたのは!」

「すぐに斬る。」

「おおっと その前に こいつらが相手だ。やれ!」


すると、3体のリチャードがこちらに向かってきた。


「わたし達 随分とナメられてるみたいね?」

「これくらい すぐに片付ける。」


2人は戦闘態勢に入った。


>>>


 すごい勢いでリチャードを倒したエイミとタオ。


「さあ あいつにも きつい一発 おみまいしないとね。」

「……斬る。」


>>>


 四方に散ってから数分後、ヴェークが馬車を直しているなか、ストラーダは御者の治療を終えた。


「もう これで とりあえずは大丈夫です。」

「ありがとうございます……。」

「ですが まだ 安静にしておいた方がいいですから ここからユニガンまでは 別の人に 走らせますね。」

「申し訳ない……。」


すると、方々に散っていたみんなが帰ってきた。


「回収して捕まえてきたぞ!」

「とるに足らんものだったな。」

「こんなの 朝飯前ね!」


すると、ヴェークが言った。


「よし。馬車も修理完了だ。」


ここで、エイミは気付いたことを口にする。


「確か 盗賊って4人よね? 一人足りないわ。」

「まだ どこかにいるのか……?」


一連の報告を受けて、ストラーダは言った。


「皆さん ありがとうございます! では 先に食料と捕まえた盗賊を積んで 先にユニガンへ戻っていてください。私は 最後の食料と盗賊を見つけます。」

「そんなことをせずとも 皆で最後の一人を探したらよいのではござらんか?」


サイラスの提案に、ストラーダは首を横に振る。


「お気持ちはありがたいです。しかし この便には 今日の分の配給も含まれているのです。きっと今頃 おなかを空かせていることでしょう。それに 盗賊をずっとこのまま 放置しておくわけにも参りません。ですので……」


すると、エイミが声を上げた。


「なら わたしも 一緒に残るわ。それくらいなら いいでしょ?」

「しかし……」

「万が一のことを考えて ペアを作らせたのは他でもないお前だろう。」


ギルドナの指摘に、ハッとしたストラーダは、その提案を受けた。


「わかりました。では エイミさん よろしくお願いします。後の方もお気をつけて。」

「馬車は 俺が運転するぜ。振り落とされんなよ?」


そういって、ストラーダとエイミ以外の仲間は、ヴェークの運転で、回収した配給と捕まえた盗賊、負傷した御者を乗せて、ユニガンへと向かった。一方、残ったストラーダとエイミも探し始めた。


「さて それじゃあ 私たちも 最後の一つを探しましょうか。」

「ええ。そうね。」


ストラーダとエイミはそういって、あたりを見回しながら歩いて行った。その後ろを、怪しい視線が追っていた。


>>>


 ストラーダとエイミは、カレク湿原の南部まで来ていた。すると、エイミが口を開いた。


「それにしても すごいわね ストラーダ。」

「何がですか?」

「あれだけ 指示をだして対応してて…… わたしだったら 多分倍以上は時間がかかっていたわ。」

「そんなことは……」

「それに神官長と副神官長から 直々に任務を受けてたし 神殿にとってもそれだけ ストラーダが 頼れる存在だってことよ!」

「……。」


エイミの話を聞いて、ストラーダはなぜか悲しそうにしていた。


「どうしたの? もしかして わたし 何か余計なこと言っちゃった……?」

「いえ そうではないのです……。確かに 私は 神官の中でも 攻撃と回復の両方ができるために 必要とされていると思います。もちろん私も 神官の仕事は誇りに思っていますし より多くの人を救けたいとも 思っています。自分は神官として働くべきであり それが一番の喜びでなければならないと。」

「う うん……。」

「でも 私は知ってしまったのです。世界を旅して 見聞を深める喜びを 仲間と共に旅をする楽しさを。」

「……。」

「もちろん 旅に参加したのは 見聞を深めて 今後の神官の仕事に役立てたいと思ったからです。頭では 神官として多くの人々を救いたいし そうあるべきだとわかっています。でも 私の心は 仲間との旅を欲しているのです。一体どうしたらよいのでしょうね……。」

「なるほどね……。」

「そんな程度なら 神官止めた方がいいんじゃねえのか?」


急に2人外の声がした。2人が振り向くと、そこには、探していた最後の盗賊が食料を持って立っていた。


「あなたは……!」

「だいたい そんなことで 人を救えるのかねぇ?」

「……。」

「それに 本当は楽したいんじゃ……ぐはぁっ!」


急に話が途切れて、奇声を上げた盗賊。ストラーダは、我に返ってみてみると、盗賊は少し吹っ飛んで、エイミが拳を向けていた。


「あんた ちょっと黙っててくれる?」

「エイミさん……。」

「くそっ お前たち やれ!」


すると、湿原から、サファギン・ツルリン・リチャードが現れた。


「ストラーダ いける?」

「ええ。大丈夫です……。」


2人は、戦闘態勢に入った。


>>>


 2人はさくっと魔物を倒すと、盗賊は走って逃げようとしていた。


「ストラーダ お願い!」

「いきます!」


ストラーダが投げた縄は見事に盗賊を捕らえた。2人は食料を回収して、盗賊をしっかりと縛った。すると、エイミがストラーダに言った。


「ストラーダ。ちょっと目を瞑っててくれる?」

「は はい。」


ストラーダが目を瞑ると、鈍い音と共に、盗賊の「ぐえっ」という声が聞こえた。


「もういいわよ!」

「はい。」


ストラーダが目を開けると、盗賊は気を失っていた。それを見て、ストラーダは察した。


「……。」

「ストラーダ さっきのことなんだけど……。」

「……盗賊の言う通りです。」

「えっ?」

「旅と仕事を天秤にかけるような者に 人々を救う資格なんてありません……。」


エイミは、少し考えてから言った。


「ストラーダ。ちょっと聞きたいんだけど。」

「……何でしょう。」

「多分 神官として働きたいって思うのは 多くの人々を救けたいからだと思うんだけど 何で多くの人々を救けたいの?」

「……それは おそらく 母が理由だと思います。」

「お母さん……?」

「私の母も 神官を務めていました。多くの人々を救け笑顔にする。それは「母なる天使」と呼ばれていたほどです。私はその背中を幼い時から見てきて 憧れとなっていました。そして 母が若くして 天に召された時 母は「もっと多くの人々を救けたかった」と 遺しました。その時 私は母が救けようとした人々まで 救けられる神官になろうと決意したのです。」

「なるほどね。」


エイミはまた少し考えてから言った。


「ねえ ストラーダ。あなたが 今 生涯を通してやりたいって思うことって何?」

「生涯を通してやりたいこと……。」

「まあ 今は その答えは聞かないでおくわ。もし そのやりたいことが見つかったとして それを 一番することができる方法って何かしら?」

「……。」

「わたしの話になるけど わたしは幼いころ 母を悪い人に殺されたの。その時にわたしは 世界にあふれる哀しみを 打ち砕きたいって思ったの。だから 仲のいい友達と 同じ学校に行くことを選ばずに ハンターとして生きることを選んだ。それは その時 一番私のやりたいことができる方法だと思ったから。そして 今それが一番できる方法は アルドたちと一緒に旅をすること。だから 旅をしているの。」

「……!」

「それに わたしがハンターになるって言った時 友だちはその考えを認めてくれた。それに 最近になって母が私に メッセージを遺してくれていたことが わかったんだけど それは 娘であるわたしに幸せになってほしいって思いにあふれてた。」

「……。」

「だから きっと ストラーダが決めたことは お母さんも 仲間も認めてくれる。それに 今一番いい方法って変わったりもする。なら 他でもない自分が一番やりたいことを 見つけたら いいんじゃないかな?」

「……そう ですよね……。」

「わたし こういう話するの あまり得意じゃないから 伝わらなかったかもしれないけど……」

「いいえ。エイミさんの言っていること ちゃんと理解しました。私 少し考えてみます。」

「それがいいと思うわ!」

「ありがとうございます エイミさん!」

「さて そろそろ帰りましょうか! みんなも待ってるだろうし!」

「そうですね!」


こうして、ストラーダとエイミは、ユニガンに戻った。そして、盗賊を明け渡すと、神官宿舎へと向かった。


>>>


 神官宿舎に戻ると、そこには仲間たちの他に、神官長と副神官長も待っていた。


「ごめん 待たせちゃったわね……。」

「神官長に副神官長……! お待たせして申し訳ございません。」

「少し帰りが遅いので心配しましたよ。でも 無事ならそれで構いません。」

「恐れ入ります……。」

「先に あなたのお仲間が 配給と盗賊を持ってきてくれたので それで 報告としておきましょう。ご苦労様でした。」

「ありがたきお言葉……。」

「では 我々はこれで。」


そういって、神官長と副神官長はその場を去った。続いて、アルドとウィアが話す。


「2人とも 疲れているところ 申し訳ないんだけど……」

「ぼくたち 2人を待ってる間に話してたんだけど 今からエルジオンに行って そこで休まないかって言ってたんだ。」

「別にわたしは 構わないわよ?」

「私も大丈夫です。」

「わかった! じゃあ 早速だけど エルジオンに行こう!」


こうして、全員揃ったところで、一行はユニガンを出発し、エルジオンのホテル・ニューパルシファルへと向かったのだった。

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