第2話 同道

 アルドたちがウィアと共にやって来たのは、現代の港町リンデだった。


「やっと着いたな リンデ!」

「ああ そうだね!」


すると、サイラスが聞いた。


「ところで ここは タオの故郷だったでござるな。」

「そう。ここは わたしの今の故郷。」

「しかし タオは東方の出身でござろう? なぜここが故郷なのでござるか?」

「それは 東方からリンデに 家族で引っ越したから。家族と家があって ある程度住んだら そこはもう 故郷。」

「なるほど……。つまり ここは 拙者で言うところの 人喰い沼でござるな!」

「リンデと人喰い沼を一緒にするのは 違うと思うけど……。」


エイミがツッコミを入れる中、タオが立ち止まって言った。


「ここが 私の家。」

「ここって…… 酒場じゃない!?」

「母さんは 酒場に住み込みで働いてる。だから ここが わたしの家。」

「ふむ。さあ さっさと入るぞ。」

「……! 皆 すまぬが 知り合いがいたので 少し声をかけてくるでござる!」

「ああ わかったよ。」

「騒がしい奴だ。さあ さっさと中に入るぞ。」


サイラスがどこかへ行ってしまってから、みんなはギルドナに言われ、酒場へと入った。すると、酒場のマスターがタオを見るなり駆け寄ってきた。


「タオじゃないか! 来てくれたんだな! また たくさん連れてきたな。母さんは上だ。」

「わかった。ありがとう。」


そして、タオに続いて2階のとある部屋に入った。すると、そこにはベッド

で休んでいる女性がいた。


「ただいま 母さん。」

「ああ……。おかえり タオ。来てくれたんだね。」

「タオ。もしかして……。」

「わたしの 母さん。今は 病気で 休んでる。」

「そうだったのか……。」


すると、エイミがアルドとウィアに耳打ちした。


「……ねえ 今は 2人きりにしてあげましょ?」

「そうだな。」

「確かに その方がいいね。」


そして、ウィアは言った。


「タオ。ぼくたちは しばらく酒場にいるから。」

「わかった。ありがとう。」


そういって、一行は部屋を出た。酒場へと戻ってくると、ちょうど慌てたマスターと鉢合わせた。


「うわっ どうしたんだ?」

「大変だ! 魔獣がセレナ海岸から リンデに向かって来てるんだ!」

「なに!?」

「しかも リンデにつながる北側と南側の両方の道から来てるんだ……!」

「まったく 不埒な輩がまだいるとは。俺が直々に成敗せねばならんな。」

「だが 南北両方から来てるんだから こっちも分かれねえといけねぇだろ。」

「確かに 少数のうちに たたいてしまった方が良いかもしれません。」

「わかったよ! じゃあ ヴェークとギルドナは ぼくと一緒に南に来てくれ!」

「エイミとストラーダは オレと北に行くぞ!」


アルドとウィアの意見にうなずいた一行は、急いで出ていった。


>>>


 アルドたち北側のグループは、リンデから道に入ってすぐのところにいた。


「まだ ここまでは来てないみたいね。」

「ああ。じゃあ 先へ進んで……」

「うわーー!」


突然遠くから、男性の叫び声が聞こえた。


「今の叫び声は もしかして……!」

「あっ あそこに 人と魔獣がいます……!」


ストラーダの指さす方を見ると、男性が4体の魔獣に襲われていた。


「すぐに助けるぞ!」


アルドたちは、すぐに現場へと向かった。


>>>


「待て!」


 アルドたちは、男性の前に入った。


「あんた 今のうちに逃げてくれ!」

「ああ ありがとよ!」


アルドは、男性が去っていくのを確認すると、魔獣に向き直って言った。


「お前たちを ここで倒す!」

「ふん! 人間如きに何ができる! 行くぞ!」


アルドたちは、4体の魔獣へと向かっていった。


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 ほどなくして、4体の魔獣はアルドたちの前に倒れていった。


「よし! こっちはもう大丈夫だな。」

「では 南側に向かってみましょうか!」

「ええ そうね!」


アルドたちは、ウィアたちと合流するため、来た道を戻った。


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一方、ウィアたち南側のグループは、ギルドナの勢いで中ごろにまで来ていた。


「いたぞ! さあ 叩きのめすぞ!」

「ちょっと待てって……。いくらなんでも 少し疲れたっての。」

「そうだね。少しだけ休ませてくれ……。」

「何を言う! 行くぞ!」

「おい 待てって!」


ヴェークとウィアは、ギルドナの怒りについていくのに必死だった。やがて、ギルドナたちは、4体の魔獣と鉢合わせた。


「おい 何をしている!」

「ま 魔獣王様……!?」

「ばかいえ。魔獣王様はもう亡くなっておられるんだぞ?」

「じゃあ この者は?」

「魔獣王様を騙ったということか! 許せん!」

「主君の顔を忘れるとは……。よかろう。ならば 戦いで証明して見せよう! いくぞ ウィア ヴェーク!」

「ああ ぼっこぼこにしてやるぜ!」

「悪い奴は 許さない……!」


ギルドナたちは、武器を構えた。


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 ギルドナたちの手によって、4体の魔獣はしっかりと倒された。


「思い知ったか 主君だった者の力を!」

「おい! いつまで 入りきってやがる! 北側に合流するぞ?」

「万が一ってこともあるから!」

「アルドなら 大丈夫だとは思うが 行くか。」


そういって、ギルドナたちは、来た道を戻っていった。


>>>


 アルド率いる北側のグループと、ギルドナ率いる南側のグループは、リンデからセレナ海岸に入ってすぐのところで合流した。


「む……。そちらは もう終わったのか?」

「ああ。そっちも終わったみたいだな。」

「……あっ おい見ろ!」


ヴェークの声で、一行が見てみると、少し離れたところに、一人の男性が立っていた。


「あれって さっきオレたちが助けた 男の人じゃないか。それがどうしたんだ……?」

「気づかねえのか!? 雰囲気がおかしいだろ?」


確かに、言われると、少しだらっとしていて、負のオーラを出している。すると、突然その男は、魔獣の姿になって、町へ入ろうとしていた。


「あいつ……! 人間に化けてたのね!」

「急ぐぞ みんな!」


そういって、一行は魔獣の元へと向かった。


>>>


 「おい 待て!」


アルドは、魔獣を呼び止める。


「ちっ 思ったより早く気付きやがったな……。」

「観念してください!」

「こうなったら こちらも戦うしかないようだな。」


魔獣はそういうと、負のオーラを溜め始めた。


「みんな 何としてもここで倒すぞ!」


一行は、各々武器を構えた。


>>>


 アルドたちによって、比較的簡単に倒すことができた。


「これで 最後か?」

「そのようだな。」

「よし それじゃ 帰るか!」


こうして、疲労がたまった一行は、リンデへと戻った。


>>>


 一方、サイラスは、アルドたちが戦っているとはつゆしらず、酒場にやって来た。


「よく考えたら 拙者の知り合いが 現代にいるはずがないでござるな。拙者としたことが 恥ずかしい限りでござる……。」


こうして、サイラスは酒場に入るが、マスター以外誰もいない。


「マスター。タオはどこにいるでござるか?」

「あんた タオの知り合いかい? タオは2階の突き当りの部屋にいるぞ。」

「わかったでござる。かたじけないでござるよ。」


サイラスは2階へと上がって行った。


「失礼するでござるよ……。」


サイラスが入ると、そこにはベッドで寝ている女性と、そのそばで見守るタオがいた。タオはサイラスに気付くと、声をかけた。


「サイラス。アルドたちと 一緒じゃなかったの?」

「そういえば アルドたちとは逢わなかったでござるな。まあ どこかで 油でも売ってるのでござろう。」

「そう……。」


サイラスは、この時タオが先ほどまでに比べて、悲しそうに感じた。


「……何かあったでござるか タオ……?」

「……! 何もない。」

「……まあ 拙者もおなごから 無理に事情を聞くほど 野暮ではござらんからな。では 拙者は失礼するでござるよ。」


そうして、サイラスが部屋を出ようとすると、タオが呼び止めた。


「待って。話す。」

「いいのでござるか?」

「うん。今は 誰かに聞いてほしい。」

「……相分かったでござるよ。」


そうして、サイラスは近くの椅子に座った。


「して 何があったでござるか?」

「わたし 今 迷ってる。旅を続けるかどうか。」

「ほう。それはまた 何ででござるか?」

「わたしが ここに戻ってきたのは 母さんのことがあった。」

「母さんというと そちらの女性のことでござるか?」

「うん。母さん 昔はとても元気だった。でも 最近 病気になって お店も手伝えなくなった。」

「確かここの酒場の方でござったな。」

「うん。わたしは 母さんの体調も心配だし お店のことも心配。」

「つまり 母君の看病もしつつ お店で母君の分まで働くために 帰ってきた ということでござるな?」

「うん。でも わたし 旅も仲間も 楽しいし大好き。できれば ずっと みんなと旅したい。それに……」

「それに……?」

「ウィアは わたしが 魔獣に殺されそうになった時に 身を挺して 助けてくれた。そして 何もないわたしに 旅と仲間という 宝物をくれた。」

「ウィアに 助けてもらったのでござるな?」

「うん。私には その恩がある。だから 余計に 迷ってる。」

「旅を続けるか ここで暮らすか でござるか……。」


サイラスは、少し考えてから言った。


「タオ。おぬしが 今 その刀で斬れと言われて 斬れないのは どちらでござるか?」

「斬る……?」

「タオは 剣の道を教わった身でござろう? ならば その刀は 己の心そのものでござる。その刀で 斬れと言われたとき 母君と仲間 どちらなら斬れないでござるか?」

「……。」

「拙者には 行方しれずになった兄上がいたでござる。大切な仲間も。そして 兄上と仲間で考えた時 拙者が 斬ることができなかったのは 兄上でござった。だから 拙者は 兄上を探す旅に出たのでござる。」

「……!」

「もし 母君と仲間 そのどちらかを斬ることができないのだとしたら それを大事にするが いいと思うでござるよ。」

「……わかった。」

「すぐに解が 出るものではないでござる。ゆっくりと考えたら いいと思うでござるよ!」

「ありがとう サイラス。」


すると、1階が急に騒がしくなっていた。どうやら、アルドたちが帰ってきたようだ。


「拙者は下に行くでござるが タオはどうするでござるか?」

「わたしも 行く。」


こうして、サイラスとタオは下の階へと向かった。サイラスとタオの姿をみて、ヴェークが言う。


「おい サイラス! お前どこまで 油を売りに言ってたんだよ!」

「こっちは 大変だったのよ? 急に魔獣がリンデに迫ってきてて。」

「そうだったでござるか!? てっきり おぬしらが 油を売りに行ってるのかと……」

「そういえば サイラスは 知り合いの方に 逢えたのかな?」

「いや それが 人違いでござった……。」

「ええっ!?」


サイラスのことで、盛り上がってるのをよそに、ストラーダは、タオのところに寄ってきて聞いた。


「タオさん その…… 大丈夫ですか?」

「うん。もう大丈夫。わたし もう少し 考えてみる。」

「そうですか。何だか 顔が晴れやかですね……?」

「そう? でも 確かに もやもやは なくなったかも。」


タオは優しい顔をしていた。すると、サイラスが言った。


「よし! 昨日も酒場で一夜を過ごしたでござるが 今日も 酒場で 盛り上がるでござるよ!」


魔獣退治で疲れたアルドとウィアたちに、もはや断る理由などなかった。こうして、一行は酒場で、たわいもない会話をしながら、食事を取った。その後、一行は宿屋へと向かった。ただ、タオは母親のもとで一夜を共に過ごした。

翌朝、アルドたちは宿屋の前に集まっていた。


「それじゃあ 次は ユニガンに向かおう。」

「その前に オレ タオを迎えに行ってくるよ。」


アルドは、タオを迎えに行くため、酒場へと向かった。


>>>


 酒場の前に来ると、ちょうどタオが出てきた。


「あっ タオ。」

「アルド おはよう。」

「ちょうど 迎えに来たところだったんだ。」

「ありがとう。」

「……?」

「どうかした? 顔に何かついてる……?」

「いや そうじゃないけど なんか いいことあったのかなって。」

「どうして?」

「いや 何か 嬉しそうな顔をしてるなって思ったんだ。」

「気のせい だと思う。」

「そうか。よし それじゃ 行こうか。」

「うん。次は どこに行くの?」

「次は ユニガンみたいだよ。」

「わかった。」


こうして、アルドに連れられて、タオも合流すると、一行はユニガンへと向かったのだった。

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