66話 荒波を鎮めるのは……
シャドウには、目がなかったが代わりに触手が俺へと見据えて突っ込んでくる。
時折、レヴィの右やら左やらの声に従いつつ俺は奴の周りをぐるぐると飛び回っていた。
しっかりと頼むよ光の御子さん、まじで!
だが、なかなか胃が縮むような出来事ばかりだ。
よくもまぁ一回も攻撃が当たらない。レヴィの指示様様である。後で、ありがとう言わなければならねぇ。
少しづつ、シャドウの足元の光の筋がより、鮮明に浮き上がってきた。
まだ描いている途中なのか、さらに光は走っていき線の複雑さは増して行っている。
そして、流れる魔力といわれる流動的なエネルギーを感じていた。
「待たせたわね。後もう少しよ!!」
筆を前に構えつつ、目を閉じて集中していた光の御子…勅使河原はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「離れなさい!!」
そして、同時に怒鳴り声。
決めるらしい。
俺も、すぐさまフルスロットルにして場を離れる。少なくとも、今の勅使河原がいる位の距離は取っておいた方がいいだろう。
残りのエネルギーを全て、ブースターに回した。
不吉な魔法陣の光がシャドウを包みこむ。
だが、刹那。
異様な気配を背後から感じていた。
(下僕!!!背後からくるわ!!!)
「え?」
荒げるような怒鳴り声が頭の中で響き、半ば反射的にブースターの進行方向を直角に変更する。無理をした軌道をしたが故にそのまま地面へと叩きつけられた。
すぐさま、立ち上がるとシャドウが俺が向かっていた進行方向に立ち塞がっていた。
遅れて、円柱状の壁の穴が先ほどまでシャドウがいた場所に現れた。
無論、その中にシャドウの姿はない。いつの間中に移動したのだ。
シャドウが嘲笑うかのように触手を俺へと狙いを定めていた。ぞくりと背筋をぬるい悪寒が撫でる。
「くそっ!どうなってんだ!?」
瓦解した部室棟に逃げ込んだ俺は、馬鹿でかい筆を片手に触手を払う光の御子へと苛立たし気な声を出す。
彼女のいう通りに、魔法陣が完了するまで時間を稼いでいたものだが、巨大なシャドウが突如として砂塵を吹き飛ばしながら俺へと進軍してきたのだ。
胃のあたりが誰かにぎゅっと掴まれたような気分になった。考えて見てほしい。
肉の塊が俺めがけてくるんだぞ。
ちびるわ!!
「知らないわよ!!私も、まさか動けるなんて思ってないだもん!!」
光の御子も、想定外といった風体だ。恐らく、彼女がしていたのは威力があるが一点にしか攻撃することのできないものだったんだろう。先ほどまで、準備されていた光の紋様も消えて無くなっていた。
それよりも、不味いのはアーマーの残り時間だ。視界に映るゲージを見ても歩かないか…。
スマホなら、即充電がしたいぐらいだ。
滑るように瓦礫の陰に滑り込み、状況を把握する。遅れて、筆の御子もその隣に現れた。
先ほどまでの達者な様子から、変わって責任を感じているような顔。
こう見ると小学生に見えなくもない。
だが、こういう子はコンプレックスにしてそうだから本人には言わないでおこう。
「……ごめんなさい。」
咄嗟に何か悪いものが喉元に出てきたが、飲み込む。彼女のせいでもないことは俺にもわかっていた。
「どうする?」
「どうするも何も、何とかして倒すしかないわ。……あなた、アーマーはもう持たな……」
彼女の言葉の途中で、プシュッッとアーマーから音が鳴ると包まれていた金属がぼとりと落ちていった。
「………今、切れた。」
「見たいね。……ここまで、協力ありがとう。ここからは、私が奴を倒すわ。あなたは、早くここから去りなさい。」
「一人でどうにかなるのか?」
「………少なくとも、アーマーを着ていない一般人よりはマシよ。」
さて、どうしたものか。隣には、光の御子もいるし下手に変身することもできそうにない。
彼女を一人にして撤退したらどうなる?
本当に彼女一人で、倒せるのか?
一撃必殺のような技は、発動までに時間がかかるようだし、恐らくテレビ局で観たような攻撃ではデカブツを倒せそうにないだろう。
「それじゃ、私は奴を…引き付けるからその間に校舎の壁の穴から戦線を離脱して!!」
いうや否や、彼女は即効に巻物から飛び道具を放ちつつシャドウの気を引く。
一人残された俺は…、いや、一人ではなかったな。
「レヴィ……。」
ペンダントへと語りかけると鋭利な声が響く。
「ダメよ。ここは、光の御子に任せなさい。結界がある以上、私たちが出来ることはないわ。それと忘れないで私たちは、光の御子の仲間ではないのよ。」
確かに、その通りだろうがそうは言っても直ぐには『はいそうだ』とは、言えなかった。
こんな時、俺を一般人だからと戦いから避けようとした椎名ならどうするんだろう。
多分、はいそうですねとは言わんだろうな。
仲が良かった頃、勉強で張り合って深夜まで勉強して体を崩したことがある。
何が何でもっという執念が彼女にはあった。
危険な行為をしてでも、目的を達成しようとするだろう。
その時、ふと空に閃光を目にした。
空に咲くのは、火花と氷花。
恐らく、湊と椎名が戦っているのだろう。
あの火力なら……。
「……レヴィ、変身をしなかったらいいんだな?」
「何をする気?」
「熊の巣の中に入るんだ。」
そして、俺はボロボロのアーマーを弄った。
◇
「はぁ、はぁ。」
これで、巻物に書いておいたクナイやら矢やらは、全て吐き出した。
私がアビゲイル様に与えられた力。
【物質の呼び寄せ】だ。
記した物体の文字を書くことでそれを呼び寄せることができる。ネックとしては、しっかりとその物体を私の
それが全て、出血大サービスで亡くなってしまった。言い方を変えれば、もう、戦う術はない。
あっても、近接格闘などという無謀極まりない選択肢だ。いや、選択肢はないな。
迫るのは、死のみだろう。
でも、やることはやりきったと思う。
シャドウは、私を優先的に追ってきてくれた。これならどうにか、あの特戦の人は逃げれるだろう。
姉様の命令をしっかりと果たされた。
「お陰で、私がピンチなんだけれども…。」
本当はというと、私はもう戦えそうになかった。
魔力をあの止めの攻撃の準備のために使い切ってしまっていたのだ。
彼には、悪いが私も光の御子として意地がある。アビゲイル様のお陰で、今の私の命があるのだ。あの人の為にもこの学校の人は、誰一人として被害を出したくはない。
それが光の御子の使命。
そして、その戦いの中で散っていくのもまた、光の御子の宿命だ。
「あーあ、王子様…私の前に現れてはくれたけど助けてはくれなかったなぁ……」
自虐っぽく笑うと目頭が熱くなった。
「おいごぉらぁああ!!!」
その時だ。
声がした。
振り向くと逃したはずの少年が拳銃を片手にシャドウへと撃っていた。
バカなのかあいつは、いや、そんな奴ではなかったはずだ。
「何してるの!!早く逃げなさい!!」
声を出すのは、無駄だと分かっていても出さずにはいられなかった。このままでは、私が死ぬ物狂いで守った一般人が殺されてしまう。
そんな、無駄死はしたくなかった。
だが、あいつは……神室陸という男は、私の考えなどつゆ知らずシャドウへと笑みをこぼしてすぐさま背後を見せて駆け出した。向かう先は、校舎だ。
そこには、リーファがッッと見れば彼女はいつのまにか、姉様が破壊した建物の瓦礫の上で寝転がっていた。
まさか、自分が囮なったの?
何のために?
イカれているの?
まさか、私を助けるため?
頭の中で疑念だけが湧く。しかし、今はそれどころじゃない。
シャドウは、そんな彼の攻撃など無視すれば良いのに彼の挑発になったのかすぐさま彼へと狙いを変更する。
「まっ、待ちなさ…。」
手を向けるも、さっきまで死ぬと思っていた体はすぐさま動けなかった。
「……なんで。」
学園ハーレムのモブ役は必死で主人公達を支える 長谷川さん @himajin_0524
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