星の名 ハローハローこちら〇〇です。

西東友一

第1話

 僕は確かにその輝きを見た。

 

 きっとその輝きは、僕が一番に見つけたんだ。


「ハローハロー、こちら〇〇です」


◇◇


 僕は夜空を見ていた。


 別に夜空が好きというわけではない。ただ、今日は夜空が見たくなったのだ。そんな日があってもいい。


 今日は宿題の数も多くて嫌になる。小学校までは100点を取って当たり前だったテストが、平均点という制度が持ち出され、80点を取れればいい方だとなってしまった。


 先生たちも、僕ら生徒が完璧に覚えていなくてもどんどん先に行く。僕たちよりも先生たちの方が焦って授業を行っていると錯覚するくらい大急ぎ。


 誰の、何のために勉強をしているのかわからなくなる今日この頃、宿題はまだま打残っているが、僕は夜空を見る。


 月がないおかげで、夜空の星々が大分見えるようになってきた。もうそろそろ5等星まで見えるんじゃないかってくらい、勉強を放置して空を見ている。


「きれいだなぁ」

 自分に言い聞かせる言葉。


 本当はこんないつでも見れるものに情緒みたいなものは感じないし、女子が星を見るなんてロマンチックと言ってもくだらないと思ってしまう。女子たちだって言い聞かせ合ってるに違いない。そんなものより、ゲームのグラフィックの方が断然いい。こんな世界に行きたいなってわくわくさせる世界は手に届くところにないのだから。


 その上、星ってのは視点を向けてやると、すぐに消えてしまう。ぼやっと視野に入れて見るのがコツだって友達が言っていたが、そんな見づらいものをわざわざ見るほど、僕らは暇じゃない。ちゃんと、見やすいように提示してくれないと困ってしまう。


「はぁ」

 ため息をついてしまう。


 だって、こんな星々を見ていたって、ファンタジーのように劇的なことが起こるわけでも、ロマンチックなことが起こるわけでもない。親は自然の中に感動がある、ゲームばっかりやっているとバカになるというが、人が創った世界の方が感動もするし、簡単にいろんなことを興味を持って学べる。


 僕らは無駄なことをしたくない。


 すぐに手に入って、感動が約束されていて、楽しいものを見たり、やったりしたいのが悪いこととは僕には思えない。


 それじゃあ、新しい物を生み出す人間になれないだとか、ロボットやAIに負けてしまうとか言われるけれど、僕は思う、もう人類がやり残したことはないんんだ、と。


 この夜空の星々だってそうだ。

 

 こんなに星々がたくさんあるにも関わらず、全部が名前が付いている。

 そう、全部だ。


 過去の人たちにはスマホもゲームもないのはかわいそうだけれど、やれることがたくさんあった。

 今見える数千以上の星々に名前を付けていったのだから、例えば僕が新しい星を探そうとしたって、そんなものは昔の人たち、今の大人たちがすでに見つけているはずだし、僕が見つけれられるはずもない。


 だって、僕はゲームのレアキャラだってよく当たらないし、成績も運動も頑張っても優等生にはなれない。


 そして、一番の問題は、将来やりたい職業なんてのがない。

 

 言われたことを言われたとおりやろうとして、頑張っても8割くらいしかできない僕が、難しいロボットを作るイメージはわかないし、言われたことをやって、まぁ、ゲームをやって、漫画を見て、テレビを見て。そんなことをやっていれば、あっという間に1日1日が終わっていく。


 どうしても頑張りたいことなんてない。


 だから、何か頑張らなくちゃと、思って、宿題を頑張ろうとしても、意識が変わったところで、すらすら宿題ができるわけもなく、なんだかやる気をなくして僕は夜空を見る。


 まだ、宿題なんて見る気分にはなれない。


 でも、きっとあとでいやいややることになるだろうな、とわかっているけれど。


「あーあっ、何か起きないかな?」

 僕が見ているタイミングで、大きな隕石が見えて、最初に気づいた僕は生き残る。そして、活躍するなんて物語が始まることを期待する。


 けれど、その先を考えようとしたけれど、どうやってご飯を手に入れようとか考え始めると、電気がない世の中で、勉強だけやればいいと言われている僕が何ができるんだろうか。


 この頃、サバイバルだったり、キャンプの番組をやっていたけれど、僕もそういうのをしっかりできるように覚えなきゃいけないかなと思う。


 けれど、それも無駄だなと思う。

 僕らは勉強をまずしろと言われる、そんなサバイバルの番組だって、親からすればバラエティー番組。そんなことを覚えるくらいなら勉強をしろと言われるし、僕自身、それを使えるように覚えろと言われれば、面倒くさい。


 夢を持って習い事をしている友達がいる。

 彼に言わせれば、僕のような存在や、サラリーマンと言われる人たちは、豚や牛のような家畜と一緒だと言っていた。

 そして、AIに管理されて言われたことをAIが許した檻の中で暮らしていくことになる、と。それは人間として情けないことだと言っていた。


 でも、僕にとってはそれもいいかなと思ってしまう。

 ちゃんと、ご飯があって、暇つぶしのゲームとかテレビとかできれば、そんな社会の方がいい気がしてしまう。


 異世界転生だったらしてもいいかなとも思う。

 ただ、圧倒的な魔法力とか特殊能力がもらえないとすぐに死んでしまいそうだ。

 性格も掃除だってめんどくさいと思う僕だが、圧倒的な魔力があって、暮らしに余裕ができれば、あんな主人公たちのように他の人に優しくできるかもしれない。


 けれど、異世界に転生して戻ってきた人が一人くらいSNSでコメントしていても不思議でないのに誰もいないってことは、存在しないのだろう。


 まぁ、この言い方も親のセリフの使いまわしだ。

 日本の宝くじには、当たりがない。当たるのであれば、自慢したがる奴らや、インフルエンサーの奴らがSNSに載せて、発信しているはずなのに全くないのは、当たりが無いからだ。そんな風に毎回宝くじを買っては、外れてそんなことを言っている。


 小説投稿サイトの一つくらい、事実談だと僕も信じたいけれど、そんなことないだろうなというのは、中学生に上がるとうすうすわかってくる。


 現実は現実。ファンタジーはファンタジー。

 サンタもドラゴンもヒーローもこの世には存在しない。

 

 だって、存在すればもっともっと世の中が面白くなっていなければおかしいはずだ。


 小学校までは頑張れば、頑張った分だけ前に行けた気がするけれど、中学校に入ったら、身長だってみんな違うし、運動も勉強も、得意なこともみんな違ってきた。


 きっと、この夜空に僕を例えるならば、あの黒く星がない部分なんだろうと思う。もしかしたら、いるかもしれないけれど、全然光らない暗闇の部分。それが僕。


 僕はじーっとその場所を見るが、何にも見えない。

 当然だ。さっきいったように視点は一番見えにくい。

 視線を逸らせば、見えるかもしれないが、そんな無駄な作業もしたくない。


 どうやら、雲も出だしたようだ。僕が見ていた部分が雲に覆われる。

 僕の人生もああやって簡単に黒い部分がさらに塗りつぶされて行くのだろうと、あっさりしすぎて笑ってしまった。


「あっ」

 僕は思わず声を上げた。


 その真っ暗な暗闇に突然光るモノが生まれたのだ。

 そして、雲がなぜか、そこを囲むようにくっきり円状に穴が開く。


 僕はドキっとしたが、冷静になってくると飛行機ではないかと疑問が生まれるけれど、どうやらそうじゃなさそうだ。


 僕はその光るモノを見つめながら、後ずさりをして、机のスマホを捕ろうとする。

 ポケットにスマホを持っていればと後悔しながら、机を擦ったり、叩いたりしてようやくスマホを見つける。


 カシャッ


 僕は光るモノをスマホの写真機能で撮影する。そして、その後は、ムービーにする。SNSは禁止されているが、これはぜひとも載せたい。もしかしたら、これは歴史的大発見かもしれない。


 僕はどんどん高まる鼓動と、そうして自分が選ばれしものなんじゃないかと、ここから何かが始まるんじゃないかとわくわくする。


 この雲が全ての観測所からあの光るモノを隠していて、僕が最初に見つけたならば、これは僕の大発見だ。この場合、この撮影した時間が証拠になるかもしれない。


 でも、報告が先の方が優先だったら?

 僕は悩む。

 録画を止めて、報告が優先なのかどうか調べるべきか。


 でも、その光るモノから目が離せなかった。

 僕はなんならその光るモノを見たのが僕だけであってくれと祈った。


 すると、光は消えた。

 そして、雲が徐々にその場所を覆う。

 大きな大きな雲だ、当分は見れなそうだ。

 

 それでも僕はその星があった場所をぼーっと見る。

 色々調べようとか、親に報告しようとかそんなことを考えていたが、僕はぼーっとしていたかった。


 だって、僕は確かにその輝きを見た。

 

 きっとその輝きは、僕が一番に見つけたんだ。

 

 僕はこの宇宙の数千億あるうちの一つの星を見つけた。

 そして、星も僕を選んでくれた。


「ハローハロー、こちら〇〇です」


 会えて良かった。

 僕は自然が起こす奇跡、美しさ、尊さ、そして出会いに感謝して初めて泣いた。

 

「僕はここにいるよ」




 

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星の名 ハローハローこちら〇〇です。 西東友一 @sanadayoshitune

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