第3話


 授業なんて完全に上の空のまま昼休みをむかえていた。

 腹が減ってはなんとやら。さっそくジンを誘って学食に行こうとしたところで春彦に呼び止められた。


「なぁ、どうせ今日も学食だろ?」

「あぁ。もちろんそのつもりだが……」


 春彦がニヤついている。この展開わ!


「もしかしておごってくれるのか⁉」

「あぁ、今日は楽しませてもらったからね。親戚の分まで含めておごってあげようじゃないか」

「やったぞジン! 春彦がなんでもおごってくれるってさ!」

「ふむ、それはありがたい。できれば山のように盛られた、もりそばと呼ばれるものを食してみたいのだが、よろしいかのう?」

「あははは、それは良い! 文字通りの物を用意させようじゃないか!」


 と言われて出て来たものは、本当に山盛りにされた蕎麦だった!

 直径80センチ位ありそうなでっかい皿に50センチほど山積みにされた蕎麦が出てきやがったのだ!

 持ってみるとずっしりとした重量感。

 これいったい何キロあるんだよ!

 バカだろ、普通の人間に食える量には思えん!


「おぉ、これはまた見事な! なるほどこのように山盛りにされておるから、もり蕎麦と言うのであるな……え~と、すまない。おぬしの名はなんと言うのかのう?」

「あはははは、俺か! 俺は西森春彦! 春彦で良いぜ!」

「では、春彦殿、このもり蕎麦と言うのは、おかわりは出来るのかのう?」


 春彦は一瞬、ぎょっとした目をするが、またしても大爆笑。


「いいだろう、出来るもんならやって見せてくれ! その代わり、お残しはなしで頼むぜ!」

「うむ、しかと心得た!」


 めんつゆはボトルのまま横長のテーブルに置かれ。俺とジンの前には特大の山盛り蕎麦。

 ジンの金色の口がカパッと開いて準備は整った。そして始まった、大食い勝負。

 俺の食べ方に習ってジンも上の方から蕎麦をとってはツユに付けて口に放り込んでいく。


「美味い!」

「うむ、実に美味だのう!」


 周りには何事かと集まって来た見物人が取り囲んでいる。

 一般メニューにはない金に物を言わせた春彦ならではの演出ではあるが、どう考えてもネタにしか見えない。

 しかし、俺はジンの言っていた事が本当だったと実感していた。

 食えるのだ、冗談抜きでいくらでも食えてしまうのだ。

 俺の目にも、そしてジンの目もおそらくはそうだろう、追加された3皿目に目が惹かれているのは――

 これは、もはや大食い勝負ではない! 早食い勝負だ!

 俺とジンはほぼ同じタイミングで一皿目を食べ終えると、待ってましたとばかりに3皿目に手を伸ばす。

 順調過ぎるペースに俺自身が一番驚いていた。

 食い溜めが出来るとは聞いていたが、冗談抜きで本当だったらしい。

 周りの反応もすごい事になっていた。

 俺達の食いっぷりを携帯電話で撮影してる連中が何人もいる。

 そんな奴らに見せつけるように俺は食った、食いまくった。

 だが……


「ちくしょう、負けちまった~~~~!」


 ジンには少し及ばなかった。


「いや、修二よ。おぬしもなかなかの食いっぷりだったぞ」

「いやいやいや、おかしいだろ二人とも! いったいどこにあれだけの量が入ったと言うんだ!?」

「貧乏人は、ここぞって時に食い溜めできるようになってんだよ」


 もちろん嘘である。


「まぁ、そういう事にしておくか。いや~。いいもの見せてもらったよ」


 春彦は実に満足そうだった。





 午後の授業も上の空のままだった。

 考えているのはバイトをどうするか。

 俺は、学園内にあるコンビニNISIMORIでバイトをしている。

 放課後は稼ぎ時なので、基本シフトに入っている。

 怒られるかもしれないが、放課後になったので、即効でバイト先に行って店長に謝ってみたところ……

 意外なこたえが帰って来た。なんでも南守の御嬢さんから俺の時間を作るように頼まれたから今日は休みで良いと言われてしまったのだ。

 さすがお嬢様はちがうなぁと思って店を出ようとしたところで怪獣映画にでてきそうな格好をした変なヤツに出くわした。

 サイズ的には人と大差ないが、頭は恐竜のティラノサウルスみたいでトゲトゲしたイボみたいなものが全身を覆っている。

 見たところ店には入りたいが、赤外線センサーが反応しないために店に入れないでいるようだった。

 明らかにおかしい……よな?

 俺は、なるべく――特に気にしてない様子を装って外に出ると、待ってましたとばかりにそいつは店に飛び込んでいった。

 これはさっそくジンに報告だと思い駆け足でジンが待っている玄関まで走った。


「ジン! 変なヤツ見かけた! 付いて来てくれ!」

「うむ。了解した」


 来た道を戻って、コンビニに向かう。

 敷地内にあるとはいえ片道500メートル以上あるんだから全速力ともなるとけっこうキツイ。

やや、離れた生垣からコンビニの中の様子をうかがうと――そいつは大量の弁当を抱え入り口付近で誰かが自動ドアを開けるのを待っているようだった。

 そういえば最近店長言ってたな。弁当の数がおかしいって。

 注意して見てるのになぜかなくなっていると言っていた。

 誘拐犯かどうかは別にして、弁当泥棒は間違いなくアイツだろう。


「ジン、あいつなんだがどう思う?」

「間違いなく異星人であるな」 

「とりあえず、俺が尾行するからジンは目立たないように付いてきてくれ」

「うむ。無茶をするでないぞ」


 ほどなくして、二人の女生徒が談笑しながらコンビニに近づいていく。

 ドアが全開になり、女生徒が入店した瞬間にそいつは飛び出し――とんでもない勢いで走り始めた。

 見失うな! って言われても完全に無理なレベルだった。

 方向からいって、初等部のある方向ってだけは分かったが……全く付いていけなかった。

 追いかけるのを諦めてポケットから折りたたんだリストを取り出して確認する。

 初等部で女の子を隠せそうな場所は6カ所。使われていない教室が5つで非常用のシェルターが一つ。

 教室に入るなら廊下を通るはずだと思い外から見てみるがそのような形跡はなかった。

 見落としてる可能性もあるがシェルターの中ってのが一番怪しいって事になるんだろう。

 あそこなら、泣こうが喚こうが声が外に漏れる事もないだろうしな。

 しかし、通常時シェルターに入るには特別な許可がいるし、俺なんかが行っても無駄である。

 危ない橋を渡ってもらうことになるが、南守先輩に協力してもらうしかないだろう。

 いったん高等部に戻ることにして、ジンには見張りを頼んだ。

 生徒会室に行くと言うのは、かなり嫌だったが諦めるしかない。

 ノックして入ると会議中だったらしく、どこのだれとも分からない俺が入ってきたことでみんなの視線が痛い。

 生徒数が多ければ必然的に生徒会の人数も増える。それが全て俺に注がれているのだ。

 会長だけは俺が何をしにきたのか察してくれたらしく、「しばらく会議を中断します」と言って時間を作ってくれた。


「どうされたのですか? ずいぶんと汗をかいているようですが?」

「しょ、初等部の地下にあるシェルターの中を至急調べたいんでお願いできますか?」

「分かりました、すぐに手配しましょう」

「ちょっと待って下さい。誰かに頼むのではなく南守先輩に直接鍵を持ってきて欲しいんです」


 しばらく考えた後で、南守先輩は「わかりました」と力なくこたえてくれた。





 初等部の中央に位置する階段だけは地下に続いている。

 その先に、非常事態が起きた時のために生徒をかくまうようになっているのだが……実際に見てみないとどれだけの広さがある施設なのか、かいもく見当がつかない。

 まさに行き当たりばったりである。入り口は綺麗に掃除されているため誰かが出入りした形跡とかは埃から判断することは出来なかった。


「なぁ、ジン匂いとかで分かったりしないか?」

「異星人の匂いは分からんが蕎麦の匂いなら分かる。おそらく盗った弁当の中に蕎麦もあったのだろう」

「誘拐犯かどうかは分からないが、少なくとも弁当泥棒だけはこの中に居るとみて間違いないんだな?」

「うむ。では南守飛鳥頼めるかな?」

「分かりました、では開けます」


 カードキーと暗証番号でドアは開いた。

 中から特に物音とかはしない。

 それでも、俺の鼻でも分かるくらいに蕎麦の香りがした。

 天井はあまり高くはないが、奥行きはそれなりにあると見ていい。

 所々に建物の支柱と思われる部分んがむき出しになっていて、白く塗られていた。

 そしてなによりも、電気が点いている。誰かが消し忘れたか、あるいは――


「誰だ⁉」


 男っぽい声が聞こえた。

 姿は見えないが、間違いなく誰か居るのは確かなようだ。

 南守先輩には下がってもらい。軽く煽ってみる。


「あんたらが勝手に店の弁当盗ってくんで迷惑してるヤツだよ!」

「ほう、俺達が見えるとは運が悪いやつもいたもんだな」


 そう言って支柱の影から二人の怪獣みたいなのが出て来た。

 手には拳銃らしき物を持っている。

 その瞬間だった、おれの後ろに隠れるようにしていたジンの腕がうにょ~~~~~~~~~~~んと伸びて、二人の武器をつかみ。

 バキっと何かが折れる音と共に相手の武器を奪っていた。


「ぐわ~~!」

「ちっくしょう!」


 相手が2人ならば、これである程度無力化出来たことになるが実際はどうなんだろうか?

 そんな事を考える暇もなかった。ジンは奪った拳銃みたいなもので左右4発ずつ打ち出し相手の両肩と両膝を打ち抜いていた。

 閉鎖された空間にパンパンと乾いた音が反響し火薬の匂いがした。

 相手は、体液をにじませながらもだえ苦しんでいる。

 ここまでやっても3人目が出てこないのは慎重なのか、それとも2人だけなのか?


「修二! 女児の居るところは分かりそうか?」

「いや、右奥がなんか歪んで見えるくらいで女の子の姿は見えねぇ」

「ふむ。ならば慎重にそこまで行ってみるとしよう」

「あぁ」


 言われた通り、右の奥に着くと何かあって、布のようなものを引っ張ると中には檻に閉じ込められた女の子達が居た。

 女の子達はいっせいに騒ぎ出した。


「助けてお兄ちゃん」と――


 ジンのパワーはものすごく、あっさりと檻の鉄格子を変形させて女の子達が出れるようにしてしまった。

 そこから先は、早かった。

 シェルターの確認をした者が裏切り者で間違いなく。シェルターのテスト運用を指示していた者も黒。

 南守先輩は、その受け入れがたい事実に困惑した様子だった。

 しかしながら女の子達が自分の家に帰れて事件解決となったのだから文句はないだろう。

 お金もばっちりもらえたしな!





 近所の銭湯で汗を流した後――

 アパートへ帰って気づく……全く腹が減っていなかった。


「なぁ、ジン。晩飯って食うか?」

「むろん、カップ麺とやらを食すつもりでおったぞ」


 やはり、本場の蕎麦食いモンスターには遠く及ばないみたいだ。

 ジンの分だけ用意してやって、金の配分の話をした。

 どう考えても、ジンの方が活躍していたと思うし、取り分で仲間のために蕎麦を買って帰ると聞いてしまえばやはり等分にするべきだと思った。

 ジンは、「ホントに良いのか?」と聞いてきたが。

 やはり同じ蕎麦食い星人。いくら100万円分買ったとしてもすぐに終わってしまうだろう。

 それに対し、俺はこれからも毎日食えるのだら気にするなと言ってやった。


「なぁ、ところでジンはいつまでココに居るんだ?」

「うむ。よもや初日でかたがつくとは思っておらなんだのでのう。ちと名残惜しいが明日にでもこの星をたとうと思う。犯人の護送も頼まれてしまったゆえな」

「そんなんで、南守先輩との交渉は終わるのか?」

「それは先に済ませておるゆえ、今後は何らかの方法で稼ぎ、その金で蕎麦を購入するという流れになるのだろう」

「つまりジン達の仲間が仕事出来るようにしたってことなのか?」

「うむ、その通りだ。南守飛鳥は信頼できる。きっと良き仕事を紹介してくれることであろう」

「なるほどなぁ」


 交換条件としては悪くない話しなのかもな。

 住所不定どころか異星人に仕事を斡旋(あっせん)してやるとか結構めんどくさそうな気がする。


「あぁ、それで一つ頼まれて欲しいことがあるのだが良いかな?」

「んぁ、なんだ?」

「吾輩達の同胞を見かけた際には気を使ってやってほしいのだよ」

「わかったよ。気にとめておく」


 ジンは本当に翌日帰ってしまい。

 俺は、ありきたりの日常に戻ったのであった。

 


 おしまい


☆続きのようなお話が【同級生はエイリアン】になります☆

興味がありましたらどうぞなのです^^ノ

https://kakuyomu.jp/works/16816452218458439089

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同居人は宇宙人 日々菜 夕 @nekoya2021

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