After


コツコツと窓を叩く雨の音で目が覚める。

大切な何かを失ってしまったような虚無感はきっと、夕方までリビングのソファで寝ていたからなのだと思う。

薄暗い部屋の中は、冷めたコーヒーの匂いがした。

もう少し寝ていようかなと目を瞑ると、鼻先にぽつりと水滴が垂れるのを感じる。

古いアパートだから仕方ないのだが、とうとう雨漏れまで発生したのか。

寝る直前まで読んでいた本を濡らさないように手に持って、台所にあるバケツを取りに立った。


そういえば、彼が好きだったこの本はどこまで読んだんだっけ。

とても有名な童話なのに、改めて読むと知らないシーンが沢山あって、新鮮な気持ちで読み進められた。

確か、女の子が裁判の最中どんどん大きくなっていってとか、そんなシーンだったような気がする。


ふと、足元から白兎が駆けて、私の前に立つ。

「君はそれで良かったの?」

白兎はおじさんのような低い声で、私に問いかける。外見とのギャップが可笑しい。

「私が作ろうとした未来は、結局間違っていたから」

「まぁそれが正解だね。寿命は操り人形の糸みたいなもんだ。人によって太さも本数も違う」

「ありがとう、兎さん」

「いやいや、こっちも良いものが見れた。夏の終わりに書き足しておくとするよ」

それじゃ幕を降ろさせてもらう、と白兎が消えた後も、低い声は少しの時間だけ残っていた。

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あの夏の童話 @y0k81

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