さっきからアラームがうるさいんだよ!

ちびまるフォイ

パンドラのアラーム

ピピピピッ。ピピピピッ。


暗い部屋に断続的な電子音が鳴り響く。


「ん……ううーーん……」


布団から這い出して、スマホを手に取る。

電源ボタンを押して目覚ましを止めた。



ピピピピッ。ピピピピッ。



止まらない。


「……あれ?」


何度も電源ボタンを押すが音は鳴り続けている。

徐々に音量も大きくなっている気がする。


ピピピピッ。ピピピピッ。


「このっ! 止まれ! おい!」


もはや騒音レベルまで音量が大きくなっていく。

アラーム機能をオフにしようが、スマホの電源をオフにしようが鳴り続ける。


「いい加減に止まれーー!!」


スマホを床にぶん投げた。

縦に割れた本体からバッテリーやら部品が飛び出す。



ピピピピッ。ピピピピッ。



音は止まらない。

音量はさらに大きくなっていく。


「な、なんで……!?」


大きくなったアラームの音はもはや出元がわからない。

部屋中の目覚ましという目覚ましから電源を引っこ抜いてもアラームは止まらない。


ドンドン!


部屋の外からドアを叩く音が聞こえる。

玄関に行く前にドア越しに怒鳴り声が聞こえた。


「うるせぇんだよ! さっさとアラーム止めろ!」


「俺じゃない! どこから鳴ってるかわからないんだよ!!」


「そんなわけあるか!」


隣人は怒りに任せてドアをぶち破って中に入ってきた。

部屋はすでにアラームの大音量が反響していて、耳を塞いでいないと耐えられない。


たまらず隣人とともに部屋から出た。

ご近所さんも爆音アラームに驚いて窓から顔をのぞかせたり、寝間着で外に出たりしている。


「あなたの部屋から鳴ってるわよ! 早くとめてちょうだい!」


「ちがうんです! 俺のアラームじゃない! それに普通の目覚ましじゃここまで大音量にならない!」


「そんなこと知らないわよ!」


ますますアラームの音量は大きくなっていく。

もはやサイレンほどの音量になったとき警察のパトカーがかけつけた。


「騒々しいですよ! いったい何なんですか!」


「わかりません! 俺の部屋から目覚ましの音が!」


「早く止めればいいでしょう!」

「だから俺のじゃないんですって!」


「そんな馬鹿な!?」


警察とともに射撃場で使われるような耳あてをつけて部屋に乗り込んだ。

部屋にはあらゆる目覚ましが転がっている。

その一つ一つに拳銃で銃をぶっ放して息の根を止める。


それでもアラームは止まらない。


いったん外に出た警察はあれだけ疑っていた俺の言葉を信じた。


「たしかにあなたのアラームじゃないようだ。原因はわかりますか!?」


「わかるわけないでしょ! こんな爆音、はじめて聞きましたよ!」


警察はパトカーから何やら見慣れない器材を取り出した。


「それは?」


「これで音がどこから出ているのか調べます」


器材は音を拾ってソナーが映る画面に音源を表示する。


「部屋の真下です! あなたの部屋から出ているのではなく、真下になにかあります!」


「真下って……俺の部屋は1階ですよ!?」


「地面に誰かが爆音アラームを埋めたんでしょう!」


床板を剥がして露出した地面をシャベルで掘っていく。

いくらほっても土ばかりで、岩面でシャベルが弾かれてしまう。


「間違いなく音源はこの下なのに!」


「もうこれ以上は掘り進めませんよ!?」


「おい重機をもってこい!!」


警察は無線で指示を出した。

まもなく石油でも採掘するんじゃないかというほど大型の重機がやってきた。

大工事がはじまった。


重機で岩をバリバリと削ってさらに地中深くへと掘り進めていく。

その工事の音すらアラームにかき消されるほどに、音は際限なく大きくなっていく。


温泉が出るのが先かアラームが止まるのが先かと思っていた矢先、

機械制御で動き続けていた重機がついに動きを止める。


「どうしたんですか!? 止まりましたよ!?」


「なにか見つけたんだ!」


火山の火口よりも深く掘られた穴を覗いてみる。

中は暗くて何も見えない。発煙筒を落としてみる。


「あれは……!?」


底の方にあったのは黒いなにかだった。

地面でも鉱石でもない。


重機はふたたび動き出す。

強引にでも掘り進めるつもりだ。


重機の先が底にある黒い部分にもう一度ぶつかったとき、地面がぐらぐらと揺れ始めた。


「こ、こんなときに地震!?」


慌てて穴から離れると、近くの駐車場の地面が丘のように盛り上がり始めている。

盛り上がったコンクリートはべきべきと割れて、その奥からは真っ黒い巨体が体を起こしていた。


「あ……ああ……」


それは見たこともない異形の怪物だった。


天まで届く巨体で太陽が隠されてしまう。

目は赤く、頭にはまがまがしい角が生えている。

その太い腕が軽く横に振られただけでビルは吹っ飛ぶだろう。


もはやアラームのことなど頭に残っちゃいなかった。


「な……なんて怪物を起こしてしまったんだ……」


穴の底で見えていたのは怪物の背中だった。

もし、重機で強引に掘り進めなければ穴の奥に潜むこの怪物を起こさずに済んだのに。


人類は地中から目覚めた恐怖の大王をただ見上げることしかできなかった。


「もう終わりだ! 人類は自らの手で引き起こした厄災で滅ぶんだ!」


大いなる存在の前に人間は自分たちの非力さを痛感した。

黒い悪魔はその巨体をゆっくり動かす。




ピピピ……ピッ。


悪魔は地面に埋まっていたアラームを止めると地中に潜って二度寝を再開した。

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