桃太郎Ⅱを読んでからちゃんと評価をしてください!

ちびまるフォイ

まだまだ終わらない

「そして、鬼たちをこらしめた桃太郎は

 奪われた金銀財宝を持って村に帰ったのでした。めでたしめでたし」


桃太郎をかきあげた童話作家は椅子に体を預けてため息をついた。

やがて桃太郎は大人気の童話となり誰もが知っている勧善懲悪の冒険活劇として浸透した。


「いやぁ、先生! 桃太郎、大人気ですよ!

 今じゃ小学生のなりたい職業ランキングで桃太郎が1位ですから!」


「光栄です」


「先生、そこでなんですが……続編を書きましょう!」


「……え?」


「桃太郎Ⅱですよ! みんなこの大人気ヒーロー桃太郎のその後が気になっているに決まってます!」


「しかしこの物語はすでに"めでたし"と締めちゃったし……」


「先生はまるでわかっていない。この世界で桃太郎のような創作の人気キャラを作り出すのがどれだけ大変か!!」


「は、はぁ……」


「そして、その経済効果がどれほどあるのか!!

 たった1作で桃太郎という存在を終わらせてしまうのはあまりに惜しい!!

 ということで、桃太郎Ⅱ楽しみにしてますね!!」


それだけ行って去ってしまった。

作家は頭を抱えてしまった。


100mと思って走っていたのに、急にゴールテープが先に移動したような気分。


「まいったなぁ……どうしたものか」


自分ひとりでうなっていても良い答えが出ないと思った作家は友人に声をかけて相談に乗ってもらった。

事情を話すと友人はこともなげに答えた。


「続編を作るなら、もっかい同じことをすればいいんじゃないか?」


「え? どういうこと?」


「鬼ヶ島には実はもっと凶悪な鬼がいて、ふたたび倒さなくちゃいけなくなったとか」


「そんな裏ボス的な展開……。だったら最初から倒しておけよってならない?」


「だったら鬼じゃなくて悪魔とかでいいんじゃないか。

 鬼ヶ島に鬼を派遣していたのは展開の悪魔だったとかで。

 そうすればもっとより悪の存在ができるだろう?」


「うーーん……なんかその焼き増し展開は……」


「変な話じゃないだろう。金太郎Ⅱや、浦島太郎リローデッドでも同じようなことはやられていたぞ」


「……その2作って、続編の評価どんな感じだったの?」


「時間を最大限に無駄にする方法として表彰されてた」

「じゃあやめる! さっきの案なし!!」


作家は頭を抱えてしまった。

そんな悩める作家に友人は答えを引き出すように聞いた。


「なぁ、何をそんなに悩むことがあるんだ? 続編を作るのがいやなのか?」


「イヤというわけじゃないんだけど、せっかく整っている料理に無駄な調味料をかけるような感じで……抵抗があるんだ」


「それは腕次第だろう。いい調味料であればもっと味を引き出せるはずだ」

「それが思いつかないんだよ」


「じゃあさ、最初に桃太郎を書いたときにはどんな気分で書いたんだ?」


「どんなって……友達と協力する大切さと、悪は倒されるというのを伝えたくて書いたかな」


「それだよ。今度は続編で伝えたいメッセージ性を考えてみればいいんだよ」


「続編で伝えたいメッセージ……」


桃太郎は村のために鬼ヶ島から財宝をたんまりと持ち帰った。

それで果たして幸せなのだろうか。


世界には正義と悪というわかりやすい色分けができるわけじゃなく、

ついさっきまで正義だと信じていたものが悪に転じることがある。


桃太郎が財宝を持ち帰ってしまったがゆえに、

共通の敵を失い富を手にした村では一体何がおきるのか。


本当の敵は鬼ヶ島で待ち受ける鬼なんかではなく、

人間ひとりひとりの心に住んでいる恐ろしい鬼なんじゃないか。


「見つけた……! 見つけたよ、続編で書きたいメッセージが!!」


こうしちゃいられないと作家は書斎へと戻って、桃太郎の続編をかきあげた。

桃太郎1では伝えきれなかったより深い人間心理や考えさせられる内容に自分でも手応えを感じた。


「完璧だ! これこそ最高の続編だ!!」


大人気となった桃太郎の続編ということで鳴り物入りで桃太郎Ⅱは多くの人に読まれた。

その反応は作家のもとにもすぐ届いた。


「……なにこれ、クソつまんないじゃん」

「こういうのが見たいんじゃないんだよなぁ」

「1でやめておけばよかったのに……」


大人気間違いなしと手応えを感じていた作家には予想外の反応だった。


「なんでだ!? 前作より明らかにパワーアップしてるだろう!?」


作家は何度も桃太郎Ⅱを読み返した。

なにがいけなかったのか。どこがつまらなかったのか。


何度読み返しても前作よりもずっと密度の濃い展開や、

多くの登場キャラクターとスケールの大きくなった話や人間心理に踏み込んだ内容。

パワーアップという点では明らかにパワーアップしていた。


けれど、みんなが読みたいのは「悪い奴を倒す」というだけのシンプルなもので重厚な展開や人間心理に踏み込んだメッセージ性は単に"なんか難しくて暗い話"としか扱われなかった。


作家が読み手の求めるものに気づく頃には桃太郎Ⅱはすっかり駄作の代名詞として扱われ、山積みにされた本はちり紙に使われた。


すっかり落ち込んだ作家のもとにマネージャーがやってきた。


「いやぁ、先生。桃太郎Ⅱの人気ですが……」


「言わなくていい! 自分でもよくわかってる!」


「そう気を落とさないでください。内容はたしかにアレでしたけど、

 桃太郎1からの期待もあってそこそこ売れはしたんですから」


「そういう問題じゃない。読み手の求める内容を無視した、独りよがりの物を作ったことが悔しいんだ!」


「先生、大丈夫ですよ。まだまだこれからですって」


「なんでそんなことが無責任に言えるんだ! もう桃太郎Ⅱは終わったんだ!」


マネージャーは作家の肩にポンと手をおいた。



「桃太郎は3部作じゃないですか。最後で挽回すれば"終わりよければ全てよし"ですよ、先生!」

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