レオとジャヴェール
「ジャヴェール、君と話したいんだ。」
「いいよ。どうしたんだい?」
「ぼく、もうすぐこの施設を出るよ。」
「・・・なんだって?」
「学校も変わるんだ。遠い町に行く。」
「どういうことなんだ?まさか、どこかの家に・・・」
僕はとてつもなく嫌な想像をした。孤児院には、時々里親希望と言う大人がやってきては、僕らの様子を見に来ていたが、あんな奴らのことを僕は信じていない。
あいつらは犬や猫と同じように外見のいい子供を物色しているだけだ。
その証拠に、引き取られるのはいつも肌の白い、青い目が大きく、体の小さい子ばかりだ。だからレオもその対象になってもおかしくない。
僕にとってレオは、誰よりも美しかった。
「ジャヴェール、本当は、僕のママはもういないんだ。小さい時に死んでしまった。」
「何だって?」
「ママは僕を産んでからどんどん弱っていった。僕が施設に来たのも、ママがほとんど動けなくなったからなんだ。本当は、ほとんどママの事は覚えてなくて、毎日忘れてしまうから、毎日お祈りの時にママの事を思い出していたんだよ。君に本当のことを言わないままで、ごめん。」
「でもレオ・・・じゃあ君はどこにいくんだ?」
「ショーンが、一緒に暮らそうって。ショーンは僕のパパなんだ。」
「パパがいたのか?なのになんで今まで施設に・・・」
レオはそれには答えず、ほんの少し微笑んだ。
「ジャヴェール、教会に行こうよ。」
夕方になる前の教会は静かだ。レオとジャヴェールは二人並んで座る。
西日が射し、レオのさらさらの髪が白く光る。
「なあ、ジャヴェール。僕はね、ここでお祈りをする時間が好きだったんだ。時々、君が話しかけてくれて、君のいろんな話が聞けた。今日は、ここで話すのも最後かもしれないな。」
「レオ。今僕はとても変な気持ちだ。何故か自分が君に辛い思いをさせてるような気になってしまう。」
「ああ、それは僕もよくある。」
「そうなのか?僕は初めてだ。こんな気持ち。」
「僕らは神様ではなく人間だからさ。勝手に自分が誰かの特別な存在だと思い込んでしまう。だから、その相手に何もしてやれなかったと責任を感じたり悲しくなったりするんだ。だから、僕も同じで君が不機嫌な時や、絶望を感じている時、なぜか僕のせいのように思うことがあるよ。」
僕にとって、レオは特別だ。レオにとってもそうじゃないのか?ジャヴェールはそれを言葉にはできなかった。
「君は僕よりうんと頭が良く賢いから、きっと素晴らしい大人になる。なあ、ジャヴェール、僕はここを出てからも、毎日君のことを思い出すよ。大人になってもだ。毎日こうやって西日が射した時に、君の色んなことを思い出して、何があっても勇気を忘れない。約束をしたいんだ。」
「約束?どんな?」
「どんなに時間がたっても、会わなくっても、僕らは友達だ。どんな時でも、僕たちはお互いを信じて見守っているってことを忘れない。それが約束さ。」
「もちろんだよ。僕は、今までだってずっとそう思ってきたんだ。これからもそれは変わらない。」
だけど。
嫌なんだ。
君と離れたくない。
誰のことも大事に思ったことなどない。
親だって、先生だって、学校で会った誰にも。
僕の世界には美しい人間はレオしかいないのだ。
神様、お願いします。
どうかレオと僕を引き離さないでください。
僕にはレオしかいないのです。
どうか、どうか。
気づくとジャヴェールは大粒の涙を流していた。
レオはジャヴェールの泣いてる姿を見て、ほんの少し驚いたけれど、すぐに微笑んで、ジャヴェールの頭を撫でた。
「ありがとう。ジャヴェール。僕のことを思って泣いてくれているんだね。僕は本当に、君に会えて良かった。僕は誰よりも幸福だ。最高に優しい、強くて優しい友達がいるんだから。」
「レオ・・・僕は、僕はこれからどうしたらいいかわからないよ。」
「大丈夫さ。君はうんと賢いし、強い。そして誰よりも優しいんだ。」
レオを見ると、やっぱり泣いていた。レオの美しい青い瞳が、涙で溢れてまるで美しい湖のようだとジャヴェールは思った。
お互いに涙を流しながら、しっかりと抱き合った。
ジャヴェールは心臓が高鳴る。
本当は、ずっと前から知っていた。レオを誰よりも愛していることを。
「僕は今、ジャヴェールにキスをしたいような気持ちになっているんだけど、やっぱりそれは変だからやめておくよ。」
ジャヴェールは泣きながら、「当たり前じゃないか。」と言って頷いた。
レオ。
君も、ずっと僕の気持ちを知っていたんだな。
言わずにいてくれて、ありがとう。
小学校ではいつの時代にもやんちゃな生徒がいる。僕が通っていた頃もそうだ。どいつもこいつも簡単に誰かに相槌をうち、わあわあと動物園みたいで愚かだ。
そんな中でも、時々素晴らしい才能を持った子供はいるものだ。時には貧しくて辛い思いをする子供もいるが、僕らの時代とは違い、今の子供達は生きるチャンスが増えている。国が子供の学費支援までしてくれるのだから、いい時代だ。
レオとはしばらく手紙のやり取りをしていたが、やがて途絶え、僕からの手紙も宛先不明になって戻ってくるようになってしまった。
それでも僕はあの日の約束を忘れていない。
僕たちは離れていても、何があったとしても、ずっと友達だ。
信じている。
約束したんだ。
それに、毎日僕は神様にお祈りを続けたのだ。
「ジャヴェール先生、校長がお呼びでしたよ。」
「ああ、わかりましたすぐに。」
校長室のドアをノックする。
「ジャヴェールです。校長、失礼します。」
「ああ、ジャヴェール君、今日から赴任した新任の先生に色々と教えてほしんだ。ええと、名前が・・・」
「・・・校長。紹介は不要です。」
「うん?知り合いなのか?」
さらさらの金色の髪。蒼い湖のような瞳。
そやはり、神様はいるのだ。
こうして僕の願いをかなえてくれるのだから。
レオとジャヴェール SAYURI @sayuri123
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