第2話 イベリス
出てきたのはこの店の店員さんであろう、大学生くらいのお兄さん。
「何かお探しですか?」
栗色の髪に色白の肌がよく映えている。
くりくりとした大きな瞳に整った鼻。
失礼かもしれないけれど、世でいう" 童顔 "というやつだ。
「贈り物にする花を探しているんですが、なにかいい花言葉のある花はありますか?」
私がそう聞くとお兄さんは植木鉢を床に置いて「なんとなくこんなのがいいとかありますか?」と返してきた。
「祖母への贈り物なんです。だから…薔薇とかみたいな愛の言葉の花っていうよりは、家族や友達に贈るって感じの花がいいです。」
色でいうオレンジとか黄色とか。
おばあちゃんの笑顔にあえて色をつけるなら、多分そんな色だ。
「わかりました。いくつか持ってくるので、少々お待ちください。」
再び店の奥に消えていくお兄さんの背中は
なんだか見覚えがあるような、ないような。
「…他人の空似というやつね。」
そうぼそっと呟くと「にゃ〜〜ご」という鳴き声がどこからか返ってきて、びくっと体が反応した。
まったく。私の周りにはやたらと耳がいい人が多いようね。
鳴き声のした方向を振り向くと、なにやら大きな毛玉のようなものが見えた。
「あら、ご機嫌よう。」
「みにゃ〜〜」
山積みになったバケツの横から出てきたのは、白に少しグレーの混じったペルシャ猫。
手入れのされた毛並みを見る限り、迷い込んだ野良猫ちゃんというわけではなさそうね。
「あなはこの花屋の看板猫と言ったところかしら?」
「んにゃ〜〜〜」
まるで「そうよ!」と言っているかのように大きな声で鳴く彼女。
勝手に" 彼女 "と言っているけれど、これは私の女の勘。
きっと主人があんなにカッコイイ素敵な人だから、ヤキモチをやいているんだわ。
じゃないと気持ちよさそうに昼寝してた猫がわざわざ私に話しかけてくるわけないもの。
「ふふっ心配しないで。あなたの主人は見る限りとても素敵な人だけど、とったりしないわよ。」
「みにゃ〜〜ご」
「ホントに?」とでもいうように眉間にシワをよせながら首を傾げる彼女。
きっと相当可愛がられているのね。
私は膝を曲げて軽くしゃがみながら彼女の頭を撫でた。
ふわふわでサラサラな毛並みが触っていてとても心地いい。
「あれ、コマチが懐くなんてお客さん久々に見たなぁ」
お店の奥からいくつかの花を持ったお兄さんが戻ってくると、「みぁ〜〜ご」と私と会話していたときよりいくらか高い声で彼女は鳴いた。
「おませさんね。」
「え?」
「いえ、なんでもないです。」
またぼそっと呟いたつもりが、お兄さんに聞こえてしまっていたらしい。耳がいいと良いこともあるけど、ときには人を困らせるのね。
お兄さんは私と彼女の傍にくると、私と同じようにしゃがんで彼女の頭を撫でた。
「コマチはこう見えて、少し無愛想なんですよ。」
「そうなんですか。」
お兄さんから見て彼女がどう見えているかよくわからないが、私は一発で「この子はあまり愛想を振りまくタイプではない」ということがわかった。やっぱりおませさんなのね。
それと、その「コマチ」って名前はどこからきたのかしら。
「コマチって名前は俺の弟がつけたんですけど、世界三大美女の「小野小町」っているでしょう?そこからとって" コマチ "って名前になったんですよ。」
そうニコニコしながら話すお兄さんはなんだかとっても幸せそう。
撫でられている彼女もお兄さんの手に頭を擦り寄せて甘えている。
「…小野小町を世界三大美女に入れるのは日本独自らしいですよ。」
歴史の
「え?!そうなんですか??それは初耳でした……」
「お前は知ってたか?コマチ。」と彼女を持ち上げて問うお兄さん。
なんだかその光景が少しバカみたいに思えてしまって笑いが込み上げてきたが、すんでのところで飲み込んだ。
◆
イベリスの花言葉【心をひきつける】
薔薇の下でもっと君と話したい すい @yuyu009
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