薔薇の下でもっと君と話したい
すい
第1話 黄色いゼラニウム
人は見かけによらないとよく言うけれど、
きっとこのお兄さんはそれに分類されるに違いない。
◇
私がタイプの男性を聞かれたら、きっとこう答える。
清潔で笑顔が素敵で優しいカッコイイ人。
そして年上。
「お前女子いるんだから少しは気ぃ使えよー!!!」
下品な話題を周りを気にすることなく大声で話し、ギャハハハと笑いながら背中を叩き合う同級生の男子達。
私がこの世で一番嫌いな人種。
下品で、
同じヒト科 ヒト属として恥ずかしいことこの上ない。
地球上に存在する男性が皆こうではないということは知っている。じゃないときっと女と男は共存していないと思う。きっとそうに違いない。
「…人間が物語上でよく"
「すっげぇーデカい独り言。何の話?」
そう教室の中央にいる男子達を見つめながらぼそっと独り言を呟いた私の顔を覗き込んできたのは、クラスメイトである
運動部に所属していて、いかにも「好きな食べ物は焼肉です!」って感じの男の子。
私はぼそっと呟いたつもりだったけれど、どうやら聞こえてしまったのね。
「男子ってメダカみたいって話。」
「メダカ?」
「その場に増えれば増えるだけバカになるってことよ。」
この前ペットショップにいたメダカに似てると私はふと思った。水槽の前に指を添えると集団でアホみたいに寄ってくる。
でもそのメダカの方がもしかしたら教室の中央でバカ騒ぎしている彼らよりはいくらか利口なのかしら。
私が遠回しに言ったせいか、目の前にいる彼はパチクリと瞬きをしている。
そして笑いだした。
「ハハハッたしかに!!見かけによらず面白いこと言うなぁ、白梅は!!」
自分自身もその男子であるにも関わらず私の前でお腹を抱えながら笑っている。何が面白いのだろう。
それに「見かけによらず」はちょっと失礼よ。それじゃあまるで私はつまらない人間だったみたいじゃない。
「…私の名前知っていたのね。」
「そりゃあ、クラスメイトなんだから知らないわけないだろ。」
垣枝くんが言った白梅は私の苗字。フルネームは
あいにく私は覚える必要のないと思った人の名前はこれっぽっちも覚えていられない。
きっとこのクラスの男子の中で名前を覚えているのも垣枝くんを含む数名だけ。
「そんなふうにできている垣枝くんの頭が少し羨ましいわ。」
「そりゃどうも。」
「褒めてないわよ。」
皮肉で言ったつもりが彼は素直に褒められたと思ったのかニッコリと笑った。
◇
「「さようならー」」
ホームルームが終わり、私はそそくさと荷物を持って教室を出ていく。
明日はおばあちゃんの80歳の誕生日。
花屋にいっておばあちゃんにぴったりな花を見つけなければならない。
去年の誕生日も花をあげたらとってもとっても喜んでくれた。
世界中で私がお母さんと同じくらい尊敬するおばあちゃんの笑顔はとってもあったかくて、なんだかポカポカする。
そのおばあちゃんの笑顔を思い出すと無意識に私の足が早足になる。
学校を出て一つ目の角を右に曲がり、真っ直ぐデパートに向かう。
デパートの1階にある花屋。そこで花を選んで買うつもりだった。
あんなに早足だった私の足が止まってしまったのは、ちらっと見えた商店街の通りの奥の方にある花屋が視界に入ったからだ。
「……こんな所に花屋なんてあったかしら?」
何度か買い物をしたことがある商店街。
花屋なんて素敵な場所、私だったら忘れるはずがないのに。
「ちょっと覗いてみようかしら。」
八百屋に服屋にお惣菜屋に揚げ物屋。どれも無意識に寄っていってしまうから、きっと商店街って宝箱みたいなものね。
けど、今日の目的はおばあちゃんに素敵な花屋で素敵な花を選んで買うこと。
いつもならあちこち寄ってしまうけれど、私は奥にある小さな花屋に真っ直ぐと向かう。
「…かわいらしいお店。」
クリーム色の外観に白い扉はまるで絵本に出てくる花屋そのもの。
外に置いてある花もオレンジやピンクといったかわいらしくて華やかなものばかり。
「やっぱり商店街にあるお店ってみんな素敵なのね。」
また一つ素敵なものを見つけてしまったと心が弾む。花の購入はここでするこにしよう。
「せっかくの贈り物だもの。何かいい花言葉の花はないかしら。」
そこで私は店員さんを探して見ることにした。
白い扉の取っ手に手をかけて店内に入るとカランコロンとベルの音がする。
小さなお店だと思っていたけれど、デパートの花屋に負けないくらい沢山の花が置いてあることがちょっと意外。
「いらっしゃいませ。」
店内に入ってきた私に気づいたのか、奥の扉から大きな植木鉢を抱えた男の人が出てきた。
◆
黄色いゼラニウムの花言葉
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