ドラゴンが空を飛ぶ世界の本格SF

 過去の改編により日ごとに変容していく世界で、唯一その変化を認識できる〝異聞書記〟の少年の、日々の記録ととある騒動の物語。
 SFもSF、ゴリッゴリの本格SFです。空飛ぶドラゴンに、街ひとつを丸ごと内包する大樹、ある種の〝歴史〟のようなものを留めておく石造りの『異聞保管庫』と、そこで書記を務めるみなしごの少年。そしてある日、彼の元に落ちてくる不思議な少女——と、絵面としては完全にファンタジーなのですけれど、それでも本当にSF以外の何者でもないお話。この時点でもうワクワクが止まらないというか、「なんかすごいもの読まされてない?!」感があって、もう最高に楽しかったです。
 SF部分が好きです。実は自分の脳のキャパシティを明らかに超える内容で、つまり事態の全容を正確に理解している自信はないのですけれど(すみません)、それでも〝物語自体はちゃんとわかる〟から差し支えないのがすごい。「たぶん大体こんな感じ」くらいのゆるふわ理解でも大丈夫というか、先が気になるのでもう考えもせずそのまま読み進めてしまったような感覚。つまり「難しい」、といえばそれはそうなのですけれど、でもその辺の脳をもりもり刺激される感じが、まさに「SFからしか摂取できない面白み」という感じで本当に最高でした。
 お話の筋そのものも魅力的です。突然訪れる危機とその解決、ざっくり言うなら冒険の物語。面白いのはいわゆるヒロイン的な存在、急に(文字通り)降って湧いた不思議な少女で(作中の言葉で「落ちもの」というのも面白い)、彼女の正体あるいは抱えた事情の、その内容がこう、その、よかったです。なにか心の真ん中をスッと撃ち抜かれた感じ。このどうにも倒錯的で不思議な状態と、なにより「確かにこの世界ならそういう状態も生じうる」という、その不思議な納得感のようなものに。
 面白かったです。前提が複雑な分だけ出る火力というか、もとより想像の及ばない世界を、ちゃんと想像できる形で描き出してみせる。脳裏に浮かぶ幻想的な光景だけでなく、それを下支えするいろいろまで含めて全部おいしい、強烈な魅力を持った作品でした。結末の心地よさが最高に好き!