御影城の戦い 1
夜の
学園各地に大小のモールや商店街はあれど、やはり一番の人気は学園街中央に据えられた大型歓楽街エリアです。
ありとあらゆるショッピングはもちろん、映画館、屋内レジャー施設、和洋折衷の食事処に、清涼と一夏の出会いを求める若者達で人気のナイトプールは今夜も満員御礼です。
老若男女少年少女達の好みに合わせて回り巡って煌めく万華鏡のように輝く夜の街、そんな賑やかな繁華街から離れるように走る一台のバイクがありました。
バイクカラーに合わせたのかビビットイエローのフルヘルメットを被って走行しているのは、制服姿に着替えたメクルでした。
早くて軽くて良く曲がる、女の子にもお勧めだとバイク屋のマスターに進められましたが、そんな事より流線的なデザインと色合いの可愛さに惚れて三ヶ月前に衝動買いしたスクーターでした。
マスターの言ったとおりハンドリングは軽く、際どいカーブもなんのそのと運転のしやすさに普段なら上機嫌になれるはずが、今夜はそうもいきません。焦燥の風に晒され興奮の熱が落ちると、やはり考えてしまうのは彼のことでした。
(だめだ……集中しなきゃ)
焦りと不安、それらを追い払うようにメクルはアクセルを回しました。
目指す場所は市内にある報告のあった日本城です。
名城『御影城』
日本名城協会の名城100選にも選ばれた本丸が完存する貴重な日本城です。
戦国時代から何度も修繕されながら今も形を昔のままに残す御影学園内における観光スポットの一つではあります、しかし学園に在住するの若者にとっては特に用もなければ訪れることもまずなく、静かに佇む御影のシンボルというだけのものでした。
メクルが城へと近づくと、正門となる御影烏羽門周辺には赤く煌々と回転するパトランプが見えてきました。
警察です。
御影学園の治安を守る警察官さんの警察車両が等間隔でズラリと並び回転灯を回しています。
パトカーというのは、ある意味で人を集めます。
城を囲む内堀に沿ってぐるりと等間隔で囲んでいる光景は中々に非現実感がSNS映えするのかワラワラと集まった野次馬がスマホをかかげて何かを撮影しようと近づいては、そこに並ぶ警官のお兄さんやお姉さんに追い返されていました。
メクルはそんな野次馬を避けつつ正門近くの駐車場へとバイクで近づくと、案の定、警察官のお兄さんに赤い誘導棒で止められてしまいました。
「こんばんはー、学生さんですか? すみません、今ちょっとお城への立ち入りは」
「こんばんは、お疲れ様です、御影学園生徒会執行部の依頼でやってきました」
「え、は、生徒会? なんで学園の生徒会がこんな事に首を突っ込むんだい?」
しまりました、若い警察官のお兄さんはどうやら新人のようでした。
普段ならこう言えば、どんな強面の警察官だろうと道を空けてしまいますが、この警察官のお兄さんは少し眉を潜めて首を傾げます。
「よくわからないけど、ここにバイクを止めたらダメだよ、さぁ帰って帰って」
つっけんどんな態度にメクルは急いでいるのにと内心で眉を寄せながら、背負っていたリュックから手帳を取り出しました。
「この手帳、持っててください」
「え、あ、はい」
と、開いた手帳を警官のお兄さんに持たせながら、自分はヘルメットを脱ぎました。
「う、お……」
思わずお兄さんの口から漏れ出たのは感嘆の声でした。
バイクの上でヘルメットを脱いで現れたのが恐ろしく美人な女子高生だったのですから、声を漏らすのも無理はありません。
「御影学園生徒会執行部の依頼できました、図書委員実行部隊の綴喜メクルです」
開いた手帳の部分にはメクルの少し仏頂面の顔写真が張ってあります。
その写真に寄せるわけではありませんが、メクルも少しキリっと真面目顔になります。どうぞ見比べて本人確認をしてくださいとお兄さんをまっすぐに見つめました。
「……で、なんでその、生徒会? 図書委員? がこんな所にくるのかな?」
しまりました、伝わりませんでした。
警官のお兄さんは手帳とメクルの顔をまじまじと見つめながら首を傾げます。
「あ、高等部の二年生なんだね、へぇ……俺も御影学園の卒業生だよ、部活は何やってるの? 運動部? スタイルいいねぇ、よくナンパとかされるでしょ?」
しかし今度はさっきまでの冷たい態度を改めて、むしろニコニコしながら少し馴れ馴れしい態度で警察官のお兄さんはメクルに一歩近寄ります。
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