僕の異世界 5
「ちっ!」
僕は全てのリミッターを外した。
力を解放し、発動させる。
全てを反転させるイメージ。
コンロの火をゆっくりと小さくするように、世界を捻る。
ゆっくりと、ゆっくりと、火を小さくするイメージ。
次第に森に吹き込んでいた風が止まる。
揺らめく木々が止まる。
差し込む朝日に浮き上がる漂う土埃が止まる。
月の傾きが止まる。
太陽の傾きが止まる。
空気の流れが止まる。
この星の動きの全てが止まる。
そして、この時が止まる。
全てを静止させる停止の力、この世界の神ですら僕は瞬き一つさせない。
それが僕が授かった能力、チート、無敵の力。
『時間停止能力』
何もかもが動きを止めてから、ようやく僕は一息ついた。
まさか全部を知られていたとは思わなかった。
「はぁ……ったく、くそ、くそっ、上手くいってたのにッ!!」
イレギュラーだ、まさか現実世界から人間が来るなんて、僕の能力も知っているだなんて……あのクソ貴族女、僕を騙しやがって! 喋りやがったんだ、誰にも言わないって言ったくせに、僕の能力をこいつらに漏らしやがった!
「あぁくそ! やっぱり世俗に染まった女なんてクソだ! あぁーめんどくせぇ!」
…………落ち着け。
落ち着こう。
とにかく時間はできた、これから僕には永遠の時間がある、焦ることはない。
怒りを静めよう、もう誰も僕を邪魔できないのだから。じっくり考えればいい。
この停止した世界で唯一動けるのだ、唯一僕だけが時間を自在に操れる。
時を無限に支配する絶対無敵の力、それが僕がこの世界に授けられたチート。
恐らく数あるの力の中でも、もっとも最強と呼べる力だろう。
「……くそ、本物ぽいなぁこの手配書、あの糞王族共め……、この僕を裏切りやがって」
足下に散らばっていた手配書を眺めれば眺めるほど苛立ちが募ってくる。
「だいたいなんなんだよ! この女はよぉ! なんで僕の予定を狂わせんだよ!」
だめだ、また怒りが込み上がってくる、僕は予定通りに事が運ばないのが一番嫌なんだ。これからリムサと二人で里へと戻って、そして二人で、二人でっ!!
「ようやく彼女と結ばれたんだぞ!! 努力が実ったんだぞ!! 僕がこの状況を作るのにどれだけ労力をかけたと思ってる!!」
ハイエルフ、ファンタジーの代名詞とも言える種族、そんな美少女揃いの里を苦労して見つけた時は本当に嬉しかった……、そのままいつものように悪戯をしようとしたが、僕は思いとどまった。
こんな美少女達との一時を、簡単に止めてしまうのはもったいない。
止まった女も、自分から股を開く女も散々抱いてきたのだ、僕がしたかったのはこんな美少女達との時間を1から築き上げる、恋愛シュミュレーションゲーム。
それから僕の計画が始まった、彼女達との楽しい時間を過ごすための計画が。
だが問題は山積みだった。
排他的で多種族を見下して寄せ付けないエルフの里には僕の勇者としての威光が届いていなかった。偶然に迷い込んだ冒険者のふりをして里に近づくと、彼女達は僕を捕縛しようとしたくらいだ。
そこから地道な好感度上げが始まった。
運が良いことにエルフの里では男が極端に少なく生殖機能が乏しいために一夫多妻制、上手くやればハーレムだって夢ではない里に取り入るため、まず最初に人の良さそうなリムサと仲良くなる所から始めた。
共に村の困りごとを片付け、滅多に手に入らない外界の品々を運び、信頼をゆっくりと勝ち取った。しかし里の皆に認められるにはまだまだ時間がかかりそうだった。
そんな時だ、里の薬師の倉庫で、この森の呪いと霊薬につていの本を見つけたのは。
利用しない手はないと思った。
そう、ダニの事だって知ってたさ。外界では有名な話だ、呪われた一目草、たとえ手に入れても手放してはならない呪われた薬草、その真相が毒ダニが持つウィルスへの特効薬だということも突き止めた。
だからバラまいた。ここの狼達の毛皮を剥いで、エルフの里まで持ち込み、病を蔓延させた。
里がピンチに陥るのを待ってから解決策を提示し、あたかも危険な森に行くのは人間である自分が良いと手を上げた。そして唯一人間を恐れてなかったリムサと共に里を出た。
冒険をしながら小さなピンチを演出し、わざと苦戦もした、全ては彼女の好感度を上げるため。
「ようやく口説き落とせたんだ……僕に心から惚れてくれたんだ……」
命がけで護ってくれる勇者! 里を救ってくれる英雄!! 身も心も委ねられる未来の夫!! あとは里に帰って、本当の里の一員として受け入れてもらう……。
「それを……くそ、めんどくせぇ……もうちょっとだって時に」
こちらを見つめる女に近寄って、まずは背負っていた鞄の背負い紐を剣で斬り、引きちぎって中身を調べた。
「……歯磨きセット、手帳、おぉスマホじゃん……こっちくる時に無くしたんだよなぁ、あとは着替えと、下着か、はぁぁなんだよ結構エロパンツじゃん、やっぱり現代のは装飾が凝ってるな」
この世界の下着は質素な物が多い、シンプルで、何より布生地が多いカボチャみたいなパンツがほとんどで色気がない。これは後でリムサにはかせて楽しもう。
「これは、うわ懐かしい学生手帳か……本当に御影学園から来たのか、本当余計な事を……、あの女神が手引きしたのか? あいつには、まだお仕置きが足りなかったか」
どいつもこいつも、勝手だ、勝手すぎる、勝手に僕をこの世界に呼んでおいて、今度は僕にお帰り願いたいってか、あぁくそ、腹が立つ。
「まぁいい……せっかくだ、こいつには悪戯しようかな」
僕をこれだけ苛つかせたんだから、それぐらいは当然だろう。
まずはこのむかつく制服から刻もう、そうだよコレを汚してやろう、その昔やりたかった事の一つじゃないか。
当時の無力な僕じゃできなかった事だ、なんだか楽しくなってきたぞ。
「近くで見るとマジで美人じゃん、清楚系お嬢様、SSR認定しちゃおうかな」
ハイエルフのリムサと良い勝負ではないか、それに胸はリムサより有る、高得点。
「いやいや、しっかり中身を見てから採点しないとだよね、現代のブラつけてるなら盛ってるだろうし」
リボンタイに手をかけ、そこだけ時間の流れを動かすとスリルと解ける、この部分的に時間を動かすのには苦労したが、今では自在に好きな部分を止め、動かす事ができる。
リボンタイをそこらに投げ捨て、ブラウスの胸元のボタンを外して中身を確かめる。
「……って、やっぱりパッド入りかよ! SRに減点!」
しかし本当にきめ細かくて白い肌だ、そこだけは本当にリムサ以上だ、やっぱり現代の化粧水とかは凄いのだろうか、香りも良い。
「でも胸が小さくても僕は差別しない、大事なのは上じゃなくて……下だよな」
コルセットスカートをたくし上げるようにして捲り、また時間を停止させればそのままスカートは空中で静止する。この部分停止の能力は会得するのに時間がかかった、あ、いや、時間はかけてないのだけどね。
「おぉ……なんだこれ、エッロ……」
驚くべき美麗の両脚だった。
運動部なのだろうか、細くしなやかでいて、思った以上に筋肉のラインもしっかりと出ていた。しかしそれでいて適度な肉付きが純白の下着を押し上げる。
ここに来てからは見ることができなかった現代的な下着、Vラインの小さな食い込み、柔らかい肌を押し上げてできる小さな谷間には感動すら覚える。
さて何をしようか、まずは思いつく限りの悪戯をしよう、飽きてはいたが、こんな美少女に何もしないのは男としてどうかしてる。
「ふふ……それでは……」
悪戯する時は服は着せたままが良い、後処理も楽だ。
そう僕が彼女の下着に手をかけた、その時だった。
「よう、なに俺のヒロインに触ってやがんだ、この糞チート野郎」
声がした、女の子の声、あれ、いやなんで? そう思った瞬間、顔で何かが爆ぜた。
「あギゅっ!?」
衝撃、光、視界が白くなり、今度は世界が回る、止めていたはず世界で僕が回って、地面と空を交互に見ながら地面を転がって、何かに背中からぶつかって止まった。
「くたばれ、無敵チート野郎」
再び衝撃、呼吸が上手くできなかった。
「ひっ、はっ、い、ああああ、あァ!?」
殴られた。
殴られた?
殴られた!?
何がどうなってる、何がどうなった、誰が、何を、誰に!!
驚きで思考があちこちに散らばってまともに考えが浮かばない、なにより痺れて痛い。
痛いっ、痛いっ!?
「は、ひ、なにが、なんだ、なんだお前ぇぇっ!」
そこに女が立っていた、全てが停止しているはずの世界に一人の女が立っていた。
動いている!?
朝日差し込む森林をバックに、一つ結びにした長い金髪を靡かせ、両腰に手をやり悠然と胸をはる女がいた。
点滅するように目の前が霞む、その立ち姿、見覚えがあった、御影学園の
「ふっ、なにがなんだと言われたら、答えてやんのが世の情け……よぉく聞けよこのチート野郎、俺は御影学園図書委員! 獣神の――」
止めているはず時間の中で、動いている、喋っている、くそ何がどうなってる!
「うるせぇ! 止まれぇぇぇ!」
意識を唐突に現れた金髪ポニーテール女に向ける。
「あ! てめぇ! 自分で聞いておいて時間を止――」
時間の再度停止を世界に対して命令する。
右回転を左へ、世界全てを捻るように念じる。
するとすんなりとポニーテール女の時間は止まった。
「……なにが、くそ、どうなってんだ……時間は、確かに止めたはずだろ!」
誰に文句をつければいい、こんなの聞いていない、理不尽だ、ルール違反だろうが。
「……はい、タッチ、“コピペ”」
まただ、立ち上がろうとした瞬間、また声がした。
とっさに身体が強ばり、衝撃に備えてしまった僕の背中に、今度は優しく誰かが触った。
振り返ると、僕が背を打ち付けた木の横、すぐ後ろにまた少女が座っていた。
また止まった時間の中を動いている!
すぐさま前に転がるようにして離れて、現れた少女を見た。
「くそっ、がっ!」
考えるのは全て後でいくらでもできると、能力を発動して動きを止めた。
僕の背に触った時のポーズのまま、やはり動きを止めた。
「なんで、どうして動けた、どこから現れたっ」
最初の女、たしかメクルの時間を止めたときには、こんな少女はいなかった。
薄紫の髪、青い目、現地人か……、でも格好は黒のダッフルコートにマフラー、これは現実製だ。
観察しながら跳ね上がった呼吸と心臓を落ち着かせる。
これ、三人、だけなのか?
再び誰かが現れる可能性を落ち着いて考える必要性もあった。
「こいつも御影学園なのか……こいつも、この女も……でもどうして動けた、ふざけやがって」
鼻先に生暖かい物を感じると思ったら、血が出ていた。
顔がまだ痺れて、痛みが脈打つたびに顔全体にジワジワと広がっていく。
「くそ、あぁくそっ……血が、止まれ、止まれよ」
僕の能力、ただ唯一不便な所は自分自身への能力発動はできない事だ。
恐らくできるが、怖くて試せた事は無い……なにせ自分を止めたら、誰も能力を解除できないからな。
とにかく血を止めて、落ち着いたら、落ち着いたらこいつら全員をヤってやる。
なんの抵抗もできないまま、いや、顔と意識だけ動かして、その他を止めたままヤってやる。
僕に逆らったんだ、当然の報いだ!!
「くそ、くそ、犯ってやる、やってやる、やってやるからな……」
血流が集まり苦しいほどに膨れ上がったズボンのベルトを外し、ズボンを脱ごうと立ち上がろうとして、背中が重くてまたふらついて倒れてしまう。
もう一度、まだ痺れる身体で起き上がろうとして、倒れてしまう。
もう一度、今度はゆっくりと起き上がるために両手をしっかりと地面についた。
なんだ、顎でも殴られたか……?
その状態で殴られた顎を触りながら、鼻血を止めようと鼻をつまみながら、地面についた両手に力を込めた。
「……あ?」
違和感に気づく、僕は今、両手で地面を押さえながら、片手で顎をさすり、鼻血を止めようと鼻をつまんでいる。
「……はぁ?」
腕だ、腕が四本ある、誰の、僕の?
「い、いやいや誰の腕だよ」
どれが僕の腕だと動かそうとすると、四本の腕全部が動いた。
「はい? なっ、なんだ、なんだよこれ」
見れば、僕の腹から衣服を突き破って二本の男の腕が生えている。
「な、な、あああ? なんだよ、これ、うそだろ……」
また立ち上がろうとして背中の重みに気づく、また後ろに引っ張られるように倒れてしまうと身体に激痛が走った。
痛みに反射的に仰け反ろうとすると、背中で何かが蠢くように暴れ出した。
意志とは勝手に動き出す、背中に巨大なミミズでも生えたかのように捻れて暴れる。
あまりの気持ち悪さに身を捩って背中を見ると、僕の背中から二本の脚が生えていた。
僕は叫んだ。
「ああああああああ!? んだよっ! ふざけんなよっ! ああ!? 何で!? なんだ!? これ、おおおい!」
叫びながら動こうとする手足達は勝手に暴れ始める、立つこともできずに枯れ葉の上を藻掻き続けると、こんどは身体の側面、脇から手足が次々と生えてきた。その度に体中に痛みが走る。皮膚が裂ける、伸びる、痛みを掻き消そうと転がると痛みはさらに爆ぜた。
「あっ、がっ、いづうううう!」
尖った石が背中の足を削る、小枝が爪の間に刺さる、赤子のサイズの手があらぬ方向へへし折れていた、どうすればいいか分からずただ悶えながら痛みが引いていくのを、手足が大人しくなるのを待った。
「お、おち、おちつけ……おちつけ……おちつけ……」
まて、まて、おちつけ、考えろ、冷静に、思考しろ。
時間はあるんだ、僕には無限の時間があるんだ、なんだってできる、時間をかければなんだってできるんだ、落ち着いて、状況を整理して、立ち上がって、自由に動けるようになって、時間をかけてもう一度。
立ち上がろうと手を着こうとしたら、今度は背中の足が動いた。
止まれと念じたら体側の腕達がワキワキと動いた、まるで虫の手足のように動く。
まるで、そう、ゴキブリだ。
短い手、長い手、年老いた手、でもそれは全部僕の腕だった。
身体の至るところに手足が生えている……、まるで、まるで、
「虫だ……虫、虫、あああああ! なんなんだ、なんなんだなんなんだよ!!」
落ち着け、落ち着け、落ち着けっ!!
それでも時間さえあれば、なんとか解決策を導きだせるはずだろ!!
考える時間がいくらでもある、練習する時間がいくらでもある、努力する時間がいくらでもある。無限の時間をかけて努力すればいいんだ。そうだ、そうだよ。
「……許さねぇぞ、このクソビッチ共が……」
僕は元凶である三人のクソ女共を睨んだ。
「すぐに対応してやる、そうやって魔王だって倒したんだ、僕は最強の能力者なんだ!」
身体の動かして方をすぐに覚えて、この身体のまま犯してやる、また時間が動き出した時には自分に起こったことに耐えることができないだろうさ。
それから僕は復讐のことだけを考え、藻掻き、
――そして、3日が過ぎた頃だった。
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