深い海の底に光る星

 船旅の途中で船が沈没、海の底に取り残された遭難者と、そこに訪れた不思議な五つの光のお話。
 現代ファンタジーです。もはや助からない、という絶体絶命の状況下、人が最後に見た優しい幻想のような物語。いや、綺麗で柔らかなお話なのに状況自体は結構ハードというか、かなり絶望的な状況だからこそ救いのような温かみが増すかのような、シチュエーションの強烈さが印象的な作品でした。ギャップ、というとちょっとニュアンスが違う気もするけど、それと似た効果のような何か。
 以降はネタバレを含みます。厳密にはネタバレと言うほど致命的なものでもないと思うのですけれど、一応伏せられているっぽい要素や、結末に関わる部分など。
 作品全体に通底する、何か生々しさのようなものが好きです。お話の要素として前に出ている部分、例えば夜空やそれに似た海底の風景、なにより「人魚」の存在などは、まるで童話のように幻想的なのですけれど。その実、主人公ににじり寄る死の感覚や、人魚の造形やその生態など、揺るがしようのない現実の手触りのようなものがとにかく鮮烈でした。この先の避け得ない末路と、それを前提に交わされるふたりの会話が、ぐいぐい胸に食い込んでくるような感覚。
 結末も素敵でした。寂しいような虚しいような、なんだか呆気なくすらある、その最期。最初から叶わないと知って交わした約束と、嘘と知りながらその通りに果たそうとすること。この辺、なかなかうまく説明できないのですけれど、でもそう簡単に言い換えられない心境だからこそ楽しい、深く心に染みる作品でした。