所々に仕込まれた、まるで抜身の刃のような鋭い文章の妙味
- ★★★ Excellent!!!
とある女性の幼少期の思い出、幸せな初恋の記憶と、またその後の現実のお話。
なんと言えばいいのでしょう? 内容について紐解くのも野暮な気がして、しかし感じたものを言葉にするのもなかなか難しいお話。静かに過去を回想し、またその日の出来事を淡々と綴るようでありながら、でも思わぬところから斬りつけてくる、この表現の鋭さ。なんだか心臓を握られているかのような迫力があって、一体この〝威力〟のようなものがどこからくるのか、ぱっと見ではまったく見当もつかないところに底知れない魅力を感じます。
本当に、どういう人にどのように勧めたらいいのかわからないものの、でも「面白いから読んでみて」と言いたくなるお話。読み応えと、物語に引き込む力だけは間違いなく保証できて、つまり単純に物語が巧みなのだと思います。パワーがすごい。質量も。この魅力は一体どこから来ているんだろう……。
この物語、特に結末付近の展開をどう解釈するかは、きっといろいろと意見のありそうなところだと思うものの、どうあれ十分に力のある物語です。個人的にはおねショタのお話として読みました。いやおねショタという言葉だといかにも軽すぎるのですけれど。
要は年下の男の子への恋慕と、なにくれとなく世話を焼きたがる性分。なにより、それで得意になる(そしてそれが気持ちいいという)心の動き。ある種の優越感、すなわち上位に君臨する力を持つこと、とどのつまりは暴力性にも似た何か。優しく幸せな幼少期の記憶、その核であるところの淡い恋心の、その中に潜む恐ろしい〝魔〟のようなもの。うまく説明できないのですけれど、説明できないからこそ物語によってのみ示される、強烈な「物語としての個」のようなものを感じました。やばい。
こういう、簡単には言い換えの効かないお話は、もうそれだけで大好物です。レビューを書こうと思うと本当に困ってしまうのですけれど、それでもなにがしか書かずにはいられない、とても力強い物語でした。面白かったです。刺さる人には絶対刺さるはずなので読んでみて!