何もできないけどしっかり〝主人公〟だけはしてくれる主人公
- ★★★ Excellent!!!
研究所から脱走してきたハーピィの少女と、たまたまそれを匿うことになった大学生の青年の、緩やかな日々と逃れえぬ行く末のお話。頼れる先輩もいるよ!
王道も王道、もう直球ど真ん中のジュブナイルです。いわゆる児童文学的なそれとは異なるものの、青年の冒険と成長をとてもまっすぐに、かつエンタメ作品としての軸を見事に捉えたままこなしてみせた物語。ちょっと人によってイメージするものの違う語になってしまうのですけれど、個人的にはこれぞまさしく〝ライトノベル〟といった印象の作品です。たぶんゼロ年代あたりの、中高生年代の男子を主購買層に据えたジュブナイル作品のイメージ。
衝撃的なのは全体の分量です。約4,000文字。たったこれだけの尺でそこそこの中編〜長編くらいのお話をやってしまえるこの技量。確かに「まだ読みたい、もっとじっくり彼らを見たい」という類の欲求は残らなくもないものの、それでも一本のお話としてきっちり完成していて、やり残しがないのだから本当にすごい。
それも設定や出来事の羅列になるようなところが一切なく、個々のエピソードを登場人物の目線で、しっかりきっちり書ききっている。軽妙なやりとりや、饒舌な主人公の地の文、その細部から伝わる感情の動きが本当に楽しくて、この解像度でこのお話の筋をやっていたらもっともっと分量がかかっていなければおかしいところ、本当にこの短さで完結している。そして満足感もあるという、いや本当に一体なんなんですかこれは?
好きなところがいっぱいあります。個性的なキャラクターに、ファンタジーかつボーイミーツガールな世界観。日常パートの心地よさと、そしてやがて訪れる避け得ない困難。冒険と挑戦、意地と勇気。中でも最高だったのがキャラクターの能力というか、その配置のようなもの。強キャラ感あふれる先輩と、翼による飛行能力を持つ(はずの)ハル。女性陣ふたりにそれぞれ「強み」があるのに対し、主人公は本当に平凡な男子大学生といった趣で、それでも、だからこそ、そんな中で彼が取った行動というか、彼の成したこと。具体的かつ客観的に何、と言われると難しいのですけれど、それでも少なくとも(そして間違いなく)主人公している、その点がとても格好よく気持ち良かったです。普通なら別に逃げたっていいはずの場面、元々は別に義理があるわけでもない相手のために、体を張ることのできる人間の格好よさ。
最高でした。本当に、掌編程度の長さしかないとは思えない内容。久しく忘れかけていた大事なものを思い出させてくれる、魂の震えるような王道ジュブナイルでした。面白かったです!