登場人物たちの、まるで手を伸ばせば触れられそうなこの存在感

 掃除機に乗って空を翔ける高校生と、たまたまそれを保護する羽目になってしまった女性のお話。
 ライトな雰囲気でありながらも、しっかり印象に残る現代ファンタジーです。場面は主人公の生活するマンションに固定、登場人物も二名のみと、構成要素はかなりミニマムでありながら(あるいは、だからこそ)、でもしっかりとした分厚さのようなものを感じさせる作品。
 冒頭のインパクトと、その状況を引き起こした設定の奇抜さで引っ張る作品のようでいて、実は登場人物の不思議な存在感にこそ魅力のある、堅牢かつ堅実な物語でした。描かれるべき魅力がちゃんとしている感じ。
 登場人物が好きです。特に『高校生ちゃん』の造形というか、それが浮き彫りにされていく過程そのものが。どうにも口出ししたくなるというかほっとけないというか、文章越しでもなおヤキモキさせられるような、この不思議な感覚。キャラクターの個性そのものと言ってもいいのですけれど、それ以上にその発露のされ方、あるいは描写の巧みさというべきか、「人として対峙させてくれる感覚」がとても魅力的でした。視点を担う『あたし』についても同様のこと、彼女のラフで飾らない語り口の、その節々から伝わる何かニュアンスのようなものが、物語全体を彩っているのが本当に心地よい。
 そしてストーリーに関してはもう、言うに及ばず。治まるべき形、なんて言ったら言い過ぎなのですけれど、でも治まってほしいところにぴったり治まってくれる、この感じ。なんだか嬉しさのようなものまで感じてしまう、とても優しくて幸せな作品でした。