第7話

 結果を述べると、マナの絵は売れた。人だかりを不審に思った通りすがりの領主が、その全てを買い占めた。


「思うに、この絵画は全てが揃ってこそ価値がある。私が購入し、皆にも見られるよう美術館に展示する」


 マナには纏まったお金が入り、一部は僕に手数料として支払われた。当面の生活費の心配はいらなくなった。

 また、マナは一躍有名人となり、例の領主のおかかえ画家として招待された。ただ、領主は芸術も芸術家にも理解がある人らしく、寝泊りは安全な領主の家だが、自由に外出し、好きな絵を描くことを許されている。誰かに縛られては芸術は死んでしまう、という訳だ。

 対して、僕はと言うと。


「あー……今日も暇だなぁ」


 相変わらず、通りに店を出してもあまり客は来ない。僕の印象もちょっとは変わるかと思ったが、マナに話題を奪われて、僕の印象は霞んでしまった。もはやマナの隣に立っていた胡散臭い占い師のことなど忘れ去られている。

 だらけながら大欠伸をしていると。


「ちょっといい?」

「え?」


 お客さんか、と思って姿勢を正すと、目の前にいたのはマナだった。


「なんだ、マナか」

「なんだとは、何。せっかく来たのに」


 ギロリと睨まれる。


「いやーははは。それより、どうかしたの?」

「……話題の変え方が下手。別にいいけど。それより、僕に客が来ないのはおかしい。私はあなたのお陰で救われたのに……」

「いいんだよ、占い師なんて陰で支えるだけなんだから。頑張ったのはマナ自身」


 これは本当の話。占い師がどんな助言をしようとも、結局頑張るのは本人。何か成果が出たとしたら、それは本人の努力の成果に他ならない。


「しばらく生活するお金はもらったし、僕はのんびりやるよ」

「……なんか納得いかない」

「焦る必要はないよ。それで、今日は世間話だけしに来たの?」

「違う。今日は、占って欲しいことがある」

「へぇ、何を?」

「将来、私がどんな人と結婚するのか、その目で見てほしい」

「恋占い? でも、未来の伴侶を知ることはお勧めしない。良くても悪くても、今の生活に及ぼす影響が大きい」

「いいから」


 普通のお客さんなら、未来を視たフリだけで終わらせただろう。しかし、マナに対しては嘘を言うつもりはなかった。

 僕は眼鏡を外して、マナの目を見据える。

 そして、浮かんでくる未来の映像。

 詳細は見なかったことにして、彼女の結婚式の様子を窺う。


「……あれ? 視えないな」

「え、それって、私は結婚できないってこと?」

「そうじゃない。相手の顔がモヤがかかって見えないんだよね」

「ふぅん……」

「たまにこう言うことがあるんだ。たぶん、未確定要素が多いってこと」

「……そう。えっと、ミクニは確か……いえ、やっぱりいい」


 マナは何故かニヤリとしながら、料金を机に置いた。


「ありがとう。満足」

「……はぁ?」

「もう少し、ここから街を眺めていてもいい? それとも、商売の邪魔?」

「好きにしなよ。見ての通り、お客さんなんていないんだから」

「そう。じゃ、半分」

「ちょ、え?」


 マナが僕を椅子から半分追い出し、空いた部分に腰を下ろす。

 不満を言っても、マナはどこか満足げに笑うだけだった。

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【短編】未来が視える占い師の少年が主に女の子を助け、ゆくゆくはハーレムを築いてしまうお話の、一人目。 春一 @natsuame

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