微に入り細を穿つケモノ描写の冴え

 遺伝子改変技術の人間への利用が当たり前になった未来、半ば獣のような外見的特徴を備えた主人公の、日常の物語。
 キャッチコピーの通り、いわゆるケモノ(獣人)要素へのこだわりがみっちり詰まったお話です。もう冒頭の加速からしてすごい。場面自体は淡々としたものというか、単に入浴の様子をそのまま活写しているのですけれど、それが必然的にヒトとは異なる外見的特徴に仔細にクローズアップする形になる、その物量による酩酊感にはなかなかどうして圧倒されるものがあります。
 きっと絵や映像であればひと目でわかる明快さを持つ、〝ケモノ〟というもの。その魅力を文字でベースでいかにして表現するか、その答えのひとつであるように思いました。個々の部位に焦点を合わせ、そのひとつひとつを列挙してゆく書き方。また単純な視覚情報を提示するのではなく、「(体の各部位を)洗う」という主体的な動作を通じて伝えてくること。本来、現実には体験できるはずのない、ただ想像するしかない身体的な感覚の差異を、でもきっちり感覚的に誘導してくれる技巧が素敵です。
 加えて魅力的なのが、最終的に浮き彫りにされる、なんとも言えない重苦しさのようなもの。言うなら「恋と日常のお話」と、たぶんその表現は間違いではないのですけれど、でもその語から想起される印象とは全然違うお話の筋。主人公のとある一日、学校での生活と、その後のお仕事の様子が描かれていて、その光と影の落差のようなものがとても印象的でした。
 特徴的なその姿を持つものならではのお仕事。つまり、この物語世界特有の光景ではあるのですけれど、しかし大きく見ればその生業そのものは、現実世界にもそのまま通じるものであること。こういう状況やそこから生じる悩みそのものは、きっと現実に抱える人も少なくないのだ、なんてことを思わされました。フェティッシュなケモノ要素を通じて、普遍的な「人というもの」をも見せてくれるお話でした。