ロマンたっぷりの主従人外ファンタジー

 背に翼を持つ『空の民』の暮らす森、翼の一枚足りない『カケハネ』である少年・ロシティの、命がけの一夜のお話。
 亜人の少年を主人公にしたハイファンタジーです。出来が良い、なんて言い方だとどうしても偉そうな感じになってしまいますけれど、本当に完成度の高さを感じさせるお話。
 主人公は族長の息子という身分にありながら、羽の欠損というコンプレックスを抱えた少年で、その従者たる年上の青年との関係性が物語の主軸なのですけれど、この部分の満足感がまずひとつ。加えて、それを支える設定やその他の登場人物、物語の枝葉などの豪華さというか、綺麗に取り揃えながら過不足なく使い切る、この総体としてのまとまりの良さに惚れ惚れしてしまうお話でした。いやもう、本当にすごい。
 主人公が好きです。もっと言うなら彼の抱えたものの重さが。先述の通り、相当に深刻でシリアスな事情を抱えていて(だって狭い社会おけるハンディキャップの扱われ方ですよ!)、しかもそこに真正面から向き合う物語であるのに、必要以上に重くなったりくどくなったりしない。主人公の苦悩がしっかり伝わるのに、どこか児童文学のような軽やかさ(決して軽いお話というわけではなく、物語を読み進める上での身の軽さのような)を保ったまま、見事にある種の解決まで物語を導いてしまう。このバランスというか、本来あるはずのエグ味のようなものを、でもうまくアク抜きして必要な旨みだけ残すかのような、この物語全体の調理の仕方が本当に光っていました。
 登場人物なり世界観設定なり、よく見ると結構ボリュームが盛り沢山で、でもまったく無理に詰め込んだ感じもしなければ、逆に使い残しがあるようにも感じない。ものすごく綺麗でまとまりが良くて、その上でこの本筋なのだからたまりません。従者であるフレイの存在。彼の言葉や行動、なによりその人物そのものから滲み出るとてつもない魅力。なんていうのでしょう? 信頼感のような、なんかもう単純に色香のような……正直、とても語りきれる気がしません。ただ好き。ほんと好き。
 読んでいるときは本当、ただスルスルと引っ張られてしまいましたけれど、読み終えてからふと「なんかすげーとこまで連れてこられちゃった……」と圧倒された感じのお話でした。とにかく完成度が高くて満足感がすごい! とっても丁寧に組み上げられた、まったく隙のないお話。面白かったです!