第4話 正義と悪と正しさと

 古代にやって来たアルドたち。ゾル平原に降り立った一行は、驚きの光景を目にした。遠くに見えるナダラ火山が、爆発を繰り返しているのだ。


「何だ これは!?」

「これだけじゃないでござる! ナダラ火山をはじめとして 四大精霊がかつておわした 4か所が何者かに攻撃されているでござるよ!」

「なんてひどいことを……。」

「魔物たちも 混乱しているわ。」

「コノ攻撃にヨリ この世界のエレメンタルの力ガ 大きく乱れてイマス!」

「これが 魔獣たちが透けて プリズマの光が失われた理由なのね。」

「ああ。そして これが アウトサイダーの真の目的だ……。」

「どうする お兄ちゃん?」

「とりあえず ナダラ火山に行こう!」


こうして、一行はナダラ火山へと向かった。


>>>


 ナダラ火山の最奥部までやって来たアルドたち。


「あっ あれ……!」


すると、そこにいたのはノンだった。しかも、ノンは未来の世界ならつりあいそうな、近未来的な戦闘服のようなものを身にまとい、宙に浮いていた。


「アハハハハハッ! めちゃくちゃ楽しい!!」

「ノン……!」

「あれっ? きみらか! ドうかしたんー?」

「こんなこと もうやめて!」


すると、ノンは下の方まで下りてきた。


「こんな おもろいこと 止めれるはズないやろっ!」

「こんなことをしたら 世界が滅びてしまうでござるよ!」

「それでええんやっ! それガマスターの指示やからなー!」

「……だったら 力ずくで止める!」

「やーっと 戦う気になってくれたなー!」


そして、ノンはどこからともなく槌を取り出して構えると言った。


「さあ いくよ!」


アルドたちも、武器を構えた。


>>>


 ノンとの戦いは互角であった。しかし、アルドたちの活躍で、ひるませるところまでは成功した。しかし、先ほどのディーと同様、まだまだ平気な様子だ。


「なかなかやるねー! デも これデ終わりジゃないよね?」

「くそっ まだやる気か……!」

「さて それジゃ この溶岩に溶けて消えてなくなれ!」


そして、ノンがトドメの一振りを繰り出した。だれもがやられたと思ったが、来るはずの攻撃が来なかった。みると、それを受けていたのはリィカだった。


「リィカ!?」

「理由は不明デスガ 体ガ反応したノデ!」

「くっ……。」


そして、とうとうリィカはノンの攻撃をはじき返した。


「くそっ……!」

「行きまショウ アルドさん!」

「ああ! 行くぞ リィカ!」


そして、アルドとリィカのコンボによって、ついにノンはその場に倒れた。


「なんとか とめれたか……! ありがとう リィカ!」

「よく はじき返せたでござるな!」

「ワタシの認知外のトコロから 止めなケレバという指示ガ 出てきたノデ!」


すると、倒れていたノンが起き上がって言った。


「……こんなトコロで倒れたら ミッション・コンプリートできマセン ノデ……! っ……!」

「……!」

「し しゃーなし ここは一旦退却やっ!」


そして、ノンは宙へ浮かぶと光に包まれ、消えた。


「とりあえず ここは何とか大丈夫そうね……。」

「じゃあ 他の四大精霊がいたところにも 行きましょう。」

「あとってなると オンディーヌ シルフ ノームか……。だけど 他の精霊はどこにいるのか 知らないぞ……?」

「オンディーヌがいた場所は アクトゥールから行けるでござる!」

「なら アクトゥールへ急ごう!」


アルドたちは、急いでナダラ火山を出てアクトゥールへと向かった。向かう途中、アルドは考えた。


(さっきのノンの口調は 確実にそうだったよな……? それに リィカもよくわからないことが 起こってたし……。なにか 関係があるのか……?)


>>>


 アクトゥールへと着いたアルドたち。サイラスの案内で、先へと進む。


「この先を少し行けば着くでござるよ!」

「ああ 急ごう!」


すると、空から声が聞こえた。


「コの先に用であれば 遅カったな。」

「……!」


見上げると、そこにいたのは、ノンと同じような戦闘服に身を包んだディー・ディス・イルだった。


「どういうことだ……!」

「だから~ オンディーヌのイたところも シルフがイたところも ノームがイたところも すでに徹底的に破壊済みよ~。」

「そんな……。」

「なら ここで 倒してしまうまででござるよ!」


フィーネが悲しみ、サイラスが怒っているのをよそに、ディーは言った。


「ソれにシても あいつはまだかぁ?」


すると、古代に似つかわしくない近未来的な飛行艇が出現した。


「……えらい 待たせたな。」

「問題ない。」

「では そろそろ行きましょウか~。」

「どこに行く気……!」


エイミの質問に、ディーは答える。


「フンッ。精霊は なにも4体だけじゃねぇからなぁ……。」


そういって、3人はノンの運転する飛行艇に乗って、西の方角へと飛んでいった。


「4体だけじゃないって どういうことかしら?」

「ワタシのデータベースには 精霊ハ該当ナシ デスノデ!」

「あっ まさか……!」

「何かわかったの お兄ちゃん?」

「ああ! 実は精霊は西の大陸にもいるんだ!」

「なんと! そのようなこと 聞いたことなかったでござるよ!」

「西の大陸には 何の精霊がいるの?」

「西にいるのは 雷 晶 陰の3体だったかな。」

「その精霊は この地に存在するの?」

「うーん 存在するというかなんというか……。」

「皆サン 大変デス!」


突然リィカが大きな声を出した。


「ど どうしたんだ……?」

「コノ世界のエレメンタルの 力の乱れガ大きくなってイマス! このままだと アウトサイダーの 計画を止メル前に 世界ガ 壊レテしまいマス ノデ……!」

「よし。じゃあ すぐに西の大陸へ行こう!」


>>>


 合成鬼竜を使って、アルドたちがやって来たのは、西にある大陸、ゼルベリヤ大陸のバルベラ未踏域だった。すると、早速そこらじゅうで、爆発が起こっている。そして、そこにいたのはイルだった。


「やめろ イル!」

「ほう。ココがわかったカ。」

「こんな ひどいこと しないで……!」

「コれも 全ては愚カな人間のためだ。」

「これ以上の 好き勝手は 許さんでござる!」

「ならば 己の力を持って 止めて見せよ!」


そういうやいなや、イルは下まで降りてきて、刀を取り出し構えた。


「いくぞ みんな!」


アルドたちも武器を構え、向かっていった。


>>>


 今回はかなり苦戦を強いられていた。イルの強烈な一撃により、一行はそれをはじき返すのがやっとの状態だ。


「もう おわりカ?」

「何て強さなの……!」

「さあ では 岩をも砕ク コの雷に負ケぬ一撃を 冥土の土産にクれてやろう。」


そういって、思い切り刀を振り上げたその時、急にイルがひるんだ。


「グッ……。誰だ……!」

「体が 勝手に……?」


なんと、不意を突いてひるませたのは、サイラスだった。


「イルが ひるんだわ!」

「行くでござる アルド!」

「ああ サイラス!」


そして、2人の交差する斬撃で、ついにイルは倒れた。


「何とか 倒したか……!」

「すごいよ サイラスさん!」

「いや あれは……。」

「良く動けたわね……?」

「なぜか どこからか 助けを求める声がして 気づいたら 体が動いていたでござるよ……。」

「先ほどの ワタシと 同じ現象デス!」


皆が話していると、ゆっくりとイルは起き上がり言った。


「……この状態では 裏切った兄者に顔向けが……。っ……!」

「……!」

「……一度退くしカあるまい。」


そういって、イルは光に包まれて消えた。


「みんな 集まって! 今回復するから!」


フィーネの回復魔法により、イルに出逢う前くらいまでに戻った一行は、早速次の目的地の話をした。


「あまり時間がないわ! 急ぎましょ!」

「ああ! 次はシャスラ結晶地帯だ!」


一行は、急いでシャスラ結晶地帯へと向かった。


>>>


 シャスラ結晶地帯にたどり着いたアルドたち。だが、シャスラ結晶地帯の状態はあまりよくはなかった。


「もうこんなに 荒れ果ててしまったでござるか!?」

「くそっ……! アウトサイダーはどこに……?」

「アら~ アなた達の真上よ?」


一行が声のままに見上げると、そこにいたのは、ディスだった。


「ディス……!」

「アなた達を殺すことができると思ったら 興奮しちゃって つイつイ張り切っちゃったわ~!」

「相変わらず いけ好かないわね……!」

「オレたちは ここで倒れるつもりはない……!」

「それくらイ 抗ってくる方が 殺し甲斐がアるわ~!」


すると、ディスは杖を取り出してきて、構えた。


「さア 楽しませてくれよ?」

「必ずここで倒す! 行くぞ みんな!」


>>>


 攻撃の末、なんとかひるませることができたアルドたち。しかし、嬉々として魔法を繰り出してくるディスに、かなり限界に近づいていた。


「こんなのでへばらなイでよ! アっさりなのは面白くなイんだから!」

「ここで倒れるわけには……!」


アルドは立ち上がろうとするが、武器を構えるまでの体力がない。


「もう しょうがないか! それじゃ みんな きっちり殺してあげるな!」


そういって、杖に魔力を溜めはじめ、いざ繰り出すとなった瞬間、何者かの魔法攻撃が、ディスに向かって繰り出された。そこで、態勢を崩したディスは、その魔法を別方向に放出してしまった。


「なっ 誰だ……!」

「何としても止めなければ ならないのよ……!」


魔法攻撃を行ったのは、他でもないヘレナだった。


「先ほどの攻撃デ ディスさんの魔力が低減してイマス!」

「なら 幕を引きましょう アルド!」

「行くぞ ヘレナ!」


かつて敵同士だった2人の魔法と剣が合わさり、ディスは成す術もなく攻撃を受けて倒れた。


「何とか倒せたわね……。」

「もしかして ヘレナも……」

「ええ。止めてほしいって どこからか 聞こえてきたの。」

「一体 これは何なんでござろう?」


すると、ディスが起き上がってきた。


「……このままじゃ 愛するアの人に 顔向けが……。っ……!」

「……!」

「態勢を立て直さないと……!」


そういって、ディスはその場から消えた。アルドたちは、またフィーネの回復を受けたが、先ほどよりも疲れていることから、フィーネもかなり消耗していることがうかがえる。


「いよいよ 最後でござるな……。」

「ああ。苦しい戦いだけど オレたちしかできないことだから……」

「ええ。そうそう弱音も吐いてられないわね……!」

「よし。それじゃあ ヴェルド未踏域へと向かおう!」


>>>


 最後のメンバーがいるであろうヴェルド未踏域へとやって来たアルドたち。すると、そこではほとんど荒らしつくしたディーが、近くの魔物を片っ端から倒していた。


「ディー……!」

「……やぁーっと 来たのかぁ。あまりにも遅ぇから 魔物を倒シまくってたんだぜぇ?」

「何と残酷な……。」

「ディー……! 今度こそ お前を倒す!」

「はたシて ソの体で まともに戦えるのかねぇ……? まあいいか。今度は容赦シねぇからなぁ?」


そういって、ディーは拳を構えた。


「みんな あと少しだ! 行くぞ!」


皆は、悲鳴を上げる体に鞭を打って 武器を構えた。


>>>


 今回の戦いは、大苦戦だった。戦いはするが隙だらけで、そこをディーに突かれ、一行は動けなくなってきていた。


「やっぱり ソの体じゃあ ソの程度かぁ。じゃあ ソろソろ アンタらには消えてもらいまサぁ!」


そういって、ディーは気を溜めている。そして、その拳をアルドめがけてはなった。アルドは、もう終わったと思っていた。しかし、攻撃が来ないので恐る恐る目を開けると、なんとディーの拳をエイミが拳で受けていた。


「エイミ!?」

「何だかよくわからないけど アンタを止める……!」

「な 何……!?」

「はぁーーーーーー!!」


そして、エイミの拳ははじき返した上に、相手にもヒットした。ディーはひるんでいる。


「今よ アルド 決めるわよ!」

「行くぞ エイミ!」


今まで、何度も強敵を倒してきた剣と拳がさく裂し、ディーは倒れた。それと同時に、アルドとエイミも倒れる。


「アルド エイミ!」

「意識 生体反応アリ。ドウヤラ気を失ってイルヨウデス!」

「フィーネ 私たちはいいから 2人に回復を……!」

「わ わかった!」


フィーネが2人に回復を施し、アルドの意識が戻ったところで、ディーが起き上がった。


「……このままじゃ 2人に追いつかれる……。っ……!」

「……!」

「……退却だ。」


そういって、その場を去ろうとして、ディーは立ち止まった。そして、しばらくして言った。


「貴様らぁ プレスがお呼びだ。来い。場所は……次元の狭間だ。」

「……!!!」


おおよそ、自分達しか知らないと思っていた次元の狭間という言葉が出てきて、一行は困惑する。それを見ながら、ディーはニヤつきながら言う。


「本番は これからだぜぇ……? クククッ……!」


そういって、ディーはその場を去った。しばらくして、エイミの意識も戻ったところで、話が始まった。


「まさか 次元の狭間だなんて……。」

「一体 何者なんでござろう……?」

「もう行くのよね……?」

「さすがに こんなボロボロのからだじゃ 無茶だよ! そうでしょ お兄ちゃん!?」

「ワタシも 休息を推奨シマス。」

「よし。そしたら 近くに町があるんだ。そこで休んでから 次元の狭間へ行こう。」


こうして一行は、ボロボロになった体を引きずりながら、アルドの先導で近くにある町へと向かった。そして、しばらくの休憩の後、すっかり元気になった一行は、出発する準備をしていた。


「もう大丈夫か みんな?」

「ええ。元の調子に戻ったわ。」

「いつでも 出発可能 デスノデ!」

「それに流暢に休んでる場合でもござらんからな。」

「ええ。この星の未来がかかっているわ。」

「行こう お兄ちゃん!」

「ああ! それじゃ 行くぞ 次元の狭間に!」


こうして、一行は最終決戦のため、次元の狭間へと向かった。


>>>


 次元の狭間へとやって来たアルドたち。すると、狭間の右側、一番端にアウトサイダーはいた。


「来たぞ アン!」

「来てくれてありがとう。この場所なら誰にも邪魔されないだろう。」

「なぜ この場所を知っているの……?」

「ワタシたちに勝ったら 教えてあげる。」

「呼び出しておいて いったい何の用なの?」

「キミたちが ボクらの邪魔をしてくるから 理由が聞きたくてね。」

「当然でござろう! 自分の住む世界をどこの誰とも知らぬ輩が 攻撃してきたのでござるぞ?」

「現代だと魔獣の存在が消えかけて 人間が生活できなくなっていたのよ?」

「エルジオンでアウトサイダーガ起こした事件は すでに数十を超え 凶悪犯罪者と呼ばざるを得マセン ノデ!」


すると、アンはまずサイラスに向かって言った。

「理解できないわ。未来の人たちの幸せのために 悪いものを排除しているだけなのに。悪を排除するのは人間にとって当然のことではないのか?」


続いて、ヘレナに向かって言った。


「魔獣だってその存在が消えれば ミグランス城が襲われることも 人々が殺されることも 無益な争いごとも無くなるし プリズマもその存在が消えれば 大地を汚染し捨てることも無くなるでしょ? 魔獣が消えれば喜び プリズマが消えれば大地で暮らせる どれも人間にとって益となることではないか。」


そして、最後にリィカに言った。


「KMS社の社員やその他ワタシたちが殺した人のせいで 苦しんでた人がたくさんいたし この人たちによって被害者が それ相応の対応を受けられなかったこともあるの。人々はその苦難から解放されたのだ。それに拉致によって 今まで寄付や慈善活動などに お金がないとかいって何もしてこなかった人たちが 子ども一人さらっただけでパッと多額の報酬を出すことがわかったのよ? エルジオンの民は みな今回の事件で恐怖心に駆られたが 同時に称賛する声すら上がっていた。」

「……。」


アンの指摘にアルドたちは、言葉を失っていた。アンたちがやっていることは間違っている。しかし、その行動の理由は完全に否定できることではなかったからだ。


「それでも オレは間違っていると思う。」


そんなアンに異を唱えたのは他でもないアルドだった。


「なぜなの? なぜワタシを否定するの?」

「あんたは時空を超える能力を持ってるだろ? オレも持ってる。だけど その能力を持ってるからこそわかるんだ。本来は持つことが無い能力だってことを わかっておかないといけないって。」

「能力を持っておいて 使わないなど 愚の骨頂だ。」

「プレス もうソろソろ こいつら殺シてもいいかぁ?」


しびれを切らしたディーが、アンに言った。


「ええ。やはり ワタシたちは分かり合えなさそうだから。」

「ああ わかった……。サあ 今度はソう簡単には 行かねぇからなぁ……?」

「今回は ボクも参加しよう。」

「アら~ プロフが入ってくれたら 負ける気がしなイわね~。」

「チーフの手を借りずとも 倒スことくらいできる。」

「ゴちゃゴちゃ言うてんと やるデっ!」


アウトサイダーは、やる気のようだ。


「こうなったら 何としても止めよう!」

「うん! みんなのためにも……!」

「歴史の改変を また起こサセルワケには 行キマセン ノデ!」

「未来の皆のためにも 絶対止める!」

「好き放題されて 黙って見ておくわけには 行かないでござるからな。」

「この星の未来のためにも 頑張りましょう。」


アルドたちも武器を構えた。


「さあ 創めましょう!」


>>>


 戦いはかなり大苦戦していた。4人が消耗しても、アンがサポートをするため、長期戦になっていた。すると、アウトサイダーの5人が集まり始め、アンが言った。


「さあ 終わりにしよう。ボクらの力思い知るがいい!」


そういって、5人は自身のエネルギーを集め始めた。どうやら、一気に放出して終わらせようとしているようだ。その時、アルドはどこからともなく救けを求める声が聞こえたような気がした。周りを見ると、どうやら他の皆も聞こえていたようだ。


「よし! みんなで一気に行くぞ!」


アルドたちは、エネルギーを溜め、一気に攻撃を仕掛けた。アルドたちの攻撃で、敵の集めたエネルギーは爆発した。しばらくして、アルドたちが目を覚ますと、アン以外のメンバーは倒れたままだった。この光景にアンは唖然としている。


「倒したのか……?」

「……。」


しばらくの沈黙の後、アンはアルドたちに言った。


「……君たちに ワタシたちの真実を伝えるわ。4人も運ばないといけないから……。ついてきて。」


そういって、アンはまた時空の穴を開いた。しかし、その穴の色は青ではなく緑だった。


「時空の穴だけど……色が違う?」

「……なぜなら この穴がつながっているところは 異なる時層だからね……。」

「……!」

「さあ いらっしゃい。」


アンは4人を魔法で浮き上がらせると、その穴へと入っていった。アルドたちは、困惑しながらも、アンの後に続いた。


>>>


 着いた先は薄暗い研究室だった。恐る恐る入ると、アンは4人を一人分くらいの大きさのポッドに入れた。すると、武装が解除されていき、元の姿に戻っていった。アルドたちはその姿を見て、開いた口がふさがらなかった。なんと、その4人の元の姿は、エイミ・ヘレナ・サイラス・リィカだったのだ。しかも、体の半分以上は機械によって強化されていた。


「こ これは……」

「これが この人たちの本当の姿。そして ワタシも……」


アンは自身の武装を解いて元の姿に戻った。一同は、アンの姿を見てさらに驚いた。髪の毛は黒髪と白髪が混じり、顔は中性的で、目は左目が黒みがかった青、右目は黒みがかった赤のオッドアイだった。そして、頭の右側にはプルメリアの花の髪飾りがなされていた。


「……!」

「その髪飾り……!」


アルドとフィーネの驚き様はことさらのようだった。


「だいぶ わかってきたようだね。それじゃ お話するわ。」


そういって、アンはいきさつを話し始めた。


「ボクは異時層のアルドだ。そしてワタシは異時層のフィーネよ。」

「な 何でそんなことに……?」

「こちらの時層では ボクたちはクロノス・メナスに負けたんだ。いや エデンにお兄ちゃんもワタシも寄り添えなかった。」

「じゃあ 世界は……」

「ああ 混沌と化した。これによって 世界は古代から未来までαジオで汚染されたの。」

「……。」

「ボクたちは絶望した。そして 未来のゼノ・ドメインにまで逃げたワタシたちは そこで長い時間をかけて プリズマなどの勉強をして この研究室を作るまでに至ったの。そして ボクたちは この世界を捨て この世界で得たこの状態を作ったそもそもの原因 偽りの正義をただすため 他の時層へと行き 同じ事を繰り返さないために行動したんだ。」

「オレは 他の時層ではそんなことを……。」

「そして 他の時層に行こうとした時 エイミさんたちも力を貸してくれると言ってくれた。だが みんな αジオの汚染で体が思うように動いていなかった。だから 4人からの提案で体を機械で補って 他の時層に行くときには 違う自分でありたいと言われたから 新たな人格を植え付け そこにお兄ちゃんとワタシの思想も入れたの。」


アンは未だに意識のない4人を見て言った。


「ボクたちも 新しい自分になるため フィーネと体を融合させた。そして ボクたちは この世界の否定を具現化した者として 自身の個を喪った者として こちらの時層の史に葬られた者として 偽りの正義を絶ち 真の正義を執行する 異なる世界線 つまり 他の時層の枠から外れた者 アウトサイダーを名乗ったんだ。」


アルドは、他の時層の自分の話を聞いて、返す言葉がなかった。


「だが ワタシたちには ミスがあったの。それは オリジナルの人格を 完全には消さなかったこと。そのせいで きみ達に 助けを求める声がどこからともなく届き それが隙を生んでしまったのだから。だけど……」


すると、突然アンは宙に浮きだした。


「ワタシたちは そちらの世界のことを まだあきらめてはないわ。だから ボク一人になっても 成し遂げないといけないんだ……!」

「待ってくれ! 事情をきいた以上 アンと戦うことなんてできない……!」

「そうよ……! 戦う意味なんてないよ……!」

「いや これだけは 譲れないの……!」


アンは、ムリはしているが、完全にやる気だった。戦いを拒むアルドとフィーネにエイミたちは言った。


「アルドもフィーネも 気持ちはわかるけど こうなったら やるしかないわ。」

「でも……!」

「異なる時層だとシテモ アルドさんもフィーネさんも それ自体ニ 変わりアリマセン ノデ!」

「……。」

「アルドもフィーネも アンを止められるのはもはや 拙者らしかいないでござるよ……。」

「そのこと あなた達も分かってるんじゃない……?」


アルドとフィーネは、悲痛な顔をしていたが、やがて決意したかのように、アンに向き直った。


「アン。オレはお前を止めて見せる……!」

「かならず その苦しみから 救けてあげるから……!」


こうして、アルドたちは、アンに向かっていった。


>>>


 アルドたちの攻撃に、アンは敗れた。そして、アンは言った。


「……君たちの意志の力 確かに受け取ったよ。」


アルドもフィーネも、今にも泣き出しそうな顔だった。そんなアルドに、アンは聞いた。


「ねえ さっき 次元の狭間で ワタシの思想を話した時 それでも否定できたのは何で……?」


アルドは、今できる限りのいつも通りで答えた。


「オレたちは時空を超えることができる。だから 普通ならいけないところ  会えない人に出逢えるんだ。でも その能力を持ったからと言って 自分の思うように変えていいわけじゃないと思うんだ。オレたちが生きているのは 昔からのたくさんの選択が積み重なって 出来たものだと思う。それをオレたちみたいな人が変えてしまったら 選択された未来が消えてしまうし その時選択した人たちが頑張って決めた選択が無駄になっちゃうしな。」

「その選択が誤っていたらどうする?」

「その選択が間違った方向に向かっていったのなら その選択は悪かもしれない。でも 様々なことを考えての選択なら オレはそれが悪だとしても正しいと思うよ。」

「だが 実際に問題が起きているわよ?」

「それは その時その時で 関わる人々が選択していけばいいと思うよ。それがその時生きる人の責任だと思う。その時は正義か悪かではなく 正しいかどうかで判断したらいいと思うよ。」

「……!」


アルドの考えを聞いたアンはハッとしていた。そして、穏やかな笑みをたたえて言った。


「ボクが求めていた解は それだったのかもしれないね……。」


そして、少し考えてから言った。


「君たちに 一つお願いがあるんだ。」

「……なんだ?」

「ワタシも今からこのポッドに入る。そしたら そこのスイッチを押してくれないかな……?」

「それを押すとどうなるんだ……?」

「そうすると ボクたちの記憶が関係性以外のすべてをリセットした状態になる。」

「……!」

「そうすれば きみ達の時層でのことは 事実ではなくなり 行ったすべてのことがもとに戻るはずよ。」

「そんなこと できるわけないだろ……!」


アンの提案に、当然アルドは拒絶反応を示した。しかし、そんなアルドにフィーネは寄り添って言った。


「お兄ちゃん アンのお願い 叶えてあげよう……?」

「フィーネ……!」

「お兄ちゃんも言ってたでしょ? その時その時で正しいと思う選択をするのが その人の責任だって。これが アンの正しいと思った選択なんだよ……。」

「……!」


アルドは、少し考えてから、アンを見て言った。


「アン ポッドに入ってくれるか?」

「キミなら そういってくれると思っていたよ。」


そして、ポッドに入り、アルドは、スイッチを押した。


「アン……。」


罪悪感に苛まれるアルドを、フィーネが支えながら、アルドたち一行は、時空の穴を通って、各々自分達の時代へと戻って行った。


>>>


 B.C. 20000年。古代に戻ってきたサイラスは、ナダラ火山の最深部にやって来た。


「……きれいさっぱりでござるな。本当にあったことなのか 疑ってしまうほどでござる。」


ナダラ火山は、攻撃されていたのが嘘のように、活動していた。


>>>


 A.D. 1100年。エルジオンへと戻ってきたエイミ・リィカ・ヘレナ。3人が別れたあと、ヘレナは工業都市廃墟に来ていた。


「まったくもって 何もないわね。合成人間が破壊されていないことは嬉しいけど……。」


かつての仲間である合成人間の破壊された事実がなくなり、喜ばしいはずのヘレナだったが、素直に喜べずにいた。


一方、セバスちゃんの家に向かったリィカ。


「あら リィカじゃない。」

「……よかった デスノデ!」

「えっ な 何 どういうこと?」


リィカの喜ぶ理由がわからず戸惑うセバスちゃん。リィカは喜んでいるが、その声はとても無機質に聞こえた。


またまた一方、エイミは司政官と話をしていた。


「司政官 最近のエルジオンはどうですか?」

「妙なことを聞くね。だが 例の時震以降は 大きな事件もなく平和だよ。」

「そうですか……。」

「どうかしたのかね?」

「いえ 何でもないです……。」


平和なのは嬉しいはずなのに、エイミはどこか悲しい気持ちになっていた。


>>>


 A.D. 300年。フィーネは、魔獣の村コニウムを訪れていた。


「あっ フィーネ!」

「アルテナ!」

「ん? 今日は あのお人よしはいないのか?」

「うん……。」

「フィーネ……?」


フィーネは、なにより兄であるアルドの気持ちを想うと、いたたまれなかった。


そんなアルドは、次元の狭間の時の忘れ物亭にいた。


「何かあったのか アルド。」

「……。」

「まあ 話したくなったら 話すといい。」

「……マスター。」

「なんだ?」

「正しいって 何なんだろうな……。」

「アルド……。」


アルドは、どこか遠いところを見ながら、飲み物を飲んでいた。もう5杯も同じものを飲んでいるが、アルドは一体何を飲んでいるのかわかっていなかった。マスターは、そんなアルドをただ黙って見守っていた。


>>>


A.D. XX年。とある研究室でアルドは目が覚めた。ポッドを開けると、そこには、エイミ・ヘレナ・サイラス・リィカがいた。そして、隣にはフィーネもいた。


「あれ ここは……?」


アルドは、自分がどこにいるのかわかっていなかった。他の仲間もそんな様子だ。


「あれ フィーネ 何で泣いてるんだ……?」

「そういうお兄ちゃんも……」


アルドとフィーネは、なぜだか涙を流していた。しかし、2人はその涙の意味を知ることはなかった。

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正義の反対側 さだyeah @SADAyeah

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