第3話 黒に染まり始める歴史書

 COAのセティーとレンリと共に、本部への報告のため司政官室へとやって来たアルド。すると、そこには他の皆もそろっていた。


「戻ったようだな。では 一度状況報告としよう。」


すると、ざわついていた室内が静かになった。


「では まずCOAから 報告を。」

「はい。報告いたします。」


特別捜査本部設置時と同じ順番で報告が始まった。


「私とセティー捜査官で 不正アクセスおよび爆発が見られた ニルヴァ ラウラ・ドーム 工業都市廃墟を捜査しましたが いずれの場所の 本件とかかわるような内容の情報を閲覧しているところはなく 爆発も殺害を想定していない小規模のものでした。なお 工業都市廃墟の合成人間が 複数体破壊されていた現場に 爆破の場所と時間が書かれた書類が見つかりましたが 送信元がKMS社であったため 偽装工作の可能性が高いと考え 本件の重要資料から削除いたしました。」

「また ゼノ・ドメインにも同様の理由で調査を行いましたが そこでアクセスされていたのが クロノス博士のゼノ・プリズマ研究に関わるレポート クロノス博士の晩年の手記 ジオ・プロジェクトの極秘研究計画書の3点でした。他の報告がまだですが COAはこの書類すなわちゼノ・プリズマに関わる事象が最終的な目的であると判断しました。また 本件の首謀者と思われる女性と遭遇。女性は名前がノン 組織内の役職は……」

「そのことに関しては 後ほどまとめて聞こう。」

「わかりました。では 報告は以上です。」


司政官の提案を受け入れ、セティーとレンリは報告を終えた。


「では 次 機動隊 報告を。」

「はい。報告いたします。」


今度はヴィアッカが報告を始めた。


「エルジオンにおける爆発の件について 現地で調査を行いました。その結果 先の報告にあった通り 殺害を想定しない小規模のものと断定しました。また 不正アクセスについても ほとんど本件と関係のない情報ばかりでしたが シチズン・ナンバーの名簿 ガンマ区画のイシャール堂 ホテル・ニューパルシファル バーの顧客リストについては 何かしらの人物の特定に用いることができるため 関係があるものとして挙げておきます。また 犯行組織の一員である男と遭遇。こちらは後程報告させていただきます。この男の襲撃により 多数のEGPDおよび機動隊員が負傷。現在治療を受けています。報告は以上です。」


ヴィアッカの報告を受けて、司政官は言った。


「では 次 IDEA 報告を。」

「ああ。では報告と行こう。」


イスカが話し始めた。


「IDEAは IDAで起こった 不正アクセスおよび爆発について調査を行い 爆発については 他に比べ少し規模は大きいものの 先の報告と同等の者と判断したよ。また 不正アクセスについては IDAスクール エルジオン医大付属病院 レゾナポート 各場所で 長時間アクセスされていたデータを複数発見した。これらのデータを勘案すると 誘拐については 上位の職それも怪しい噂がある者の子息や 貴族などの裕福な家柄の子息が対象であったと断定した。また 犯行組織の一人がIDEAの一人 ヒスメナと入れ替わっていることがわかった。ただ 組織の命により 誘拐した学生には 一切危害を加えないということが保証されているため これよりIDEAは早急に誘拐された学生の場所の特定に 全面移行することとさせてもらうよ。報告は以上だ。」


司政官はイスカの話を聞いて、うなずいた。


「では KMS社 報告を。」

「はい。 報告させていただきます。」


シャノンが報告を始めた。


「まず爆発についてですが 爆発と殺害事件とはかかわりがなく 爆発に関しては先の報告と同等のものです。また不正アクセスに関して 当社の社員がデータを持ち出そうとしていたことが発覚しました。そのデータは全て ゼノ・プロジェクトに関わる 社内の不正の証拠となるものでした。よって 本件は私に権限が一任されているため 私の名の下で不正を認め 開示します。また 犯行組織の一人がこちらにも現れました。そちらについては後程ということでしたので これで報告は以上です。」


すると、司政官はヘレナを見ながら言った。


「ありがとう。きみ達も 何か報告することがあるかな?」

「ええ。では させてもらうわ。」


ヘレナは話し出した。


「私たちは 工業都市廃墟で 合成人間の大量破壊の件を調査していたわ。そしたら 音声データが残ってたのよ。今から流すわね。」


そういうと、音声が流れてきた。どうやら合成人間と男の話し声のようだ。



「……急に現れたと思ったら 勝手に 人のところ荒らしといて 今度は何の用だ?」

「貴様らには 罪を被ってもらわねぇとなぁ……。」

「どういうことだ?」

「貴様らに 片棒を担がセりゃあ スぐに貴様らの仕業だって 腐った人間連中が わめきだスんでねぇ……。」

「馬鹿な真似はしないことだな。」

「貴様ら 合成人間を憎む人間は 山ほどいる。ちょっと情報を流シゃあ 問答無用で信じるだろうなぁ?」

「どうやら 言葉が通じないようだ。」

「後悔シても知らねぇぜぇ? はっ!」

「グッ……。」


音声はここで途切れていた。


「この男の声 ディーか……!」

「ええ。片方は合成人間で 片方は敵の一人よ。これで 合成人間も被害者だということがわかると思うわ。」

「なるほど。」

「報告は以上よ。」


全ての報告を聞き終えて、司政官は言った。


「これらの情報を統合すると 敵組織の目的はゼノ・プリズマに関わる情報の収集と 怪しい噂のたつ上位職や富裕層に対する報復といったところか。」

「じゃあ それらに恨みのある人物が敵の正体なのか?」

「やっぱり敵の素性がわからないことには 何も進まないわね……。」

「では 敵組織の情報を共有するとしよう。」


まず最初に話し始めたのは、ヴィアッカだ。


「私が遭遇したのは アウトサイダーという組織のディーという男でした。彼は暗殺者だと言っていました。また グループのことを 「偽りの正義を絶つ者」と言っていました。また 指示を出している者をプレスと呼んでいるようです。」


続いて、シャノンが言った。


「私が逢ったのは 同じ組織のディスという女性でした。職業はハッカー 組織の事は「否定を具現せし者」 指示を出す者をプロフと呼んでいました。」


イスカは思い出しながら言う。


「わたしのところに来たのは 同じ組織のイルという男性だったよ。職業は諜報員 組織のことは「個を喪いし者」 指示を出す者をチーフと呼んでいたな。」


レンリはさすがに捜査官なだけあって、ちゃんと記憶しているようだ。


「私のところに来たのは 同じ組織のノンという女性だったわ。職業はドライバー 組織のことは「史に葬られし者」 指示を出す者をマスターと呼んでいたわ。」


司政官は4人の話を聞いて言った。


「報告からすると 本件の犯行組織はアウトサイダーというもので 職業や上司の呼称 組織の形容はそれぞれということか。アルド 何か加えるべき情報はあるかな?」

「うーん……。そういえば 4人とも最初に枠の外にいる者って言ってたな。あと オレは知らないんだけど 4人も上司の人もオレの名前を知ってるみたいなんだ。」

「なるほど。しかし 人物の特定には 時間がかかりそうだ。」

「せめて 組織に関する明確な情報があれば……。」

「ナラ オオシエシヨウ。」


すると、司政官の後ろに控えていた1体のアンドロイドが、急に動き出してロックしていた扉を開けた。開けると、そこから4つの影が、目で追えない速さで入ってきたかと思うと、司政官とアルドたちの間にその者たちは立っていた。アンドロイドもいつの間にか人間の姿に変わっていた。


「お前たちは……!」


それは、先ほどから話に上がっていたアウトサイダーであった。しかし今回は今まで見たことが無い人物がいた。奇妙なことにその人物は、半分白く半分黒く輝いていた。そして、その人物が話し始めた。


「おじゃまします。そろそろ皆の眼に 触れておくべき時だと思考した為 出現しました。ワタシたちは 枠の外にいる者 アウトサイダー。ボク達は 真の正義を執行せし者。そして ワタシは アン。このアウトサイダーを率いる者。」

「この男がリーダーか……!」


その時、端にいたレンリが、捕獲のため走りだそうとした。それをディーが止める。


「おっとぉ プレスを捕まえようなんざぁ 思わないことだなぁ。」

「この4人は プロフのためなら 何をするかわからなイから 気を付けてね~?」

「貴様らが チーフを狙うのであれば コちらも司政官を狙わなケればなるまい。」

「せっかくの ビッグイベントやから 台無しにするんは ほんまやめてなー?」

「ディー ディス イル ノン 少し 落ち着いて。」

「クッ……。」


他の面々も、身動きが取れず悔しがっていた。すると、アンは続けた。


「今日 来たのは 勝手な詮索で ボク達の邪魔をされるのは困るので 正式見解を 述べようと思い来たのです。では ワタシたちの目的をあなた方に お教えしましょう。


そして、アンはアウトサイダーの目的を話し始めた。


「ボク達の目的は 偽りの正義を絶ち 真の正義を執行すること。この世界は 裁くべき人が裁かれず それを裁けば生まれることのなかった犯罪で 被害者が加害者となります。また 人間は不都合が生じれば 直ぐに排除対象にし 異とみなされます。その結果 社会は汚れた強い者と 全てから見放された弱い者を生むのです。そして それを正当化させているのが 自分が正義だと疑いなく信じ その正義に反するものを悪とみなす 偽りの正義の執行者なのです。ワタシたちは そんな偽りの正義を執行する者と汚れた強い者を 排するために行動しているのです。」

「だから あれだけの人に危害を加えたり 殺したりしたのか……!」


アルドは怒りに震えていた。他の者もその身勝手さに怒りを禁じえない様子だ。


「お前たちの勝手な考えで 人を殺していいことにはならないわ!」

「それに殺人も傷害も拉致も 立派な犯罪よ!」


シャノンとヴィアッカも怒りをぶつけた。それに、対抗したのはディーだった。


「随分と 好き勝手言ってやがるがぁ 貴様らのソの考えで 苦シむ人間がいることがわからねぇのかぁ? 勝手に相手を悪と決めつけて 自分が正義だと疑いもシねぇ。プレスが言っていた 偽りの正義の執行者ってのは アンタらのことを言うんじゃねぇのか?」

「なに……!?」


すると、ディーはそのまま言った。


「正義の下で悪を裁く貴様らに教えてやるよ……。正義の反対側はなぁ…… 正義なんだよ。」

「……! あなた何を言って……」

「人は 自分が正義だと思って生きていやがるんだ。ソれがわかってりゃあ 考えもなシに悪だって決めつけることもねぇシ ソの行動の裏にあるソいつの正義に ふれることもできる。全てから見放サれた弱者を 汚れた強者を正シく裁くには 裁くアンタらのような輩が ソれをわかっとかねぇといけねぇんじゃねぇのか?」


ディーの言葉に、他の面々が返すことができなかった。しかし、それを気にも留めずアンは言った。


「そして 偽りの正義の象徴たるもの それが ゼノ・プリズマ。」

「……!」

「危険性をわかっていながら 自分の利益のために 計画を推し進めました。そして それが この街の象徴となっている。そんな偽りの正義の権化ともいえる ゼノ・プリズマを 疑いもなく象徴に据えているのは そんな正義を認めているも同じです。だから ワタシたちは それを根元から絶つべく準備をしてきました。」

「それで ゼノ・プロジェクトに関わる文書を……。」

「そして その準備は整いました。では 我が同士よ。共に行きましょう。」


そういって、アンは手を上げ左から右へと動かした。すると、なんとそこに時空の穴が開いたのだった。


「あれは 時空の穴……!?」

「どういうこと……!?」


アルドたちは困惑している。


「では 行こう。世界を真の正義によるものにするため……。」


そうして、アンはその穴へと入り、ディーたちアウトサイダーもそれに続いた。


「待て!」


アルドは入ろうとしたが、そこに入る前に穴は閉じてしまった。


「くそっ……。」


アルドは悔しがりながら、ふと周りを見ると、みんなは非常に複雑な表情をしていた。それをみかねて、司政官が口を開いた。


「きみ達 誠に申し訳ないが これ以上は我々は追うことができない。他の者もあのような状態だ。だからこの先の捜査を きみ達に任せてもいいだろうか。」

「ああ。もちろんだ。」

「あいつらを あのまま 放っておくわけにはいかないし。」

「捜査官タル者 バッチリ解決ハ 鉄則デスノデ!」

「ええ。それに 場合によっては エルジオンに影響が出かねないわ。」

「ありがとう。恩に着る。こちらでできることはやっていく。そちらの方は頼んだよ。」

「ああ。それにしても いったいどこに行ったんだ?」

「ゼノ・プリズマのことを言っていたから プリズマがあるアルドの時代に とりあえず行ったら?」

「そうだな。よし じゃあ 現代へ戻ろう!」


こうして、捜査を託されたアルドたちは、現代へと向かった。


>>>


 アウトサイダーを追うため、現代へとやって来たアルドたち。まずは、アルドの故郷である緑の村バルオキーへと着いた。すると、着くなりすぐに、村の男性が走ってきた。


「アルド……!」

「やあ どうしたんだ?」

「今までどこに行ってたんだ!? 村長がお呼びだ!」

「爺ちゃんが? 何の用だろう?」

「これは緊急事態だ!」

「……?」


慌てる男に続いて、村長の家に入ると、村長が待ちわびたとばかりに寄ってきた。


「おお アルド……! やっと帰ったか……!」

「どうしたんだ 爺ちゃん?」

「国の一大事じゃ……!」

「何があったんだ?」

「プリズマが…… プリズマが光りを失ったのじゃ。」

「……!!!」

「しかも これは大陸全土で起こっているらしい。このままでは 人は生きていけん……。」

「あっ……!」


その時、アルドはバルオキーでエイミに呼び出された時、プリズマの点滅がゆっくりだったことを思いだした。


「あれは そういうことだったのか……!」

「それで ミグランス王から ぜひとも力を貸してほしいから来てほしい とのことじゃ。」

「わかった。じゃあ すぐにユニガンへ行くよ!」


こうして、ミグランス王に呼ばれたアルドたちは、ユニガンへと向かった。


>>>


 ユニガンに着いた一行は、そのまま宿屋へと向かった。すると、そこには、先客がいた。ギルドナだ。しかも、ひどく怒っている。


「一体どういうつもりだ!」

「失礼します……!」

「おお 来てくれたか!」

「アルドか! お前からも言ってやってくれ!」

「一体どうしたんですか?」


アルドの問いかけにミグランス王は、困り顔で言った。


「まず 大陸全土のプリズマが光を失った。」

「はい。爺ちゃんも そういってました。」

「そうか。この状況が続けば 人間は生活できなくなるだろう……。」

「……。」

「フン! そんなものに人間が依存しているから そうなるのだ。」

「現状をみれば それは否定できないな。」

「ミグランス王……。」


ミグランス王に同情するアルド。その横で、エイミが聞いた。


「ところで 何でギルドナがここに?」

「無論 ミグランス王に抗議するためだ!」

「抗議……?」


アルドが首をかしげていると、ギルドナは続けた。


「ここ最近になって 蛇骨島で 俺たち魔獣族が何者かに襲われて 死傷者が大勢出ている。」

「……!」

「セレナ海岸であれば 人間を襲うこともある奴らだから まだわかるが 蛇骨島は人間に害を加えないというのに そこにまで 人間が襲ってきている。だから これは一体どういうことかと ミグランス王に聞いているのだ!」

「王国の騎士団が魔獣を討伐するとしたら セレナ海岸で人間を襲う魔獣に対してだけだ。蛇骨島まで行っての討伐という指示は出していない。ましてや ここから 蛇骨島へはかなりの距離がある。」

「でも事実は事実だ!」


2人の主張を聞いて、ヘレナは言った。


「騎士団が行かなかったとしても 魔獣に恨みを持った人が行っているという可能性もあるわね。」

「ヘレナ……!」

「私がギルドナの立場だったら そう考えるわ。」


それらの意見を聞いて、アルドは言った。


「とりあえず オレたちも蛇骨島に行こう。誰が襲っているか 実際に見ないとわからないし。」

「そうしてもらえると 助かる。」

「俺も異論はない。」

「じゃあ みんなで 蛇骨島に行こう!」

「私もこの目で確かめたいところだが ここを離れることはできないのでな。かわりに 王国騎士団の者をつけよう。」

「失礼します。」


そういって、入ってきたのは、王国騎士団に所属するアナベルとディアドラだった。


「王国第一騎士団所属 騎士アナベル 遅ればせながら 馳せ参じました。」

「……同じく 騎士団所属 騎士ディアドラ 参った。」

「アナベルにディアドラじゃないか!」

「私たちがミグランス王の代わりに みんなについていくわ。」


こうして、アルドたちは、ギルドナと騎士団の者を連れて、蛇骨島へと向かった。


>>>


 蛇骨島の南部、蛇尾コラベルに来たアルドたち。すると、いきなり、こちらを呼ぶ声がした。


「兄さん!!!」

「アルテナか。どうした?」

「それが 最近ここを襲っている人がコニウムに現れたの!」

「なに!?」

「村の人が戦闘形態で戦っているけど 持ちそうにないわ!」

「死人を出さぬ前に 早く行くぞ!」

「ああ すぐに向かおう!」


一行は、島の中央にある魔獣の村コニウムへと向かった。


>>>


 コニウムへ着いた一行。


「あ あいつは……!」


そこでは、戦闘形態になった魔獣たちが戦っているが、ことごとく倒されていた。そして、刃を向けている敵は思いもよらぬ者だった。


「ディー! なぜここにいる!」

「……やっと来たかぁ……。」

「アルド あいつと知り合いか?」

「オレたち 未来で起こった事件の捜査をしていたんだけど……」

「あそこニいるノハ ソノ犯人のウチの一人 デスノデ!」

「なんだと……?」

「でも 未来の人間が この時代に来るって……」


アルテナが言わんとしていることに、エイミが答えた。


「犯行組織のリーダーが なぜか時空の穴を展開する力を持っていたのよ……!」

「そんなことよりも 今はあの者を止めなければ!」

「詳しいことは 後で話せ。」

「ああ そうだな!」


アナベルとディアドラの指摘に、アルドたちも同意し、ディーに刃を向けた。


「いいねぇ……。今度は エルジオンの時のようには いかねぇぜぇ?」

「それは こっちのセリフだ……!」


アルドたちは、それぞれ武器を構えた。


「こっちも 本気を出スとスるかぁ……!」


そういって、ディーは戦闘態勢に入った。どうやら、本来の戦闘は拳のようだ。そして、戦いの火蓋は切って落とされた。


>>>


「……ここまで やりあえるたぁ サスがだねぇ……。」

「クッ……。」


アルドたちが、立つ力もなくなりそうなほどに、疲労しているのに対し、ディーは消耗こそしているが、平気な顔をしていた。


「サて 時間稼ぎもできたことだシ ソろソろ行くとスるかねぇ……。」

「待ちなさい!」


その場を去ろうとするディーを呼び止めたのは、アナベルだった。


「あなた 何が目的かわかりませんが 無下に命を奪ったのなら 許しません!」

「あぁ……? てめぇら 魔獣を憎んでるんだろ……? なら 感謝の一つも言ってほシいもんだけどなぁ……?」

「こいつには 身をもって 教えた方がよさそうだな。」

「その様ね。人々の祈りの力…… 思い知りなさい……!」

「祈りの力? フンッ。ソんなくだらねぇもんに 付き合ってる暇はねぇんでサぁ。失礼スるぜぇ。」


ディーが帰ろうとした時、一太刀がディーを襲った。その一太刀は、ディアドラのものだった。


「グッ……。いつの間に……。」

「周りが見えないようでは 命を落とすぞ……?」


ディーは逃げようとするが、ディアドラの攻撃で、思うように動けない。そこに、人々の祈りを受けたアナベルの剣が、ディーに振りかざされた。


まばゆい光が消えると、ディーはひざまずいていた。


「くそっ……!」

「私は 誓ったのです。争いの根絶のために あらゆる生命を尊ぶと。そこに 人間も魔獣も関係ないのです。」


すると、立ち上がりながら、ディーは言った。


「ったく こんなに イライラさせるのは あのバカ親父以来ね……。でも あの2人のためにも ここでやられるわけには……。っ……!」


ディーは、自分の言ったことにハッとなると、急いでその場を去った。


「今のは……?」


アルドとエイミは、聞いたことのあるようなフレーズに首をかしげた。すると、ギルドナとアルテナが、アナベルとディアドラに話しかけた。


「お前たち 礼を言う。おかげで 村の者たちも助かった。」

「それに そちらの騎士の方が 言っていた言葉 嬉しかったわ!」

「……!!」


お礼を言うギルドナたちに、アナベルとディアドラは、なぜか驚いている。


「……? どうした。魔獣が礼を述べるのが そんなに珍しいか?」

「そうではなくて その……」

「お前たち 体が……!」


ギルドナとアルテナは、不思議がって、自分の体を見ると、なんと少し透けていたのだった。


「これは……!?」

「何これ!?」

「ギルドナとアルテナ それに ほかの魔獣たちも みんな透けてる!?」

「いったい 何が起こっているの?」

「ギルドナさんをハジメ 魔獣さんタチの エネルギー量が 減少してイマス!」

「魔獣のエネルギーって何かしら?」


ヘレナの問いにギルドナは言った。


「俺たちのエネルギーといったら エレメンタルだが……。」

「エレメンタル!? ってことは まさか……。」


その時、アルドやみんなを呼ぶ2人の声がした。


「お兄ちゃーん……!」

「アルド! それに皆の衆も!」


そこに現れたのは、アルドの妹であるフィーネと旅の仲間のサイラスだった。


「フィーネにサイラス! どうしたんだ?」

「古代が一大事でござるよ! アルド!」

「やっぱりか!」

「やっぱりって知ってたの お兄ちゃん?」

「いや 魔獣の力がエレメンタルで プリズマも 散ったエレメンタルが結晶化したものだ。だから……。」

「古代のエレメンタルに何かあったってことね?」

「まさに その通りでござるよ! 大変なことが起こったでござる!」

「わかった! とりあえず 古代へ急ごう!」


すると、ギルドナが話し始めた。


「すまん アルド。俺たちは ここを動くことができん……。」

「ああ。ギルドナたちの分まで 頑張るよ。」


すると、アナベルとディアドラも言った。


「私たちも力を貸したいところだけど ミグランス王に報告をしないといけないから……。」

「すまんな アルド。」

「ああ。ミグランス王に このこと伝えておいてくれ。」


アナベルたちと話した後、アルドは言った。


「よし。じゃあ 古代へ急いでいこう……!」


こうして、アルドたちは古代へと向かった。その途中、アルドはふと思った。


「さっきのディーの口調ってもしかして……。でも 何で……?」


アルドはモヤモヤしたこころもちで、古代へと向かっていったのだった。

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