第2話 枠の外にいる者
エルジオン各地で起こっている謎の事件の捜査に加わったアルド・エイミ・リィカ・ヘレナ。アルド一行は、捜査に協力するため、エルジオンのガンマ区画に来ていた。
「あっ アルド。みんなも。」
そこにいたのは、特殊機動隊員のヴィアッカだった。
「すごい数の隊員だな……!」
「今回は緊急事態だからよ。私でもこんなの見たことないわ。」
「そういえば ヴィアッカって さっきの場所にいたってことは 隊長かなんかなの?」
「いいえ 普段は隊員の一人だわ。だけど 今回は捜査権を 特別捜査本部に一時的に委譲するってことだったから 部隊の長が必要になって それで戦闘経験の多い私が その命を受けたのよ。」
「なるほどね。」
「それにしても これだけ色々な事件が起きているのに その手がかりが一つも掴めないなんて……。」
「なあ よければ その現場みせてもらってもいいか?」
「ええ もちろんよ。ついてきて!」
ヴィアッカに連れてられて、一行は爆発した現場を見て回った。そして、最後に来たのは、中央にあるゼノ・プリズマの前だった。
「ゼノ・プリズマか。」
「ええ。でも ここも他のところと同じく 中程度の爆発だったわ。」
「やっぱり オレが見ても分からないな。リィカはどうだ?」
「少し お待ちクダサイ!」
アルドに言われて、リィカは、スキャンを行い、顔を上げる。
「……驚くホド 何も出まセン。」」
「そうか……。現場に行ったら 何かわかるかと思ったけど 意外とわからないもんだな……。」
アルドはそう答えたが、リィカは何か考えているようだった。
「どうかしたのか?」
「……あまりニモ キレイすぎマス。」
「どういうこと?」
「何一つ 怪しいトコロガ 見当たりマセン。まるで 最初カラ 大きなケガに ならないヨウニ していたトシカ 考えられマセン!」
「なるほど。確かに そうみることもできるわね。」
「そうなると 一体何のために……」
「ギャーーーー!」
「な 何だ!?」
一般人もおらず、静かなエルジオンに突然、断末魔が聞こえた。しかも、一人ではない。
「……!」
「とりあえず 声にする方に行ってみよう!」
「ええ!」
>>>
アルドたちが声のした方へ行くと、EGPDや機動隊員が何人も倒れていた。
「これは……!」
「大丈夫! 気を失ってるだけで キズも浅いわ。」
「……こちら ヴィアッカ。複数のEGPD及び機動隊員が 負傷しています。至急 応援並びに救護班を ガンマ区画北東部へと向かわせてください! 私は負傷させた者の捜索に当たります!」
ヴィアッカはすぐさま、司政官に状況を伝えた。
「これでひとまずは 大丈夫。それより いったい誰が……?」
「叫び声が聞こえるまで 何も聞こえなかったということは 隊員たちに見つからなかったってことかしら?」
「……!」
すると、アルドは急に気配を感じ、剣を抜いて構えた。すると、それと同時に、何者かが斬りつけてきた。
「はぁー。今のに反応できるたぁ あんた なかなかのやり手だねぇ。」
「……!」
アルドはやっとの思いではじき返すと、その者は何事もなかったかのように、その場に立った。
「私は特殊機動隊員のヴィアッカ! あなたはいったい誰だ!」
「まぁったく セっかく 挨拶に来たってんのに ソの態度は ねぇよなぁ……?」
「よくも 隊員たちを……!」
「おいおい……。いつもだったら 一人残らず殺ってたところを プレスの指示で 生かシといてやったんだぜぇ……?」
「プレス……?」
「お前 人の命を何だと思ってるんだ……!」
「命だぁ……? サぁねぇ……。あんな 何の役にも立たん虫けらの命なんざぁ 知ったこっちゃねぇなぁ……。」
「貴様 言わせておけば……!」
ヴィアッカは、怒りのままにその者に突進していった。しかし、その者は最小限の動きで、ヴィアッカをよけると、蹴りを一発繰り出した。ヴィアッカは地面に突っ伏している。その者は、ヴィアッカにしか聞こえないくらいの大きさで言った。
「お前 少シうるせぇぞ。 もう少シ シつけてもらえ。枢機院にな。」
「……!!」
「ヴィアッカ!」
アルドも、ヴィアッカを助けるために突っ込もうとすると、その者が止めた。
「待ちなぁ……。お前たちと 戦いたくて来たわけじゃあ ねぇんだ。」
「何……?」
「プレスから 敵の数を減らシたうえで 猫を連れた剣士に挨拶に行ってくれって頼まれたんでサぁ。」
「オレに……?」
すると、その者は武器を納めるといった。
「おれたちぁ 枠の外にいる者 アウトサイダー。おれたちぁ 偽りの正義を絶つ者。」
「アウトサイダー……? 偽りの正義を絶つ……? いったい何のことだ?」
「ソりゃあ ソのうちわかりまサぁ。ソんで……」
その者は元の調子で言った。
「おれぁ ディー っつうんだ。見ての通り 汚れ仕事担当でサぁ。サて 役割も終わったことだシ ソろソろ 帰りまサぁ。」
「待て! お前には まだ聞きたいことが……!」
すると、ディーは振り返ることなく言った。
「まあ お前たちが おれらを 阻むってんなら また逢うかもシれねぇなぁ。プレスの考えは分からねぇが おれぁ あんたのこと 嫌いじゃないぜぇ?」
そして、そのまま空を見上げながら言った。
「あっ ソうソう。他の連中も 挨拶に来るみてぇだぜぇ? ソれじゃあな ……アルド。」
「……!」
すると、ディーは風のように消えていった。
「あいつ アルドの知り合い……?」
「いや 知らないよ。」
「じゃあ なんで アルドの名前を知っていたのかしら……?」
「ワタシのレーダーに 反応はアリマセンデシタ。もしや プロのマジシャンなのデハ!?」
「リィカ……。」
アルドたちが話していると、ゆっくりとヴィアッカが起きた。
「大丈夫か ヴィアッカ?」
「ええ。もう大丈夫よ。だけど あの短時間で 戦線離脱するように ピンポイントで狙うなんて……。それに……」
「それに?」
「あっ いや 何でもないわ。」
すると、救護班と応援がやって来た。
「隊長。ただいま到着しました。こちらのことは 私たちにお任せください。」
「ありがとう 助かったわ。」
「それから 司政官がお呼びです。」
「そうでしょうね。私も報告に行こうと思っていたから ちょうどいいわ。」
「オレ達も行くよ。」
アルドの提案に、ヴィアッカは首を横に振った。
「いいえ アルドたちは他の班と合流した方がいいわ。」
「そうか?」
「ええ。他の班の状態を見てきてほしいし さっきのディーとかいう男の話だと 他の仲間も挨拶に来るって言ってたでしょ? 他の仲間の情報は 私たちには必要不可欠よ。だから……」
「わかった。じゃあ他の班のところに行ってくるよ。」
「ありがとう。それじゃ。」
こうしてヴィアッカと別れたアルドたちは、次の行き先を決めていた。
「次はどこに行こう?」
「それなら KMS社に行きたいの。」
「どうしてだ ヘレナ?」
「KMS社の近くには 合成人間のアジトの工業都市廃墟があるわ。もしかしたら KMS社の班で合成人間のことについて 何か情報を得たかもしれないし。」
「わかった。じゃあ 旧KMS本社に行こう!」
>>>
旧KMS本社に来たアルド一行。そこでは、シャノン・クレルヴォ・ノノルドが捜査を行っていた。
「あら アルドくん! それにみんなも!」
「どうだ 捜査の方は?」
「そんなもの ボクの手にかかれば楽勝さ! と言いたいところだけど……」
「その言い方だと あまりよくなさそうね?」
「ああ。一応社内はすべてみてまわったが 見つかったのは血痕くらいなものだ。」
「け 血痕!?」
「あの 飛び散り方からするに 銃で一発だろうね。」
「なっ……!」
エイミはクレルヴォとノノルドの話で顔色が悪くなっている。
「ああ。だから 薬莢のひとつでも落ちているかと思ったが それもなかった。」
「まったく このボクを悩ませるなんて いい度胸じゃあないか!」
「この建物に来たってことは 何か情報を取りにきたんじゃないかしら?」
ヘレナの言葉にシャノンは首を横に振る。
「私もそう思って さっきデータセンターを確認したんだけど トラップエラーが邪魔で アクセスできないの。」
「とらっぷえらー……?」
「KMS社がよく使う罠だ。」
「データにアクセスしようとすると アクセスした者の情報が本社に送信される共に ドカーンと爆発するんだよ。」
「でも ここに残っている情報のセキュリティは そんなことしなくても そう簡単に破られることはないわ。だから 特別な事情がない限り 会社の者がわざわざそんなことを するはずがないのよ。」
「特別な事情トハ 何デスカ……?」
「そうね……。たとえば……」
「誰かが不正アクセスするのを わかっていたから とかな。」
「……!」
それを聞いて、アルドたちはハッとした。
「それって さっき私たちが逢ったディーって男じゃ……!」
「ディー?」
「ああ。さっきエルジオンでEGPDや機動隊員が襲われたんだ。その時に 襲ってきたのが ディーってやつなんだ。」
「他にはなんか言ってなかった?」
「あとは 組織の名前を言っていたな。たしか……」
「……アウトサイダー。」
アルドが言おうとした言葉を、見知らぬ女性の声が言った。
「誰!?」
「さアね~。見つけられたら 教エてアげてもイイわ。」
「この声…… 館内放送だな!」
「それなら データセンターだ。」
「みんな 行くぞ!」
そうして、一行はデータセンターへと向かった。
>>>
「どこだ!?」
「誰もいない……。逃げられた?」
「イエ ワタシたちの他にもう一人の反応アリ デス!」
「アら~。アンドロイドちゃんには バレてイたよウね~?」
皆が声のする方を見ると、アルドの後ろにいつの間にか女が立っていた。
「うわっ!」
アルドは思わずのけぞる。
「あなたは誰なの!?」
シャノンが聞くと、その女は答えた。
「困ったわね~。アタシは 何者でもなイのよね~。」
「どういうこと……?」
「まア でも 名乗る時と必要な時だけは 許すってプロフに言われたから イっか~。」
「プロフ……?」
すると、その女はアルドの方を見て言った。
「アタシたちは 枠の外にイる者 アウトサイダー。アタシたちは 否定を具現せし者。」
「やはりアウトサイダー……!」
「そして アタシは ディスよ~。アタシは 仕事で言うと ハッカーってところかしら~。」
「ほう。というと エルジオン全土に不正アクセスを仕掛けたのは お前か。」
クレルヴォの指摘に、ディスは笑いながら答えた。
「確かにアタシは 不正アクセスを行ったわ~。でも それはこの場所だけよ~。大体 アんなセキュリティだったら 誰だってできると思ウわよ~?」
「じゃあ ここでKMS社員を殺したのも アンタのしわざか?」
ノノルドの問いに、ディスはさらに楽しそうに言った。
「アレは 楽しかったわ~! アの男の慌てよウったら なかったもんな!」
「なに……!?」
「アの男 アんなに慌てて走り出して しかも 焦ってるから 大事なデータの入ったメモリを落としてやがるときた! こりゃ 傑作だぜ! いやァ 久しぶりに胸が高鳴ったな!」
「この人 急に口調が変わった!?」
「そんなことよりも よくもうちの社員を……!」
シャノンは、怒りをあらわにしている。
「アら 失礼~。人の最期のことになると つイつイ興奮しちゃって 口調が変わっちゃウのよねェ~。」
「……あなたのことは 絶対に許しません!!」
シャノンの怒りの言葉に、ディスは冷たい視線になって言った。
「アら その言葉 その男が取り出そウとしてイたデータを見ても 言エるかしら?」
「何ですって……?」
すると、ディスは出口の方へ歩きながら言った。
「それから その男以外は 全てディーがやったことよ~。勝手に恨まなイでちょウだイね~?」
「あなた その腕……。合成人間かしら?」
ヘレナの指摘に、ディスは歩みを止めていった。
「アタシは合成人間ではなイわ~。勝手な見方で アんな人畜無害な集団と 一緒にしなイでほしイわ~ ねェ 裏切り者のプロトタイプさん?」
「……!!」
そして、再び出ようとしたディスをアルドが止めた。
「待て!」
「アら まだ何か用かしら~?」
「お前たちの目的はなんだ……?」
すると、ディスは振り返って、アルドの方を見て言った。
「もし アなたが それを望むのなら この事件を追イ続けるとイイわ~。アなたは 特別な存在なのだから。」
そして、去り際にディスは言った。
「じゃあね ……アルド。」
「……!」
そうして、ディスはスイッチを取り出して、押した。すると、アルドの後ろで小さな爆発音が鳴り、あたりに電気が走った。
「くっ 何だ……!?」
「動けない……。」
しばらくして、動けるようになった一行。
「みんな 大丈夫か!?」
「ええ 何とかね。」
「アルドの後ろにいた時に 仕掛けられたのね。」
「そこマデハ 気づけマセンデシタ……。」
口々に話す一行をよそに、シャノンはまだ怒っていた。
「絶対に この事件を終わらせて見せる……!」
「おい お前たち! 何をボサッとしてるんだ!」
「どうしたんだ ノノルド?」
「聞いてなかったのか 全く……。じゃあ この天才的なボクが教えてやろう! さっきの女が そこのピンクの髪の女に言ってただろ! データを見てもその言葉が言えるかって!」
「あっ そういえば……!」
「だから ボクはデータを確認すべきだと……」
「これは……!」
ノノルドが語を続けようとしたところで、クレルヴォが驚いた。見ると、いつの間にか、端末にアクセスしていた。
「~~~っ!!また そうやって ボクを……!」
「ノノルド……。」
「それで 何のデータなの?」
シャノンはクレルヴォに尋ねる。
「……ゼノ・プロジェクトの最終方針を決める会議の語録に 頓挫したジオ・プロジェクトの計画書 ゼノ・プリズマの危険性をまとめた報告書などといったところだ。」
「……! そんなものを持ち出そうと……!?」
「これを持ち出そうとしたということは 会社にとって不利益となるものだということだろう。」
「……。」
「シャノン……。」
シャノンは少し考えてから言った。
「とりあえず 捜査本部に報告に行くわ。」
「ああ。じゃあオレたちは別の班のところに行くよ。」
「ええ。それじゃ また後でね。」
「行くぞ ノノルド。」
「ボクに 指図するな!」
「ちょっと待って!」
本部に戻ろうとする3人をヘレナが止めた。
「どうしました?」
「合成人間のことは 何か情報は入ってない?」
「うーん そこまでの情報は入ってないけど 合成人間が破壊されていたところの近くの端末に 今回の爆破の指示書が送られていたとか……。」
「……!」
「それじゃあ 失礼するわね。」
3人はそういって、本部へと向かった。すると、エイミが言った。
「ねえ アルド。」
「何だ?」
「やっぱり あのディスって人も アルドの名前を知っていたわね。」
「ああ。一体何者なんだ……?」
「目的も 素性も分からないままね。」
「今はとりあえず情報を集めるしかないな。」
「ハイ! 情報収集はサーチの基本 デスノデ!」
「それじゃ 次はIDAスクールに行こう!」
「アルド ちょっといいかしら?」
今度はIDAスクールへ行こうとするアルドたちを、ヘレナは引き留めた。
「何だ?」
「合成人間のことで 調べたいことがあるの。だから リィカとエイミを借りることはできるかしら?」
「ああ。オレは別に構わないよ。」
「私もいいわよ。」
「全く問題アリマセン ノデ!」
「ありがとう。じゃあ ちょっと借りるわね。」
こうして、ヘレナ達とも別れたアルドは、IDAスクールへと向かった。
>>>
IDAスクールへやって来たアルドだったが、その静けさに驚いていた。
「誰もいない……!? そういえば 事件が解決するまでは 休校にするって言ってたな。」
アルドはあたりを見回して言った。
「スクールも 人がいなくなると 静かなものだな。さて とりあえず まずはIDEAの作戦室に行こう!」
こうして、アルドは2階にあるIDEA作戦室に向かった。
>>>
IDEA作戦室に入ったアルドは、イスカたちIDEAと合流した。
「捜査の調子はどうだ イスカ?」
「ちょうどいいところに来たね アルド。」
「今から 捜査報告をするところよ。アルドも 聞いててね。」
ヒスメナが、そういうと、イスカはIDEAのメンバーを集めて言った。
「では 捜査報告と行こうか。まず 爆発物の件はどうだったかな。」
「ええ。私がサキと手分けして現場を見てきたわ。オペレーター さっき端末に送った画像を表示してくれるかしら?」
「はい。」
ヒスメナの指示でオペレーターが、画像を表示した。どれも爆発があったところの写真のようだ。
「エルジオン医大病院の現場には 焦げた跡があるくらいで 何も見つかりませんでした。また 場所も人が集まったり 通行量が多いというわけではなかったです。」
「IDAスクールの現場も 時間帯によっては誰もいないような場所に設置されていたみたいだわ。焦げ跡くらいで 爆弾に関わるようなものは何も見つからなかったわ。」
「ラグナ・ガーデンの現場も同様に 焦げ跡以外の痕跡と場所の特徴に変わりはありませんでした。だけど 焦げ跡の大きさから 他と比べて爆発の規模は大きかったようです。」
「レゾナポートの現場は 痕跡と場所の特徴は変わらないけど ラグナ・ガーデンとは逆に 他に比べて小規模の爆発だったみたい。」
報告を聞いて、イスカはアルドに聞いた。
「なるほど。ちなみに アルドは エルジオンの捜査に加わっていたけど そこの爆発も今の報告と同じかい?」
「ああ。同じ特徴だったな。」
「ありがとう。じゃあ 次は不正アクセスの件だ。どうだった クロード?」
「ああ。オペレーターと共に 不正アクセスがあった3か所を見てきたが アクセスされていた情報は ほとんど無関係と思われるものばかりだった。だが その中でさらに調査を行ったところ 閲覧時間が他に比べ長いものがあった。それがこれだ。」
クロードがそういうと、オペレーターは画像を切り替えた。
「まず エルジオン医大付属病院は 重役の名簿とその詳細 そして患者の名簿とその詳細だ。」
オペレーターは、画面を切り替えた。
「次に レゾナポートは ジュエリーショップの顧客リストと学生寮のリスト。」
さらに画像が切り替わる。
「IDAスクールは 生徒と教員の名簿 そしてIDEAが関わった事件のリストだ。」
「なるほど。それぞれについて 説明してくれるかな?」
イスカが説明を求めた。
「ああ。これらの情報を統合して考えると おそらく貴族や裕福な家庭 重役やその他 地位の高い職に就いているものの関係者を 洗い出そうとしていたと思われる。」
「なるほど。顧客リストや名簿の詳細があれば 入院歴や購入回数などからその人の財産面が見えてくるということか。」
「ああ。それとIDEAの事件のリストは 各事件の首謀者などを見るためだったのだろう。」
「わかった。では 最後にわたしから報告だ。」
メンバーから話を聞いたイスカは、一呼吸おいてから話し始めた。
「連日起こっていた生徒の誘拐の件だが 素性を調べていくと 非常に興味深いものがあったよ。」
「それはいったい何なの?」
「COAの長官 EGPDの副署長 IDAスクールの理事といった重役の子どもばかりだ。無論KMS社員の子どももね。あとは 貴族やお金持ちの子どもも多かった。おおよそ クロードが見つけたデータと合わせると 複数のデータで名前が合致するものが 多く出てくるだろうね。さらに 興味深いことに どの人も怪しい噂が一つはある。」
「なるほど。そうなると 怪しいと思われる人物や 裕福な家庭を狙っているということでしょうか?」
「ああ。しかし……」
すると、急にイスカの雰囲気が変わった。
「そうなると クロードとヒスメナは 真っ先に狙われてもいいものだがね?」
「おい イスカ そんな言い方……!」
「わたしは 事実を言ったまでだよ。」
アルドの注意をイスカは軽くあしらう。
「クロード ケリュケール王国の当代国王であるキミは 祖国復興のために 資金を調達しているんじゃないのかい?」
「確かに 王国の復興を望む私なら 狙われる可能性はあるだろうな。」
「ヒスメナも エルジオン御三卿の一角 ルナブライト家の令嬢であるキミも 相当裕福じゃないかい?」
「それはもちろん ルナブライト家の嫡子ですもの。お金に困ることはないわ。」
「なるほど。……そこか!」
すると、いきなりイスカはヒスメナに刃を向けた。ヒスメナはとっさによける。
「な 何するのよ!?」
驚くヒスメナにイスカは続ける。
「ヒスメナは確かにルナブライト家の嫡子だ。だけど そのように自己を家柄で例えることはしないさ。」
「だから 私にも そのように言ったのか。」
「ああ すまなかったね。」
「なぜそう思った……?」
「これだけ重役の子どもがさらわれていて 王族であるクロードと ルナブライト家のヒスメナが ここにいるというのが 引っかかっていてね。それで 2人にああいうことを言ったんだ。もちろん 2人とも本物だという可能性もあったけどね。」
「なるほど……。」
すると、ヒスメナが光りに包まれ、やがて謎の男の姿になった。
「……!」
「ただの 子どもの集いだと 思うていたが さすがは コの地の治安を任されているだケのコとは あるというコとカ。」
「さあ 正体を教えてもらおうか。」
イスカの要請に、その男は表情一つ変えずに言った。
「いいだろう。だが その前に ひとつだケ 伝えておコう。」
「何かな?」
「確カに お前たちの調べた通り そういった愚カな子どもを誘拐したのは事実だ。そコの王族を連れ去らなカったのは 貴様のいう王国が 存在していないコとカら ただの戯言だと判断したカらだ。」
「ふっ 貴様にはわからんだろうな……。」
「王族の考えなど 理解しようとも思わん。話を戻すが 誘拐した子どもの基準はそれだ。だが 目的は別のところにある。」
「一体なんだ その目的は!」
アルドが聞くと、その男は冷ややかな目で こちらを見ると言った。
「そのようなコとを 貴様らに話すと思うカ?」
「クッ……。なら あんたは アウトサイダーなのか?」
アルドの問いに、男は答えた。
「それには 答えるとしよう。チーフの指示だからな。」
「チーフ……?」
すると、その男は一歩下がって行った。
「我らは 枠の外にいる者 アウトサイダー。我らは 個を喪いしもの。」
「やっぱりか……!」
「そして 我が名は イル。いわゆる諜報を担っている。さて 任務は終わった。」
そういって、帰ろうとするイルにイスカは聞いた。
「まさか キミをそのまま返すとでも思ったかい?」
「何カ用カ。」
「誘拐された者たちは どこにいるのかな?」
「それを言って何になる。」
「無論 助けに行くに決まってるさ。」
「ならば お前たちの その優秀な頭で見つケてみるコとだな。まあ 傷つケるようなコとはせんようにと チーフに言われている故 何もするコとはないが。」
「あなたには さらわれた生徒やその家族者を想う心がないのですか?」
サキの指摘に、イルは今まで以上に冷たい目で言った。
「人の想いや感情に何の意味がある? そんな不確実で流動的なものに価値を置いているカら 欲にまみれたろクでもない人間が生まれるのだ。」
イルはそう告げると出口へと向かった。それをアルドが止める。
「逃がさないぞ!」
「やめておケ。捕まえたとコろで 何がでキるわケでもあるまい。」
「なに……?」
「貴様のコとは チーフがえらクお気に召しているようでな。会いたがっていた。」
「オレに……?」
「ではな ……アルド。」
「……!」
そういって、イルはその場を後にした。
「大丈夫かい アルド?」
「ああ。それより こうなるとヒスメナがさらわれたってことか!?」
「まあ そうなるな。」
「ヒスメナさん……。」
「そう落ち込むものではないよ サキ。」
「でも……。」
「現状で彼女たちを助けることができるのは 我々だけだ。そのことがわからない君ではないだろう?
「……そうですね。私 頑張ります!」
「その意気だよ サキ。」
そして、イスカはアルドを見て言った。
「私たちは 一度本部に報告に行くことにするよ。それに 現時点で 学生に危害が及ばないとわかった以上は 相手方の気分が変わる前に 場所を特定しなければならないからね。」
「わかった。それじゃ オレは他の班と合流するよ。」
「では 後ほど逢おう。オペレーター すまないが セキュリティシステムを見直しておいてくれないかな?」
「わかりました!」
そういって、イスカ・クロード・サキはその場を離れた。
「また オレの名前を……。いったい何者なんだ? それに 名前を呼ばれた時の あの妙な気持ちはいったい……?」
アルドはしばらく考えたが、すぐにやめた。
「考えても答えは出ないな。そういえば 今回の事件は ゼノ・プリズマに関わるって言ってたし ゼノ・ドメインに行ってみるか。」
こうして、アルドはゼノ・ドメインへと向かった。
>>>
ゼノ・ドメインの研究セクターにやって来たアルドは、すぐにセティー・レンリと合流した。
「捜査の方はどうだ セティー レンリ。」
「アルドか。先ほどまで 不正アクセスや爆発騒ぎがあったニルヴァ ラウラ・ドーム 工業都市廃墟を捜査して 今から ゼノ・ドメインの捜査するところなんだ。」
「ええ。思ったより時間がかかったわ。でも わかったのは どこも当たり障りのない情報ばかりにアクセスしているということと 爆発もその威力と痕跡から 人を殺害するために行われたものではないってことぐらいね。」
「オレが見て回った エルジオン 旧KMS本社 IDAスクールも 同じことを言ってたよ。」
「やはりそうか……。さて では こちらも調査するとしよう。」
そういって、近くの研究室に入ると、セティーは端末を調べた。
「……なるほど。」
「何かわかったのか?」
「こちらも 爆発があったみたいだが ここも小規模なものだったよ。あとは 不正アクセスの後に 爆発を起こしているということも分かった。」
「それじゃ さっきまでと変わらないわね……。」
「問題は不正アクセスされた情報の内容だ。だが さすがに ここではわからないか。」
「じゃあ 深層区画に行ってみましょうか。」
「そうだな。」
そういって、2人は早々に深層区画へと向かった。アルドはその様子を見て、思った。
「意外と捜査してるときは 馬が合うんだな あの2人。」
>>>
深層区画へとやって来た3人。今度はレンリが端末を操作する。
「これは……!」
「何か見つかったのか?」
「いや トラップエラーが かかってるの。」
「わかった。クロック トラップエラーの解除と データの解析を頼む。」
「承知しました。少し時間をいただきます。」
「じゃあ しばらくは待機か。」
「いや もうしばらくは休憩させてくれなさそうよ?」
レンリの視線の先を見ると、3体のガードマシーンが現れた。
「よし みんないくぞ!」
3人は武器を構えた。
>>>
あっという間に倒した3人。ちょうどそこでポッドであるクロックの解析が終わった。
「解析終了。データを表示……」
「危ない……!」
レンリはとっさに斧を構え、クロックたちの前に出た。すると、そこに謎の女が攻撃を仕掛けてきていた。
「あなた 得物の割に 俊敏ね!」
レンリはその女をはじき返すと言った。
「私はCOAのレンリよ。あなた 名を名乗りなさい!」
「そんなことより もっと戦いましょ?」
「同じく COAのセティーだ。今はこちらの指示に従ってもらおう。」
「ちぇっ。つまらないデすね。」
そういって、その女は武器を納めて言った。
「せっかく 戦えるー思うたのに もう終わりやなんて……。」
「口調が変わった……?」
「ああ これ 癖やねんよねー。戦いガ好きやから そのことになると ついっ。」
「早く我々の問いに答えなさい。」
「そういわれてもなぁー。まぁ ええかっ。マスターもいい言うてたしっ!」
「マスター……?」
そして、その女は表情が急に真面目になった。
「ウチらは 枠の外にいる者 アウトサイダー。ウチらは 史に葬られし者。」
「あんたも アウトサイダーか……!」
「そして ウチは ノンっちゅうんやっ。一応ドライバー 任してもろてますー!」
「なるほど。それで あんたの目的は何だ?」
「まあ 今は挨拶に来たダけやねんけド そうやってウチらの計画を邪魔しようとしとる奴がいたから これは止めなしゃーないなーって思ったってとこやなー。」
「あなた達の計画って何なの?」
「まあ それは そのうち分かるわっ!」
「はぐらかしても無駄だ!」
「おっともうこんな時間やっ! そんジゃ ウチはこれデっ!」
「待て!」
出て行こうとしたノンをアルドは止める。
「なにー? ウチ 忙しいねんけドなー?」
「あんたたちの 本当の目的はなんだ?」
すると、ノンは少し真面目な顔で言った。
「へぇー。あんた 鋭いねんなぁー。まあ 今まデ全部見てきてんから 当たり前かー。」
「どうしてそれを……!」
「そんなことより もうすグ ビッグイベントガあるから 楽しみにしとってな!」
「ビッグイベント……?」
「そんじゃ 後でなっ! ……アルド。」
「……!」
そういって、ノンはその場を去った。
「やっぱりあいつも オレの名前を……。」
「その反応から察するに 知り合いではないようね。」
「ああ そうなんだ。だけど 今までに逢った奴らも みんな オレの名前を知ってるんだ。」
「そうなんだな……。それで クロック。解析したデータは何だ。」
「はい。こちらです。」
「これは……!」
「何だったんだ?」
「クロノス博士のゼノ・プリズマ研究に関わるレポートに クロノス博士の晩年の手記に ジオ・プロジェクトの極秘研究計画書 か……。」
「これは かなりの トップシークレットの文書ね……。」
「やつらの狙いは これか。」
「とりあえず 本部に報告よ!」
「そうだな。アルドも来てくれ!」
「ああ。」
アルドは、2人についていこうとして、途中で思った。
(やっぱり さっきも名前を呼ばれた時に妙な感覚になったな……。それに 4人が言っていた プレス プロフ チーフ マスターっていうのは いったい誰のことだ……? あと ビッグイベントって……?)
「おいてくぞ アルド!」
セティーの呼ぶ声に、我に返ったアルドは、セティーたちと共に、本部のある司政官室へと向かったのだった。
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