正義の反対側

さだyeah

第1話 小さな変乱、大きな異変

 A.D. 1100年 旧KMS本社内。一人のKMS社の研究員は、必死になって、あるものに関する機密情報のデータを移していた。


「早く……早く……早く! 早くしないと アイツみたいに 私もやられる……!」


研究員は、運動をしてもかかないくらいの量の脂汗を滴らせていた。


「……たのむから 早くしてくれ……!!!」


研究員のメガネは熱気で曇るほどだ。そして、とうとうすべてのデータを動かすことができた。


「よし よし よし!! これで トラップデータを入れておけば……」

「わざわざ ご丁寧にデータを移シてくれるなんて ご苦労なことで……。」

「……!!! だ 誰だ!」

「誰かって? あんたが知る必要はねえでサぁ。だって……」

「……!!!!!」

「あんたは ここで 死ぬんだから……!」


研究員はどこの方向ともわからぬ方向に走った。逃げる研究員の後ろ姿をみてにたりと笑った。


「わざわざ 死に急がんでもいいのに……。ヒヒヒ……」


研究員は部屋を出ると、そこに女が立っていた。


「い いやあああぁぁぁぁぁぁ!!!」


研究員の断末魔の後、銃声と鈍い音がした。しばらくして、女が入ってきた。


「スまねえなぁ 手伝わセちまって。」

「全く 自分の担当は 自分で何とかしてほしイものだわ~。」

「まあ ソういうなよ。人手が欲シいだなんて プレスに言ったら どうなるか……。」

「まア ただではすまなイでしょウね~。」

「だろぉ? だからこうやって お前に頼んでんじゃあねえか。」

「まア 最期を任せてくれたから それでよしとしてやるわ!」

「あんたも 物好きだねぇ。理解できねえでサぁ。」

「アら~? 醜イ人の最期を自分の手で止めるなんて たまんねーだろ!」

「あんたの その口調が変わるの 何とかならねぇのか? まあ それはともかく ……あんな害虫のことなんざぁ どうでもいいのサぁ。とりあえず 報告はおれであげサセてもらうぜぇ?」

「まア イイわ~。今回は 譲ってアげるわね~。」

「……サぁて あっちはうまくいってんのか 気になるところだねぇ……。」


>>>


 A.D. 1100年 数分前 シティ・エントランス。IDAスクールの女子学生は息が切れていた。誰かに追われて走って逃げてきたからだ。


「ま 全くなんだってのよ……。もし 何かあったら 父さんに言いつけてやるんだから……!」


そう言いながら、学生はカーゴの時間を確認する。どうやら、あと数分で来るらしい。


「貴様 逃げおおせると お思いカ?」

「……!! な 何なのよ いったい! もし 私に何かしてみなさい。 私の父さんが 黙ってないんだから……!」

「EGPDの副署長ごとキに 何ができるというのだ?」

「……!! なんで それを……!」

「何も知らずに 貴様のような子どもを 相手にするほど暇ではないのでな。」


すると、カーゴがやって来た。女子学生はこれ幸いとばかりに走って行く。


「残念だけど あんたみたいな怪しい奴より 私のような優秀な血筋に 運は味方するのよ!」


そういって、女子学生はカーゴに乗ったが、その瞬間中にいた女に布で鼻と口を覆われ、やがて気を失った。


「そのような 阿呆な考えに侵されているカら 身を滅ぼすのだ。」


すると、カーゴの中から、女が出てきて言った。


「おいっ! 長居デきひんねんから はよ乗らんかいっ!」

「そう言うな。すぐにむカう。」


そうして、男はカーゴに乗り込むと、ほどなくして出発した。男は助手席に座る。


「それデ 今回は ドこの誰なんやー?」

「EGPDの副署長の娘だ。」

「はぁ~ そりゃまた 偉い大物やなっ!」

「どコの娘であろうが その者は ただの人だ。」

「相変わらズ あんたは 情ガあらへんなー。」

「不必要だ。」

「しかし 自分の仕事は自分でやってほしいもんやわ ほんまにっ!」

「同じ組織で 仕事に支障があれば 他の者が 補填するのは 当然であろう?」

「せやかて 普通 感謝の一つくらい あってもいいやろー?」

「大キい声をだすと 奴らが起キるぞ。」

「……はぁ……。もっと 戦うような仕事ほしいわー。」

「……。」

「もっと 身の危険を感ジるような しのギの削り合いを……! あなたもそう思うでしょ?」

「また 癖が出てるぞ。」

「おっと 戦いの話になると ついつい変わってまうわっ!」

「……。」


こうして、カーゴはどこかへと飛んでいった。


>>>


 A.D. 300年 バルオキー。アルドは、ながい旅を終えてから、故郷でゆっくりと過ごしていた。


「ふぁ~……。今日もいい天気だな。久しぶりに散歩でもするか。」


そういって村長の家の一つ南にある道を歩いていると、アルドはある違和感に気付いた。


「ん……? あの水のプリズマ……。」


アルドは近寄ってみると、いつもはエネルギーの波で点滅しているプリズマの点滅が、ゆっくりになっていた。


「プリズマの点滅って こんなにゆっくりだったっけ?」


そんなことを思っていると、急に声が聞こえた。


「アルドーーーー!!」

「エイミじゃないか! どうしたんだ!」

「み 未来の世界が 大変なことになってるのよ!!」

「大変なこと……?」

「とにかく 一緒に未来まで来て! そのほうがはやいわ!」

「あ ああ。」


>>>


「何だ これ!?」


アルドは、エルジオンの様子を見て驚いた。一般人は全くおらず、代わりにEGPDや機動隊員がそこら中にいた。


「一体何があったんだ?」

「ここ最近急に 事件が多発したのよ!」


すると、遠くからリィカとヘレナがやって来た。2人とも非常に慌てている。


「あっ アルドさん!!」

「エイミも一緒だったのね!」

「2人とも いったいどうしたんだ?」

「ソレガ どこを探しても サーチ・スキャンを行っても セバスちゃんガ 見当たりマセン!」

「……!」

「こっちも 合成人間たちが 工業都市廃墟で破壊されているの! しかも どの映像記録にも犯人の顔が映ってなくて……。ガリアードは 自分も捜査したいけど 今変に動いたら ややこしくなるからって動けてなくて……。」

「一体何がどうなってるんだ?」


突然の事態に驚いていると、アルドのもとにアンドロイドが一体やって来た。


「アルドサンデスネ?」

「あ ああ。」

「司政官ガ オ呼ビデス。」

「司政官が オレを?」

「今の状況も知りたいし 行きましょ?」

「ああ そうだな!」


一行は、アンドロイドに従って、司政官室へと向かった。


>>>


 司政官室へ向かうと、司政官は少し慌てた様子でアルドに寄ってきた。


「おお きみ達 待っていたぞ!」

「司政官 いったいエルジオンで何が起きているんですか?」

「ああ。まさにそのことで きみに協力してもらいたくてね。」

「オレに? どういうことですか?」

「詳細は全員そろってから 共有するとしよう。もうすぐ来る頃だ。」


司政官がそう言い終わったときに、司政官室の扉が開いた。すると、部屋に入ってきたのは、司政官直属の捜査組織COAのレンリ・セティー、司政官直属の特殊機動部隊のヴィアッカ、IDA防衛執行委員会、通称IDEAのイスカ・クロード・ヒスメナ・サキ、そして元KMS社の研究員のクレルヴォ・ノノルド、KMS社のマーケティング担当のシャノンだった。


「アルド……!」

「キミたちも来ていたんだね。」


レンリとイスカは、アルドたちの姿を見るなり言った。他の人たちも驚いたようなやはりというような顔だった。


「みんなも呼ばれてたのか!」


アルドは、次々と来る仲間たちに驚いていた。そして、何より驚いていたのは司政官だった。


「まさか きみ達が全員知り合いだとは……。すごい縁があったものだ。」

「アハハ……。みんな頼もしい仲間だよ。それで これだけの人を集めて 何をするんだ。」

「そうだな。では始めるとしよう。ただ今から ミーティングを始める。」


司政官の言葉に、部屋の中は一気に緊張感に包まれた。


「まず 現状の把握といこう。IDEAとKMS社についても 前に倣ってそれぞれで確認されている状況の報告を頼む。」

「では まず COAから報告をさせていただきます。」


最初に切り出したのは、セティーだった。


「ここ数日間で 各地のデータベースに 不正アクセスがみられました。こちらで把握しているのは エルジオン全区画 ニルヴァ ラウラ・ドーム 工業都市廃墟 ゼノ・ドメインの5か所です。」

「続けて報告します。エルジオン各地で中程度の爆発 家庭用ドローンの誤作動 その他殺人傷害事件が 多数発生しています。爆発に関しては 命に別条がない程度のものですが 十分に警戒する必要があるかと思います。」


レンリの報告が終わると、ヴィアッカが報告した。


「機動隊の方から報告いたします。現在 司政官の指示を受けて エルジオン全区の外出等を禁じ EGPDと共に厳戒態勢を敷いています。しかし 厳戒態勢後のエルジオン内の異常は確認されていません。」


ヴィアッカの次に発言したのは、イスカだ。


「では IDEAからも報告をさせてもらうよ。」

「ああ。よろしく頼む。」

「まずIDAスクールに通う学生が連日数人ほど 行方不明となっている。我々IDEAは 拉致されたと見ている。」

「また 先のCOAの報告にあったのと同様 不正アクセスの形跡が見つかっている。形跡が見つかったのは IDAスクール レゾナポート エルジオン医科大学IDAキャンパス附属病院の3か所だ。」

「続けて これもCOAの方からの報告と同様 IDAの各地で中程度の爆発が見られています。幸い爆発による死者は出ていませんが 多くの人がエルジオン医大付属病院で治療を受けています。」

「ま また 事件を受けてIDEAの手により IDAの各エリアを封鎖しています。IDEAが当事件について 捜査を続けていますが 手がかりは掴めていません。」

「以上のことを考慮し IDAスクールの理事は 先ほど 事件収束までの間 休校することを決めたようだ。」

「IDAスクールが休校!? そんなこと聞いたこともないわ。」

「それだけのことをさせる事件だということだよ。」


エイミの反応にイスカは答えた。IDEAのメンバーの報告に続いて、発言したのはシャノンだ。さすがに、いつもの明るさはなく、真剣な面持ちだ。


「それでは KMS社から報告します。まず 当社においても 先の報告にあったように 不正アクセスが見られました。形跡が見つかったのは 現KMS本社だけでなく 旧KMS本社でも確認されました。また 両社内外で 研究員や重役の殺人事件が多発しています。当社はまだ特に指示は出していませんが 社員が恐怖と不安から 無断欠勤が相次いでいるため 事件解決までは営業停止にするだろうと思います。」


シャノンの報告が終わると、エイミが声を上げた。


「こちらからも 失礼するわ。」

「きみ達からも 何か報告があるのかね?」

「ええ。リィカ・ヘレナお願い。」

「ハイ。先ほどセバスちゃんの家へ行ったトコロ 家中どこにも姿ガ見当たりマセンデシタ。」

「何……!?」

「また ワタシのサーチ・スキャンを行いましたガ エルジオン内で反応は見られマセンデシタ。」

「セバスちゃんとはいったい誰だい?」


イスカが質問すると、司政官が答えた。


「彼女は KMS社会長の孫娘だ……。」

「……! なるほど……。」

「会長のお孫さんも!?」


イスカが納得する横で、シャノンは知らなかった情報に驚いていた。


「続けて話させてもらうわ。」

「お前は……!」

「あなた 合成人間の……!」


他の人からの当然の反応に、ヘレナはまず断りを入れた。


「かつてはそうだったわ。でも今は アルドたちと旅をしているわ。無論人間に危害を加えるつもりもないわ。今危害を加えている合成人間は わたしとは袂を分かったわ。」

「それについては オレが保証するよ。ヘレナは大丈夫だ。」

「それで報告は その合成人間についてよ。我々側についた合成人間から連絡があったので 確認したところ 工業都市廃墟で 大量の合成人間が破壊されていたわ。しかも 映像記録を見ても犯人は映っていなかったわ。」


一連の報告を聞いて、司政官は言った。


「なるほど。報告ありがとう。ことは深刻なうえに 想像以上に広範囲に及んでいるようだ。しかし これだけ犯行がなされていて 犯人像が一切わからないとは……。」


すると、今まで黙っていたクレルヴォとノノルドが口を開いた。


「犯人像とまではいかないが 気になることがある。」

「何だね?」

「先ほど 殺された研究者のリストを見せてもらったが 殺された研究員には共通点がある。」

「それは何だ?」

「全員 ゼノ・プリズマに関わる著名な研究員だ。」

「何……!?」

「ああ それも ものの見事に ゼノ・プロジェクトに関わっていたメンバーだ。」

「……!」

「ゼノ・プロジェクトって 改良型ゼノ・プリズマを開発するっていうあれか!?」


その話を受けて、司政官は言った。


「これらを考えると 今回の各地で起こっている事件は 少なからずゼノ・プロジェクトとかかわっている可能性が高い。だが まだ情報が少なすぎる。そこで まずIDEAに対し 捜査において発覚した情報の共有 IDAとエルジオンでの捜査に関して 特例的に相互に人員の提供などの協力 及び捜査の参加を許可を要請したいと考えているのだが どうかね?」

「ああ。通常なら相互不干渉が決められているが 今回の場合は協力した方が互いのためになることは理解しているよ。その要請に答えよう。」

「わかった。ご協力感謝する。」


そして、司政官はみんなを見渡すと、言った。


「では 本事件の解決を目的とする特別捜査本部をここに設置し COA 特殊機動隊 EGPD IDEA KMS社 これらの組織合同で 組織の垣根を超えて 捜査することとする。なお この本部設置について 各組織は了承済みであり 指導権はこちらに譲渡されているため この事件の捜査においては 本部の指示に従うこと。また 皆は これから 情報を知っている者として 犯人に狙われる可能性がある。くれぐれも無理をせぬように。」

「すごいことになってきたな……。」

「それほどのことなのよ 今回の事件は。」


アルドの反応にエイミはそう返した。


「また 本部で共有される情報は 機密性が極めて高い。よって 任務を除く情報については このメンバー内でのみ共有を許可されるものとする。これでよいかな?」


司政官の問いかけに皆うなずいている。すると、司政官はアルドに向き直って言った。


「ときに きみ達をここへ呼んだのは この本部にきみ達も参加してほしいからだ。」

「もちろん オレたちも協力したいと思っていたからするけど オレはそこまで役に立つかわからないぞ?」

「いや きみ達は様々な危機を幾度となく救ってくれた。無論エルジオンの民ではないきみ達に 何度も協力をお願いするのは おこがましいとは思う。しかし 何としても解決せねばならんのだ。」


すると、少し近寄って小さい声で、さらに続けた。


「それに 数々の危機を救ったきみが捜査に加わることで 他の者の士気が上がる。そして なにより こうして他の組織と合同で捜査するのは これが初めてだ。当然 組織間の対立も考えられる。しかし 解決を目指す我々が 仲たがいしている場合ではない。だからこそ きみが間に入ることで 円滑に進むというものだ。」


そして 司政官は先ほどの位置に戻って言った。


「本部に加わってくれるかね?」

「ああ!」

「ありがとう! では 共に エルジオンの未来を守るぞ!」

「ハイ!」


全員が返事をした。


「では いったん解散とする。捜査の方 よろしく頼む。」


司政官の言葉を受けて、みんなはそれぞれ分かれた。そこで、アルドはエイミたちに言った。


「じゃあ オレ達も行くか。」

「ええ。じゃあ まずどこに行く?」

「まずは エルジオンでの捜査に加わろう。」


こうして、アルドたちは事件の解決のため、エルジオンのガンマ区画へと向かった。


しかし、この時まだアルドたちは、彼らの恐ろしい計画には気付いてなかった。

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