二十一話 ドビュン……!
飛竜が現れた。
頑張ってやっつけた。
でも、右の翼が折れた。
★
「これで終わりなのじゃ」
「ああ。ありがとう……。助かったよシノ……」
折れた翼をグリグリとシノに整復してもらった。
飛竜に喰われた方がマシなんじゃないかってくらい痛かったが、やらなきゃ後悔するので仕形がない。
「しばらくは安静にしないとダメなのじゃ」
「いやいや、俺だってゆっくりしていたいところだけど、このままじゃまずいだろう」
「ああ、また水源の水が無くなったからじゃな」
「そうだ、また川で水を汲んでこないと、城なしが凍り付いてしまう」
しかし、また後片付けが必要だな。
「壺も元に戻さないと……」
「それならラビがやっているのじゃ」
「あっ、本当だ。でもなんでまた一人で……」
「主さまが怪我をしたから、いてもたってもいられないのじゃろう」
なるほど落ち着かないのか。
結局心配させてしまったかな。
「でも壺が持ち上げられなくて途方にくれているみたいだ」
顔を真っ赤にしても持ち上がらんか。
大きいから持ちにくいってのもあるんだろうな。
「ラビ。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫なのです」
「なんじゃそりゃ」
大いなる矛盾で返されてしまった。
反抗期だろうか。
「俺がかたっぽ持つよ」
「はい。いや、ダメなのです! ご主人さまには手伝ってもらいたくないのです」
やはり反抗期なのか?
いやいや、これはあれか。
俺を気づかってくれているのか。
なら、少し知恵を授けよう。
「シノ。なにかこう鉄の棒的なモノを持っていたら貸してくれないか」
「あるのじゃ、ほい。ところでなんに使うのじゃ?」
「こうやって壺の底に刺してクイってやるのに使うんだ」
テコの原理とか言う奴だな。
「あとこう、コロコロ転がる木の棒を何本か作ってくれないか」
「任されたのじゃ」
「丸い棒なんてなんに使うのです?」
「壺の下に敷いて転がすんだよ」
何かで見て覚えた。
石材運ぶのに使ってるの見たんだっけか。
「ほい。丸い棒が出来たのじゃ」
「じゃあ、やってみようか」
「鉄の棒で持ち上げて丸い棒を壺のしたに敷く──。出来たのです!」
よしよし。
これでラビのかしこさアップだ。
非力だから使う場面も多いだろう。
「ところでこの矢にも釘にも見える鉄の棒はなんなんだ?」
「手裏剣なのじゃ」
「まさかの棒手裏使い。マイナー過ぎてわかるかそんなん」
日本人でも100人に1人くらいしか知らんだろうよ。
「ご主人さまご主人さま、ここからどうすれば良いのです?」
「ん? ああ、あとは、壺を押せば楽に移動させることができるって寸法だ」
「本当なのです! これなら楽チンなのです……。コロコロっ、コロコロっ、あっ!」
「あぁ。ラビがこけたのじゃ」
ドビュン……!
「あー、いきおい余って壺は飛んでっちゃったかあ」
ここの壁ぶっ壊されちゃったからね。
そりゃあ壺だってお空飛んでっちゃいますわ。
ラビが落っこちなくてよかった。
「ごめんなさいなのです……」
「いやいいよ。でも、落ちたら危ないから気を付けてね」
ラビさえ無事ならいいさ。
と言うか俺がつくったわけじゃあないし。
念のため鎖を握っておこうか。
ペット扱いしているみたいで気が引けるが……。
ん?
何か視線を感じるような?
「どうしたのです?」
「いや、何でもないよ」
きっと気のせいだ。
言っても怖がらせてしまうだけだから黙っておこう。
壁がないとやはり不安なので城なしの片付けもそこそこにして、城なしの水源を確認に。
「やっぱり水が減ってるな」
「城なしは氷漬けになってしまうのです?」
「ああそうだ。北極グマも大喜びな氷の塊になってしまう。北極グマは城なしに来れないのに!」
「なんだか北極グマ可哀想なのです……」
「そうな、でもその可哀想は城なしに帰してあげような」
いや、そんな事はどうでもいい。
「それより急いで城なしのために水を汲んでこないとなぁ」
「じゃが困ったのう。主さまが空を飛べないと水を汲んでこれないのじゃ」
「いや待て、なにか勘違いしていないか? 俺は問題なく空を飛べるぞ?」
「はっ?」
「えっ?」
一枚くらい折れたところで飛べないなんて事はない。
まあ、飛べるからにはさっさと地上に降りて川で水を汲んできた。
「まさか本当に飛べるとはのう」
「まあ、庇っても風を受けちゃうからかなり痛いけどね」
ん? また、誰かに見られているような……。
空を飛ぶしか能がないから空の上で暮らすわ 〜ご主人さまはすごいのです!~ つばさ @soratobusika
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