二十一話 ドビュン……!

 飛竜が現れた。

 頑張ってやっつけた。

 でも、右の翼が折れた。



「これで終わりなのじゃ」


「ああ。ありがとう……。助かったよシノ……」


 折れた翼をグリグリとシノに整復してもらった。


 飛竜に喰われた方がマシなんじゃないかってくらい痛かったが、やらなきゃ後悔するので仕形がない。


「しばらくは安静にしないとダメなのじゃ」


「いやいや、俺だってゆっくりしていたいところだけど、このままじゃまずいだろう」


「ああ、また水源の水が無くなったからじゃな」


「そうだ、また川で水を汲んでこないと、城なしが凍り付いてしまう」


 しかし、また後片付けが必要だな。


「壺も元に戻さないと……」


「それならラビがやっているのじゃ」


「あっ、本当だ。でもなんでまた一人で……」


「主さまが怪我をしたから、いてもたってもいられないのじゃろう」


 なるほど落ち着かないのか。


 結局心配させてしまったかな。


「でも壺が持ち上げられなくて途方にくれているみたいだ」


 顔を真っ赤にしても持ち上がらんか。


 大きいから持ちにくいってのもあるんだろうな。


「ラビ。大丈夫か?」


「大丈夫じゃないけど、大丈夫なのです」


「なんじゃそりゃ」


 大いなる矛盾で返されてしまった。

 反抗期だろうか。


「俺がかたっぽ持つよ」


「はい。いや、ダメなのです! ご主人さまには手伝ってもらいたくないのです」


 やはり反抗期なのか?

 いやいや、これはあれか。

 俺を気づかってくれているのか。

 なら、少し知恵を授けよう。


「シノ。なにかこう鉄の棒的なモノを持っていたら貸してくれないか」


「あるのじゃ、ほい。ところでなんに使うのじゃ?」


「こうやって壺の底に刺してクイってやるのに使うんだ」


 テコの原理とか言う奴だな。


「あとこう、コロコロ転がる木の棒を何本か作ってくれないか」


「任されたのじゃ」


「丸い棒なんてなんに使うのです?」


「壺の下に敷いて転がすんだよ」


 何かで見て覚えた。

 石材運ぶのに使ってるの見たんだっけか。


「ほい。丸い棒が出来たのじゃ」


「じゃあ、やってみようか」


「鉄の棒で持ち上げて丸い棒を壺のしたに敷く──。出来たのです!」


 よしよし。

 これでラビのかしこさアップだ。

 非力だから使う場面も多いだろう。


「ところでこの矢にも釘にも見える鉄の棒はなんなんだ?」


「手裏剣なのじゃ」


「まさかの棒手裏使い。マイナー過ぎてわかるかそんなん」


 日本人でも100人に1人くらいしか知らんだろうよ。


「ご主人さまご主人さま、ここからどうすれば良いのです?」


「ん? ああ、あとは、壺を押せば楽に移動させることができるって寸法だ」


「本当なのです! これなら楽チンなのです……。コロコロっ、コロコロっ、あっ!」


「あぁ。ラビがこけたのじゃ」


 ドビュン……!


「あー、いきおい余って壺は飛んでっちゃったかあ」


 ここの壁ぶっ壊されちゃったからね。

 そりゃあ壺だってお空飛んでっちゃいますわ。

 ラビが落っこちなくてよかった。


「ごめんなさいなのです……」


「いやいいよ。でも、落ちたら危ないから気を付けてね」


 ラビさえ無事ならいいさ。

 と言うか俺がつくったわけじゃあないし。

 念のため鎖を握っておこうか。

 ペット扱いしているみたいで気が引けるが……。


 ん?

 何か視線を感じるような?


「どうしたのです?」


「いや、何でもないよ」


 きっと気のせいだ。


 言っても怖がらせてしまうだけだから黙っておこう。




 壁がないとやはり不安なので城なしの片付けもそこそこにして、城なしの水源を確認に。


「やっぱり水が減ってるな」


「城なしは氷漬けになってしまうのです?」


「ああそうだ。北極グマも大喜びな氷の塊になってしまう。北極グマは城なしに来れないのに!」


「なんだか北極グマ可哀想なのです……」


「そうな、でもその可哀想は城なしに帰してあげような」


 いや、そんな事はどうでもいい。


「それより急いで城なしのために水を汲んでこないとなぁ」


「じゃが困ったのう。主さまが空を飛べないと水を汲んでこれないのじゃ」


「いや待て、なにか勘違いしていないか? 俺は問題なく空を飛べるぞ?」


「はっ?」


「えっ?」


 一枚くらい折れたところで飛べないなんて事はない。


 まあ、飛べるからにはさっさと地上に降りて川で水を汲んできた。


「まさか本当に飛べるとはのう」


「まあ、庇っても風を受けちゃうからかなり痛いけどね」


 ん? また、誰かに見られているような……。

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空を飛ぶしか能がないから空の上で暮らすわ 〜ご主人さまはすごいのです!~ つばさ @soratobusika

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