二十話 やっぱりこいつだった

 城なしが荒らされた。

 ラビとシノが体調不良を訴えた。

 調子が悪いのは城なしだった。



 結論から言うと、地上に降りて城なしエディターを川に突っ込み、城なしの水源に水を注ぐことで、城なしの調子は改善にした。


「お魚がいるのです!」


「そうな。川で水汲んだときに入ったんだろう。なんて名前の魚だ?」


「あれは鮭なのじゃ」


「ほー、そりゃあ良い。イクラとかとれたりしないかな」


 ついでに、城なしの水源には鮭が棲むように。


 ただそれも一時的なもので、次の朝には城なしに川ができていて、水源から川へ鮭は移されていた。


 結構な数が水源にいたと思うんだが、どうやって川に移したんだろうか。


 まあ、なにはともあれ、城なしが元気になって良かった。


 めでたしめでたし。


 で、終われば良かったのだけれど。




 それから数日が経ったある日の事。


「ルガアアアアア!」


 城なしに大地を震わす咆哮が響く。


 なんだなんだと縦穴式住居から飛び出して声のする方を見れば、飛の光を浴びて煌めく巨体。


 やれやれ、また来ちゃったし、出会っちゃったし、やっぱりこいつだったし。


 そう、こいつは城なしに出会ったその日に、俺を鼻で笑って去っていったまっしろな巨体の飛竜ワイバーンだった。


「こ、こっちに来るのです!」


「すごいな。アイツまったく減速せずに城なしに突っ込んで来るぞ。どうやって着陸するつもりだ?」


「主さま。感心している場合じゃないのじゃ!」


 飛竜は高度を城なしの高さに合わせると。


 ドゴォ!


 足をぶつけて城なしの壁をぶっこわし。


 スザザザザザザザー。


 城なしの上を転げ回るようにして減速した。


「なんちゅう着陸の仕方をするんだよ……」


 そんな事したら、ふつう体が大根おろしみたくなってしまうわ。


 その辺は飛竜だからという理由で何ともないのか?


 あ、いや、ちょっと擦りむいてる。


 無茶するなし。


 もしかすると着地が壊滅的にヘタなだけなのかもしれない。


「主さま! まだ飛竜はこちらの存在に気づいていないから、今の内に身を隠すのじゃ!」


「あ、ああ、そうだな」


 シノに言われて俺はラビを抱えて縦穴式住居に引っ込んだ。


 もっとも、飛竜が突っ込んできた衝撃波で屋根がすっ飛んだせいでもうただの穴でしかない。


 そこから俺たちは頭だけだして飛竜の様子を伺った。


「ごごごご主人さま。どどどどうするのです?」


「どうするって言ってもなあ……」


 どうにもならんわこんなデカいヤツ。


 でも、どうにかしないと何度も城なしにやって来そう。


「ルガアアアア!」


「火を吹いたのです!」


「水源を温めておるのじゃな」


「で、温めた水源に浸かるわけだ」


 なるほど、前回の惨状が完全に再現されたわけだ。


 迷惑なやっちゃ。


 はてさて、戦ってどうにかなる相手じゃあないだろうし本当にどうしたものか。


 あ、いや待てよ?


 以前女神さまが延々と異世界について語っていた時に、ドラゴンはとても賢く、中には人よりも賢い個体も存在するって話があった。


 飛ぶ竜と書いて飛竜だし、コイツもドラゴンみたいなもんだろう。


 言葉が通じるかもしれない。

 まずは話し合おう。

 しかし、アイツは火を吹く。

 話し合いに失敗して服が燃やされたら大変だ。


「どうしたものか……」


「何で悩んでいるのです?」


「ぱんつまで脱ぐか脱がざるべきか」


「何故脱ぐのです!?」


 いや、だってパンツの替えとかないし。

 燃やされたら一大事だろう。

 まあ、燃えないように水を被ればいいか。


「ちょっと話をつけてくるから、二人とも大人しくしていておくれ」


「話をつけるじゃと? 話が通じるようには見えないのじゃが……」


「話しかけて見なければ分からんさ」


 俺は、ぱんつ一丁になると、川の水を被ると湯に浸かる飛竜の前に立った


「ルググ……」


 低い唸り声が体に響いて怖い。

 とても威嚇されている。

 話しかけるのはいいが、なんと言って話を切り出したもんか。


 あっ、挨拶から始めれば良いのか。

 円滑なコミュニケーションはこれが大事だよな。

 後は天気の話でも?

 でもここ毎日晴れてるし。

 いや、こう言うのは雰囲気だ。

 笑顔で、スマイル、スマイル。

 よし。


「やあ、どうもこんにちは今日はいい天気ですね」


「ルガアアアア!」


 おっと、尻尾を振りかぶった。

 なるほどこれが飛竜の挨拶なのか。


 そんなわけあるか!


 バシーン!


「──ぶべらっ!?」


 イテテ……。

 めっちゃ吹っ飛ばされた。

 誰だよドラゴンは賢いとか言った奴!


「フン……!」


 うわ、鼻で笑ってやがる。

 しかし、これ幸い吹っ飛んだおかげで空飛べた。

 そして一発貰ったからには心置きなくやり返せる。


「お返しだー!」


 一発デカイのお返してくれる。


 俺は飛竜に向かって突っ込んだ。


「ルガアアアア!」


 ゴオオォォッ……。


 げっ、火を吹いた。

 火はほんとやめて欲しい。

 見えないとこも熱を持ってるから避けにくい。

 あっつい! ちょっと焼けた!

 ダメだ近付けない。


「フン……!」


 くそう。

 余裕ぶっこきおって。

 目にもの見せてやるわ!


 俺はめいいっぱい高度をあげて、飛竜の炎の射程から出た。


 飛竜は俺を追っ払えたので満足したのか、呑気に風呂に浸かり直してやがる。


 なめ腐りおってからに。

 動かないなら取って置きをくれてやる!

 急降下の姿勢をとると高度を全て速度に変えた。


 なにをするのかと言えば、飛竜を翼でひっぱたいてやろうというだけなのだが、たかが翼と思うなかれ。


 かわいい、かわいい、ペンギンだってあの翼でひっぱたけば、意図も容易く人の骨を砕けるのだ。


 そんなペンギンよりずっと大きくて固い翼に、俺の体重と人体が落下で得られる最高速度が乗ったらどれ程の威力になる事か。


「ルガアアアア!」


「気づいたか。だがもう遅い! 火を吐く前に衝突だ!」


 ゴシャッ!


「ルガアアアア!?」


 骨が砕ける音と感触とそれに続く飛竜の悲鳴。


 はっはっ!

 やってやったぜ。

 腰に強烈なの入れてやったから、へっぴり腰でぷるぷるしてやがる。

 腰の骨が砕けたんだ。


 けれども俺も無事じゃあなかった。

 右の主翼が折れてしまった。


「ご主人さま!」


 そんな俺の姿を見たラビが、未だかつて聞いたことのない本気の悲鳴をあげる。


「大丈夫だよ。俺は無事だ」


「でも……」


「そんな悲しそうな顔はしないでおくれ。それにまだ終わってないから、こっちに来ちゃダメだ」


「ルググググ……」


 後はにらめっこだ。

 さあ、どうする?

 戦闘継続だとちと辛いが、お前ももう飛べないだろう。

 あっ、まだ火は吹けるか!


「ルガアアアア!」


 いかん、焼かれる!

 って、ぬわっ。

 何だこの煙りは?

 火の代わりに煙りを吐いたのか?


 次に備えて構えるも、何事もなく煙は晴れ、飛竜の姿は消えていた。


 えっ、逃げた……?


「主さま。大丈夫かのう?」


「ああ。ぱんつは焼かれなかった」


「ぱんつ!? 翼が折れたのに心配するのそこなのです!?」


「これぐらいどうって事はないよ」


 嘘だ。


 本当は声をあげて叫び、転がり回りたい。

 でも、そんなんラビに見せるわけにはいかん。

 だから俺はシノに小声でお願いした。


「ラビに心配させたくないから後でこっそり、骨引っ張って添え木して欲しい」


「任せるのじゃ。怪我の手当てにも心得があるのじゃ」


 さすが忍者だ。

 応急処置もできるのか。

 本当はこんなことシノにも頼みたくないけれど。

 こればかりはどうにもならん。


 こんなことなら回復魔法も教わっておけばよかった。

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