異種と捕食のエロティシズム

 山の見回り役を頼まれた男と、その山に住むという「人獣」のお話。
 一見ホラーのようでもありますし、おそらくそう言っても間違いではないのですけれど、個人的には倒錯的な官能美を描いたお話として読みました。だってほら、なんというかもう、えっちすぎる……いや、別に性的な表現はないのですけれど、でもある種のフェティシズムを強く刺激される内容というか、これたまらん人には本当にたまらん作品なんじゃないかと思います(たまらなかったです)。
 作中に登場する「山のもん」、または「人獣」そのものが好きです。この彼女の、生き物としての圧倒的な存在感! 世のファンタジー作品に登場する、一般的な亜人や獣人とは明らかに一線を画す存在で、本当にゾクゾクするような生々しさに満ちているところが最高でした。そも検索のためのタグには「獣人」とあるのに、作中では「人獣」となっているところからしてもう推して知るべしというもの。この野生の生物としての解像度というか、「なぜかヒトによく似たパーツを持っているけもの」という、この感覚がもう本当にすごい。
 ちょっとネタバレになるかもですけれど、作中におけるその人獣の振る舞いというか、描かれる状況が「捕食」というのもまた良いです。怪我を負い、あとはただ食われるだけのおじさんと、それを捕食するためにじっと待つ人獣の雌。覆しようのない力の差、生物としての捕食者と餌の関係。さらには、おじさんが最初からそれを「美しい」と感じてしまっていること。なんなら femdom 的な要素まで見出せて、もう無限のファンタジーを感じます。なにこれやばい。えっちすぎる……。
 個人的に冒頭一行、あの語り出しがものすごく好き。本当に話が早いしもうただただ巧い。いわゆる昔話の形式で、それだけに伝承のような雰囲気が出ており、それがあの結末へと繋がるところにも心地よさを感じました。説明文にある通り、まさに「うつくしい獣の話」。美しいものから喚び起される「畏れ」の感情、その原液をそのまま絞り出したかのような、あまりにも濃厚な物語でした。二話目のクライマックス、「空がよく晴れていた」周辺の感覚が最高に好き。面白かったです。