第42話 シュガー

「ひぃっ!な、なんで……。」


「……偉大な魔王の折れた角を私は持ち出した。無論、それは魔王復活という崇高な目的があったからだ。だが、私の仲間たち、いや、あの愚か者たちはそれを理解しようとしなかった。そして、私は地上で追われている身となった。」


「お願いします。出て行ってください。」


「このダンジョンにあの老人、そしてあのふざけた猫がいることはわかっている。だが、だからこそここは安全なのだ。もちろんこの姿のままでいるつもりはない。」


「あっ。」


『瓶を掲げた魔族の若人。傾けると地に宿る力に引かれ液体が零れ落ちる。』


おい、頼むから黙ってくれ。


『束の間、光り輝く空間。再び辺りを闇が包み込む。魔族の若人は一匹の猟犬となっていた。』


なんて……恥ずかしいんだ。


「この姿で過ごす。では疲れたから眠らせてもらおう。」


「……どうすればいいんだ。」


『おい、我が姿を模した者よ。しゃべるが良い。』


『我が来る前はこの者の姿を追い、その行動を言葉で表現していたのだろう?』


……シュガーは謎の人物の様子に困惑している。


『ははっ、笑止なり。』


おい、模造品。貴様が言えといったのだろう?


『我が姿を模した者よ、言うではないか。だが我こそが魔王であり、貴様こそが模造品といえるだろう。』


ああ……なぜこんなことに。


あの時、ダリア王によって飛ばされた模造品は予想通りこの世界に現れた。


そして、私が二千年前に辞めた恥ずかしい口調でひたすらしゃべり続けているのだ。


「俺も寝るか……。まあ、たぶん大丈夫だろう。」


『シュガーといったか?あの者の行動をひたすらに観察し、一人その様子を喋る。それは我の口調より恥ずかしくないといえるのだろうか。』


三千年ぶりの来客。実に耳が痛いが暇はしなさそうだ。


……一人でいるのにも飽きていたからな。


『ここには何もない。暇だ。』


『どうやって戻ればいいのだ。』


戻れない。戻れないのだ。ずっとここにいるしかないのだ。


『なぜ断言できる。』


何回も戻ろうとしたからだ。そして、そのたびに失敗した。


『行動せねば、何も起こらない。我は戻るぞ。』


『貴様も協力するのだ。』


……いいだろう。



(眠れない。何か歌うか。)


 ヒュー


(また音がする。今度はいったいなんだ?)


 ヒュー


(この部屋から音が鳴っているような……。)


 ヒュー


(この辺か?えいっ。)


 ポンッ


「……おい、これは、地面だ。」


「え?」


「……土があって湿り気があって、植物が生えている。」


「なぜ……。」


「これはあれだ。回復草モドキ、いや、エメの草か……。ああ、素晴らしい。」


「封印されたはずでは……。」


『我が姿を模した者よ、我に感謝するのだな。』


「ああ……。感謝する。」


『我が角に意識を移し、我が身体を触媒としたおかげこの世界に戻れたのだ。』


「本当に……、ありがたい。」


『おいっ、我を撫でるな!もちろんいずれは我にも身体が必要だ。絶対に切り落とされないような物で作ってもらいたい。金属がよいな。』


「わかった。絶対に用意する。」


『暫くはこのままでよい。こういった姿で世界を眺めるのも面白いからな。』


「サトウ、いやシュガーよ。」


「ひ、ひいっ!って、なぜ俺の名前を……?」


「さっきぶり、いや、初めましてだな。」

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ダンジョンの隠者 我輩吾輩 @abckkym

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