第41話 ダンジョンの隠者
(魔王は封印されて消え去った。)
「お~い、シュガー君通らせてもらうよ~。」
(俺のダンジョンはダリア王国の秘密通路として使われている。)
「まったく、なんて狭いのじゃ。」
(目立たずに王都から出るにはうってつけらしい。)
「あー!猫さんだー!」
「ようこそー!」
「遊んでー!」
(ダンジョンコアたちはすっかりミルグリアに馴染んでいる。)
「ごぎゃっ!」
「ひいっ、な、なんじゃ、あのゴブリンたちであったか……。」
(あのゴブリンたちはダンジョン内の警備をしている。)
「いす、ごぎゃ?」
(言葉は通じないが、身振り手振りで何とかなっている。)
「その手があったか。」
パチッ
(最近は一日中、ゴブリンたちとボードゲームをしている。将棋のようなチェスのような、それでいてマス目がたくさんあるボードゲームだ。ルールはいまだによくわかっていない。)
「ごぎゅっ。」
パチッ
(あの謎の人物とバルドオはいまだに行方が分かっていない。)
パチッ
「ごぎゃっ!」
「ふっ。」
(王都では魔法が使えるようになったらしい。結界の代わりとして魔法禁止令が出されたものの、あまり有効に機能してないようだ。)
「ごぎゃっ!ごぎゃっ!」
パチッ
(王都内で魔法を使える。その一点で権勢を誇っていた勇者の子孫たちは一気に没落し始めている。)
「おい、その手は反則だぞ。」
「ごぎゅっ……。」
(そのせいで、このダンジョンにこいつが来てしまった……。)
「まだルールも覚えんのか。」
「ごぎゃっ……。」
(もとはそれなりの役職にいた人物らしいが、今は俺のダンジョン、王国では王都緊急避難通路と呼ばれているここの警備責任者としてゴブリンたちを監督している。)
「おい、貴様ももっと気合を入れてやらんか。」
「はあ……。」
(正直言って困っている。)
「よしっ、もう一回やるんだ。」
(これで一体何試合目なんだ……。)
「次の話をしてやろう。勇者末裔大臣が勇者様の末裔で最も強い人物を探しているんだ。」
(勇者末裔大臣、没落を始めた勇者の子孫たちが巻き返しを図って作り上げた役職だ。勇者の末裔を探している理由は次に魔王が復活した時に備えるため、らしい。)
「私の孫がなりたがっててな、推薦しておいたよ。」
「あの、孫がいるんですか?」
(どう見たって俺と同年代の見た目をしている。)
「……いや、孫ではなくいとこだったな。」
「そういえば王都では魔法が使えるようになったんだが。」
「その話、三十回目です。」
「そうだったか?」
(しっかり数えていたから間違いない……。本当にいい加減にしてくれ。)
「じゃあ話を変えるとしよう。王都では今まで魔法が使えなかったんだが最近使えるようになってな。」
「話変わってないですよ。」
(こいつのおかげでこの世界の知識が得られた面もある。だから感謝もしている。だが、うるさい。)
「王都で魔法が使えなくなった理由だがな、勇者様が作られた結界が……」
「国王陛下が出発なさる。皆もついてくるように。じゃあ、あとは任せたよ~。」
(ダリア王が散歩をしたいとかの理由で、ミルグリアはここのところ毎日俺のダンジョンに訪れている。)
「行ってきまーす!」
「また後でー!」
「お土産探してくるー!」
「ごぎゃっ。」
「いす、ごぎゃっ。」
(なぜかそういう時、俺だけがダンジョンに残される。他のみんなは散歩についていくのだ。まったく、警備を俺一人に任せるなんてどうかしてる。)
(まあ、何とかなるのだが。)
ドシャッ
(そもそもここは俺のダンジョンなわけだ。そして魔王との戦いで本来の力を取り戻した今、不可能なことなんて何もない。)
ガガガガガガ
(最近は少しづつダンジョンを拡張している。俺の魔力だと全然広がらないが、だんだんと完成に近づいてきている。)
バシッ
「ふう。」
(疲れたから少し休もう……。)
(静かだ……。)
(誰の声も聞こえず、どんな物音も聞こえない。これなら、大丈夫そうだ。)
トスッ
(俺が作りたかったのは自分の部屋だ。騒がしいのも嫌いではないが、ずっと同じでは疲れてしまう。)
パラッ
(なんというか、こうやって静かな場所に一人たたずんでいると、まるで自分が隠者になったかのように感じる。)
ドスッ
(俺はダンジョンマスターだから、ダンジョンの隠者だな。)
ドンッ
(……さっきからなんかうるさいな。せっかく人が静寂に浸っていたというのに。)
ドサッ
「久しぶりだな……。暫くここに滞在させてもらう。」
「え?」
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