第6話 そして今日も、おはよう
ずいぶん田舎の学校へ行くことになった息子のために、母はほぼ毎日朝5時に起きてお弁当を作った。
しかし、料理が得意ではない母の作るお弁当は、毎日決まって大きな弁当箱の3分の2にご飯を敷き詰め、卵焼きとソーセージと冷凍食品が詰まっている。
入学後しばらくして、空のお弁当箱を出しながら息子が言った。
「友達の弁当のおかずはお母さんの手作りで美味しかったよ。」
「友達の弁当のおかずもらったの?」
「うん。寮の奴からももらったけど美味しかった。」
母の、お弁当箱を洗う手が止まった。
振り返り、息子を見て、そしてすぐさままた空のお弁当箱に視線を落とす。
息子は、友達からお弁当のおかずを分けて貰っていた。
お弁当を分け合える友達ができていた。
泣いてはいけないと険しい顔で、母は素っ気なく、
「友達の弁当美味しくてよかったじゃん」
とだけ言うのが精一杯だった。
その息子が、明日、卒業式を迎える。
春から寮生活となり家から出ていく。
息子の部屋の壁には未だに大きな穴が開いている。
息子が高校を卒業して、この家を出ていくその日まで、太陽が上る限り、母は言う。
「おはよう!早く起きろ!」
~了~
それは、また太陽が昇る限り みーなつむたり @mutari
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