第5話 願いを叶えた息子



 中学三年生になり、息子は毎日学校に行っていた。

 

 中学二年生の頃を思うと、学校へ行ってくれるだけで母は安堵した。


 しかし、夏休み前の懇談で、息子が提出物を怠り、テストの点も芳しくなく、このままでは行かれる高校がないと告げられた。


 愕然としたまま帰路へつき、家に着くや否や、鬼の形相で息子に問いただした。


「何やってんのアンタ!どうするつもり!?高校行かないの!?」

「…いや、行く」

「行けないじゃん!行くとこないって言われたんだよ!」

「うん」

「はあ?うんじゃないよね!?」

「うん」


 話にならなかった。

 息子は、怒る母から逃げるように自室に籠った。


 怒りの収まらない母は、息子の部屋の扉をバンっと開け、


「どうするの!どうしたいの!」

「…高校行きたい」

「行きたいなら頑張るしかないのになんで頑張らないの!」

「…うるさい!」


 息子は初めて声を荒げて、部屋の壁を拳で思い切り殴り付けた。


 壁には大きな穴が空いた。

 唖然とした母は、途端に顔を赤らめ牙を剥く。


「何やってんの!弁償させるからな!働き出したら利子つけてリホーム代払え!!」


 息子はベッドに上がると布団に潜り込んだ。



 最初に受けた二つの高校からは不合格の知らせが届いた。

 母は県内の大小問わず、神社やお寺をくまなく周り、県内の神様全ての力を借りようとした。


 願掛けに、毎日町内のゴミを拾った。

 近所の神社には毎日参拝した。

 ただただ「高校へいきたい」という息子の希望を叶えてやりたかった。


 そして最後に受けた高校の合格発表の日。


 帰宅した息子は、「合格したよ」と泣きながら笑った。

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