助けて! 闇警察ぅ~~!!

ちびまるフォイ

本物よりも本物っぽいもの

「もしもし? 警察ですか!?」


『はい、こちら〇〇警察署。どうしました?』


「今、誰かにあとをつけられている気がするんです。

 家に入ろうにも自宅を特定されそうで怖くて。

 早く……早く助けてください!」


『はぁ。なるほど。近くに人通りの多い場所はありますか?』


「人通り? 深夜1時ですよ。そんなのあるわけないでしょ!

 早くなんとかしてください!」


『あのですね、警察は不確かな情報を元に動けないんですよ。

 わかりますか? 仮にあなたの勘違いだったとして、

 もっと大きな事件への出動が遅れたら責任をーー』


「私が刺されて地面に倒れてから出動するっていいたいんですか!?」


『なにもそこまでは……』


「もういいです!」


女性は電話を切ると、すぐに闇警察アプリを立ち上げた。

アプリに自分の現在地を報告すると、すぐに返信が返ってきた。


>すぐ行きます


この返信で女性の心はどれだけ晴れたことか。


闇警察としてアプリ内に登録している男がやってくると、

事情もすぐに察してくれた。


「もう大丈夫。近くに他の闇警察も来ています」


「本当ですか。ああ、怖かった……」


女性が安心して振り返ることができた。

やはりストーカーは勘違いではなかった。


でも今はストーカーの周りに闇警察登録した男たちが取り囲んでいる。


「おい証拠」

「はいよ」


闇警察は慣れた手付きで男がストーカーしていた証拠写真を撮った。

もはやストーカーを言い逃れできない。


「な、なんだあんた達は!?」


「闇警察だよ。今みんなやってる」


「警察のマネゴトをする偽善者め! 何が闇警察だ!」


「ああ、そういうのいいから。こんなのバイトだし」

「えっ軽っ……」


ストーカー男は闇警察に縛られて警察署へ証拠とともに送り込まれた。

闇逮捕に協力した闇警察たちは、通報した女性からお金を受け取った。


本来の警察ではお金が取られることもない。

散財しているはずなのに女性はむしろ嬉しそうだった。


「ああ、本当にありがとうございます。

 警察に通報しても信じてもらえなくて不安だったんです」


「うちら闇警察はどんな通報でも駆けつけますから。

 確証がないと動けない警察とはわけがちがいます」


闇警察は仕事を終えると解散して、公務員だとか自営業者とか本来の姿に戻った。

今では闇警察も副業にもってこいのものとなっている。



ある日のこと、静かな住宅街で立てこもり事件が起きた。


「金と逃走用の車を用意しろ!! 用意できなきゃ、この家族を殺す!!」


近くに住む人達はオロオロするばかりで何もしていない。

警察も駆けつけて犯人に説得を試みているが、まるで効果がない。


まるで要求の金や車を準備せずに引き延ばそうとしている警察に、

立てこもり犯はしだいにイライラさせられてゆく。


今にも家族のひとりを見せしめに殺してしまいそうだ。


そんな中、闇警察のアプリにメッセージが1通送られた。



>闇警察さんたすけてください



家族のひとりが隠し持っていたスマホで、トイレのすきに書き込んだ。

メッセージは闇警察登録しているすべての人に送信された。


立てこもり現場の近くに住んでいる闇警察もたくさんいたが、

そのなけなしのSOSへの反応は冷ややかだった。


>パス。もう警察到着してるじゃん。

>これはリスクが大きすぎる

>一般人の手に追える事件じゃない


「そ、そんな……」


助けに来ると信じていた少女の淡い期待は壊れた。

トイレに長居すれば疑われてしまう。

立てこもり犯のいる部屋に戻ろうとしたとき、1通の返信があった。


>すぐ行きます


目を疑ったのは助けを求めた本人だけでなく、他の闇警察も同様だった。

闇警察に通報されたことも知らない犯人は窓から警察との要求の押し問答を続けている。


外に届けるために大きな声で怒鳴り合っているためか、

闇警察が屋根をつたって家にたどり着いた足音にも気づけない。


やってきたのはかつてストーカーの通報にも駆けつけた男だった。

立てこもり犯が一向に要求を飲まない警察にしびれを切らし、窓を締めたときだった。


潜んでいた闇警察が後ろから犯人に迷いなくスタンガンを打ち込んだ。


「ぐあっ!!」


不意打ちに犯人は持っていた銃を手放した。

闇警察は慣れた手付きで犯人を拘束すると、銃を奪って眉間に突きつけた。


「おい、自首すると言え」


「だ……誰だよあんたは!?」


「このままお前を突き出すことはできるが、

 警察に突き出されたら闇警察の僕までしょっぴかれかねない。

 お前は自首するんだ。警察の説得に応じてな」


「闇警察!? 何が目的なんだ!?」


「僕は報酬を受け取ったらこの家から出る。

 さあ、早く自首するとちかえ」


「ま、待ってくれ!! 俺は……俺は本当の犯人じゃないんだ!?」


「なんだって?」


「俺は闇犯人。アプリで登録して指定の場所で事件を起こすだけの雇われ犯人なんだよぉ!」


闇警察は男のポケットからスマホを取り出した。

そこには闇犯人アプリがしっかり入っていた。


「そのアプリは本当の警察が開発したものなんだ!

 あいつら金よりも成果を欲しがるから、闇犯人を雇って捕まえる。

 俺はもともと警察に捕まるためにここに来たんだ!」


「闇犯人……なんでそんなことを?」


「お前と同じだ。金がほしいんだよ!」


「逮捕されれば失うだろうに」


「逮捕されてても保釈金は警察が出してくれる!

 逮捕される前よりもずっと生活が豊かになるんだ!」


闇警察は異様に現場へ駆けつける警察が早かった理由を悟った。

この立てこもり事件そのものが劇のように仕組まれたものだったのだろう。


「闇警察のお前に逮捕されたら、本家の警察の手柄にならない。

 むしろ警察なにやってんだと悪い評価になりかねない。

 だから、な? ここは見逃してくれないか?」


「……」


「頼むよ! 俺が出所したあかつきには、見逃してくれたぶんの報酬も払う! 悪い話じゃないだろう!?」


「……わかった」


闇警察は構えていた銃を取り下げた。


「見逃してくれるのか! 助かった! あとは自首するだけだ!」


犯人は外で説得の演技を続ける警察に対し、心が動かされたような演技をしようと窓際に立つ。

ふと見ると、てっきり返ったはずの闇警察がまだ部屋にいる。


「お、おい。なんでまだ部屋にいるんだよ?

 これから俺は自首するんだぞ、警察がこの家に突入してくる。

 ここにいちゃまずいだろう。逃げるんじゃないのか」


「そんなもったいないことしない」

「へ?」


闇警察は部屋の前で油断して入ってくるであろう警察を待ち構えた。



「やってきた警察を捕まえて闇犯人の証拠を突きつければ、どれだけ報酬はずんでもらえるだろうな」

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