第5話チュートリアルは終わりを告げる
「トウジ!!」
金髪の髪がビョンビョンビョンビョンと跳ねる。頭の横に付いているものは神ではなくてばね何だろうか?普通は重力に従って髪も落ちるものだろうと目の前に笑顔で迫ってくる1人の淑女を見ながら場違いなことを考える。
目立つ金色と赤。派手なドレスに身を包んだ金髪縦ロールの女性。見間違いでも何でもない。竹島がいつも遊んでいたROGゲームに出てくる主人公を補佐するNPC。7人いる内の1人であるドウアだ。
こいつは一言で表すのならばお嬢様、である。ゲームで見た時も、このキャラクターの個人部屋だけ中世の貴族が住むような豪華な部屋になっていたり、主人公に手紙でお茶会の誘いや食事の誘いをしてくるキャラクターだ。付け加えるとお嬢様なのに料理ができる設定がされてある。その料理も任務に行く前に食べれば、バフ効果をつけることができたりするので、よく竹島も使っていた。
「聞いていますの!? ちょっと、トウジ!!」
「…………え、あ、聞いてるよ。大丈夫」
トウジ、という呼ぶ名にあまりピンとこなかった竹島だが、少し遅れてそれがマジックパレットで自分が使っていたアバターの名前であることに気付く。竹島裕司の島と最後の司の文字を使って考えた簡単な名前だ。特に考えもせずに適当に決めた名前であるため、あまり覚えていなかった。
「もうっ!! 何が大丈夫なの!? 急に指令室からいなくなったと思ったら変な女を連れてこんな場所までっ――――いいですのトウジ? 貴方は自由戦艦ノーチラスの船長。貴方がいなくなれば、ノーチラスも
「わ、分かってるよ」
「――であるならば、今後はこのような行為は慎んでいただきたいですわ!!」
「す…………すいませんでした」
ドウアの迫力に押されて竹島が俯きながら返事をする。例えネットの中でイキっていても人前に出ると途端に借りてきた猫のように静かになるのが竹島だ。目の前で怒鳴り散らしてくるのが、ゲームのNPCであったとしても彼にとっては初めて会う人間にも等しい。これまでコミュニケーションを取ることができず、一人で語るだけで良かったのに急にコミュニケーションができるようになったのだ。両親意外とまともに会話をしたことがない男に美女に歯向かうことなどできなかった。
「何なのですかそのウジウジとした態度は!!」
「――ヒィッ」
俯く竹島にドウアが怒鳴りつける。驚いた竹島が情けない声を上げた。その光景にドウアは疑問を抱く。確かに度々放心したり、仕事をサボることはあった。その度に同じように怒るもののヘラヘラと笑ったり、軽く謝罪するだけだった。それなのに、今はまるで自信がなく、本当に怯えているように見えるではないか。
「……トウジ。一体どうされたの? まさか――」
急変してしまった自分の主人の態度。先程いた女に何かをされたのではないかとドウアが思いつく。
そこから先の行動は速かった。
「失礼致しますわっ」
「ふえぇっ!?」
華奢な腕が竹島の肩と足に回され、持ち上げられる。どう考えても竹島の方が体重が重そうであるのにそんなことを感じさせない程、簡単に持ち上げられる。
急に感じた浮遊感に竹島が気の抜けた声を上げる。自分がお姫様抱っこをされていると認識して、羞恥のあまり降ろしてくれと声を出そうとするが、口を開く前にドウアの方が先に動いた。
「口を閉じていなさい」
そう言って、ドウアが跳ぶ。
ちなみに、言っておくと竹島とドウアがいた場所は絶壁の上である。高さは約500メートル。一応下に降りるための坂道はあるが、ジグザグとゆっくり降りていけるように作られている。今回、ドウアは
「――――っ!?」
叫び声を上げない自分を褒めて欲しかった。昔乗った遊園地のジェットコースターの落下よりも怖い超高速の垂直落下。ジョットコースターでも股間が寒く尿意を覚えたというのにこんなことをされたらどうなるのか。
もう分かるだろう。竹島は恐怖のあまり失禁し、地面に着地する前に意識を手放すことになった。
しかし、それは幸運だったのかもしれない。何故なら、落ちた場所は魔物が住まう場所なのだ。四方八方から牙を剥いて襲い掛かる魔獣の姿を見なくて済んだのだから……。
「いや~危ない危ない。もう少しで殺されてしまう所でした」
ここまで竹島を連れ出してきた神と名乗る女性は冷や汗1つかいていないのに、額を拭う。肝を冷やしたのは本当だ。しかし、その行為に意味はない。何故なら、この体は汗1つかくことなどないからだ。この体は、
ドウアに背負われた人間の匂いに誘き出された魔獣達が、ドウアに向かって牙を剥き始める。聞こえてくるのは撃鉄の音と獣の雄叫び。
粉塵が舞い、戦いが繰り広げられる盤上を見下ろし、神は呟く。
「さて、今回はどうなるのでしょうか?」
7つの魔弾と元引き籠りの拳銃王 大田シンヤ @26127
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