第4話新世界は知っている場所
故郷のあらゆる物資が尽きてしまい、滅びを待つしかなくなった種族は星を飛び出すために、星々を渡れる船を作り、楽園を求めて飛び立つ。しかし、その旅は夢半ばで終わることになる。
航海の途中、生き残った種族を乗せた巨大艦に小隕石が衝突してしまったのだ。最早宇宙の塵になるには時間の問題だった。
死を覚悟する者。最後は愛する者と一緒にいようとする者。狂乱し、更なる悲劇を呼び寄越そうとする者。そして、何とか逃げ出そうとする者。
その中である者が偶然、奇跡と奇跡が重なり合い、巨大艦の中で密かに製造させられていた唯一の戦艦ノーチラスに乗り込み、巨大艦を脱出することになる。
だが、危機を脱出できたかと言うとそうではない。巨大艦が破壊される直前に脱出できたもののその余波で戦艦ノーチラスもダメージを受けてしまう。
巨大艦よりも早く、強く、硬く作られていたとはいえ、爆破と衝撃波は凄まじくノーチラスは吹き飛ばされ、航行不可能となってしまう。
航行不可能となり、宇宙を彷徨うしかなかった戦艦ノーチラスを捉えたのは一つの惑星の重力。
戦艦ノーチラスは抗うことができず、大気圏へと突入し、巨大な鉱山へと不時着する。
見知らぬ惑星で唯一人、種族の生き残りとなった者。彼、もしくは彼女は、何とか生き延びようと不時着した戦艦の中を探索する。すると、戦艦の中である物達を発見する。
種族の秘術を持って生み出された人の形を保った機械の怪物――【七つの魔弾】
それが、
目の前にある光景に唖然とする。
目を何度擦っても、頬を強く抓っても、痕を残すだけで何の意味もない。目の前の光景が全て真実だと教えてくる。
「少しは状況把握ができましたか?」
「いや、更に分からなくなった」
隣に立つ女性の言葉に、竹島が答える。
分からない。いや、状況だけは分かってはいる。自分がいるのは恐らく、やっていたRPGゲーム『マジックパレット』の中だ。
何の冗談かと思いたくなる。異世界転移したらゲームの中でした。使い古された転移モノの小説のようなテンプレだ。
だったら、今ここにいる自分は転移モノ小説の主人公と同じということになる。そうなると、横にいるのは神様、ということになるのだが、本当にそうなのかと疑いたくなる。
「うおぉ……何で、何でこんなことにっ」
「何でそんなに不安そうなんですか? 貴方普段から転生したいなぁ何てこと言っていたじゃないですか」
「いや、確かに言ったことはあるけど――ってなんでそんなこと知ってんだ!?」
プライバシーの侵害!!と竹島が嘆くが、それを呆れた表情で女性は息を吐く。
「何度も言いましたよ? 神だからです。それに、無断で連れてきた訳ではありませんよ? ちゃんと確認をしました」
「はぁ!? 確認? そんなのいつ……」
そう言いかけ、あることを思い出す。
『拝啓 竹島裕司様 刺激的な世界へ行ってみませんか?』
そう自身のパソコンに送られたメッセージ。それに、Yesと答えた自分。
「…………もしかして、アレのことか?」
単なる悪戯だと思って面白半分で答えた出来事。今の今までゆっくりと記憶をたどる余裕すらなかったため、すっかりと忘れてしまっていた。
竹島がこうなったことを思い出したと同時に、女性は太陽のような笑みを作った。
「思い出したようですね。そうです。あの時のメールで貴方がこちらの世界に来ても良いと承諾したものとして呼び寄せました」
「いや、呼び寄せましたって……そんな簡単にできるものなのかよ。というか、神様……なんだよな? それが、本当に実在するなんて」
「まぁ、別に信じなくても構いませんよ。人間なんて、自分が見たもの、教えられたものしか信じられないものですから」
「……なんか、急に上から目線になってないか?」
「上から目線で当然です。だって神ですから」
「あぁ、うん。そうですね」
実感はない。しかし、当然だと言われ続けてしまえば、嫌でもこれは夢でも何でもないと思ってきてしまうもの。少しずつであるが、竹島も本当に異世界転移したのだと思い込み始めてしまっていた。
そもそも、地球では見たことのない景色、土の香り、頬を撫でる風、足の裏に感じる大地。どれも近代の科学力では創り出すことができるものではない。少なくとも自分の知っている知識ではそうだ。
「はぁ、分かった。アンタが神様だってことも、ゲームの中に転生したってこともな。それで、何が目的なんだよ? まさか、楽しく暮らせるようにするためとか言わないよな?」
「はい? そうですけど何か?」
「え?」
「え?」
わざわざ承諾をさせてから転移させたということは何か意味があるはず。何をさせたいのか、異世界転生モノや転移モノでは、殺してしまった謝罪として新し人生を、苦労した人生を労って楽しい人生を、と言って転生もしくは転移させる。だが、竹島は血の滲むような人生を送った訳でも間違って殺されてしまった訳でもない。ならば、何かやらされるに違いない。そう思い、深刻な顔で問いただすと返ってきたのは予想の真反対の反応だった。
首を可愛らしく傾げた女性を見て、間抜けな声が漏れる。
しばしの沈黙。そして、何とも言えないような空気が二人の間に流れる。
「えっと……何にもないのか? やって欲しいこととか?」
「ないですね」
「魔王を倒せみたいなクエストは?」
「ないですね。魔物ならいますけど」
あぁ、やっぱりいるのかと別のことを質問しそうになるが頭を振って話を続ける。
「それじゃあ、本当に何もしなくていいのか? ここで暮らすだけ?」
「えぇ、そうですよ。特に強制することはありません。必要なものは全てあそこに揃っているはずなので、そこで貴方の好きなのんびりダラダラ生活をしてもらっても構いませんよ」
「本当に?」
「本当の本当です」
何度も繰り返される質問に少しだけうんざりしたのか頬を膨らませる女性を見ながら竹島の口角は自然と上がっていった。
もし、これが本当に転移なのならば、母親のすすり泣きに苛立ちを感じることも、父親の怒声に気分を害することもない。自由を手に入れたのだと笑顔を作る。
「マジか、本当にマジなんだな!? やっぱりなしとかはもう受け付けないぞ。ハハ、ハハハハ!! 俺の家、俺の空間、俺だけの居場所。ハハハハハ!!」
「おおっと、言っておきますけど、貴方にテンプレの如くチート能力を授ける。なんてことはできませんからね。私にだって限界はあるんです」
「構わないよっ。それよりも、あのノーチラスが俺のものになるんだろ!? 『マジックパレット』が楽しめるってことだよな!?」
「まぁ、そうですね。貴方の立ち位置はノーチラスに乗って逃げ出した主人公って立ち位置ですし」
「なら、問題ない。よぉし、早く行こう!! 俺の楽園が俺を待っている!!」
意気揚々と歩き出す竹島。もう彼の頭の中は楽しくなるであろう自分の未来しか映し出していない。スキップでもしそうなくらいの足取りで前に進むが、後ろから女性がついてこないと気付くと脚を止め、振り返る。
「ついてこないのか?」
「えぇ、私は案内だけですので、後はご自身で判断してくださいな」
「そう、なのか」
そう言われると少しだけ寂しい気持ちになる。誰もいない所で初めて出会った女性。それでどれだけ張り詰めた不安が溶けたかは言うまでもない。
どうやら自分でも気づかないうちに女性のことを信用していたようだ。不安そうな顔をした竹島にクスリ、と女性が笑い掛けた。
「そんな顔をしないで欲しいですね。あちらに行けば、貴方を待っている物がいます――っと、どうやら早く立ち去らなければならなくなりましたね」
「え? それはどういうことだよ?」
母親が子供に向ける優しい笑みから一転して、深刻な顔で空へと目を向けた。
瞬間、ドゴォ!!と爆撃にも似た衝撃と音が響く。女性に釣られて視線を空へと向けた竹島は、今度はその正体を一瞬だが見ることができた。
煙が晴れ、一番最初に目に移ったのは太陽の光を反射する金色と真っ赤な緋色のドレス。衝撃に尻もちをつき、土煙の中に佇む女性――否、女性型アンドロイドを見て、竹島が呟く。
「
七つの魔弾、そのうちの一つに名を連ねる魔弾と、竹島は遂に会合を果たした。
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