日の光どころか、月光さえ届くことのない街

 空のない街に生まれ育ち、いつか青い空を見てみたいと願う少女・アリスと、その従卒である機械人形・ノアのお話。
 寓話的な雰囲気のSFショートショートです。分量はおよそ3,000文字強と短く、また物語の内容の特性もあって、あまり触れられる部分がない……というか、どうやってもネタバレになってしまうのでご注意ください。もし未読であればいますぐ本編を読むことをお勧めします。
 機械人形という存在が出てくるところからもわかる通り、世界設定は明らかにSF的なものなのですけれど、にもかかわらず童話のような雰囲気が漂っているのが特徴的でした。見たことのない青空に恋焦がれども、しかし身ひとつでそれを探しに行くことの許されない、幼い子供。それを嗜める従卒であるところの、機械人形。どことなく大きなお屋敷を想像させるようで、さらにはその世界が陽の差すことのない『夜の街』であることもあわせて、なんだか閉塞的な不自由さのようなものを感じさせてくれます。安全な寝床と引き換えの、ある種の制限のようなもの。しかしその上でなお、外へと向かってゆく子供の好奇心。
 明るい空を見てみたいという願いは、きっと暗い夜の世界にしか暮らしたことのない子供としては当然で、そしてその願いの向かう先。終盤の展開はもう、衝撃でした。いやもう本当にショッキングという意味での衝撃。短いながらも強烈なインパクトのある、残酷かつブラックな雰囲気の作品でした。