言葉はわからなくとも通じ合う思い

 大型生物の駆除が進む世界、とある一匹のドラゴンと、とあるひとりの人間の、ちょっとした交流の物語。
 SFです。ドラゴンは登場するものの、舞台設定そのものはファンタジーというより近未来的というか、なんなら現代と地続きな部分もあるお話。分量が約4,000文字と短いこともあり、このレビューはどうしてもネタバレを含んでしまいますが、その点ご容赦ください。ネタバレがどこまで致命的になるかは微妙ですけれど、どちらかといえばネタバレなしで読んでもらいたいタイプの作品です。
 人と動物(ドラゴン)の間に生まれる友情を描いたお話なのですが、設定の凝り具合がとても魅力的です。主人公は感染症対策のための組織に所属しており、そしてこの世界においてはその徹底のため、大抵の動物は処分されるのが当たり前、という設定。もうこの時点で不穏さがプンプンなのですけれど、面白いのはかなり細かく組み上げられたこの「感染症対策」という要素が、実質的に物語の軸に食い込んで〝いない〟ところ。作中において主人公自身が「ただの名目」と嘯き、つまりは「そんな建前のためにどうしてこんな」と、その空虚さが結末になってゴリゴリ作用してくる。おかげで悲劇性がいや増すというか、綺麗に嵌められたような感覚がとても心地いい。
 このご時世に感染症をモチーフにすると、読む側としてはつい、現実のそれになぞらえて読んでしまう部分があると思うのですけれど。それをまったく逆の形で使ってみせたというか、予想外の不意打ちを喰らったような気分です。作劇上の理由として、特に感染症である必要性のない(そうであってはいけないわけではないにせよ)こと。それ自体がそのまま物語中で同様の構造にぴったり重なって、メタな部分からも感情を刺激されるような、言うなれば挟み撃ちのような見事な誘導。結果、辿り着いた結末の物悲しさがより浮き立って見える、テクニカルな〝ひと押し〟の効いた小品でした。