飛べた魔女はただのループ中?

「トリート・オア・トリート」

「……なんだそれは」

 豚のお家にやってきたクリスに、開口一番言ってみると、凄く面倒そうな顔をした。


「お菓子を下さい」

「いや。言いたい事は分かった。お腹が減ったんだな。でも、トリックはどこに消えたんだ?」

「悪戯する元気がありません。お腹が空いて力が出ません。ギブミー・お菓子。ギブミー・お菓子。トリート・オア・トリート」

 今日も元気だお菓子美味しいと行きたいところだが、最近食欲の秋の所為で体重増加していると言われ、久々にお菓子制限をされたのだ。デブの食事制限は、本当に辛い。

 でも我慢がきかなかった後も怖い。たぶん自力で踊って痩せるからで済ませられるのは現状の体形までだろう。これ以上増えたら、間違いなく破滅(ブート・キャンプ)フラグだ。


「我慢しろ。そもそも、ハロウィンは昨日だろう?」

「思ったんだけど、この世界でループ現象が起こっていないって、この部屋にいた場合分かるのかな?」

 私が作戦変更と、話題を微妙にそらしてみると、クリスは眉をひそめた。

「ループ? なんだそれは」

「異界で起こる現象みたいなんだけど、ある特定の日が永遠に繰り返される現象をループと言うみたい。異界で渡る途中で質問できる妖精さんに色々聞いたんだけど、ループ現象はエロと相性がいいらしいという話しか聞けなくて」

「おい。俺の知らない場所で、勝手に知らない奴と話すな」

「いやでも。妖精は嘘をつくことも多いけれど、異界の質問には色々教えてくれるから」

 全く利用しないというのは困る。

 口が悪いのもいるし嘘をつくのもいるけれど、時折親身に答えてくれる優しい妖精さんもいるのだ。


「まあそれは置いておいて、私は基本毎日この部屋にいて、来るのは王子だけ。時折別の魔女達や使い魔達が来るけれど、不定期だから来なくても不思議ではないんだよね。そうすると、この世界がループしていても気が付かない可能性が高いんじゃないかなと思うの」

「同じ日が繰り返されているんだから、俺が全く同じ行動をとったら気が付くんじゃないか?」

「私の時間が流れていれば、同じ会話にはならないと思うよ」

 多数の人間と関わり、日にちや時間を気にする生活をしていれば、ループしていることに気が付くだろう。

 しかし、家から一歩も出ず、日にちや時間を気にしない生活をしている私が気づく切っ掛けが思い浮かばない。


「もしもループを止めたいならばどうするんだ?」

「色々な解決方法があるけど、多いのはループ現象を起こしている本人の望みが叶った時に再び時間が流れ出すのパターンかな」

 その場合ループを起こしているのが誰なのかが大事になってくる。

 自分が中心と思っていても実は別の第三者という事もあるのだ。しかしループに気が付いた場合は原因ではなくても原因に近しい人物が元凶の可能性はある。

「という事はループが起こっていると気が付けた者がキーになるという話なんだな」

「そうだね。気が付かなければ、永遠に同じ日を飽きる事なく過ごすから。もしかしたら、私も知らず知らずのうちにループしている可能性もあるということよ。……つまり同じお菓子を何度食べても新鮮な気持ちでまた食べられるということね」

 気が付かないのはある意味幸せかもしれない。何度食べても飽きることなく、減ることもなく食べられるということだ。

「つまりブートキャンプをしても、痩せないどころか苦しんだ記憶も消え、再びブートキャンプをするという話だな」

「ひぃぃぃぃぃぃ。怖いたとえを言わないで」

 想像するだけで恐ろしい。何度も何度も気が付かない間に破滅しているとか、なんというホラー。しかもどれだけ苦しんでも痩せていないとか、無限地獄過ぎる。


「とにかく、この世界がループしていないか確認するには、一度お菓子を食べて、次の日に体重を測ってみるのがいいと思うの」

 着実に増えていけば、ループをしていないという事だ。しかし増えなかったら、それはループをしていないということ。

 とてもお手軽なループ現象の確認方法だろう。

 どうだと胸を張れば、クリスはそれはもう、キラキラとした王子スマイルを浮かべた。ま、眩しすぎて目が潰れる。なんと言う顔の良さだ。


「さっき、エロと相性がいいと言ったよな?」

「……私がというより、妖精さんが言ったんだよ?」

 私は彼らの言葉を伝えたに過ぎない。そもそもどう相性がいいのかはよく分かっていない。

「分かっていないみたいだから言うが、簡単に言えば、異界語で【エロ】と称される破廉恥な行為をしたとしても次の日には忘れ去れているから、相手がどれだけ怯えようとも犯罪行為に近い事をしようと関係なく実行できるという意味だ、馬鹿」

 ……なるほど?

 つまり覚えていればループしていないし、忘れていたらループしていて、永遠に破廉恥行為を――。


「うひっ?!」

「さあ、どうする?」

 にこやかな王子スマイルを前に、私は敵前逃亡をした。

 

 今日も腹減り、菓子が欲しい。

 私はお菓子ゲット作戦に失敗し、ループしていない世界軸でひたすら走り、ダイエットに成功したのだった。めでたしめでたし。

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飛べない魔女はただの豚 黒湖クロコ @kurokokuroko

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