言葉の無い歌でも歌ってみるかい?

naka-motoo

愚かなわたしが筆を染め造りし歌であるけれど

できねえな。


どうすりゃ俺のほんとうに思ってることが伝わんだよ。


もどかしいよ。


「車窓を飛んでくトンビの影よ・・・違うな・・・・・・水面に浮かぶ泡沫の儚さよ・・・・全然ダメだな」


俺はほんとうは自分の歌で世間をあっと言わせたいんだ。

俺は自惚れてるつもりは全然無いんだが余りにも何も起こらないんでいい加減喚き出したくなってるのさ。


詩を造る時、俺は言葉を吐いてるんじゃなくて魂を吐いてる気分だった。


ほら、あるだろう?エクトプラズムっていうのか?あの白いもわっとした奴を口から、ぼう、と吐き出しちまって俺が本当に死んじまったとしてもそれで出来上がった俺の歌でもって世間がびっくりしちゃって『君らは凄い!』って無茶苦茶に絶賛してくれたんならそれでも本望だ、ってさ。


それが一体どうしたことだ。俺は中学生の頃からジム・モリソンみたいにホンキで歌ってきたつもりだが、誰も俺の歌を聴いちゃいねえ。


わかんねえんだよ。


どうすりゃ俺のホンキが分かるんだよ。

伝わんだよ。


「ダメだ。できねえな・・・」

「どうすんの?フェスは明日だよ」

「マエくん。この曲外すわ」

「いいの?」

「だってよ。インストでやんのかい?歌詞ができてねえんだからどうしようもねえよ」

「シガクがいいんなら別にそれでもいいけど・・・でもこの曲が一番『言いたい』ことなんでしょ?」

「ふ。俺の一番『言いたい』ことが言葉になんねえんだよ」

「ハミング、とか」

「いや・・・・それはないだろう。ギター弾きながら俺がふーんふふーん、て歌ってそれで観に来てくれた人たちに申し訳が立とうかねえ」


俺はギタリストにそう言ってから音を出してみた。


ドゥーン、ドゥンドゥ、ドゥ・ドゥ・ドゥン ドゥードゥ・ドゥードゥードゥー・・・・・・ベース。


ド、ドゥ・ド・ド・、ド・ド・ド・ド・・・・・・ドラム


ティン、ティ・ティ・ティーン、ティティティティ・・・・・リードギター。


キャキャキャキャキャキャキャーン・・・・・俺の、リズム・ギター。


さあ!


・・・・・・・・出ねえわ・・・・・



この曲はアルバムを作り始める前から一等先にできてた曲なんだ。

いや、それどこじゃねえな。


俺がずっと学生の頃から凄え小説家たちに憧れて読み続けてきた本たちの、行間の隙間からもう既にして生まれてた曲なんだな。


俺の本質とも言えるだろうな。


「タケツさん。明日やっぱこの曲外します」

「シガクくん。ほんとにいいのかい?」

「すみません。詩が・・・・・」

「シガクくんは何を歌いたいの?」

「自分の中じゃはっきりしてんですよ。明確なんです。ただ・・・・・俺にしか通用しねえ言葉なんです」

「シガクくんにしか」

「俺にしか通訳されねえ言葉なんです・・・・すんませんねえ、プロデューサーのタケツさんがステージでキーボードまで弾いてくださるってのに・・・・・」

「いいよ。僕もこの曲のデモを貰った時から衝動にかられて自分で勝手にキーボードのパートを作らせてもらったんだから・・・・・・ねえ、シガクくん?」

「はい」

「デモで、歌ってたよね?」



令和三年正月十七日。


俺らは感染症の病原菌の飛沫が入り混じった寒風吹きすさぶ武蔵野の大地に立った。


社会的か人道的か詩的かなんだかわからねえが単なるだだっ広い剥き出しの地面の台地に集まった観客は1万人。


互いの人体の間隔は10m開けてスタンディングの特等席だな、こりゃ。


すげえな。


俺たちのほんとの最初の頃のライブみてえだな。

あん時ゃ、1,000人、いや、100人いたかどうかもわかんねえがな。

それだけスカスカってことさ。


「行こうか」


俺らは野外ステージのその袖でいつもみたいに手を組み交わした。


「アルコールは?」

「ふ。今の世じゃ除菌目的だろ?要らねえよ」


おお。


寒ぃのにありがたいことだな。


静寂の中、みんな立ってる。


俺らが全く認知されてない頃のライブもこうだったな。

まあ、今は、密集して大声出しちゃいけねえからだがな。


「オーイエー!」


伝わるぜ。


声は出てねえが、みんな、叫んでやがる。


ココロの中でな。


「ようこそ!今日は俺たちの歌を、腹ん中に収めてってくれ!」


さあ。


行こうか。


ドゥーン、ドゥンドゥ、ドゥ・ドゥ・ドゥン ドゥードゥ・ドゥードゥードゥー・・・・・・ベース。


ド、ドゥ・ド・ド・、ド・ド・ド・ド・・・・・・ドラム


ティン、ティ・ティ・ティーン、ティティティティ・・・・・リードギター。


キャキャキャキャキャキャキャーン・・・・・俺の、リズム・ギター。


さあ!


「るらら!るらららーーーっ!」


うん。


出やがった。


行くぜ、みんな。


「おうおうおー、シャケ、ツゥんデェーーーーッ!!」


『シガクくん。煽れ!』


おっ。

タケツさん、いいのかい?

・・・・・・・おいおいおい・・・・ダメだろうがよ、俺はいいけどみんなは声出しちゃよ・・・・・


冷静沈着なタケツさんが、そんなこと・・・・・

いや・・・・・

すっげえ、熱いぜ!


「みんなー!何通夜みてえに黙ってやがんだよー!レスポンスはどうしたあ!?俺の歌詞、わかんねえのかあ!?」


「「「「わかんねーよ!!」」」


「そりゃそうだ!デモ音源のまんまの即興だからなあ!意味も無えよ!だがなあ!」


さあ、ぶちまけるか!


「言葉になんねえ奴の叫びをスルーすんなよみんなあああああああああオーイエー!」


「「「「「イエーーーっ!」」」

「シガクーー!」


「ダラダダダダダったらああー!ギター!」


マエくん!

もっと前へ!


ステージから落ちちまえよ!


ギ・ギ・ギ・ギ・ギ・ガッ、キィーン!


いいぜえ、マエくん、最高だぜぇ!


「うーおーうーおー!ターケーツ〜!」


キィン、キィン、キィ・キィ・キィ・キ・キ・キ・キキキキキキキィン!


タケツさん、ジャズかよ!すげえぜ、テクニシャンだぜえ!


「おい!みんなも叫んだらどうなんだよ!テメエの言いてえことを、テメエにしか通用しねえ言葉でよ!そらっ!」


俺はギターをかき鳴らすぜ。


みんなも持ってんだろ!

かき鳴らすギターをココロの中によ。叫べよ!


「おっ・おっ・おっ・うわぁあー、シガクぅーっ!」

「どりゃ、どりゃ、でぇええーい!」

「あっ!おう!きゃああああーあイエア!」

「最高だー!最高だー!シガク最高だー!」

「馬鹿野郎!馬鹿野郎!アタシゃ、やるぞー!」


ほれ!


最大最速最高最終だ!


「えっ!」


ジャン、


「ほっ!」


ジャッジャン、


「うおう!」


ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ!


「はいっ!」


ジャジャジャジャジャジャジャッジャジャジャジャッジャジャジャララーンンンン・・・・・


「さあみんな!始まるぜえええ!」


The End.

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