第4話 喝采を博する天上の一幕

 脚本のアイデアを伝えて、数十日が経ってから、脚本が6本分出来上がった。出来上がりの異例の速さに、支配人も驚いていた。それから後、ローラと共に稽古を行うと同時に、「大型新人デビュー公演 彼女のデビュー作品を決めるのはあなた!」という広告を出して集客を図っていた。そして、稽古を重ねたアルドたちとローラはとうとう本番の日を迎えた。会場は思いのほか観客で満員だった。開演がせまり、役者やスタッフを集めた支配人は言った。


「いよいよ本番だ! ローラ君 準備はいいかね?」

「はい! 緊張していますが それと同じくらい ワクワクが止まりません!」

「100点満点の回答だ! 他の皆も準備はいいかな?」

「はい!」


支配人の問いかけにスタッフは快い返事をした。


「君たちも 本当にありがとう! おかげでこうやって開催にまで たどり着くことができた。」

「本当にありがとうございます!」


支配人とローラのお礼に、アルドも答える


「全然いいよ。オレたちだって なんだかんだで面白かったし!」

「そういってくれると 救われるよ。では みんな今日は よろしく頼むよ!」

「はい!」


そして、とうとう開演した。最初に、支配人が出てきて、挨拶をした。


「皆様 今日は当劇場に足をお運びいただき 誠にありがとうございます。今回は 「大型新人デビュー公演 彼女のデビュー作品を決めるのはあなた!」と題しまして 我が劇場に新しく入ってきた 期待の新人のデビュー公演を行います。しかし せっかくの公演ですので これだけで終わるのはもったいないということで 今回劇場の再興に尽力していただいた方々に 1本ずつ脚本を書いていただき その脚本6本を 今回公演させていただきます。」


観客も今回の公演への期待が高まっているようだ。


「なお 今回は皆さまに 今から上演する6つの作品から もっとも良いと思った公演を一つ選んでいただき 投票をしていただきます。そして 一番票を得た作品を 本公演でデビューする女優の正式なデビュー作とし 当劇場のレパートリーに加えさせていただきます。ご協力よろしくお願いします。」


支配人は、軽く一礼し、続けた。


「では 以上で 挨拶とさせていただき 公演に移りたいと思います。皆さま ごゆっくり お楽しみくださいませ。」


支配人は深々と頭を下げると、会場は拍手で包まれた。そして、いよいよ公演が始まった。


>>>


アナウンス「それでは 公演を始めます。今回は投票があるため 先に脚本 公演名を発表させていただきます。そのうえで 本公演をご覧ください。」


観客で少しどよめきが起こった。


アナウンス「第1公演 脚本 ヘレナ 『戦場に落ちた愛』 開演です。」


開演を知らせるブザーが鳴る。



語り(エイミ)「ここは 戦場。侵攻してきた他国軍を倒すため 部隊長率いる王国軍は 王を国を守らんと剣を取った。しかし 相手の勢力は想像を絶していた。」 


伝令(リィカ)「……敵軍の勢いガすさまじく 我が軍ハ壊滅。残るハ 我々だけ デス……。お2人とも エスケープを…… グッ……。」

副部隊長(ローラ)「伝令……? 伝令……! くそっ!」

部隊長(アルド)「いよいよ オレたちだけみたいだな。」

敵2(ヘレナ)「いたわ 敵よ!」

副部隊長(ローラ)「何!? もうここまで……!」

敵1(サイラス)「観念するでござる! 降参すれば 命だけは助けてやるでござるよ!」

部隊長(アルド)「オレたちが 仲間を見捨てて降参などしない!」

敵2(ヘレナ)「この期に及んで 往生際が悪いわね。でも もう終わりよ。あちこちに爆弾を仕掛けたわ。5分後に爆発して ここは終わりよ。」

副部隊長(ローラ)「爆弾だと!?」

部隊長(アルド)「……副部隊長。お前は爆弾のことに詳しかったよな?」

副部隊長(ローラ)「それって どういう……。」

部隊長(アルド)「オレがヤツらを止める。だから お前は爆弾を止めてこい。」

副部隊長(ローラ)「何を言っているのです? そんなことしたら部隊長が……。」

部隊長(アルド)「一斉に爆発するということは どこかに全爆弾を管理しているところが あるはずだ。オレが足止めする。だから 止めてこい。」

副部隊長(ローラ)「でも……!」

部隊長(アルド)「オレの好きな副部隊長は 何でも我先に行動しようとする あの副部隊長なのだがな……。」

副部隊長(ローラ)「……! わかりました……。どうかご無事で……!」

部隊長(アルド)「お前たちの相手は このオレだ!」

敵1(サイラス)「覚悟するでござる!」


語り(エイミ)「副部隊長は 必死に爆弾を管理している場所を探し出し ようやく見つけると 解除を行った。無事に解除に成功した時 残っていた時間は3秒だった。」


副部隊長(ローラ)「何とか 間に合ったわ……。」

部隊長(アルド)「グッ……。」

副部隊長(ローラ)「部隊長……!? まさか その傷で私を追いかけてきたのですか……?」

部隊長(アルド)「……よくやった 副部隊長……。我々の…… 勝利……だな……。」

副部隊長(ローラ)「部隊長……。」

部隊長(アルド)「副部隊長……。オレはもう長くない……。だから…… 一言だけ……言わせてくれ……。」

副部隊長(ローラ)「……?」

部隊長(アルド)「……愛している……。」

副部隊長(ローラ)「……! ……私もです。」

部隊長(アルド)「…………」

副部隊長(ローラ)「部隊長……? 部隊長……! 部隊長! 部隊長ーーー!!」


語り(エイミ)「こうして 戦いに勝った部隊長は 副部隊長の腕の中で その愛と共に散った。戦場には 副部隊長の悲痛な叫びが響いていた。」



幕が下りると観客は拍手を送った。その中には、すすり泣く声も混じっていた。


アナウンス「では ここで 10分間の休憩とさせていただきます。」


>>>


アナウンス「では 公演を再開します。」


観客も落ち着いて、会場内は静かだ。


アナウンス「第2公演 脚本 サイラス 『女剣士旅日誌』 開演です。」


ブザーが鳴り、幕が上がった。



語り(リィカ)「ソノ昔 東方で最強と言ワレタ 女剣士がいまシタ。ソノ名も「さすらいの女剣士サクラ」さんデス! 今回ハ そんなサクラの 旅の様子を 覗き見スル ヨウデス!」


女剣士(ローラ)「拙者は 女剣士サクラ! 己の信念と刀一本を持って旅する 気ままな浪人者でござる。おっ 見れば あそこに だんご屋があるでござる! ちょっと 休んでいくのもよいでござろう。」

店の娘(フィーネ)「いらっしゃいませ!」

女剣士(ローラ)「だんご 一本いただくでござるよ!」

店の娘(フィーネ)「はい ただいま!」


語り(リィカ)「つかの間の ティーブレイクを楽しんだサクラさん。すると 事件が起こったのデス!」


女剣士(ローラ)「ふう。美味かったでござるよ! ごちそうさんでござる!」

店の娘(フィーネ)「ありがとうございました。」

頭(サイラス)「おっ 可愛いおなごがいるでござるな! 拙者らに付き合うでござる!」

店の娘(フィーネ)「な 何ですか あなた達!」

敵1(アルド)「お頭が 付き合えと言ってるんだ! 来い!」

店の娘(フィーネ)「い イヤです!」

敵2(エイミ)「お頭に歯向かうとは いい度胸だね。なら 力づくで 連れて行くだけよ!」

店の娘(フィーネ)「きゃーー! 助けて!」

女剣士(ローラ)「ちょっと待つでござる!」

敵1(アルド)「誰だ!」

女剣士(ローラ)「年端も行かない娘を 男ともあろうものが 寄ってたかって……。みっともないったら ないでござるよ!」

敵2(エイミ)「あんた 命が惜しくないようだね。後悔しても知らない……。」

頭(サイラス)「待つでござる……! あの紋 お主もしかして 「さすらいの女剣士サクラ」!?」

女剣士(ローラ)「隠していたつもりもないが バレたら仕方ないでござるな。拙者が いかにも 「さすらいの女剣士サクラ」でござる!!」

頭(サイラス)「相手が サクラだとわかった以上は 手加減無用でござる! 者ども!」

敵1(アルド)「本気を出していいんだな?」

敵2(エイミ)「覚悟しなさい!」

女剣士(ローラ)「いざ 参る!」

敵1(アルド)「やぁーーー!」

女剣士(ローラ)「はぁーー!」

敵1(アルド)「ぐはっ!」

敵2(エイミ)「でやーーー!」

女剣士(ローラ)「せやーー!」

敵2(エイミ)「ぐっ!」

頭(サイラス)「な 何て強さでござる……!」

女剣士(ローラ)「後は あんただけでござるな。」

頭(サイラス)「くっ いくでござるよ! はぁーーー!!」

女剣士(ローラ)「はぁーーー!!」

頭(サイラス)「……。」

女剣士(ローラ)「……。」

店の娘(フィーネ)「……。」

女剣士(ローラ)「……ふっ。」

頭(サイラス)「……ぐふっ。」

女剣士(ローラ)「いつまで伸びてるでござるか。みねうちでござろう?」

敵1(アルド)「ひぃ~!」

敵2(エイミ)「おたすけ~!」

頭(サイラス)「覚えていろでござるよ!」

女剣士(ローラ)「醜い悪人を覚えるほど暇ではないでござる。」

店の娘(フィーネ)「ありがとうございました!」

女剣士(ローラ)「拙者は己の信念に従ったまででござる。」

店の娘(フィーネ)「もう何とお礼を申し上げたらいいか……。」

女剣士(ローラ)「礼などよいでござるよ。では 拙者はこれで……。」


語り(リィカ)「今回はここまでデス! 皆さんも いつか サクラさんニ 会えるかもしれマセン!」



幕が下りると観客は拍手を送った。


アナウンス「では ここで 10分間の休憩とさせていただきます。」


>>>


アナウンス「では 公演を再開します。」


観客は先ほどの殺陣に興奮が冷めない様子だったが、しばらくして静かになった。


アナウンス「第3公演 脚本 エイミ 『母の教え』 開演です。」


ブザーが鳴ると、ゆっくりと幕が開いた。



語り(サイラス)「ある村にとても仲のいい男女3人がいたでござる。隊長の青年 ノロウ 副隊長の少女イマ 隊員の少女イドリム。3人は村の警備隊を結成し 村のみんなを守っていたのでござる。しかし そんな仲良し3人組にも暗雲が立ち込めてきたでござる。」


イマ(ローラ)「さっきの魔物強かったね!」

イドリム(エイミ)「でも 2人のおかげで 勝てたね……!」

ノロウ(アルド)「ああ。イマもイドリムも昔より強くなったな。」

イドリム(エイミ)「そんなことないよ……。」

ノロウ(アルド)「それじゃ 僕はこれで。」

イマ(ローラ)「じゃあねー!」

イドリム(エイミ)「……。」

イマ(ローラ)「でも ノロウって本当に強いよね。」

イドリム(エイミ)「本当にすごいと思う……。」

イマ(ローラ)「なんか同い年なのに 憧れちゃうな~。」

イドリム(エイミ)「……。」

イマ(ローラ)「どうしたの イドリム……?」

イドリム(エイミ)「いや 何か……。」

イマ(ローラ)「……?」

イドリム(エイミ)「ノロウみたいな人が ずっとそばにいてくれたら 嬉しいなって ちょっと思ったの……。」

イマ(ローラ)「……!」

イドリム(エイミ)「……じゃあね イマ……!」

イマ(ローラ)「あっ うん またね……!」

イマ(ローラ)「……。わたし ノロウのこと 憧れのまなざしで見てたと思ってた。でも さっき イドリムがノロウのことを言った時 なぜか イドリムにノロウがとられるって そう思っちゃった。もしかして わたし ノロウのこと……。」


語り(サイラス)「己の気持ちに違和感を感じたイマ。そこから 3人の歯車がかみ合わなくなってきたでござる。」


イドリム(エイミ)「どうしたの エイミ……?」

ノロウ(アルド)「最近 上の空だぞ? その状態がもし続くのなら 連れていくことはできないな。」

イマ(ローラ)「そんな……!」

イドリム(エイミ)「なんかあったの……?」

イマ(ローラ)「な 何もないわよ!」

イドリム(エイミ)「……!」

ノロウ(アルド)「なんか様子が変だぞ イマ?」

イマ(ローラ)「だから 何にもないって!」

ノロウ(アルド)「……。」

イドリム(エイミ)「……。」

イマ(ローラ)「……。」

ノロウ(アルド)「……イマ。しばらく 警備隊の仕事は休んでいいからな。」

イマ(ローラ)「……!」

イドリム(エイミ)「というか 来ない方がいいわ……。今のあなたは 私嫌いよ……。」

イマ(ローラ)「……!!」

ノロウ(アルド)「イドリムもそこまでだ。僕たちはこれで失礼するよ。」

イドリム(エイミ)「……。……さよなら。」

イマ(ローラ)「……。」


語り(サイラス)「悪いのは誰でもないのに 思わず皆にあたってしまう自分が嫌になるイマ。なに 人間なら誰しもが経験する壁でござるよ。さて 悩んでしまったイマでござったが すごいことに 母上にはその悩みがお見通しなのでござる。」


母(ヘレナ)「イマ ちょっといいかしら?」

イマ(ローラ)「……何?」

母(ヘレナ)「イマ もしかして 何か悩み事があるんじゃない……?」

イマ(ローラ)「ど どうしてそれを……!」

母(ヘレナ)「母親は なんでも お見通しなの。それで どうしたの?」

イマ(ローラ)「……わたし 友だちに抱いてた気持ちが 憧れだと思ってたの。でも それが 恋だとわかったの。それから どう接したらいいのかわからなくて……。」

母(ヘレナ)「なるほど……。そうね……。」

イマ(ローラ)「……。」

母(ヘレナ)「イマ あなたは その子とは 今までの関係でいたい? それとも 一歩進んで その子の傍で 2人だけで どんな時も一緒にいたい?」

イマ(ローラ)「うーん……。わたしは前の関係性の方がいいかな……。」

母(ヘレナ)「そう……。じゃあ 好きなのは好きだけど 今は恋人の関係より 友だちの関係の方がいいってことかしら?」

イマ(ローラ)「そうかな。でもこの思いはどうしたらいいのかな……?」

母(ヘレナ)「好きという気持ちと 友だちでいるということは 分ける必要はないんじゃない?」

イマ(ローラ)「どういうこと……?」

母(ヘレナ)「好きになったら 友だちにはならないというわけじゃないでしょ?」

イマ(ローラ)「……。」

母(ヘレナ)「イマは 友だちでいたいという気持ちと好きという気持ちがあって 友だちでいたいという気持ちの方が大きいってことよね。でも それは 両方ともあなたなの。」

イマ(ローラ)「……!」

母(ヘレナ)「だから そのどちらの気持ちも 自分のものだって受け入れたうえで じゃあ自分はどうしたいのか 考えたらいいんじゃない?」

イマ(ローラ)「受け入れたうえでどうしたいか……。」

母(ヘレナ)「そう。今のあなたは お互いの気持ちがお互いを否定しあっている状態なのよ。」

イマ(ローラ)「なるほど……。ちょっと考えてみるよ。ありがとう!」


語り(サイラス)「どっちかが良ければもう片方は悪いというわけではないでござるな。さて イマは母親の言葉を受けてどうしたのか。見てみるでござる。」


イマ(ローラ)「2人とも。」

イドリム(エイミ)「イマ……。」

ノロウ(アルド)「イマか。」

イマ(ローラ)「この前は ごめんなさい……。あの時 わたしちょっと気持ちの整理ができてなかったの。でも 今は大丈夫。」

ノロウ(アルド)「本当に大丈夫なのか?」

イマ(ローラ)「ええ! いずれそっちの気持ちの方が大きくなったら 動くけど まだそれを望んでないってわかったし その気持ちを持ったままでも 大丈夫なんだって気づけたから。」

ノロウ(アルド)「……? いったい何の話だ?」

イマ(ローラ)「あっ いや こっちの話!」

イドリム(エイミ)「私は このイマが好き……。」

イマ(ローラ)「わたしも好きよ イドリム。……もちろん ノロウも!」

ノロウ(アルド)「や やめないか。それより 見回りの時間だ。行くぞ!」

イマ(ローラ)「ええ!」


語り(サイラス)「ちゃんと自分を受け入れることが できたでござるな! こうして 3人の物語はまた始まっていったのでござる。」



幕が下りると、会場は拍手で包まれた。心なしか笑顔のお客さんが多い。


アナウンス「では ここで 10分間の休憩とさせていただきます。」


>>>


アナウンス「では 公演を再開します。」


観客は静かだった。もう準備は万端だということだろう。


アナウンス「第4公演 脚本 リィカ 『エージェントR.I.C.』 開演です。」


ブザーが鳴ると、静寂の中ゆっくりと幕が上がった。



語り(ヘレナ)「時は A.D.XX年。王都ユニガンのとある一軒家の地下に広がる 謎の近未来空間。そこをアジトにしている すご腕の諜報組織がいたわ。その名も「エージェントR.I.C.」! 今日は エージェントR.I.C.が関わった ある事件を紹介するわ。」


C(フィーネ)「ふぅ~。昨日は疲れたね エージェントI。」

I(リィカ)「全くデス! ボスはアンドロイド使いが 荒すぎマス!」

R(ローラ)「でも あの時 私たちが行かなかったら 大変なことになっていたんだから そんな風に言うもんじゃないわ エージェントI エージェントC。」

C(フィーネ)「確かに それがわたしたち エージェントR.I.C.の使命だもんね!」

ボス(サイラス)「お前たち 集まっているようでござるな。」

R(ローラ)「ボス!」

ボス(サイラス)「お疲れの所 悪いでござるが 任務でござる。」

C(フィーネ)「今度は何ですか?」

ボス(サイラス)「常識破りで有名な 怪盗トゥシーフが 今夜王家の秘宝を盗むという情報を得た。」

R(ローラ)「怪盗トゥシーフ……!」

I(リィカ)「デハ 今回の任務ハ 秘宝の死守 オヨビ怪盗トゥシーフの捕獲デショウカ?」

ボス(サイラス)「その通りでござる。では よろしく頼むでござるよ。」

R(ローラ)「御意。」

C(フィーネ)「じゃあ 早速作戦会議だね!」


語り(ヘレナ)「そしてその日の夜。」


C(フィーネ)「そろそろ予定時刻だね。準備はいい?」

I(リィカ)「バッチリ デスノデ!」

R(ローラ)「皆 作戦通りに動くのよ? ……来た!」

トゥシーフ(エイミ)「どーーーん!」

C(フィーネ)「えーーー! こっそり入るどころか 窓ガラスを自分から壊しにきたよ!?」

I(リィカ)「ナルホド! だから 常識破りの怪盗 なのデスネ?」

R(ローラ)「そういうこと。さあ もう少しで捕獲よ!」

トゥシーフ(エイミ)「よし 今日も完璧な登場ね! さて これが 例の秘宝だね? わざわざ こんなガラスケースに入れて……。わたしには 通用しないわよ? 一拳入魂!」

R(ローラ)「来るわ!」

トゥシーフ(エイミ)「どーーーん! ってあれ? 割れてない!?」

R(ローラ)「今よ! I!」

I(リィカ)「ターゲットを捕獲。疲労度34% 負傷度52% デス!」

トゥシーフ(エイミ)「えっ?」

C(フィーネ)「それじゃ 私の出番だね! 魔法を使って えい!」

トゥシーフ(エイミ)「わぁーー! ってうん? 攻撃されてるどころか 回復してる? どうなってるの?」

R(ローラ)「「攻撃しない・どんな相手でも傷ついていたら回復・自首を推奨」。これが 私たち エージェントR.I.C.の やり方よ!」

トゥシーフ(エイミ)「何て優しいの? わたしも大概だけど あなた達も かなりの常識破りのようね。確かに 回復されたら 逃げる気も失せるし 自首しようかなって思えるわね……。わかったわ。わたし 自首する。」

C(フィーネ)「やった! これで解決だね!」

I(リィカ)「ミッション・コンプリート デスノデ!」

R(ローラ)「それじゃ 一緒に 騎士団のところまで行きましょ?」


語り(ヘレナ)「これが 今回の事件の全貌よ。エージェントR.I.Cの今後の活躍に目が離せないわね!」



幕が下りると、会場は拍手が沸き起こった。劇中、笑いが起こることもあった。


アナウンス「では ここで 10分間の休憩とさせていただきます。」


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アナウンス「では 公演を再開します。」


観客は少しざわざわしている。


アナウンス「第5公演 脚本 フィーネ 『魔獣の女の子と人間の女の子』 開演です。」


ブザーが鳴ると、観客はようやく静かになる。そして、幕が上がった。



語り(アルド)「これは そう遠くない未来のお話。あるところに魔獣の女の子がいました。魔獣の女の子は 人間にとても興味を持っていました。しかし 魔獣の父親はそれをよくは思っていませんでした。」



魔獣娘(ローラ)「父さん! 何で 人間に興味を持つことが いけないの?」

魔獣父(サイラス)「人間は 我ら魔獣を虐げたのでござる! そんな奴らに興味を持ってどうするでござるか!」

魔獣娘(ローラ)「そんなの 昔の話でしょ! 今ならわかってくれる人もきっと……。」

魔獣父(サイラス)「人間というものは 歴史から 何一つ学ばないのでござる! 人間は人間でござるからな! さあ そんなこと言ってないで 外で遊んでくるでござる!」

魔獣娘(ローラ)「もう いいわ! 言われなくても そうします!」


語り(アルド)「そしてこの夜 魔獣の女の子は 魔獣の村を抜け出し 人間の住む大陸へと やってきてしまったのでした。しかし どこに行けばいいのかもわからない魔獣の女の子は どうすることもできず ついにその場に座り込んでしまいました。すると 魔獣の女の子に声をかける人が現れたのです。」


人間娘(フィーネ)「あら あなた どうしたの?」

魔獣娘(ローラ)「……私 人間に興味があって 村から抜け出してきたんだけど どうすることもできなくて……。」

人間娘(フィーネ)「それは 大変……! じゃあ わたしの家においでよ!」

魔獣娘(ローラ)「でも 人間って魔獣が嫌いだから 私が行ったら あなたに悪いわ。」

人間娘(フィーネ)「大丈夫 大丈夫! もし そんな人がいたら 私が何とかするから!」

魔獣娘(ローラ)「そう……? じゃあ そうさせてもらうわ!」


語り(アルド)「こうして 魔獣の女の子を自分の家に連れてきた人間の女の子。しかし 魔獣の女の子を連れてきたという話は すぐに町中に広がり 魔獣の女の子や 人間の女の子とその家族に嫌がらせをしたり 冷たくあしらったりしました。そして 人間の女の子の母親は 娘に話をしました。」


人間母(リィカ)「申し訳ゴザイマセンガ アノ魔獣をこれ以上置いておくわけニハ いきません ノデ!」

人間娘(フィーネ)「どうして? あの子 村から一人で抜け出して いくところもないんだよ!?」

人間母(リィカ)「しかし コレ以上ハ あなたガ何をされるか わからないデスシ 魔獣のためニモ なりません ノデ!」

人間娘(フィーネ)「それはそうだけど……。」

魔獣娘(ローラ)「じゃあ どうしたら 私のこと 認めてくれますか?」

人間母(リィカ)「……! 部屋カラ出てハいけないと 言ったハズデス!」

魔獣娘(ローラ)「話が聞こえてきたもので……。それで どうなんですか?」

人間母(リィカ)「……人間のタメニ働いてクレタラ 考えなくも ないデス。」

人間娘(フィーネ)「ママ……! 何てことを……!」

魔獣娘(ローラ)「そうしたら 受け入れてくれるんですね? わかりました。」

人間娘(フィーネ)「……。」


語り(アルド)「それからというもの 魔獣の女の子はその町で 冷たくされながらも めげずに町の皆のために働きました。その結果 持ち前の人の好さも相まって 徐々に町の人に 受け入れられるようになり 冷たい態度や嫌がらせは 無くなっていきました。そして しばらく経った後 人間の女の子は 魔獣の女の子に 話を切り出しました。」


人間娘(フィーネ)「ねえ わたし 魔獣の村に行ってみたいな! わたしも魔獣のこと興味あるの!」

魔獣娘(ローラ)「確かに 家を飛び出してから しばらく帰ってないし……。そろそろ 帰らないとさすがにマズいよね……。」

人間娘(フィーネ)「でも 私が行ったら あなたに迷惑かけちゃうかな……?」

魔獣娘(ローラ)「大丈夫! もしそうだとしても この街の時みたいにすればいいよ!」

人間娘(フィーネ)「そうだね……! じゃあ 行こう!」


語り(アルド)「こうして 魔獣の女の子は 人間の女の子を自分の村へと連れて行きました。しかし……」


魔獣娘(ローラ)「ただいま……。」

人間娘(フィーネ)「お邪魔しまーす……。」

魔獣父(サイラス)「……! 今までどこに行ってたでござるか!!! もうどれだけ心配したか……。村の者に島中を探してもらったのでござるよ?」

魔獣娘(ローラ)「それは 後で謝るよ……。そんなことより……」

人間娘(フィーネ)「こ こんにちは……。」

魔獣父(サイラス)「……!!! 人間!? ながい間いなくなったと思ったら 今度は人間を連れてくるとは……。さっさと どっかへ連れて行くでござる!!」


語り(アルド)「魔獣の女の子の時以上に 拒絶された人間の女の子は 魔獣の女の子がやったように 町のために働きました。そして 何とか こちらでも 受け入れられるようになりました。そこで 女の子たちは話し合いました。」


魔獣娘(ローラ)「ねえ。私 あなたとやりたいことがあるの!」

人間娘(フィーネ)「わたしも ちょうどやりたいことがあったの!」

魔獣娘(ローラ)「じゃあ 一緒に言ってみる?」

人間娘(フィーネ)「うん! せーの」

2人(ローラ・フィーネ)「世界中を旅する!」

魔獣娘(ローラ)「やっぱり 同じこと考えてたんだ!」

人間娘(フィーネ)「なんだか とっても嬉しい!」

魔獣娘(ローラ)「私も! 私たちなら 人間と魔獣の間の溝が 埋められる気がするんだ!」

人間娘(フィーネ)「わたしもそう思うわ! だって 私たちが その証人だもの!」

魔獣娘(ローラ)「じゃあ 行こうか!」

人間娘(フィーネ)「うん!」


語り(アルド)「こうして 魔獣の女の子と人間の女の子は 互いに手を取り合って 魔獣と人間の懸け橋となるように 旅に出ました。これは そう遠くない未来のお話。もしかしたら それはもう来ているのかもしれません。」



幕が下りると、会場は拍手と歓声が起こっていた。フィーネのメッセージは届いたようだ。


アナウンス「では ここで 10分間の休憩とさせていただきます。」


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アナウンス「では 公演を再開します。」


観客は静かだった。観客には少し疲れの色も見える。


アナウンス「第6公演 脚本 アルド 『ある旅人の記録』 開演です。」


ブザーが鳴ると、最後の幕が上がった。


語り(フィーネ)「これは とある旅人のお話。旅人が仲間と一緒にとある村にやって来たようです。」


旅人(ローラ)「ふぅ……。やっと町に着いたな……!」

旅仲間(アルド)「道中魔物も多かったし 大変だったけど やっと休めるな!」

旅人(ローラ)「早速 宿屋を…… ん?」

旅仲間(アルド)「どうしたんだ?」

旅人(ローラ)「あそこの人 何かお困りのようだね。」

旅仲間(アルド)「声かけてみるか?」

旅人(ローラ)「ああ。」

酒場の主(ヘレナ)「困ったわね……。」

旅人(ローラ)「そこの人 どうしたんだ?」

旅仲間(アルド)「何かあったのか?」

酒場の主(ヘレナ)「聞いてくれるかしら? 宿屋や酒場に今日届くはずの食料や備品が まだ届いてないのよ。いつもなら とっくに届いているはずなのに……。」

旅人(ローラ)「それはいつもはどの方角からくるんだ?」

酒場の主(ヘレナ)「いつもは東側からくるんだけど……。」

旅仲間(アルド)「オレたちとは逆の方向だな。」

旅人(ローラ)「その様だな。見に行ってみるか。」

酒場の主(ヘレナ)「行ってくれるのね? ありがとう! 気を付けていくのよ!」


語り(フィーネ)「さて ひょんなことから 荷物を運んでいる人を探すことになった2人。しばらくすると その人を見つけるのですが……」


現地の人(エイミ)「これじゃ 間に合わないわ。どうしよう……?」

旅人(ローラ)「大丈夫か?」

旅仲間(アルド)「今救けに来たぞ!」

現地の人(エイミ)「誰だか知らないけど 助かったよ! 実は台車の車輪の片方が外れてしまって……。」

旅人(ローラ)「3人いれば 何とか直して運べるだろう。」

旅仲間(アルド)「ああ。やろう!」


語り(フィーネ)「そうして 2人は困っていた現地の人と一緒に 台車を直して 町へと向かいました。村の人は大喜び! 酒場のマスターは お礼にご馳走してくれるようです!」


酒場の主(ヘレナ)「今日は お礼よ! たくさん食べてって!」

旅人(ローラ)「僕たちは当然のことをしただけなのに 悪いね。」

旅仲間(アルド)「ああ。オレたちは 台車の車輪を治しただけなんだけど……。」

現地の人(エイミ)「それだけでも もう大助かりよ! 今日の分がないと 1週間村に何もないままだったかもしれないし……。」

酒場の主(ヘレナ)「だから これくらいのことはさせて!」

旅人(ローラ)「ありがとう。では お言葉に甘えさせてもらうよ。」

酒場の主(ヘレナ)「そういえば あなた達 どこから来たの?」

旅仲間(アルド)「オレたち 西の町から来たんだ。」

現地の人(エイミ)「そんな遠いところから よく来たわね!?」

旅人(ローラ)「まあ 旅には慣れているからね。」

酒場の主(ヘレナ)「じゃあ 色んなところを旅してるのかしら?」

旅仲間(アルド)「ああ。それなりに経験もしているつもりだよ。」

現地の人(エイミ)「じゃあ その旅で行った町のことを話してよ!」

旅人(ローラ)「じゃあ 少し話させてもらおうかな。あれは 西の町であったことだけど……」


語り(フィーネ)「こうして 旅人は 酒場の人たちに 旅の話を聞かせていました。しばらくして 宿屋に入った旅人たち。しかし 旅人はそう長く滞在することはありません。翌朝すぐに旅人たちは 次の町へと向かうのです。」


旅人(ローラ)「世話になったな。」

宿屋の主(リィカ)「モウ行かれるのデスカ?」

旅仲間(アルド)「オレたちには目的があるからな。」

宿屋の主(リィカ)「ソウデスカ……。ソレは 残念デス。」

旅仲間(アルド)「また いつか 来た時には寄るよ!」

宿屋の主(リィカ)「また お待ちしてイマス ノデ!」

旅人(ローラ)「では 失礼するよ。」


語り(フィーネ)「こうして 旅人は自分の旅へと戻って行きました。現実は小説よりも奇なり。もしかしたら この旅人は皆さんかもしれません……。」



幕が下りると、会場は拍手で埋め尽くされた。


アナウンス「では 10分間の休憩とさせていただき その後投票を開示します。ご来場の皆様は 休憩が終わるまでに 投票をお願いいたします。」


>>>


 休憩後、ブザーが鳴って幕が開くと、そこには支配人と役者7名が立っていた。


「皆様 公演を最後までご覧いただき 誠にありがとうございます。まず結果を発表する前に 今回舞台で演じた役者を紹介したいと思います。」


観客は舞台後方に立つ俳優陣に目を向けた。


「左からヘレナさん サイラスさん エイミさん リィカさん フィーネさん アルドさん そして この公演で デビューを果たした ローラさんです!」


観客は6公演を演じたことへの拍手を送った。


「では 早速ですが 投票結果を発表します。今回 最も票が多かった作品を ローラさんのデビュー作品とし 当劇場のレパートリーとして 正式に追加したいと思います。それでは 発表します。今回最も票が多かったのは……」


会場内は緊張感に満ちていた。


「第5公演 フィーネさんが脚本を書いた 『魔獣の女の子と人間の女の子』です!」


観客は拍手と歓声で満たされた。フィーネはとてもうれしそうだ。


「脚本を手掛けたフィーネさんに もう一度拍手を!」


観客の反応に フィーネは少し泣きそうな顔をしていた。すると、支配人が少しテンションを落として言葉を続けた。


「ここで少し訂正を申し上げたいと思います。」


観客は、急な展開にざわついている。


「一番票の多い作品を 正式にレパートリーにするということでしたが 実は この作品は一票差で そのほかの作品は同率だったようです……!」

「えっ それってフィーネの作品と それ以外の作品が一票差だったってことか!?」

「そういうことです! そういうことなので 他の作品も素晴らしかったということで こちらも正式に劇のレパートリーに加えようと思います!」


また、観客から歓声が上がった。


「ということで これで以上になります! この度はご来場いただき誠にありがとうございました!」


劇場内は、拍手喝采であった。こうして、壮大なデビュー公演は、劇場の再興観客動員数を記録して、幕を閉じたのであった。

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勇者紡ぎし6の物語 さだyeah @SADAyeah

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