第3話 6人の新人脚本家

 アルドたちは、本を巡る旅を終え、国立劇場へと戻ってきた。


「おっ 君たちか! どうだ? いい脚本が書けそうかな?」

「まあ 皆 ある程度アイデアは出たみたいだよ。」

「おお! 君たちならそういうと思ったよ! じゃあ さっそく 劇作家と打ち合わせといこうじゃないか! 一人ずつ行うから 他の人はそこにかけていてくれ! じゃあ まずは紫の君からだ!」

「私ね。わかったわ。」


そういうと、ヘレナは支配人に続いて、別室へと向かった。


>>>


ヘレナはさっそく劇作家と打ち合わせを始めた。


「じゃあ 早速始めるよ。」

「ええ。よろしくお願いするわ。」

「では まず どんなお話を考えているか ざっくりとでいいから 教えてくれないかな?」

「話の内容は決まっているわ。ずばり……」

「……。」

「「戦場の男女の恋」よ!」

「おお! なかなか面白そうだね! 生きるか死ぬかの状況で 戦いが終わった後の 日々を夢見る男女……。涙を誘うね。」

「まさにその通りよ! よくわかってるわね!」

「まあね。それで 役とかは決まっているかい?」

「だいたい決まっているわ! まずは 主役の男女 それから 敵が2人ほどとナレーションが必要ね。」

「では ローラとかいう役者を 主演にするということだけど 配役は主役の女性ってことかな?」

「ええ。そのつもりよ。」

「なるほど。じゃあ もう一つ聞きたいんだけど なぜこの話にしようって決めたんだい?」

「それは……」


ヘレナは少し考えから言った。


「最後まで共に戦ってきた愛する人を 当然のように傍にいると思っていた人を失うって なかなか経験するものでもないわ。だから それを 劇で体験した時に 人間がどう思うのか 知りたいのよ。」

「なるほど……。」


すると、劇作家は少し考えてから言った。


「それじゃあ 私から1つ提案をさせてもらうよ。」

「ええ かまわないわ。」

「ありがとう。役に伝令を加えて 他の味方が全員やられたということを伝えさせたら より2人だけという関係性が 強調されるかと思うんだけど どうかな?」

「ええ すごくいいと思うわ!」

「じゃあ それでいこう。じゃあ セリフとかについて決めていこうか。」

「わかったわ。」


こうして、ヘレナの打ち合わせは進んでいった。

待つこと数十分、一行のもとにヘレナが帰ってきた。


「おっ 帰ってきた。」

「どうだった ヘレナ?」

「ええ 非常に有意義な時間だったわ。」

「難しくはなかった?」

「難しいとは感じなかったわ。あっ 次はサイラスよ。」

「拙者でござるか! では行ってくるでござる!」


ヘレナと交代で、今度はサイラスが打ち合わせへと向かった。


>>>


「じゃあ 早速始めようか。」

「お願いするでござる!」


(カエルと劇の打ち合わせだなんて 一生ないだろうな……。)


劇作家は今起きていることの奇妙さを感じながらも続けた。


「では まず どんなお話を考えているか ざっくりとでいいから 教えてくれないかな?」

「もちろんでござる。拙者が考える物語は……」

「……。」

「「さすらいの剣士」でござる!」

「これまた 面白そうな話だね! 東方の演目はまだ一つだけだし、他の劇とテイストも違うからよさそうだね!」

「そうでござろう? 何もかも捨て 自分の信念と得物である刀だけをもつ剣士が 悪を斬りながら 旅をする……。我ながらいい出来でござる!」

「とてもいいよ! それで 役は決まっているかい?」

「旅の剣士 店の娘 敵 語りってところでござろうな。」

「なるほど! 今回は ローラとかいう役者を 主演にするということだけど 配役は店の娘役かい?」

「いや 彼女には 旅の剣士をやってもらうでござるよ!」

「旅の女剣士か……。いいね! じゃあそれでいこう! それじゃあ もう一つ聞きたいんだけど 何でこのお話にしようと決めたんだ?」


サイラスは、考えることもなく話した。


「己の信念を曲げずに生きる者は かっこいいでござる。そういう生き様を見て たくましく生きてほしいでござるよ。」

「なるほど……。」


劇作家は少し考えてから言った。


「それじゃあ 私から1つ提案をさせてもらうよ。」

「何でござるか?」

「敵を3人 うち1人を頭にして 派手に殺陣をやったら 迫力があっていいかと思うんだけど どうだい?」

「それは 良いでござるな!」

「じゃあ それでいこう。では 内容について詳しく決めていくとしようか!」

「お願いするでござる!」


こうして、サイラスは劇作家と打ち合わせを進めた。

ヘレナが帰ってきてからしばらく。サイラスが戻ってきた。


「お お帰り サイラス。」

「今戻ったでござるよ!」

「どうだった サイラス?」

「これは 歴史に残る大作を作ってしまったでござるよ!」

「ソレは 楽しみデス!」

「次は エイミでござるよ。」

「わ 私ね。わかったわ。」


エイミは、少し慌てつつも、打ち合わせへと向かった。


>>>


「それじゃ 早速始めようかな。」

「え ええ。お願いするわ。」

「じゃあ まず どんなお話を考えているか 教えてくれるかな?」

「そ それなんだけど……。」


少し言いづらそうにしながら、エイミは言った。


「色々浮かんでて 決められなくて……。」

「なるほど。今はどんなお話が浮かんでるんだい?」

「えっと お母さんと過ごす話とか 友だちと一緒に戦う話とか その れ 恋愛の話とか……。」

「なるほどね……。」


劇作家はしばらく考えてから、言った。


「そしたら 幼馴染で構成された3人の戦士の話とかはどうかな?」

「3人の戦士?」

「そして 主人公の女の子は 3人のうちの一人である男の子に 好意を寄せているけど 戦いに集中しないとという気持ちと 好きという気持ちで葛藤している。」

「な なるほど。」

「その時に 母親に相談する みたいな感じかな?」

「……! そう それ……! 多分 わたしが作りたかったのはそれだわ!」

「じゃあ これで決まりかな? とすると ローラとかいう女優は その気持ちの葛藤に悩む戦士だね。」

「そうね!」

「じゃあ 役柄はどうしようか?」

「3人の戦士は主人公の女の子以外に 幼馴染の女の子と男の子 それから ナレーションと 主人公の母親ってとこかしら。」

「なるほどね。では もう一つ聞くけど いくつか浮かんだアイデアは どんな思いから 浮かんできたんだい?」

「そうね……。」


少し考えてから、エイミは言った。


「強いて言うなら こうあったらいいなっていう理想かな。」

「そうか……。よし では 内容について 決めていくとしようか。」


こうして、どうなるかわからなかったエイミの打ち合わせも、順調に進んだ。

しばらくして、エイミはみんなの元へ戻ってきた。


「どうだ エイミ?」

「うん ばっちりよ!」

「話は無事決まったでござるか?」

「ええ。自分が作りたいお話が やっとわかったわ!」

「なんだか 顔が晴れやかね。」

「あら そうかな? さて 次は リィカよ。」

「ハイ。行ってきマス!」


>>>


「さあ では 始めようか。」

「お願いしマス!」


(カエルの次は 東方のからくり人形か……。まったく調子狂うな……。)


「じゃあ 早速だけど どんなお話を考えているのか 教えてくれるかな。」

「ハイ! ずばり……。」

「……。」

「「凄腕のスパイ」デスノデ!」

「なるほど! 諜報機関を題材にするということか! これはまた 新しくて面白そうだね!」

「コレナラ 1位 間違いナシ デスノデ!」

「すごい意気込みだね! じゃあ 配役とかは決まってるのかな?」

「エージェントが3人と 敵 ナレーション デス!」

「そうすると エージェントのうちの一人が ローラっていう女優だね?」

「ソウなりマス!」

「なるほど。それでは もう一つ聞きたいんだけど 何でこのお話にしようと決めたのかな?」


リィカは、ためらわずに言った。


「面白い ソウ思ったカラデス。」


「シンプルだね。そういうのもいいと思うよ。では 私から一つ提案をさせてくれるかな。」

「いつでも ウェルカム デス!」

「それじゃあ させてもらうよ。役だけど エージェントたちのボスを入れて 指示をさせてみたらどうかな? その方が よりリアリティがあるんじゃない?」

「それハ ブラインド・スポット でシタ! そうしマショウ!」

「よし じゃあそうしよう! それじゃあ 内容について詳しく決めて行こうか。」

「ハイ! お願いしマス!」


こうして、リィカの打ち合わせも順調に進んでいった。

しばらくして、一行のところにリィカは帰ってきた。


「あら お帰り リィカ。」

「打ち合わせ うまくいったか?」

「ハイ! 我ナガラ パーフェクトの出来 デスノデ!」

「おっ それは楽しみでござるな!」

「次は フィーネさん デスノデ!」

「は はい……! 行ってくるね お兄ちゃん。」

「ああ 行ってらっしゃい。」


>>>


「さて それじゃあ 始めようか。」

「お お願いします……!」

「じゃあ 早速なんだけど どんなお話に決めたか 教えてくれるかい?」

「そ そのことなんですけど……。」


フィーネは気まずそうに話した。


「実は いいのが思い浮かばなくて……。」

「なるほど……。そういえば 何か題材を探しに どこか行ったみたいだけど そこでは 何か印象的な本はあったかな?」

「……。……あっ」

「その反応は 何か心当たりがありそうだね。」

「魔獣の女の子と人間の女の子のお話は 印象に残ってます……!」

「ちなみに なぜ 印象に残ったんだい?」

「それは…… いつか 本に出てくる 魔獣の女の子と人間の女の子たちのように 人間と魔獣が分かりあえる日が 来ると思っているからです。」

「なるほど。ときに 芸術は現実の人々さえも 変えてしまうことがあるからね。」


劇作家は少し考えてから言った。


「それじゃ その本を題材に 劇を作ってみてはどうかな?」

「うーん……。」

「あら 何か引っかかることがあるみたいだね。」


フィーネは、少し考えてから、恐る恐る言った。


「……このお話で劇を作ったら 悲しい気持ちになっちゃうかなって 思ったんです……。せっかく見に来てくれたんだったら お客さんには 楽しい気分で帰ってほしいんです……!」

「なるほど……。特に どの部分が悲しいと思ったんだい?」

「2人が それぞれの住んでる街に 行くんですけど その時に 町の人からいじめられちゃうんです。そこの部分は……」

「なるほどね……。では いっそのこと 歓迎するってしたらどうだろう? 町の人に最初は少し冷たかったけど 段々いい子だってわかってきたことで 歓迎されるといった感じで。」

「それならいいかもです……!」

「それじゃあ そうしようか! それで 配役はどうしよう?」

「魔獣の女の子 人間の女の子 語り 人間の女の子のお母さん 人間の魔獣のお父さんというところでしょうか?」

「うん! それでいいんじゃないかな? そしたら ローラっていう女優はどちらの女の子を演じてもらおうか?」

「魔獣の女の子をやってほしいです!」

「わかった! それじゃあ 具体的に内容を決めていこうか。」

「はい! お願いします!」


こうして、フィーネの打ち合わせも何とかうまく進んでいった。

しばらくして、一行のもとにフィーネが戻ってきた。


「おっ どうだった フィーネ?」

「うん! 何とか大丈夫だったよ お兄ちゃん!」

「うまくいってよかったわね。」

「はい! じゃあ 最後はお兄ちゃんだよ!」

「ああ 行ってくる。」


そうして、最後にアルドは、打ち合わせに行った。


>>>


「君が最後だね。それじゃあ 始めようか。」

「ああ よろしく頼むよ。」

「早速だけど どんなお話に決めたのかな?」

「そのことなんだけど……。」


アルドは、一呼吸置いてから話した。


「オレたちの 旅の様子とかでもいいかな?」

「旅の様子というと……?」

「さっきまで 色々本を読んだりしてきたんだけど オレたちが行ってる旅も お話になるようなことかなって思ったんだ。」

「ふむ。その発想はなかったね。事実は小説よりも奇なりとも言うしね。」

「だから お話は 旅人がある街に来て そこで現地の人と話したり 酒場でご飯を食べたり 宿に泊まってゆっくりしたりっていうのを 考えてたんだ。どうかな?」

「新しい発想でいいね! そうすると配役はどうなるかな?」

「旅人 旅仲間 酒場のマスター 宿屋の主人 現地の人 語りってところかな。」

「それで 行こうか。それじゃあ くわしく決めていこうか!」

「ああ よろしく頼む!」


こうして、アルドの打ち合わせも進んでいった。

しばらくして、アルドは戻ってきた。


「あっ お帰り お兄ちゃん!」

「ミーティングは いかがデシタカ?」

「ああ。何とかうまくいったよ!」


すると、支配人がやって来た。


「やあ 君たち!! なかなか面白そうな演目だったじゃないか! やはり君たちに頼んで正解だったよ!」

「ところで 今日みんなが作った脚本は いつごろできるんだ?」

「彼が かなりやる気になっているから そこまで時間はかからないと思うよ。脚本ができ次第 稽古をしながら 広告も大々的に打ち出す予定だよ!」

「じゃあ 脚本ができるまで 休んでいくか。」

「そうでござるな。先ほどまで 色々なところに行っていたでござるからな。」

「こちらも少し待たせてしまうと思うから それまでは 好きにしてくれてかまわないよ。もちろん 今ある脚本で出演してもらってもいいんだよ?」

「わ わかったわよ。」


こうして、一行は脚本ができるまでの間、ユニガンで休むことにしたのだった。

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