第2話 残されし4の知の宝庫

 一行は、ミグランス城の最上階にある部屋に来ていた。ここは、当代のミグランス王の居室だったところだ。


「じゃあ 早速見てみるか!」


一行は、思い思いに本を本棚から取り出すと、それぞれ読み始めた。アルドも試しに、厚みの無い本をひとつ取り出すと、その場に座った。


「えっと なになに? 『3匹のゴブリン』……。読んでみるか。」


アルドはさっそく本を開いた。


「むかしむかし あるところに ゴブリン ハイゴブリン プラームゴブリンの 3匹のゴブリンの兄弟がいました。3匹はとても仲が悪く いつもケンカばかりでした……」


どうやら、このお話は童話のようだ。


「そんなある日 病気がちな母ゴブリンのいのちを狙って 悪いアベトスが家を襲ってきました。そのとき はじめて ゴブリンの兄弟は協力し合い 助け合って アベトスを倒しました。それ以来 ゴブリンの兄弟は母ゴブリンと共に 仲良く暮らしましたとさ めでたしめでたし。」


アルドは読み終えると、本を元の場所に戻した。


「童話って 子どもの時に読むものだって思ってたけど 歳を重ねてから読むと 違った見え方がして面白いな。」


そして、本をもう一度選ぼうとした時、ふとサイラスが目に入る。アルドは声をかけてみることにした。


「サイラスは 何を読んでいるんだ?」

「おお アルドでござるか。これでござる。」

「『エルフの指輪』? それって ヴェイナが勧めていた本だよな?」

「いかにもそうでござる。実は ヴェイナがこの本のあらすじを 話してくれたでござるが 長くなりそうだったので 途中でこっそり抜けてきたでござるよ……。あれは申し訳ないことをしたでござる……。」

「同情するよ……。」

「しかし その時途中で出てきたから その後のあらすじが気になって 探してみたら見つけたでござる。」

「それで読んでいるのか。」

「しかし 拙者あまり本は読んでこなかったでござるが なかなか面白いでござるな!」

「確かに 改めて本を読むのって面白いなって思うよな。」


サイラスとアルドが談笑していると、そこにヘレナがやって来た。


「あら ずいぶんと楽しそうね。」

「ヘレナか。ヘレナは何を読んでいたんだ?」

「私はこれよ。」

「『今宵 ユニガンの酒場で』? 読んだことないな。」

「どんなお話でござるか?」

「ユニガンに住んでいた2つの家族がいて そこの娘と息子は 相思相愛だった。でも 親同士は仲が悪いでユニガンでは有名だったらしいの。」

「子どもと親で 関係が真逆なんだな。」

「そう。ある時 娘と息子の関係が両方の親にバレて 息子はバルオキーに 娘はリンデに引っ越すことになったの。しきたりに厳しい両家の親は 家から一歩も出させないようにしたわ。」

「何とも惨いことでござるな。」

「でも とうとう 2人は家のきまりを破って 夜ユニガンの酒場で逢うのよ。」

「ええ。なかなか素敵なお話だったわ。」


アルドは周りを見ると、みんなも大体読み終えたようだった。


「よし それじゃあ そろそろ次の場所へ行こう!」


>>>


 続いて、一行がやって来たのは、大陸の西側、暗黒大陸といわれる場所にある魔獣城の地下であった。


「話には聞いてたけど 初めて来たわ!」

「コノ魔獣城に こんなスペースが存在していたトハ 驚きデス!」

「じゃあ 早速見てみよう!」


こうして、みんなは思い思いに本を取り、読みだした。アルドは、本を取り出そうとして、ふと、ミストレアが貸してくれた本を思い出し、取り出した。


「確か 『ミグレイナ旅行記』だったか。せっかく借りたし 読んでみるか。」


早速アルドは、ミストレアに借りた本を読んでみた。しばらくして、読み終わったところでフィーネが話しかけてきた。


「お兄ちゃん! 何読んでるの?」

「ああ フィーネか。『ミグレイナ旅行記』っていう本だよ。勧められた時に貸してくれたから 読んでみようと思って。」

「へぇー どんなお話なの?」

「古代の西の大陸の宣教師が 書いた本なんだけど ラトルで逢った人とか デリスモ街道で出逢った魔物とかを 細かく描かれていて面白かったよ。」

「創作じゃなくて 実際に経験したお話なんだね!」

「ああ そうみたいだな。フィーネは何を読んだんだ?」


アルドの問いに、フィーネは読んでいた本の表紙を見せながら答えた。


「わたしは 『魔獣の女の子と人間の娘』って本を読んでたんだ!」

「どんなお話なんだ?」

「えっと 人間の世界に興味を持った女の子が ある日家を飛び出して 人間の住む町に行くの。そして そこで 魔獣に興味を持った女の子に 出逢うんだ!」

「お互いに興味を持った2人が出逢ったんだな!」

「そうなの! それで 人間の女の子が 自分の町に 魔獣の女の子を連れて行くんだけど 町の人たちが 魔獣の女の子と 連れてきた人間の女の子を いじめるようになっちゃったの。」

「そ それでどうなったんだ?」

「それで 今度は 魔獣の女の子が 人間の女の子を 自分の村に連れて行くんだけど そこでもいじめられちゃって 最終的に2人は旅に出るってお話なんだ。」

「そのお話の女の子たちは お互いのことを想いあっていたんだな。」

「うん。わたしは人間と魔獣がいつか このお話の女の子たちのように 想いあえる日が 来ると思ってる。」

「ああ。きっと来るさ。」


2人は、人間と魔獣の未来に想いを馳せていた。すると、ちょうど前をリィカが通ったので、アルドは声をかけた。


「リィカ。 リィカは何読んでたんだ?」

「ワタシは 『熱風の使者』を読んでイマシタ。ルーフスさんに 勧められマシタノデ。」

「ルーフスが? いったいどんなお話なんだ?」

「このストーリーは 熱風の使者と呼ばレル主人公ガ 悪ニ立ち向カウ というものデス!」

「な 何ともルーフスらしい……。」

「熱風の使者さんの技は とても 素晴らしカッタデス! 今度 KMS社の定期メンテナンスの時 プログラムをお願いシヨウと 思いマスノデ!」

「ハハッ そいつは楽しみだな!」


リィカの爆炎の拳に期待したところで、アルドは全員に声をかけた。


「よし そろそろ行こう。次は マクミナル博物館だ!」


>>>


 一行は時代を超え、未来の浮遊街ニルヴァにあるマクミナル博物館の図書フロアへとやって来た。


「あの時は オーガの鍵で頭がいっぱいでござったが よく見ると とてつもない本の数でござるな……!」

「ここの本を全部読もうと思ったら 数年はかかりそうね。」

「確かにそうだな。まあ 探すのは大変だけど 見てみよう!」


一行は、2つに分かれた広大な図書エリアに諸所に散らばり、本を探し始めた。アルドはあたりをうろついた後、ふと目に着いた本を手に取った。


「『天空の学び舎 ―IDAスクール誕生物語―』か。IDAスクールのことは 気になるし 読んでみるか。」


アルドは、早速本を読み始めた。そこには、創設者の幼少期の苦悩や、IDAスクール建設時の周辺住民とのトラブルや、そのカリキュラムやシステムにおける上層部との対立などの壮絶な過去と、創設者のIDAスクールにかけるまっすぐな思いが記されていた。


「……。」


アルドは静かに本を閉じた。


「なんか これから IDAスクールを見るたびに 思い出して こんな気持ちになりそうだな。」


畏敬の念に駆られたアルドは、そのまま本を元に戻した。すると、サイラスが隣で本を返しに来たので、声をかけた。


「やあ サイラス。何読んでたんだ?」

「アルドでござるか。『女戦士アテナ』を読んでいたでござるよ。」

「ああ 確かルイナが勧めてたって本か。」

「いかにも。拙者 このアテナ殿に 感銘を受けつつも 自分を改めて見つめなおさせられたでござる。」

「ど どういうことだ?」

「アテナ殿は 国にどれだけ理不尽なことをされようと 村の人々にどれだけ冷たくあしらわれようと 決して心折れることなく 世界の平和のため たった一人で戦ったでござる。これは 感動せずにはいられないでござろう?」

「そうだな。一人で世界を救うだなんて オレには考えらえないよ。」

「拙者もそう思うでござる。だからこそ 呪いでこの姿になったとはいえ いい仲間に恵まれ 温かい人々に囲まれた拙者が こんな のほほんと暮らしていてよいのかと 思ってしまったのでござる。」


サイラスはよほど影響を受けたのか、今までにないくらい渋い顔つきでいた。


「なるほどな。でも オレの旅についてきてくれてるだろ?」

「確かについてきているでござるが それが どうしたでござるか?」

「それって オレの旅の目的に賛同してくれてるってことだろ?」

「まあ そうでござるな。」

「オレの目的は エデンや世界を救うことだ。なら サイラスも同じ志だってことだから アテナって主人公と同じなんじゃないか?」

「……!」


アルドの答えにサイラスはハッとしていた。


「そうでござったか……。拙者すでに アテナ殿とおなじだったでござるか……!」


サイラスは、アルドの言葉をゆっくりと噛みしめているようだった。一方、アルドはリィカが近くに本を直しに来たので、声をかけた。


「おっ リィカは 何を読んでたんだ?」

「ワタシは イスカさんのおススメの『エージェントXYZ』を読んでイマシタ!」

「イスカの勧めた本か……! どんなお話だったんだ?」

「ソウ遠くない未来 全てがネットワークで 行ワレル時代のエルジオンで 次々ニ起コル サイバー犯罪を エージェントXYZが 仲間と共ニ 解決スル というストーリー デス!」

「さすがイスカが読むだけあって オレには何のことだかサッパリだ……。」

「このエージェントXYZと ソノお仲間ハ 常ニ 死を覚悟シテ 任務を行ッテイマス。このマインドハ ワタシも見習うべきトコロが あります ノデ。」


その精神に感銘を受けたからなのか、アルドはいつもよりリィカの顔が真剣であるように感じた。


「オレは どちらかというと ちゃんと命は大事にしてほしいけどな……。今回は みんな 本に影響されたみたいだな。」


アルドはサイラスとリィカの心の影響に、複雑な心境であった。その気持ちを吹っ切るように、少し大きめの声でみんなに言った。


「よし それじゃ そろそろ……。」


すると、小さな揺れと共にフィーネの叫び声が聞こえた。


「フィーネ!? 奧の方か!」

「行くでござるよ!」


そして、悲鳴が聞こえた場所へと向かうと、フィーネが1体のダイナヴィランと戦っていた。


「フィーネ!」

「お兄ちゃん! それにみんなも!」

「よく耐えたわ! もう大丈夫よ!」

「みんな いくぞ!」


そうして、みんなは戦闘態勢に入った。


>>>


少し手ごわくはあったが、何とかダイナヴィランを倒した。


「ケガはないか フィーネ?」

「うん 大丈夫だよ! 皆さんも助けてくれてありがとう!」

「よし また 魔物が出てくる前に 次のところへ行こう!」


>>>


 一行が最後に来たのは、パルシファル宮殿の書斎だった。


「パルシファル宮殿には何回か来たけど こんなに本があったなんて 知らなかったわ。」

「ここは 他の人の迷惑にならないようにしないとだね!」

「ああ そうだな。それじゃあ 早速見てみるか!」


皆は早速本を取り出し読み始めた。アルドは、目の前にあった本を手に取る。


「『ヒストリア オブ ブリリアント キングダム』……。これって クロードが勧めていた本か!? この時代からあったなんて……。まあ 読んでみるか!」


アルドは、しばらく無言で読み進めていた。クロードが言っていた通りの、貧しい村の青年が一国の王になるまでを描いた作品だったが、その分量はすさまじく、百科事典くらいの厚さであった。


「なかなか分量が多くて 大変だな……。」


すると、フィーネが声をかけてきた。


「お兄ちゃん すごい分厚い本読んでるね……!」

「ああ。思ったより大変だよ……。」

「頑張ってね お兄ちゃん!」

「ありがとう 頑張るよ……。」


すると、そのままフィーネは、そばを通ったエイミに話しかけた。


「あっ エイミさん! エイミさんは何読んでたの?」

「わたしは 『オンディーヌに恋して』って本を読んでたわ。」

「な なんかすごい本だね……!」

「この本は オンディーヌのことを本気で愛した青年の奮闘劇ってところかな。でも 本のタイトルはさておき 一途な青年の行動に キュンとしたわ!」

「そうなんだ! ちょっと 興味ある かも?」

「あら フィーネもそういうのに 興味があるの?」

「ないといったら 嘘になるけど……。」


すると、ヘレナが話に入ってきた。


「それなら この『月の女神と金の弓矢』もいいわよ。」

「それって シンシアさんが おすすめしてたお話だよね?」

「ええ そうよ。主人公の女神が 男勝りでとても強いけど 恋には一途なところが ステキだわ。まるで どこかの誰かさんみたいね。」


ヘレナはエイミを見ながら言った。


「そういえば その本も 恋のお話だったね。」

「ええ。こういうお話は 私嫌いじゃないわ。」

「あら わたしもよ。気が合うわね!」


いつのまにか、フィーネをさしおいて、エイミとヘレナは恋の話で盛り上がっていた。


「わたしは やっぱり まだいいかな……。」


フィーネは、2人の様子を見ながらそう言った。すると、ちょうどアルドが本を読み終えた。


「ふぅ……。なかなか骨のあるお話だったけど 確かに とても面白かったな! 未来まで残ってた理由がわかるよ。」

「お疲れ様 お兄ちゃん!」

「ああ ありがとう。」


アルドは本を片付けると、みんなに言った。


「さて これで全部だけど アイデアはまとまったか?」

「ばっちりでござるよ!」

「ワタシの中では イメージが完璧にできてイマス ノデ!」

「本筋は大体できたわ。」


サイラス・リィカ・ヘレナは準備万端なようだ。一方、フィーネとエイミはあまり芳しくなさそうだ。


「フィーネとエイミはどうだ?」

「わたしは 色々見たけど まだいいのが浮かんでないかな……。エイミさんは?」

「わたしは 逆に色々いいのがあって 一つに決められてないわね……。」

「まあ 劇作家の人と話をしたら 決まるかもしれないし 一度 国立劇場に戻ろう。」

「そうね。そうしましょ。」


こうして、一行は時代を超えた本を巡る旅を終え、国立劇場へと戻った。

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