勇者紡ぎし6の物語

さだyeah

第1話 7人の読書家

 オーガ族との戦いに終止符を打ったアルドたち。みんなは、一度それぞれの時代に帰り、数日後再び王都ユニガンに集まっていた。ミグランス王に挨拶をするためだ。アルテナの傍に着くため、コニウムに残ったギルドナを除くアルドたち6人―アルド・フィーネ・リィカ・エイミ・サイラス・ヘレナ―は、宿屋を訪れた。


「失礼します。」

「おお そなた達か! 体は癒えたか?」

「ええ おかげさまで!」

「もう ピンピンでござるよ!」

「ハハハ それは良かった!」

「その様子だと そちらも元気そうね。」

「おお もちろんだとも! 王たるもの いつまでも みっともない姿を 民に曝すわけには いかぬからな。」

「さすがハ ミグランス王 デス!」


数日前まで共に戦っていたにもかかわらず、アルドたちとミグランス王は旧友に逢ったかのように、話を弾ませていた。


「では ミグランス王 オレたちはこれで。」

「うむ。挨拶に来てくれて 礼を言うぞ そなた達!」


そういって、部屋を出ようとした時、ミグランス王が呼び止めた。


「おお そうだそうだ すっかり忘れておった。」

「……? どうされましたか?」

「数日前に 国立劇場の支配人から手紙が来てな。」

「劇場支配人から?」

「なんでも 劇場のことで 相談があるとか……。」

「相談…… 一体何かしら?」

「まあ 一度 国立劇場に顔を出してやってくれ。」

「わかりました! ありがとうございます!」


そうして、アルドたちは宿屋を出た。


「我らと戦っていたと思えば 俳優として劇場に立つとは……。大したものだ……!」


ミグランス王は、頼もしい若者たちの背を見ながら、誇らしく言った。一方、宿屋を出たアルドたちは、次の目的地を決めていた。


「さて これからどうする?」

「なあ 一度 国立劇場に行ってみないか?」

「さっき ミグランス王が言ってたことだよね?」

「しかし あの支配人の相談でござろう……? なんか イヤな予感がするでござるよ……。」

「支配人ガ 無理難題を 言ってクル確率ハ 98.02% デスノデ!」

「でも 無下にすることもできないでしょ?」

「そうよ! 行きましょ アルド!」

「ああ そうだな!」

「絶対 後悔するでござるよ……。」


行き先が決まったところで、一行は国立劇場へ向かうため、ユニガンの東側に停まっている馬車に乗り込んだ。


>>>


 馬車に揺られること数十分、アルドたちは劇場へ着くと、さっそく劇場支配人に話しかけた。


「おお! 君たちか! 待っていたよ!」

「何か相談なんだって? ミグランス王に手紙を出すほど 重大なことでもあったのか?」

「重大どころの騒ぎじゃないんだよ! これは大問題だよ!」

「いったい 何だっていうのよ?」


どうも今回の問題はただ事ではないらしい。支配人は続けて言った。


「この劇場を復興させる当初から 君たちに 舞台に立ってもらっていただろう?」

「ああ そうだな。」

「しかし! 先の戦いで 君たちは最前線で戦っていただろう。」

「いかにも そうでござるよ。」

「そのおかげで 劇場の役者が ほとんどいなくなってしまったんだよ!」

「た 確かに そうなるな……。」

「それに こういった状況で 私の危機感は強くなるばかりだ。」

「その 危機感って……」

「無論 マンネリだ! マ・ン・ネ・リ!」

「なんか イヤな予感がするぞ……?」


アルドたちの頭は、イヤな予感で埋め尽くされていた。


「もう 言わんでもわかるだろう? 脚本だ!」

「皆サンの 悪い予感ガ 大当たり デス!」

「しかーーーし! 今回はいつもとはちょっと違うぞ?」

「ど どういうことだ?」


アルドたちのイヤな予感は、さらに強くなっていた。


「君たち 旅をしていて この体験をお話にしたら 面白いのではないか と思ったことはあるだろう?」

「そこまで 思ったことはないわね。」

「いや 必ず一度はあるはずだ! そこで お願いだ!」

「来たか……。」

「今回は 君たちに2つ頼みたい! 一つはこの劇場にいつでも出ることができる劇団員を探すこと もう一つは 君たちに脚本を一つ書いてほしいんだ!」

「劇団員に 脚本!? どうしよう……。」


2つのお願いという、いつも以上のムチャぶりに困惑している一行。その時、一人の女性が入ってきた。


「すみません……! こちらの支配人の方ですか?」

「ええ。私が支配人ですが。」

「初めまして! 私 俳優をやらせてもらってる ローラと申します!」

「は はあ。」

「早速ではありますが 私をこの劇場で 雇ってはもらえませんでしょうか?」

「何だって……?」

「私は以前 別の劇団に入っていて ここの会場を借りて 公演をしたこともあります! どうか雇ってはもらえないでしょうか?」

「……そ そ」

「……?」

「そんなの 採用するに決まってるじゃないか!」

「ほんとですか!? ありがとうございます!」


思っていた以上に単純であっけなく決まって、ローラは少し驚いている。支配人はご機嫌のままアルドたちに言った。


「そういうわけだから 劇団員探しは もう大丈夫だよ! 脚本だけお願い……」


すると、支配人は急に黙り込んだ。そうかと思うと、突然叫びだした。


「そうーーーーだ!!! そうすれば いいんだ!」

「な 何?」

「君たち 女性が主人公の劇の脚本を頼む! それで 彼女を主演に公演を行い お客様に評価していただき 一番評価が高かった作品を うちのレパートリーの一つに加えようじゃないか!」

「女性が主人公の物語でござるか……。」

「枠は狭まったけど それでも 難しいわね……。」


すると、ローラが支配人に尋ねた。


「えっ いきなり 私が主演ですか!?」

「もちろんだとも! よろしく頼むよ!」

「は はい……!」

「それじゃあ いったん劇場スタッフに 挨拶してきてくれるかな?」

「わかりました!」


そういって、ローラがその場を離れると、支配人は言った。


「さて それじゃ 君たちも脚本よろしく頼むよ!」

「お おい! ちょっと待ってくれ!」

「……? どうしたのかね?」

「オレたち 脚本を書くなんて初めてだから どうやったらいいのかわからなくて……。」

「うむ…… それもそうだな……。」


支配人はしばらく考えると、一つうなずいて言った。


「……脚本は小説とは違って 書き方に工夫がいるんだ。それを 短期間で完璧にこなすのは 難しいだろう。」

「……。」

「だから 実際に脚本を書くのは うちの劇作家にやってもらおう。君たちには 物語の原案をお願いしたい。話の内容や役柄などを言ってくれれば 後は彼が書いてくれるだろう。」

「それなら だいぶやりやすくなったわね。」


すると、サイラスが聞いた。


「しかし 拙者らは素人でござるから すぐには話は思い浮かばぬでござるよ?」

「だったら 試しに物語を読んでみてはどうかな? すでにある物語から刺激をもらって アイデアを出すのも悪くないと思うよ。」

「それだったら できそうかも……!」

「それじゃあ 頼むぞ!」


そうして、支配人もその場を去った。アルドたちは一度外へ出ると、話し合い始めた。


「さて 物語を読むといいって言ってたけど どこかに本が たくさんある場所ってあったか?」

「パルシファル宮殿に 書斎があったでござるよ。」

「確か マクミナル博物館にも 図書エリアがあったはずよ。」

「そういえば 以前 蛇骨島で竜神に逢う前に 魔獣城の地下の書庫に行ってたわよね?」

「ワタシのサーチでは ミグランス城にも 書斎らしき部屋ガ あるヨウデス!」

「じゃあ とりあえず その4か所をあたってみるか。」


すると、フィーネが言った。


「ねえ お兄ちゃん。たしか お兄ちゃんの仲間の人に 読書が好きな人っていないの……?」

「そういえば 何人か 読書が好きだって 聞いたことがあったっけ。」

「じゃあ その人たちに おすすめのお話を聞いてみるのも いいんじゃないかな……?」

「そうだな。じゃあ 仲間に聞くのと 書庫に行くのと どっちがいいかな?」

「おすすめの物語を 実際に確認するのなら 先に聞いておいた方が いいんじゃないかしら?」

「わかった。じゃあ早速 聞きに行こう!」

「書庫を見るのは 結構時間もかかりそうだし あまり時間も かけていられなさそうだから 手分けして聞き込みにしない?」

「わかった! じゃあ 後でユニガンで落ち合おう。」


こうして、アルドたちは手分けして、仲間のおすすめを聞くことにした。


>>>


 B.C. 20000年、ゼルベリヤ大陸、翼人の村。アルドはミストレアに逢いに来ていた。村長の家を訪ねると、そこにミストレアはいた。


「おーい ミストレア!」

「あら こんにちは アル。今日はまた どうされたんですか?」

「ミストレアに聞きたいことがあるんだ。」

「私に ですか……?」

「ああ。ミストレアって 読書好きだろ? だから おすすめの本を聞こうと思って。」

「うーん…… そうですね……」


ミストレアはしばらく考えた後、何かを思い出すと、家の奥に飛んでいき、一冊の本を持って帰ってきた。


「私が本をすすめるなら これです!」

「『ミグレイナ旅行記』か。」

「私は 今でこそ アルと共に 世界中を旅していますが それまでは この村を出ることは できませんでした。だからこそ 外の世界のことを綴った本を好んで読んでいました。」

「なるほどな。」

「この『ミグレイナ旅行記』は 中央大陸を旅した西の大陸の宣教師の方が 書いた本なんです。中央大陸で見た物事を その時の気持ちと共に書かれていて 何度も読み返した本です!」

「ミストレアにとっては宝物の本だな。」

「はい! あっ よかったら アルに貸しますよ?」

「えっ いいのか?」

「はい! アルならいつでも返してもらえますし!」

「ありがとう! 恩に着るよ!」

「いえいえ!」


こうして、ミストレアから本を借りたアルドは、ユニガンへと戻って行った。


>>>


 B.C. 20000年、ミグレイナ大陸、水の都アクトゥール。サイラスは、ヴェイナに逢うため、聞き込みに来ていた。


「しかし 参ったでござるな……。」


サイラスは周りを見渡しながら、腕を組んでいった。


「ヴェイナは 各地を旅しているということと エルフ族で話がとても長いということと 以前アクトゥールに居たという情報だけで探さないといけないとは……。アルドも人使いが荒いでござるな……。まあ とりあえず 酒場に行って聞いてみるでござるか。情報集めに酒場はもってこいでござるからな。」


サイラスは、半ば諦めムードで、酒場へ入って行った。


「む……。あれは……!」


サイラスが見たのは、酒場でエルフの女性が話をしており、周りが話に耐え切れず倒れているところだった。


「噂通りでござるな……。よし いざ参るでござる!」


そうして、サイラスはヴェイナに話しかけた。


「おぬしが ヴェイナでござるな?」

「あら 誰かと思えば アルドのお仲間さんじゃないですか。どうかしましたか?」

「拙者 おぬしに聞きたいことが あるでござるよ。」

「あら なんでしょう?」

「ヴェイナは 読書が好きだと聞いたでござる。そんな ヴェイナに おすすめの本を1冊教えてもらいたいでござるよ。」

「そういうことなら お安い御用ですよ。以前 ここに住む ご夫婦にお話した指輪のお話なのですが……」

「おっと 待つでござる。」

「どうされました?」

「拙者 時間がない故 その本の題名だけ 教えてほしいでござる。」

「題名は『エルフの指輪』というものです。」

「あいわかったでござる! では 拙者はこれで……」

「お待ちください。」

「な なんでござるか?」

「やはり 題名だけでは お分かりになることも 少ないでしょうから あらすじをお話しますね。昔々 あるところに 働き者の若者が……」


(しまったでござる……! 話し始めてしまったでござるよ……。)


サイラスは、少し考えてからあることを心に決めた。


(ヴェイナには 本当に申し訳ないでござるが ここは急いで失礼するでござるよ……! 御免……!)


そういって、サイラスは一目散に酒場を出て行った。幸い、ヴェイナは話を思い出すために、目を閉じていたため気付かれなかったようだ。こうして、サイラスは心を痛めながらも、ユニガンへと戻って行った。


>>>


 A.D. 1100年、ミグレイナ大陸上空、曙光都市エルジオン、ガンマ区画。フィーネは、シンシアに逢うため、あたりを捜索していた。


「お兄ちゃんが言うには シンシアさんは エルジオンのガンマ区画に いると思うってことだったけど……。」


それ以外に情報がないフィーネは路頭に迷っていた。


「う~ん……。どうしたらいいんだろう? ……そう思うと お兄ちゃんってこんなことばかりやってたんだよね……。すごいなぁ~。」


フィーネは捜索の仕方がわからず、一歩も動けずにいた。すると、後ろから声が聞こえた。


「あら こんなところで どうなさいましたか?」


ふり返ると、そこにいたのは探し求めていたシンシアだった。


「あっ シンシアさん! 探してたんです……!」

「どこかで お見かけしたような気がすると思ったら やはりアルド様のお仲間の方でしたのね! それで わたくしに 御用というのは……?」

「実は 今読書が好きな人に おすすめの本を聞いてまわってるんです。それで シンシアさんが 読書好きと聞いたので おすすめの本を 教えてもらいたいんです!」

「わたくしのおすすめの本ですか……。そうですわね……。」


シンシアは目を閉じて考えてから、目を開いて言った。


「でしたら『月の女神と金の弓矢』をお勧めしますわ!」

「どういった お話なんですか?」

「月の女神の悲しい恋の話ですわ。わたくし あのお話を読むと 涙を禁じ得ませんの……。」

「そんなに悲しいお話なんですか?」

「それはもう……。特に恋い慕う相手を 弓矢で誤って射抜いてしまう場面は……」

「あっ……。」

「……? どうかされましたか……?」

「えっ いや 何でもないです! 教えてくれて ありがとうございました! それじゃあ わたしはこれで。」

「アルド様に よろしくお伝えくださいまし!」


こうして、題名を聞いたフィーネはユニガンへと戻って行った。フィーネが去ってから数分後、シンシアは何かに気付いた。


「あっ わたくし もしかして 結末をお伝えしてしまったのでは……!」


その事実に気付いたシンシアは、思わず叫んだ。


「しくじりましたわ~~~!!」


>>>


 A.D. 1100年、ミグレイナ大陸上空、曙光都市エルジオン、シータ区画。リィカは、ルーフスに話を聞くため、エルジオン全体をスキャンしていた。


「全エルジオン・プレート スキャン完了。ルーフスさんハ シータ区画のゼノ・プリズマ前ニイルと断定。」


リィカは、他の人とは違い、迷うことなくルーフスのもとまで行った。


「ルーフスさん コンニチハ。」

「うん……? おう 誰かと思えば 相棒の仲間じゃねえか!」

「ハイ ワタシはKMS社製 汎用アンドロイド リィカ 改メ 仲間モデル デス!」

「おう それで 正義のヒーローに 何か用か? 合成人間を倒すのか?」


そういって、ルーフスは拳を振り回している。


「いえ ワタシハ ルーフスさんの ベストオブブックスを 聞きに来マシタ ノデ!」

「……? 何かよくわかんねえけど おすすめの本を教えりゃいいんだな……? なら 何といったって『熱風の使者』だぜ!」

「『熱風の使者』デスカ?」

「ああ。俺が ヒーローを目指す きっかけになった本だ! これに出てくる ヒーローが カッコいいんだよ! 特に敵を 爆炎の拳で どんどん貫いていくところは 最高に シビレるぜ! それから……」

「次から次へと 音声データが……。ワタシの処理メモリから 火ガ出そう デスノデ……!」


これ以上は限界だと思った矢先、子どもが走ってやって来た。


「いた! ヒーロー! 廃道ルートに 悪いやつが 出たって……!」

「おっ ヒーローの出番! ってか! あんた 悪いけど 俺は行くぜ!」


そういって、子どもたちと一緒に走って行ってしまった。


「ふぅ……。危なかったデス。一瞬 サイトモニターがオフラインに なりかけましたノデ! コレで ミッション・コンプリート デスノデ!」


本について聞いたリィカは、さっそくユニガンへと戻った。


>>>


 A.D.1100年、IDAスクールH棟、2階。ヘレナはルイナに逢うため、あたりを探索していた。


「それにしても ルイナはエルフ族だって言ってたわね……。エルフ族って確か絶滅したはずじゃなかったかしら……?」


そう思いながら廊下を歩いていると、少し前にそれらしい女の子を見つけた。


「ちょっといいかしら……?」

「……私になにか用?」

「あなた ルイナ よね?」

「なんで 私の名前を知ってるの? あっ。」


ルイナはその存在を思い出したのか、少し緊張を緩めて言った。


「あなた アルドの仲間にいた。」

「ええ。ヘレナよ。今日は あなたに聞きたいことがあってきたの。」

「アルドの仲間なら 協力する。アルドは 仲間だから。」

「ありがとう。それで聞きたいことなんだけど ルイナは読書が好きだと聞いたの。だから あなたのおすすめの本を聞きたいと思って。」

「教えるだけでいいの?」

「ええ。」

「私のおすすめの本……。」


ルイナはしばらく考えてから、言った。


「『エルジオン大百科事典』は面白いと思う。」

「えっ?」

「あの本は あらゆる事柄について 詳細に説明してる。知識が増えてとても面白いと思う。」

「えっと……。」


さすが真面目で有名なルイナなだけあって、面白いと思う本も真面目そのものだ。


「ルイナ もしよければ 小説とか物語で お願いできるかしら……?」

「小説や物語……」


ルイナはもう一度考えてから、言った。


「なら『女勇者アテナ』は面白いと思う。」

「何だかよさそうね。どんなお話なのかしら?」

「アテナという勇者が 色々な困難に出会いながら 一人で世界を救うお話。」

「何でこのお話が好きなのかしら?」

「この主人公の戦い方や生き方は とても勉強になる。」

「なるほど……。」


いかにも、ルイナらしい理由だとも思いながら、ヘレナは聞いていた。


「これで 大丈夫?」

「ええ。教えてくれて助かったわ。それじゃ 私は……」

「待って。」


帰ろうとするヘレナをルイナ呼び止めた。


「……? 何かしら?」

「あなた うちの生徒じゃない?」

「ええ。」

「ならいいけど。もし 入学するようなことがあったら 服装には気を付けて。私 風紀委員だから そういうことには敏感。」

「え ええ。わかったわ。」


ルイナと別れてからヘレナは思った。


(なかなか この時代には珍しい子だったわね。でも可愛いらしい子だったわ。)


こうして、ヘレナはルイナから話を聞いたところで、ユニガンへと戻って行った。


>>>


 A.D. 1100年、IDAスクールH棟、2階。エイミは、イスカとクロードから話を聞くため、IDA防衛執行委員会、通称IDEAの作戦室の近くまで来ていた。


「アルドが言うには わたしもIDEAの作戦室に入れるみたいだけど 大丈夫かな……。」


そうこうしているうちに、エイミは左から2番目と3番目の扉の間に来た。エイミは恐る恐る壁に手を触れると、壁が歪んでそのまま中へと入って行った。思わずエイミは目を瞑った。


「おや お客人のようだね。」

「誰かと思えば アルドの仲間か。」


エイミは恐る恐る目を開けると、そこには無数の画面に、何に使うかわからない謎の機械、それに数人の白制服姿の学生がいた。


「ここがIDEA作戦室……。」

「やあ キミ。大丈夫かい?」

「無理もないだろう。学校の中にこんなSF小説のような場が 存在しているのだから。」


少し落ち着きを取り戻したエイミは、本題を話し始めた。


「あなた達 イスカにクロードよね?」

「ああ そうだよ。」

「今日は あなた達に聞きたいことがあってきたの。」

「ほう。我々に用とはいったい何かね?」

「アルドには世話になっているからね。できる限りは協力するよ。」

「ありがとう。早速なんだけど わたし 今 読書が好きな人に おすすめの本を聞いてるの。それで 2人も読書好きだと聞いたから 教えてもらえないかと思って。」

「何だ そんな些末なことか。」

「それぐらいのことなら 何ら問題もないね。それで クロードは どんな本だ?」

「そうだな……。」


クロードは少し考えてから、言った。


「私なら『ヒストリア オブ ブリリアント キングダム』を勧めるな。」

「それは一体どんな物語なの?」

「これは ある青年が廃村寸前の村を町に そしてゆくゆくは全土を支配する王国へと 成長させるという話だ。」

「いかにも クロードらしいね。」

「この本は 創作であるが その諸政策は どれも実践的で効率的なものだ。王国再興を望む私には 良い教科書ということだ。」

「なるほど。」

「そういう イスカはどうなんだ?」


すると、イスカは考えることなく、即答した。


「わたしは 『エージェントXYZ』だね。」

「それって 有名なスパイ小説の!?」

「ああ そうだよ。」

「まさか イスカがそんなスパイものが 好きだとは思わなかったな。」

「確かに 生徒を守る集団の長の愛読書が 裏工作を巧みに行うスパイ小説とは 誰も思わないだろうね。でも……」


イスカは髪を耳にかけながら言った。


「この話に出てくるエージェントは 守るべきものを守るという 共通の目的のもと集い 協力してその目的を遂行するんだ。わたしはその姿に感銘を受けてね。」

「まさか このIDEAも その小説に感化されて……?」

「影響されている部分も 少なからずあるだろうね。」

「なるほど。わかったわ。教えてくれてありがとう!」

「これくらいのことなら いつでも力になろう。」

「アルドにも よろしく伝えておいてくれ。」

「わかったわ。それじゃ。」


こうして、情報を得たエイミは作戦室を出ると、そのままユニガンへと戻った行った。


エイミが部屋を去った後、イスカたちは話をしていた。


「しかし 本か……。ここ最近は 読書にふける時間もないから ろくに手も付けていないな。」

「しかたあるまい。今起こっている問題を解決しなければ ゆめゆめ休んでもいられないだろう。それが我らIDEAの使命だからな。」

「そうだね。では めくるめく虚構の世界へと落ち着いて旅立てるように 一刻も早く 問題を解決せねばならないね。」

「ああ そうだな……。」


>>>


 それぞれで、話を聞いてきたアルド一行は、ユニガンに再び集まっていた。


「みんな 情報は聞けたか?」

「うん しっかり聞けたよ!」

「他のみんなも 収穫があったようね。」

「よし! それじゃ それを探すことも含めて 書庫へ行ってみよう。まずは ミグランス城だ!」


こうして、アルドたちは脚本の参考にするため、各地の書庫へと向かったのだった。

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