真正面からどんどん問いをぶつけてくる姿勢の力強さ

 願いを叶える不思議な宝玉と、それを手にした戦上手の王の、波乱に満ちた生涯を描いた物語。
 硬派な手触りが魅力の異世界ファンタジーです。といっても、モンスターや魔法などの空想的要素は登場せず、言うなれば「また別の現実世界」という意味での異世界。唯一の例外が願いを叶える宝玉と、あと解釈次第ではその周辺の覚者やそれらにまつわる伝承等なのですが、とまれ冒険や戦いを描いたいわゆるジュブナイルファンタジーとは異なる、よりスケールの大きい大河ロマン的なファンタジー作品でした。
 最大の魅力はなんといっても、主題の部分がゴリゴリ前面に出てきているところ。投げかけてくる問いの量と丁寧さ、なによりそれを語る姿勢に逃げのないところ。富も権力あるはずの王が、それでもなお満たされずにいるのはなぜか?
 ともすれば教条的になりがちなテーマというのは、どうしても予防線を貼ってしまいがちなもので、でもそういう日和ったところが一切なく、そのうえで決して押し付けがましくもない。仮に作者様当人の中に何か正答のようなものが想定されているのだとしても、それとは別に読み手自身がちゃんと考え、そして自分の答えを持つことのできる、この「問いが問いとしてしっかり機能しているところ」がとても魅力的でした。物事を説く(あるいは物語る)上での距離感というか、なにか分別のつけかたのようなもの。
 主人公であるメナンドロス王が好きです。「戦上手の君主」という、ある種庶民からは縁遠い存在で、抱える葛藤も「持てるもの」特有の贅沢な悩みという側面が少なからずあり、あんまり親近感の持てるタイプの人物ではないのですけれど(強いて言えば周囲がみんな冷たいのがかわいそう、というくらい)。実際、取り柄である戦果以外の「残念な部分」がお話の大半を占めて、やっぱりいまいち好きになれない感じの人だったものが、でも最後まで読み終えるとなんだか身近な友達みたいに感じられてしまう、この不思議。お話そのものが壮大なこともあり、まるで長い旅路を共にしてきた戦友のような、まんまとそんな気持ちにさせられてくれるところが最高でした。
 骨太で重厚な物語の最後に、スカッと晴れやかな読後感を与えてくれる、心地よくまた読み甲斐のある作品でした。いろいろ考えちゃうのが楽しい!